ルテドーナの冒険者ギルドまで戻ってきて、胸を撫で下ろす。
賊の協力者に冒険者がいても、すぐにこちらへ来ることはないだろう。
普通逃げるなら近くて人の多いフウルバリへだろうし。
鑑定ができたとして本当にあの男が盗賊以外のジョブだった際は、騎士団は動いてくれるのだろうか。
ダメな場合は自分が手を下すしか憂いを断つ方法がないが、その場合は一般人を殺めたとして自分に懸賞金でもかかってしまったらどうしよう。
その後も盗賊のジョブを外したりはできるのか挙動が不明だ。
しばらくあっち方面へは出禁だなぁ。
少なくともリュタルゴへは二度と行かない。
近くでまともに容姿を見られている可能性があるのは、頭と呼ばれた人物とあの鈍臭い手下の盗賊だけだ。
少なすぎる情報だけでは捜索指示も出せないだろうし、大丈夫と思いたい。
それよりは、この外套と帽子を処分しよう。
ギルドから、シームの迷宮の3階層へとワープする。
ここのメインモンスターはコボルトのはずなので、人は少ないはずだ。
竜革のジャケットと帽子を身に着け、スチールワンドを握る。
ミトンはとりあえずいいや。
全体魔法の一撃で遭遇する群れを沈めつつ、適当に歩いて行き止まりの小部屋へとたどり着いた。
抱えていた外套と帽子を床に置き、少し離れてファイヤーウォールを発動する。
装備品ではないので防水くらいはあっても耐火性能は有してないらしく、2回目の壁が消える頃にはどちらも幾ばくかの燃えかすを残すだけとなった。
これなら迷宮に吸収されるだろう。
最後におまけとファイヤーボールを撃ち込んで、火が消えるまでの間に帽子とジャケットを脱いだ。
ブーツも皮の靴に履き替え、それぞれをアイテムボックスへと仕舞う。
出かけた時の姿に戻ったので、再度ワープを発動してルテドーナへと戻った。
***
昼の鐘が鳴ったので適当な飲食店へと入り、おすすめを注文する。
先に届いたよくわからないフルーツジュースを飲みながら、やっと一息つく。
想定外のことが色々と起こったが、今日の目的である盗賊ジョブの取得は完了した。
盗賊団らしき存在に目をつけられた可能性があるが、シームで暮らす分には考慮しなくてもいいと思う。
リュタルゴからシームまでという片道2000ナール以上かかる範囲までを、数名しか見ていない体格と性別だけを当てに捜索して、ピンポイントで見つかるとは到底思えない。
柳葉刀とかいう武器の扱いを間違えなければ、特定されることはないだろう。
しばらく時間を空けてから、別方向の町に流すかなぁ。
とりあえずはアイテムボックスのこやしにしておく。
明日からはまた迷宮に潜って、ジョブレベルを上げつつ資金稼ぎだ。
あ、目標額を決めるためにも、奴隷商館を見てくるのもいいかもな。
紹介状の効果は身を以て知っているので、先にクラザからだろうか。
やり手のナルディロの紹介を受けられたら、ルテドーナやシームでもいい扱いをしてもらえるかもしれない。
シームの方は、万が一所有奴隷のシャオクの名前に突っ込まれると面倒だからなしか。
ミトラグあたりから先に人のつながりを聞いておかないと厄介なことになりそうだ。
考え事をしながら食べていた料理は割と美味しかったが、リピートするほどでもなかったので別の店に期待だな。
クラザの冒険者ギルドの外壁にワープする。
カモフラージュ役がいないと、徒歩の距離が少々出てくるのは仕方ない。
昨日の朝も歩いた商館への道のりを今日もまた進む。
門番も流石に連日ならすぐに気づいてくれたようだ。
とはいってもアポなしなので対応は手順通りとなり、小窓で中の者に確認してから館内へと通される。
中での対応は相変わらずネジェロが出てきた。
「ご足労いただきありがとうございます。
本日はどのようなご用件でしょうか?」
「時間が空いたので、戦闘奴隷を見せていただきたいのです。
資金に不安もありますので、今日は契約に至らないとは思いますが……」
「いえいえ、ミツキ様のように大切に扱ってくださる方でしたら、選ばれる奴隷を十分ご検討されるのも分かりますとも。
ご契約が決まらずとも、当館を頼りにしてくださったことに感謝しております」
応接室で飲み物を頂いているうちに、準備ができたと声がかかる。
ネジェロの後ろについて2階へと上がり、屈強そうな奴隷たちが整列していた。
昨日言われた通り、以前見た時とは顔ぶれも変わっているが、何人かは見覚えがあるような気がする。
ネジェロが名前とジョブが書かれているらしいメモを読み上げている間に、こちらは鑑定でレベルも読み取っていく。
まあレベルに関しては、うちの子になってくれれば獲得経験値上昇のおかげでほとんど差はなくなるわけだが。
それでも現時点でのジョブレベルについては、本人たちが迷宮に挑んできた経験を如実に表している指標だ。
7,8人ずつ並べられた部屋を3つ見終えた。
年齢の割にレベルが高めの者が数名に気になったが、相性もあるので正直アコルトとシャオクにも一緒に見てもらいたい。
自分だけで話してしまうと、入れ込んでしまいそうなのでこれ以上はやめておいた。
健康な若い男性奴隷が20万から30万ナール台。
若い女性奴隷も同様かそれより少し高いくらい。
性奴隷に了承していない場合は男性と同じくらいだそうだ。
さらなる竜人族やドワーフといった身体能力に優位がある者や妾用の奴隷はもっと高額になったり、魔法使いや鍛冶師のジョブの者は競売行きが多いそうだ。
