異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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070 巡航

 何も考えずにゲートを抜けてきた自分とは違い、アコルトとシャオクは武器や兜や盾などの外せる装備はアイテムボックスに仕舞ってから通ってきてくれた。

 ご配慮痛み入ります。

 

 結構MPが持っていかれた感覚はあったが薬を飲まずとも耐えられたので、経験値関係のボーナスポイントをMP回復速度に振り切っておけば回復するだろう。

 商店街から宿の正面へと回る。

 

 鍵は預けていないので直接部屋に戻れはするが、なるべくなら表から入る姿を見せたほうがいいはずだ。

 従業員に会釈をしつつ、階段を登って部屋に帰還した。

 

 装備である鎧やジャケットを脱ぎ、リュック等の荷物を置いて食堂へと向かう。

 食事の内容を選んでテーブルについたところで、2人に向き直る。

 料理を頬張りつつ、話題は明日のことだ。

 

 

「明日は一日お休みってことで、2人とも好きに過ごしてもらっていいよ。

 お小遣いとしてお金は渡すけど、宿で寝ててもいいし、他の街に出かけに行ってもいい。

 自分も出かけるつもりだよ」

「前にも言っていたお休み……ですか?」

 

「うん、迷宮にもいかないし、それぞれしたいことをしてもらっていい。

 夕方の鐘の頃には宿に戻ってきてもらいたいけど、予め言っておいてくれれば、夕食も外でとってきてもいいよ」

 

 

 一応前々から話はしてあったが、当日各々が何をするかについてまでは相談する時間を設けていなかった。

 考え込んでしまいそうになる2人に食事を促しつつ、自分も予定をたててみる。

 

 どうにかしておきたいのは、盗賊ジョブの取得だ。

 仲間を迎えるまでに済ませておけばよかったが、方法を検討するというつもりで後回しにしていたら、なかなか1人で行動できる時間がなくなってしまった。

 アコルトとはもう半月も一緒だ。

 

 冒険者の街移動を乗り継いで、どこかの町や村で明日にも取得したい。

 ちょっと拝借して、ジョブが確認できたらすぐに返すつもりだ。

 ワープの移動先を増やすという意味でも、回れるだけ回っておいた方が後々のためにもなるはずだ。

 

 そんな考えに至ったところで全員の食事も済んだので、フロントでお湯を頼みつつ部屋へと戻る。

 

 届いた湯で身体を拭いたり拭かれたりした後、髪も洗い終わって水分を取りつつ尋ねた。

 

 

「行きたいところは思いついた?」

「ボクはアルヴナの鍛冶師ギルドに行ってみます!」

 

 

 それはどこですか。

 急に出てきた新規の街の名前に驚いていると、シャオクが続ける。

 

 

「例の、料金を支払って所属させてくれるところです。

 今はちゃんと鍛冶師のジョブなので、噂通りにギルド員になれたり、教本を譲ってもらえるかもしれません」

「あー、確かにそれは話を聞いてきてほしい!

 でもギルドの規約とか罰則とか、しっかり確認してからにしてね」

 

 

 いきなり明日シャオク1人で行って不利な制約を受けては困るので、話を聞くに留めてもらうことにした。

 ジョブは鍛冶師になっているので教本だけ売ってもらえる可能性もあるかと思い、足りるのかわからないが金貨を3枚ほど預けておくか。

 

 移動としてはルテドーナからいくつかの場所を経由して行った先らしい。

 シームからで考えれば片道でも合計1000ナールを超えるそうなので、それも先に渡しておかないとな。

 鍛冶師のことなので、小遣いとは別の必要経費だ。

 

 

「朝はルテドーナに送るよ。

 自分も冒険者ギルドからの移動になると思うし」

「ありがとうございます!」

 

「アコは何か考えついた?」

「私は……お嬢様にご同行してもよろしいですか?」

 

 

 そう来たか。

 ついて来てほしくないというのもなんだかなぁ。

 

