次に出てきたのはカロガガと同じような村だった。
いや、こちらの方が寂れているだろうか。
「リュタルゴの村だ。
今回あんたがなるべく小さい村もって希望だったから来たが、フウルバリに行くなら普通は経由しないな。
カロガガ以上に見るところがない場所だ」
「ここから見える家の数はさほど変わりありませんが、住人が少ないのですか?」
「この集会所のあたりにしか住んでないらしいぞ。
だいぶ昔は迷宮があったらしいが、討伐されてから近くに全く現れなくなったと聞いたな。
それで段々と人が離れていって、盗賊なんかもいるんじゃないかって噂だ」
おいおい、そんなところにお嬢さん(偽)を案内するんじゃないよ。
盗賊になりに来たが、盗賊に会いたいわけではない。
「悪い悪い、そんな顔するなって!
俺は別の方面の近道代わりに稀に経由することもあるが、盗賊なんて見たことないから大丈夫だぞ。
じゃあ次が最後だ」
そりゃ鑑定もなければ盗賊なんて見た目だけで判別できないだろ!
人の目を一層気にしなければいけない場所だな。
流れるようにフィールドウォークを詠唱し、男がそそくさとゲートをくぐる。
取り残されては大変だと自分も続き、黒塗りの壁へと歩みを進めた。
ゲートから出てきた途端、活気のある人混みに安心する。
どうやら冒険者ギルド内の絨毯に出てきたようだ。
「ここがフウルバリの冒険者ギルドだ。
外に出てみれば分かりやすいと思うが、ルテドーナと同じくらいのでかい街だな」
確かに、入口から見える外の様子だけでもそれまでの場所とぜんぜん違う。
ルテドーナの無骨で重厚な雰囲気とも違って、こちらは木製のレリーフのような装飾が多いように感じる。
「つうわけで、これで依頼は完了だな。
あっちで残りの取引といこうか」
男が指し示した方には、空いたテーブルがある。
2人でそちらへ移動し、自分はリュックから袋を取り出した。
「前金を引いた残りの礼金と、こちらが強壮丸です」
「あいよ、確認させてもらうぜ。
…………入ったな。
ほんとにいいのか、こんなに?」
この世界のアイテム確認は楽だ。
アイテムボックスに元々入れている強壮丸と同じ箱に、受け取ったアイテムが入ればそれは強壮丸で間違いない。
滋養丸などの違うアイテムは同じ箱には入らないし、アイテムですらない偽物はアイテムボックス自体に入らない。
今回の取引は5箇所の移動で2500ナールと強壮丸40個。
1箇所ごとの相乗り移動なら合計で2000ナール弱で済むらしいが、タクシーみたいな扱いをさせてもらってこの程度で済んだのはありがたい。
強壮丸40個と聞くとギルド購入で2400ナール分と高額に聞こえるが、生薬生成が使える自分からしたら遠志で見て14個分だ。
3割増で売却しても500ナール程度にしかならないもので、太客扱いしてもらえるのはラッキーだ。
「ええ。
案内も分かりやすく、とても助かりました。
ありがとうございます」
「こっちも元々フウルバリに用事があったからな。
いつもは時間を掛けて人を集めつつ移動していくもんだが、昼前に移動が終わってこれだけ貰えれば十分だ。
ありがとよ」
足早に酒場の方へと消えていった冒険者を見送り、ギルドへ戻って状況を確認する。
移動に使った資金は想定内。
遠志も使ってしまったが、先程の通りに大した痛手でもない。
現在地のフウルバリは今後なにかの用事で来そうな場所ではあったし、目的の寒村としてはリュタルゴとカロガガで盗賊の条件を満たせそうか。
目撃者は少ないほどいい。
6thジョブの薬草採取士をはずし、ブランクにしておく。
ジョブを得られた時に空きに盗賊が収まってくれればいい。
仮にメインジョブが上書きされても、魔法使いに替えればいいはずだ。
ギルド員に服屋の場所を聞いて、移動する。
今のワンピース姿で家々を物色していたら目立つだろう。
店に着き、足下まである外套とつばの広い帽子を見繕う。
これはこれで目立つかもしれないが、少なくとも中の人物が男性か女性かはパッと見ではわからないはずだ。
購入を済ませた後、奥の更衣室のようなところで着替えさせてもらう。
一応ワンピースの上からジャケットを装備したので、シルエットも多少は変わったに違いない。
皮の靴も、動き慣れた竜革のブーツに履き替えておく。
そのまま外に出ることなく更衣室の中からワープゲートを開いた。
***
先ほど冒険者の男に案内されたリュタルゴの集会所へと出てくる。
今回は素性を隠した自分1人だけだが。
周りに家はあるものの、人の気配はない。
とりあえず農道のように続いた道へと足を踏み出した。
ノポモで大規模な畑を見た後では、個人宅の畑は小さすぎるように見えたが、日々の暮らしの足しくらいには十分な大きさではあるのだろう。
音がする方に進んでみると、小屋にしてはやや大きめな建物がある。
どうやら牛舎のようだ。
数頭の牛が牧草を食みつつこちらに目をくれるも、興味なさげにすぐにまた食事へと戻った。
管理している人も近くにいないのは、餌や水を配った後に外出してしまったらしい。
魔物以外の動物である牛、ということは牛乳でもとれるのだろうか。
待て、今はそんなことはいい。
なにか落ちてはいないか?