なんとなくは想像がついていたが、うちの子たちは特殊な加入例ばかりなので今一度確認しておいた。
自分が女性ということもあって男妾の話も出たが、それは不要なので聞き流す。
仮に新規の仲間奴隷が30万ナールだとして、安価の遺言設定をセットにして3割引で21万ナール。
所持金から引けば10万ナールを割り込んでしまう。
とりあえずは資金稼ぎだな……。
追加で10万ナール、いや鍛冶師の教本が金貨3枚で買えたとしても15万ナールは追加で貯めないと、追加の人員に装備も買ってやれない。
ネジェロには、また検討してから再訪すると伝える。
「あとは……可能であれば、ルテドーナの商館への紹介状をいただけませんか?」
「ルテドーナですか……ええ、構いません。
少々お待ちいただけますか」
執務室らしい奥の部屋に向かうネジェロと入れ替わるように給仕がやってきて、ハーブティーを注いでいく。
ゆっくりと味わうように香りを堪能していると、ややあってから封筒を手にしたネジェロが戻って来る。
「こちらが当主のナルディロよりルテドーナの奴隷商館へ宛てた紹介状です。
また、ナルディロよりミツキ様にご挨拶できず申し訳ありませんと言伝を」
「ありがとうございます。
お忙しい中、ご対応ありがとうございます」
ちょいちょい自分が来る時は間が悪い気がする。
アポもとってないので、むしろよく応対してくれている方だと思う。
深く礼をして、今日のところはこれでお暇させてもらうことにした。
飲み物と紹介状だけいただきにきた感じになって申し訳なくなり、入口で見送りを断って足早に商館を後にした。
さて、この後はどうしよう。
このままルテドーナの商館へと向かうのもよし、あとは……。
***
ルテドーナの冒険者ギルドに飛んでから、商人ギルドへと向かう。
13階層で狩って回れることが分かったので、止めていたカード依頼を一部再開してもらうつもりだ。
詠唱中断と石化、あとは知力2倍の予備のモンスターカードが欲しい。
前者はさらなる効率化と安全性のために、後者は白銀やら聖銀武器の入手目処が立った際に、今の神籬のスチールワンドからすぐに切り替えることができるようにするためだ。
ウサギと珊瑚に山羊が1枚ずつと、コボルトが3枚。
頼んでいる芋虫の予備の代金に、追加で6枚なら資金的にも許容範囲だろう。
今の13階層でメンバーが増えても、することがあまりないからな。
安全性と効率を上げてジョブレベルを上げて火力を確保するのが1段階目。
下位ジョブをある程度上げ終えたら、経験値効率から結晶化促進に振って資金稼ぎが2段階目。
仲間や装備を増やして更に上の階層へ向かうのが3段階目とする。
もうすぐ家住まいになって、農夫や錬金術師も取得できるだろうし、派生ジョブも増えて遊び人のジョブを得られたら一気に加速したい。
そんな皮算用を練りつつ、ギルドの受付でカルムを呼び出してもらう。
「あら、カルムさんは本日商人ギルドには不在のようですね。
別の街に行っているのかもしれません」
いったい何処に……、あ、シームかもしれない。
不定期で向かうと言っていたし、可能性は高い。
受付嬢に礼をして商人ギルドを離れ、商店街に設置された絨毯から今度はシームの冒険者ギルドへとワープした。
1人だと思いついたままに忙しなく移動している。
ギルド前の広場に出たところで、アコルトを見つけた。
「アコ、シームに戻ってたんだ」
「先ほどルテドーナからこちらへ移動して参りました。
お嬢様のご用事は終えられたのですか?」
「うん。
何箇所か移動して、一応フウルバリまで行けるようにしたよ」
「なるほど……、そちらのお店も今度見られたらいいですね。
よろしければ今からご一緒しても構いませんか?」
「いいけど、シームのお店は回らなくていいの?」
「シーム内ならまたいつでも見られると思いますので」
それはそうか。
納得してパーティー編成を念じ、アコルトに勧誘を飛ばす。
承諾された証にメンバーが縁取られ、一覧で確認できるようになった。
「お嬢様はこれからどうされるご予定でしょうか?」
そういえばそれを聞く前に同行を決めたのか。
澄ました顔でも嬉しそうに耳がピコピコ動いている。
「商人ギルドにいってカルム殿にオークションの依頼をしようかなって。
ルテドーナの方に不在だったから、こっちに来てるかもって思ってさ」
「ええと、詠唱中断のスキルでしたでしょうか」
「そうそう、カルメリガの方で戦っていけることが分かったから、一旦止めてもらったそのへんの依頼の再開を少しだけお願いするつもり」
「シャオさんも不在ですし、今のうちにするのがよさそうですね」
そうだ、鍛冶師の関係もあるし、別行動のうちに済ませておくのがいいな。
話しながら歩みを進め、商人ギルドへとたどり着いた。
受付でカルムの所在を確認しようとしたところで、ギルド員が商談室の方を見ながら口を開く。
「カルムさんなら……」
「あっ、いましたね。
ありがとうございました!」
言い淀んだように見えたギルド員に礼を言って、商談室の方へ向かう。
カルムは今出てきたらしく、隣には商談相手らしい女性が一緒だ。
なにやら上質そうな衣服をまとった、遠目にも美人のエルフの女性に向けて、鑑定を念じる。
フェルス・ナルクヴェル・シームラウ エルフ ♀ 20歳 魔法使いLv17
げ。
シームラウってここの領主の家名じゃなかったか!?