 確かに1人でいて襲われた実績(?)もあるので、居てくれたほうが心強い。

 とはいえ盗賊ジョブを取得しに行くというのは言いづらい。

 

 勘のいいアコルトのことだから、後から察されてしまうよりも話してしまったほうがいいか。

 いや、そもそも主人が犯罪をしに行くとは露程も思っていないだろう。

 

 話してしまったことで軽犯罪とはいえ共に背負わせる方が、自分もアコルトも気にしてしまいそうな気がする。

 盗賊ジョブを所有する事自体を秘匿したいくらいだ。

 

 

「自分は明日、行ったことのない街へ冒険者に飛ばしてもらって、今後行ける場所を増やしてこようと思うんだ。

 だからその……」

「それでしたらお邪魔になりそうですね」

 

 

 街巡りをするのなら、1人の方が効率的だ。

 複数人だと人数分の料金が増えたり、先行しても待たせた場所に戻ってくる手間がかかる。

 数をこなすならなおさらだ。

 

 

「基本的に各街の冒険者ギルド周りしか行かないし、ワープですぐ戻ってこれるからそんなに心配しなくても大丈夫だよ、ありがとう」

「いえ、お嬢様とご一緒したかっただけですので……」

 

 

 うなだれる頭の上の耳の様子に、頭を撫でつつ寄り添って聞いてみる。

 

 

「アコのいた村に戻って、家族と会ってきてもいいんだよ?」

「ありがたいのですが、サラトタまでフィールドウォークで飛べる冒険者がいないと思います。

 何も無い村ですし、人がいるような場所からは馬車で1日半は掛かります」

 

 

 ああ、物理的に遠くて村自体も冒険者がわざわざ行くような場所でもないため、当日だけでは無理なのか。

 それもあって今まで言い出さなかったのだろう。

 

 移動と向こうでのやり取りも考えたら、往復で5日以上は掛かりそうだ。

 自分も行って、帰りをワープで短縮するにしたって2日以上はかかるだろう。

 

 

「そっか、ちょっと遠いね……。

 家の方が落ち着いたら、みんなで一緒に行ってみようか」

「……よろしいのですか?」

 

「うん。

 今は工事とかの関係で急に呼ばれるかもしれないから宿を空けられないけど、入居できたら留守にしても大丈夫でしょ」

「お嬢様、ありがとうございます」

 

 

 ピョコピョコと動く耳と尻尾から、喜んでくれているのが見て取れる。

 

 

「そしたら明日は買い物でも食事でも、好きにしてていいからね」

「はい!」

 

 

 近く家族に会える喜びと結局明日は別行動となる寂しさ故か、無意識に耳がへんてこな動きをし始めた。

 洗濯も終わって寝るだけだとなったので、それぞれのベッドへと移動する。

 お金は明日の朝改めてということで、今夜はこれで就寝だ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 仕事のない休日のように、迷宮にいかないと決めた日の朝はゆっくりとなりがちだ。

 といっても2人は先に起きて洗濯物を畳んだり、着替えて荷物の整理をしている音で目が覚めた。

 別に静かにしろとも伝えてないし、毎朝気を遣われる方が面倒なので全然構わない。

 

 2人を休みにだしたのに主人の二度寝で待たせるわけにもいかず、目を擦りながら朝の支度をする。

 アコルトが用意してくれたのは、先日の買い物で最後に追加されたワンピースだ。

 

 背中側のボタンを外して足から通していき、両腕を通したところで、アコルトがボタンを留めてくれた。

 胸の下あたりに通っている紐でウエストを絞り、ついでに裾の丈も床につかないように調整してもらう。

 

 慣れない着心地にキョロキョロしていると、座るように仰せつかった。

 本日のヘアスタイルはツーサイドアップらしい。

 

 休日は結わずに長いままの方が自然らしい(アコルト談)ということなので、高い位置から二箇所をリボンで留めて流している。

 ストレートのときと感覚はほとんど同じだが、首を振った時に流れる銀の毛束と視界の端に見える暗色のリボンが、おしゃれしてる感を意識させてくる。

 ……自然とかいうのはアコルトの気分次第なだけでは?