できればサンダルとか、サンダルなどが。
ジョブが得られれば、それ以上はここに用はないのだ。
牛舎の中を探したが特に何も見つかることなく、牛を眺めただけに終わって外へと出る。
盗賊がいるかも、なんて噂されるような場所で備品を放ってなどおかないか。
周囲に鑑定を使って人がいないことを確認しつつ、移動する。
見つかってもすぐに動けるようにMP回復速度を最大に振っておき、オーバーホエルミングをいつでも使えるようにしておくか。
途中見つけた納屋には鍵が掛かっていたが、さすがに壊してまでは物は盗れないので諦めて道を戻る。
そのまま歩き続けると、集会所の裏手側が村の中心地になっていることが分かった。
パン屋とか雑貨屋とか、侘しいながらもライフラインの商店はやっているようだ。
装備品なら勝手に装備することで奪った判定になってくれるかもしれないが、食品や道具類は何が基準なのだろう。
食べてしまっては奪ったことになっても返却もできないし、線引きが難しい。
なんとなくそういった店は避けつつ、通りの奥へと歩いてみる。
少し進むと、また普通の家が点在する眺めになった。
中心地から遠くなるにつれて崩れたような家も増えてくる。
空き家なんだろうか。
足を止め、1人作戦会議というか方針を練り直す。
空き家のものを物色して奪ったところで、放棄されたものでは盗賊のジョブは取得できない気がする。
人の所有物を、なるべく気づかれない形で、バレずに盗って、さらに何事もなかったように戻したい。
「───泥棒!」
どこからか声があがる。
おいおい物騒だな。
そう思い声の方へと振り返ると、武器を持った男がこちらへと向かってきていた。
明らかにというか、銅だかなにかの剣を振りかぶって、まっすぐに走ってきているように見える。
見えるじゃなくて確実に来てる。
まだ盗ってないんですけど!?
オーバーホエルミングを念じて、3歩ほど後ろに下がる。
「くらえっ!
………あれっ?」
銅の剣が思い切り自分がさっきまでいた場所を叩き、男がこちらを見返した。
人間 男 盗賊Lv8
盗賊。
盗賊が自分を泥棒だと叫び、襲ってきた。
これは追い剥ぎ的なやつか?
男の声が大きかったからなのか、なんだなんだと近くの家から人が出てくる。
武器を構え直してにじり寄る男に注意を払いつつ鑑定をしてみると、案の定盗賊が1人2人と居る中に村人も混じっているようだ。
マズい。
盗賊だけなら最悪見られた者だけ全滅させればいいが、村人に手をかけたとなれば別問題だ。
重罪としてこちらも盗賊へ、変更不可の強制ジョブチェンジとかだったりしたら、非常にマズい。
そのへんの仕様が分からないし、嫌な方の想定ばかり浮かんでくる。
ジョブの表示だけでは村人が盗賊に与しているのかは分からない。
知らずに暮らしている隣人、というだけの可能性もある。
迂闊に攻撃できない。
攻撃できないのなら、とりあえず逃げるしかない。
魔法で牽制するにも、魔法使いということがバレてしまえば自分の特定が早まる。
幸い、詠唱省略で声を出す必要はないので、オーバーホエルミングだけはなんとか使えそうだ。
壁や大木などの、ゲートを開けるなにかしらの遮蔽物まで逃げなければならない。
何かないかとポケットを探ると片方には神籬のスチールワンド、もう片方には謝礼に渡した強壮丸の余りと遠志の残りがいくつかあった。
魔法は出せないのでワンドはそのままに、強壮丸を握る。
再び武器を振りかぶった男が動き出したその時、オーバーホエルミングを発動した。
緩い動作で腕を振るう盗賊のその脇を走り抜け、一番近い家へと足を動かした。
パーティライゼーションを念じたが、一向に選択を迫る感覚が浮かんでこない。
……しまった、解散中だからか!
