「まず、先ほどご説明したフェルス様についてです。
フェルス・ナルクヴェル・シームラウ様は私の婚約者となっております」
「は、はい……」
えええ、すごいじゃんカルム。
貴族でも末席とか言っておいて、領主の第二令嬢と結婚かよ。
「元々幼馴染であったことや、周囲のご縁もございまして……いえ、そのあたりは今はよいのです。
ええと、最近、その……」
「何でしょう?」
「私が最近、同じエルフの女性と頻繁にお会いしていると、フェルス様が聞きつけたようでして……」
「はぁ」
「シームでもルテドーナでも連日のように会い……」
ん……?
「ついには競売会場にまで……、と」
あー、はい。
それ自分です。
ごめんなさい。
完全に自分のせいです。
「もちろん、商談相手だとは何度もご説明させていただきました!
ですがあの槍の依頼の件もございまして、ミツキ殿を関係者に近づけるのはお約束を反故にすると思い、特定を避けるように対応していたのです」
やっぱりあの面倒な槍の取引は、そっちの筋の依頼かよ!
それはそれとして、疑われる原因を作ったのは自分である。
普通の依頼にしては高頻度すぎる連日の商談。
それも担当地区外の、婚約者のいる領地に来てまでだ。
シーム在住と伝えれば最後の点くらいは理解されたかもしれないが、カルムがこちらの情報を伏せたのだろう。
話せば取引条件の反故になるし、完全に裏目に出た。
「それはまあ、その、自分もご迷惑をおかけしたというか……」
「そこで本日ついに、相手の指定の日時で構わないので会わせるようにと言われてしまいまして……。
申し訳ございません、ミツキ殿。
今後のためにも、お時間を作っていただけませんでしょうか?」
わぁ……。
なんか自分の間の悪さが、全部駄目な方向に偏ってしまった感じだ。
権力者や騎士団に関わらず細々と暮らしたいと考えていたが、面倒でも一度会って誤解を解いて済むなら終わらせた方がいい。
「自分が原因ですし、お会いするのは構いませんが、どういった形になるのでしょうか?」
「ありがとうございます!
そうですね……。
ミツキ殿の指定された日にこの商人ギルドの商談室か、どこかの宿の社交室か、他の者の目がないところに時間差で入ってお話をする程度だと思われます。
フェルス様は領主の館に招待しようとおっしゃっていましたが、それは止めさせていただきました」
よく止めてくれた。
こんな世界で領主の娘の未来の夫に手を出したと思われたら、親族に何をされるかわからない。
やましいことなんて何一つない。
カルムを男としてなんて、いや
しかし、どう説明したらいいものか。
あなたの婚約者には興味ありませんって言うのも失礼にあたらないか?
……。
…………当日までに考えておくことにしよう。
というか少女にも見えるこんな体格なんだし、直接会って顔を合わせれば勘違いだと気づくだろう。
あとはなんとか乗り切ろう。
「予定日はいつがよろしいでしょうか?
早いほうがなにかとありがたいですが、フェルス様もご準備がありますので明日明後日という訳には参りませんが……」
「ええっと……。
そうしましたら、4日後の、上月14日の10時頃でよろしいですか?」
13日は家の方に荷物の運び入れが可能となる日だ。
手配やらを早めに済ませれば、15日からの入居には日用品が揃えられるだろう。
面倒な顔合わせも14日の昼前に済ませて、午後から不足したものの買い物などに動けるはずだ。
入居前にいらない問題は解決しておきたい。
「かしこまりました。
では4日後の10時からということで。
フェルス様のご予定の確認や、場所についてのご連絡は前日までにお泊りの宿の方にさせていただきますね」
「お願いします」
これでひとまず面倒な話は終わりか……?