 

 そういえば足下はどうしよう。

 竜革のブーツと皮のサンダル以外にも、普段履きの靴があったほうがいいだろうか?

 

 移動費と小遣いを渡しながら、シャオクに皮を渡してそれぞれに皮の靴を作ってもらった。

 倒すのに倍の時間がかかって敬遠していたミノも浮かばれるだろう。

 

 新しい靴を装備し、身支度が済んだので食堂へと向かう。

 いつもの朝食を食べながら確認する。

 

 

「アコは今日どうするか決まった?」

「はい、ルテドーナとシームでお店を巡ってみようと思っております。

 ですので、最初は私もルテドーナまでご一緒させていただきたいです」

 

「うん、了解!」

 

 

 食事の後は一旦部屋に戻り、水筒やリュックを用意する。

 買い足したリュックがあったおかげで準備も問題ない。

 

 アコルトにはアイテムボックスがないので、持ち金は巾着袋での管理だ。

 

 正確にいえば1つしか空きがないアイテムボックスはある。

 こういった散策の時のために、少しだけ探索者のレベルを上げておくのもいいかもなぁ。

 Lv10でもあればだいたいの硬貨は入るだろうから、タイミングをみて育てよう。

 

 一応3人とも夕食前には戻るつもりでいるが、誰が先に戻ってくるかわからないので、部屋の鍵はフロントに預けておく。

 追加の軽食は、ルテドーナに移動した後に各自で取ってもらうことにする。

 商店街の方へと回り、人混みに紛れてワープゲートを開いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ルテドーナの冒険者ギルドの外壁へと出てくる。

 正面は広場になっていて、街移動の冒険者らしき人もちらほらいるようだ。

 

 

「3人ともそれぞれ違う冒険者にお願いして移動することになるから、パーティーは解散しておくね」

「かしこまりました」

 

 

 パーティー解放と思い浮かべると、それまでなんとなく見えていた2人の縁取りのようなものが見えなくなり、メンバーの確認ができなくなった。

 これでちゃんと解散されたようだ。

 

 食事の屋台へ向かうらしい2人を見送り、これから個別行動だ。

 

 

 鑑定をしながら広場を歩いて回り、何人かの冒険者に移動を頼んでみたが、なかなか首を縦に振ってくれない。

 というのも1箇所からの移動は、同行者を集めて移動1回あたりの稼ぎを増やすのが通常のようなのだ。

 

 確かに1人の要望通りに何箇所も回って銀貨を数枚ずつ積み上げるよりも、まとまった人数を数回移動させる方が楽だろう。

 移動したい人はいくらでもいるのだし、冒険者側の言い分が通る商売だ。

 

 方針を変えよう。

 

 まずは冒険者に移動できる街とそれぞれの料金を聞く。

 次にそれらを順に繋いで、なるべく重複なしで回るルートを考える。

 移動の提案に少しずつ色を付けて、それでも難色を示すようなら他を当たる。

 

 客の言う通りに連れ回されても、短時間で高額稼げるほうがよいという冒険者は1人くらいはいてくれるだろう。

 

 

 

 

「───それじゃ、その順番で回ればいいんだな?」

「はい、強壮丸もお渡ししますので」

 

「出た先ですぐに移動って、見て回らなくてもいいのか?」

「ええ、大まかに何があるかだけ教えて頂ければ十分です。

 着いた際の印象だけ覚えてくればいいと、父も言っておりました」

 

 

 ただの移動だけで街を回ることに疑問を投げかけられたので、即興の設定だ。

 世間知らずのお嬢さん風で腰からスチールワンドを下げておけば、経緯を濁しても突っ込まれなくなった。

 変なことを企むより、さっさと仕事をこなして金を得る方がいいと割り切ってくれる冒険者にあたったようだ。

 