前にカルムが言っていたお偉いさんってガチの権力者関係なのかもしれない。
アコルトともにおそるおそる近づいてみるも、目が合ってこちらに気づいたらしいカルムは顔を女性に向けたまま小さく首を横に振った。
声を掛けないほうがいいということか?
幸い女性の方は自分側に背を向けていて、カルムの方に向きながらギルドの入口へと共に歩いている。
こちらはそっと方向転換し、2人から離れるように移動して商人ギルドの奥の方へ向かうことにした。
柱の陰から覗いて見てみると、カルムは女性を入口で待っていた兵士らしき人物に送り届け、礼をして見送っていた。
見送りが終わったのか、カルムがこちらへと近づいてきたので挨拶をする。
「お取り込み中にすみませんでした」
「いえ、こちらこそお気遣いありがとうございました。
フェルス様は……その、感情表現が豊かな方ですので、今ミツキ殿に何かあってはよろしくないと思いましてね」
どういうことだ?
「その、フェルス様……とは?」
「ああ、ミツキ殿はシームに来られて日が浅いのでしたね。
シーム領の領主、シームラウ家の第二令嬢であられます、フェルス様です。
市井にもよく顔を出される、領民にも親しみ深い方ですね」
市井といってもこの商人ギルド周りの商店や、せいぜい関係がありそうな騎士の詰所あたりまでだろう。
わざわざ自分たちがいるような街の端にまではこないだろうから、貴族に関わるなどという心配も不要か。
「立ち話もこれくらいにしまして、ミツキ殿のご用件は商談室で伺いしましょう」
「わかりました」
部屋に通されてソファに座るように促される。
飲み物を淹れてくれようとしたカルムに代わって、アコルトが準備を始めた。
「何度も依頼内容が変わって申し訳ないのですが、またカードの落札依頼をしようと思いまして……」
「いえ、構いません。
こちらも複数のご依頼をいただけるのはありがたいことです。
前回注文された芋虫のモンスターカードも手元にございますので、ご一緒に精算いたしましょうか?」
「お願いします」
カルムがアイテムボックスからカードを取り出し、何かに包もうかとしたところで、そのまま受け取ると申し出た。
アコルトが預かってくれることになったので、魔法使いのままアイテムボックスを使うという失態は避けられた。
依頼の方は道中で考えたカードの内訳を伝えて、6枚分の依頼料と芋虫のカード代金を合計した7200ナールを支払う。
今回も相場通り、いや200ナールくらい高いか。
前後するものだし、十分許容範囲内なので問題ない。
「ウサギとコボルトのセットが揃ったら、伝令をいただけると助かります。
他は揃っても、カルム殿がまたシームに来られた時のご連絡で大丈夫です」
「かしこまりました」
すぐにほしいのは詠唱中断くらいで、石化も知力強化の予備も急がなくていいだろう。
「そういえば、本日シームに来られたということは、しばらくはまた来ることはないのですか?」
「それが……なんと言いますか……」
珍しくカルムが口籠る。
しばらく考え込んだ様子で額を押さえた後、意を決したようにこちらへと向き直った。
「……ミツキ殿にはご迷惑をおかけする状況になっておりますので、きちんとご説明させていただきますね」
「ええ───
……はい?」
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv26
魔法使いLv26/英雄Lv23/探索者Lv28/僧侶Lv25/森林保護官Lv21/盗賊Lv1
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 薬草採取士24 奴隷商人1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv21
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv17
所持モンスターカード
・蟻 1
・芋虫 0→1
---
次回は12/25更新の予定です。