自分の浅慮な行動の結果だとしても、男女のあれこれに結びつけられるのは勘弁願いたい。
カードの依頼をしに来ただけなのに。
いつもより深く礼をするカルムと別れ、商人ギルドを後にする。
令嬢との面談の方は会って話せば誤解は解けるだろう。
問題の槍の方の条件反故に関しては、諸々が終わってから内容の相談をすることとなった。
といってもそれに関してはカルムの説明不足もあったが、こちらが会いにいった頻度がどうみても普通じゃなかったので申し訳ない。
今から奴隷商館に見に行くのもなぁと思い、眠る人魚亭へ戻って休むことにした。
考えてもみれば間女騒動の前に、盗賊団からの逃亡があったのだ。
迷宮でもあまりしていないオーバーホエルミング連発の回避行動も重なって、心労がすごい。
アコルトにはすこし横になると伝えてワンピースを脱がせてもらい、ベッドに潜り込んだ。
一応自分でも背中のボタンは外せるが、居るのならアコルトにお願いしたほうが早い。
なんだか嬉しそうでもあるし。
夕食の頃にでも起こしてもらうことにして、瞼を閉じるとすぐに意識は溶けていった。
***
優しく揺すられるような振動に目が覚める。
薄く開いた目に映ったのは、起こしてくれたアコルトと、何やらメモを確認しているシャオクだった。
「おはようございます、お嬢様。
先ほど夕方の鐘が鳴りましたので、起きていただきました」
「うん、ありがと」
「ミツキ様、ボクも戻りました!」
「おかえり~」
若干寝ぼけて返答が適当になっている。
アコルトが水筒の水で軽く湿らせた手拭いを渡してくれたので、軽く顔を拭いたらシャッキリと目が覚めた。
食堂へ向かい、それぞれの料理を注文して席につく。
「シャオの方は部屋で聞くとして、アコはどう過ごしてたの?」
「私は服飾店や雑貨屋を見たり、商店や飲食店を回っておりました」
まあ想像通りか。
合流した時に大きな荷物は持っていなかったから、服は買わなかったみたいだな。
「買い物はしなかったの?」
「新しい髪留めや髪飾りなどの小物を買わせていただきました」
アコルトの髪は長くはないし、それって自分に使ってくれるやつじゃないのかと問うと、私がやりたいことなのでと渡してあった小遣い以上には受け取ろうとしなかった。
あとは果物や屋台の食べ物を買って食べたり、飲食店の方も何軒か行ったそうだ。
何軒か……?
そこには触れないことにして、何が美味しかったかを聞いてみるも、複数食べたので今後の店選びの際に近くに行ったら説明してくれるということになった。
今聞いても忘れそうだし、その方がありがたい。
食事を終えて部屋へと戻る。
頼んだ湯が届く頃には、アコルトが手拭いを用意してくれていた。
従業員が立ち去ったの確認して扉の鍵を締め、湯を絞って体を拭きながらシャオクへと尋ねる。
「シャオの方は今日どうだった?」
「えっと、アルヴナの街には無事に着けまして、鍛冶師ギルドに行ってみました。
例の件を伝えると、別室で皮の靴をスキルで作るように言われました」
やっぱり鍛冶師であるかの確認があるんだな。
「糸や皮が置いてあって、その場で作るものを指定されるようです。
予め用意してこられないようにと言われましたが、ボクはちゃんと作れたので、その後は説明に移りました」
なるほど、探索者でもアイテムボックスがあるから、お題のものを入れておいて逆の鍛冶師詐欺をされるのを防止するということか。
「ギルドへの所属については、まずは5万ナールを用意する必要があるそうです。
それから各月一定数のギルド指示の装備作成の仕事を必ず受ける必要があったり、教本の販売は受け付けていないそうです」
鍛冶師ジョブに就くというハードルがあるからか、料金自体はそこまで法外でもない。
それでも自由民の納税額と半額と考えると、困窮しているものにとってはなかなか厳しい額に思える。
「普通のギルドだとどうなのかな?」
「製造依頼の斡旋はありますけど、明確に納品義務を課してはいなかったと思います。
教本も、ギルド員には売ってくれたはずですが、アルヴナでは閲覧のみのようでした」
そのへんはやはり厳しいのだろう。
流れ者に教本だけ流出してばかりでは困るし。
預けていた3枚の金貨がそのまま返ってきた。
「あっ、でも、メモを持参して自分で書き写すのはいいそうです!」
「うーん、でも義務で依頼を何個も受けないといけないのはなぁ……」
仕事を与えてやるというのも大変だから、うまくやってくれている方か?
「転職についてはどんな感じ?」
「勝手な転職は、どこのギルドでもダメですね。
そのまま転職というか、えっと……。
普通の人はそれぞれのギルドのギルド神殿でジョブに就かせてもらうわけなので、正しくはギルドの脱退申請前に他のギルドに並行して所属するということができません」
そうだった。
ボーナスポイントのジョブ設定や、パーティージョブ設定で変更できることが異常なのだ。
この世界の一般の人はギルド神殿でジョブに就くことになるので、任意の転職は盗賊になる時くらいしかない。
「さすがに規約の中身まで詳しく見せてもらうことはできませんでしたけど、規約を破ると盗賊に落ちることもあると聞きます」
作中で、漁だったかの決められた区域を守らなかったために海賊になった、なんて描写も見た覚えがある。
となるとやはりウチのパーティーは、自分だけでなく他の面々もギルド所属は難しそうだ。
特にシャオクは、まだ探索者へ変える必要が何度かありそうだしな……。
「自分の変更で規約を破ったことになって盗賊になっちゃうのは困るなぁ」
どれも仮定の話だが、お試しでできないのが困る。
奴隷のまま盗賊になるのか?
村長のジョブの者が盗賊を奴隷の身分に落とすところは書かれていた覚えはあるが、奴隷になった者のジョブがどうなったまでは覚えてない。
フウルバリの騎士団にリュタルゴの村を通報して、盗賊たちが連行されるところを見ておくか?