諦めて2粒ほど口に放り込んで飲み込み、見物人たちの視界を遮るべく家の角を回り込む。
曲がったところで急に視界に何か飛び出てくる。
ゴッ
突然開かれた家の扉から出てきた男とぶつかった。
勢いのままに衝突したが、装備のおかげかこちらはそこまでダメージもない。
声を上げそうになったが、なんとか堪えられた。
「痛ぇな……、ぁあ?
何だお前」
体格の良い大男が身構えながらこちらを睨んできた。
傍らには男が取り落としたと思われる剣が転がっている。
鞘から少し外れて見えた刀身が、鈍い光を携えていた。
さっきの男の銅の剣みたいなものじゃない、おそらく鉄製か鋼鉄製のものだろう。
男が剣を拾い上げようとしたところで、家の裏から声がかかる。
「頭ぁ、こっちに獲物が!」
「うるせぇ!
人前で呼ぶな!」
大男が声の主に振り返ったタイミングで、オーバーホエルミングを念じる。
後ろから斬られては敵わないとして、大男より先に鞘に入った剣を拾い上げ、家の角まで走り出した。
ワープ!!!
曲がったすぐ先にゲートを設置し、勢いを殺さず向こう側へと駆け抜けた。
***
「───っはぁ!」
息も切れ切れにゲートを抜けた先で、水筒の水を飲みつつ体を落ち着かせる。
抜けた先はノポモの門の前だ。
流石に警備兵の立っている直轄地の前には、すぐに盗賊も見回りには来まい。
隅の方に移動して外套と帽子を脱ぎ、ジャケットを外してアイテムボックスへと仕舞う。
あ、そういえばあの頭とか呼ばれていた大男の武器も持ってきてしまった。
柳葉刀(○ ○)
やなぎば……りゅうようとう、か?
武器屋では見かけなかった武器だと思うが、スキルスロットがあるということは装備品か。
日本刀に似て刀身が湾曲しているが、刃先のほうの幅が広くなっている。
こういう形の剣は、映画とか演舞とかで使う刃が落とされたペラペラの模造刀のイメージが強いが、どうやら実戦向きにゲームナイズされているようだ。
切れ味もよさそうだし。
試しにアイテムボックスに入れてみたところ、ちゃんと収納されたのでこれは完全に武器アイテムということだ。
意図せずアイテムを奪ってしまったわけだが、盗賊相手では窃盗認定はされないだろう。
殺めたって罪には問われないどころか称賛される存在相手に……、と一応ジョブ一覧を確認する。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv26
魔法使いLv26/英雄Lv23/探索者Lv28/僧侶Lv25/森林保護官Lv21/盗賊Lv1
盗賊
効果 敏捷小上昇
あった。
表示項目の寂しいジョブ詳細だが、パラレルジョブの端をしっかりと埋めていた。
取得ができたということは、あの大男はリュタルゴの村民だったのか!?
しかし、盗賊に頭と呼ばれていたということは、ほぼ間違いなく盗賊たちの集まりの上位に位置する存在のはずだ。
盗賊以外のジョブでありながら、それを束ねている?
上位ジョブは
いや、同じ系統なら窃盗判定はされないだろう。
となると、自身は犯罪に手を染めない一般ジョブでありながら、手下の盗賊を使っているような狡猾な者なのだろう。
やばい相手を敵に回したかもしれない。
武器を奪ったこともそうだが、盗賊に頭と呼ばれたところを直接見聞きして知ってしまった。
こちらは声も発さず、外套と帽子で身を包んではいたが、その頭本人とぶつかった。
大体の身長と、女性であることはバレているだろう。
無詠唱のオーバーホエルミングで死角にまわり込んだので、ワープで移動したのは見られていないはずだ。
普通の家のようだったからフィールドウォークは使えないはずだし、しばらく混乱していてくれればありがたい。
何にしても、近隣にいるのはよろしくない。
強壮丸を飲みつつ、今日の経由地のMP消費感覚を確かめながらワープでルテドーナまで移動した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv26
魔法使いLv26/英雄Lv23/探索者Lv28/僧侶Lv25/森林保護官Lv21/盗賊Lv1
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 薬草採取士24 奴隷商人1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv21
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv17
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次回は12/22更新の予定です。