 前金と強壮丸を10粒ほど渡すと、冒険者が確認してアイテムボックスに入れ、こちらへ向き直った。

 パーティーの勧誘をしてもらって参加を承諾し、ギルドの壁に開いたフィールドウォークのゲートに向かって、冒険者の男の後に続いた。

 

 

 今回移動する場所は5つ。

 ルテドーナを始点にホスリム、カロガガ、ノポモ、リュタルゴ、フウルバリ。

 

 ホスリムとカロガガはルテドーナ領の町村。

 カロガガの方は、前にシャオクにカルメリガからの移動ルートの話で聞いたことがあったと思う。

 

 ノポモは穀倉地帯で、お偉いところの直轄地らしい。

 ほぼ農園らしくて規程区域は一般立ち入り禁止らしいが、搬送路が整備されているので交通の要所でもあるそうだ。

 割と色んなところの経由地にされやすいってことか。

 

 フウルバリは、競売の件でも話に挙がったフウルバリ侯爵の本拠地。

 リュタルゴもフウルバリ侯爵領の村ということだ。

 

 なるべく小さな村も通りながら遠くへ、と言ったらそんな感じのルート構成となった。

 まあ盗賊の件が終わればフウルバリくらいしか用はないだろう。

 

 

 

 

「ここがホスリムだ。

 いま出てきたのは冒険者ギルドだな。

 商人ギルドや教会、装備も売っている商店もあるが、ここで揃わなければルテドーナへ行くというようなところだろう」

「ありがとうございます」

 

 

 見回すと建物自体はこぢんまりしているが、町並みはちゃんとしている。

 ルテドーナほど発展した感じはないが、揃うものは揃っている、普通の町という感じだ。

 流石にシームの方が大きい感じではある。

 

 

「特になければ次はカロガガだ」

「はい、お願いします」

 

 

 先程出てきたギルドの壁に向かい、男がフィールドウォークを詠唱する。

 

 黒塗りの扉を抜けた先は、いかにも農村然とした場所だった。

 ブノーの集会所のような施設から出てきたようだ。

 

 

「カロガガには専門店はないが、雑貨屋兼宿屋のような店がある。

 カルメリガとルテドーナの中継地だから一応あるといったところだが、あとは他の農村と変わらん。

 急ぎならフィールドウォークで経由しないこともあるしな」

 

 

 もっと距離が離れていたらここで留まる人も増えて発展したのかもしれないな。

 道の駅とサービスエリアの違い、みたいな。

 

 男が強壮丸を飲んで一息ついたので、次の場所へと移動した。

 

 

 目に入ったのは腰より高いくらいの一面の黄色だ。

 大通りの向こう側は全部小麦か?

 

 

「ノポモだ。

 出発前に軽く説明した通り、目の前の麦畑に無断で入ったら捕まるからな。

 区画が違えば別の作物もあるだろうが、それは今度来た時に見てくれ。

 そろそろ刈り入れの時期だから人も多いし、大商人でもない限りここ自体には用事はないから次の目的地にさっさと移動するに限る。

 行くぞ」

 

 

 捲したてるように男が言葉を紡ぎ、薬を呷ってすぐにスキルを唱え始めた。

 警官とすれ違う時に、なんとなく気まずくなって挙動不審になるあれか。

 直轄地って響きと、武装して立っている人がちらちら見えるのが心を急かすらしい。

 

 急ぎ足でゲートを抜ける男に続いて、遅れまいと足を動かした。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv26
魔法使いLv26/英雄Lv23/探索者Lv28/僧侶Lv25/森林保護官Lv21/薬草採取士Lv24
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv21


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv17



製造物まとめ
・皮の靴:3(普段履き用のためスロット省略)



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次回は12/19更新の予定です。
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