いや、そんなことをしたってあのジョブ不明の頭目は盗賊ではないようだから、捕縛を免れる可能性が高い。
それで次に狙われるのは自分だし、そんな危ない橋は渡れるか。
「お嬢様、思い至ったのですが……」
それまで静かに聞いていたアコルトが加わってきた。
「ギルドに所属してからジョブを変更しても、規約の違反にはならないのではありませんか」
「えっと、どういうこと?」
「先ほどシャオさんが述べたように、新たにジョブに就くには各ギルドに所属して、ギルド神殿で転職する必要があります。
しかしシャオさんは、探索者ギルドに所属していた際に、お嬢様のお力で鍛冶師になることができました。
その時も、その後もなんらかの罰則が発生した様子もありません」
「あっ……」
確かにギルド関係には触れていなかった。
その後何度もジョブを変更しているが、特に制限が掛かった様子もない。
シャオクの取得ジョブに盗賊の文字もない。
亜人は山賊だったっけ、まあ今はいいや。
「複数ギルドへの所属を規制することで、別のギルドのジョブに就くことを実質的に禁止しているようですが、お嬢様のお力はギルドの規約と関係なさそうです」
「そうすると、転職すること自体はギルド規約には関係ない……?」
「だとするとボクは探索者ギルド所属のままなのでしょうか?」
「それは確かめないとな……。
今度、探索者の状態で登録したギルドに行って確認してきてほしい。
もしかしたらギルド神殿を通さずにジョブが変わった時点で、なにかの影響をうけてるかも」
「わかりました!
登録はシームの探索者ギルドでしました」
ギルド所属でも管轄外のジョブへの変更が可能となると、シャオクを無所属にした後に流れの鍛冶師としてアルヴナの鍛冶師ギルドに加入させることもアリに思えてくる。
問題は製造ノルマとかそっちの方だ。
「えっと、アルヴナの鍛冶師ギルドから、別の街の鍛冶師ギルドに転属もさせてもらえるんだっけ?」
「はい、それも聞いてきました。
……えーっと、料金は30万ナール、だそうです……」
メモを見ながらシャオクが答えたが、逃がす気のない価格設定だなそれ。
でも、ギルドから離れたところを再所属させてもらって、労働義務からまた逃げるためにはそれくらい必要といわれたら、分からないでもない……か?
どうしようもなくなって身売りすれば、高待遇の奴隷になれる可能性もある鍛冶師なら、まだ救いがある。
人種としての人数も多いし、固有ジョブが色魔である人間は本当にかわいそうだ。
明確な用途がわからない森林保護官も同じようなもんか?
洗髪も洗濯も一通り終わったので、話をまとめる。
「シャオは今度時間がある時に、ギルドの所属状況を確認してきてほしい。
探索者ギルド所属のままだったらとりあえずそのままにしておいて」
「もし、なんらかの影響で脱退になっていたらどうしましょう?」
「その場合は悪いけど、勘違いで別の街で脱退申請をしてたとかなんとか誤魔化して帰ってきて……。
あとはすぐ先じゃないんだけど、資金が貯まったら一旦ギルド未所属になった後、アルヴナで鍛冶師ギルドに所属させてもらって、即シームのギルドに転属しよう。
そのタイミングで、ヤトロクさんたちにも鍛冶師になれたって伝えたい」
「ありがとうございます!
結構先になると思いますが、できたら嬉しいです!」
そうかな…?
魔法使いと英雄、森林保護官あたりがLv30くらいになれば、一気に資金稼ぎに回せるから今年中にはできる気がするぞ。
「それまでは鍛冶師としてはカード融合ばかりになるけど、いいかな?」
「はい!
むしろこんなに頻繁にスキルを使えるとは思っていませんでしたから」
「よかった、ありがとう。
シャオもアコも、他に気づいたり思いついたことがあったら教えてね」
「かしこまりました」
これで予定は決まったか。
基本的はカルメリガの迷宮通い。
改築現場に顔を出して、新しい家具の設置場所を確認しつつ発注。
細々した買い物を進めつつ、14日には出頭、もとい弁明の顔合わせ。
いろいろな問題を解決したら15日にはマイホームへ入居だ。
暮らし始めたら、アコルトの故郷へも行く日取りも考えておかないとな。
資金を貯めたらシャオクのギルド関連もこなしつつ、新しくメンバーを迎えて上の階層を目指す。
やることがいっぱいだ。
それでも、目標があれば明日も動ける。
というか風呂だよ風呂!
石鹸も作りたいし、今後は楽しみばかりだ。
ベッドに入って夢の生活を思い浮かべていると、いつの間にか寝入っていた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv26
魔法使いLv26/英雄Lv23/探索者Lv28/僧侶Lv25/森林保護官Lv21/薬草採取士Lv24
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv21
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv17
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次回は12/28更新の予定です。
次々回は更新を1回分お休みして1/3(金)とさせていただきます。
(執筆状況によるものではなく、仕事のせいで執筆確認体制が取れないからですので、連載の継続についてはご心配必要ありません)
活動報告 006の方も投稿いたしました。
何かあるかも。