異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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075 顕在

 どうせ事の顛末はザノフに回るだろうし、逃げられなさそうなので、かい摘んで説明することにした。

 

 初対面の際に貴族であるとのカルムの説明を受けたが、婚約者の存在までは聞かなかったこと。

 オークションについて直接落札しながらやり方を教えてもらったり、依頼内容の変更をするために連日商人ギルドに通ったこと。

 それが婚約者であるシーム領主第二令嬢の耳に入り、面会の要求を受けたこと。

 

 こちらの落札依頼の内訳や槍の取引のことなど、伏せたほうがいい部分は省きつつ問題に関係のありそうな部分だけを挙げていく。

 そして何より、カルムに対して自分は全くその気はないということを強く伝えた。

 

 

「……なるほど。

 なかなか面白いことになっておりますな!」

 

 

 楽しんでるじゃん!

 そういえばザノフは人を引き合わせるのが趣味だとか、カルメリガの奴隷商館主……ゴレードが言っていたと思う。

 

 詳細は今日の夜に伝えるつもりだったので、全く何も知らないシャオクが固まってしまった。

 シャオクはカルムに会わせてすらいないので、いきなり領主の娘に呼び出しって聞いたらこうなるか。

 

 

「ほっほ、失礼いたしました。

 しかし、フェルス様については大丈夫でしょう。

 きちんとご説明すれば分かってくださる方でございますので」

 

 

 それはよかった。

 有無を言わさず断罪!みたいなお嬢様ではないらしい。

 

 

「それにミツキ殿なら……」

「……なんでしょう?」

 

「いえ、まあ間違っても悪いことにはなりますまい」

「はぁ……」

 

「万が一がありましたら、このザノフもご説明にあがりますので、ご心配なさらずとも大丈夫でしょう。

 ……それはそうと、フェルス様にお会いするのに衣装はお持ちですかな?」

 

 

 明らかに誤魔化しただろ。

 でも、衣装か。

 

 

「その、一応このジャケットの下に着ているような古着ではない服も何着かはありますが、それではやっぱり失礼にあたるのでしょうか……?」

「フェルス様は気にはされないとは思いますが、用意をした方が印象はよいでしょうな。

 先程のカルムについて述べることと合わせまして、『フェルス様のために着て参りました』と伝えれば喜ばれるでしょう」

 

 

 カルム曰く領民にも親しみ深いとのことなら、庶民の服装なんてそこまで気にしない人なのだろう。

 それでも確かに、あなたのために着飾ってきたと聞いたら誰でも悪い気はしないと思う。

 

 ザノフは高級服飾店のオーナーでもあるし、相手の商売にのることになるが、今後の安寧のために任せてみるか。

 しかし気になる点が一つ。

 

 

「……その、衣装というのは、おいくらくらいの……」

「ああ、代金でしたら気にされずとも大丈夫です。

 カルムをご紹介しましたのは私ですので、今回はこちらでご用意させていただきます」

 

 

 また借りを作るようで遠慮しようとは思ったが、正直金銭が浮くのはありがたい。

 それに断ればわざわざ来たザノフの面子も潰すことになるので、ここは厚意に甘えるとしよう。

 

 

「よろしいのですか?」

「はい、それに今回についてはフェルス様というお相手もおりますからな。

 あくまでミツキ殿がご用意された、フェルス様好みの衣服。

 そのあたりを考えて贈らせていただきたいと思います」

 

 

 なるほど。

 高ければ高いほどいいってわけでもないしな。

 伯爵令嬢を立てつつ、庶民が頑張って用意したくらいの、その令嬢好みの衣装。

 

 そのラインを狙えるのは、ほかならぬザノフということか。

 ならばお任せしたほうがよさそうだ。

 

 

「お食事を終えられましたら、店の方までお越しください。

 お連れ様の分もご準備させて頂いてお待ちしております」

 

 

 なんと2人の分も用意してくれるらしい。

 例の面会は自分だけだと思っていたが、奴隷とはいえ合わせて呼ばれる可能性もなくはないか。

 貴族とシャオクの接触は避けたいが、少なくともアコルトは居てくれたほうが作法的な面でもありがたいし、心強い。

 

 店の場所を教わって礼を述べると、ザノフは退室していった。

 変な緊張感が抜けて、椅子にもたれ掛かりながらシャオクを見る。

 

 

「ごめんね、シャオ。

 今日の夜に説明するつもりだったんだけど、そういうことになっててさ……」

「いえ、その、驚きましたが、説明されたとおりに勘違いならフェルス様も分かってくださる……んですよね?」

 

 

 たぶん大丈夫だと答え、シームの住人であったシャオクに確認してみたが、その第二令嬢様を見たことはなく名前を聞いたことがある程度らしい。

 探索者ギルドに入ってからは鍛錬や手伝い、知識を詰め込むばかりで周りを見る余裕もなかったのだろう。

 

 流されるように昼からの予定が決まってしまったが、アコルトの方は洋服が楽しみらしい。

 ちょっとのんきな様子に和みつつ、カルメリガはあのザノフの情報網が特に張り巡らされているのだと説き、迷宮関連以外ではあまり立ち寄らないようにしようと話した。

 

 シャオクにカルメリガの13階層のように、それ以降で1属性で有利をとれる階層を聞いてみたが、シームの15階層と22階層、カルメリガの16階層、ルテドーナの18階層が一応いずれかの属性で一貫性があるらしい。

 それでもグラスビーやビッチバタフライ、ロートルトロールが繰り出す毒や麻痺への耐性装備を揃えないといけないので、結局はしばらくカルメリガの13階層に通い詰めるしかないようだ。

 

 というかクラザは同じ弱点属性が3階層分続くところがないのか。

 魔法使いとして考えるとなかなかに難しい迷宮だな。

 

 

 食事の会計をしてもらおうと店員を呼ぶと、すでにザノフが支払っていったそうだ。

 単純に厚意や食事の邪魔をしたことに対してなのだとは思うが、含みがありそうで怖いんですけど!

 

 ちなみに通常の食事では、やはり前払いだったらしい。

 料理は美味しかったのでまた来てもいいが、その時は食事中の面会は断ろう。

 

 

 教えられた道順を進むと、シンプルながら洗練されたブティックのような店舗があった。

 言われなくても分かる、貴族向けの高級店だ。

 

 このまま入っていいものか店の脇で手を拱いていると、背筋のピシッとした店員が近づいて話しかけてきた。

 

 

「ミツキ様とお見受けします。

 ザノフ様からご案内するように命じられておりますので、こちらへお越しください」

 

 

 慌てて返事をして2人とも顔を見合わせ、こちらの動きを待っていてくれた店員に続いて店内へと入った。

 すれ違う店員に続々と頭を下げられ困惑しながら、服が並んでいるところではなく奥の部屋へと通された。

 

 部屋の中にはザノフがおり、あれこれと従業員に指示を出しているようだ。

 

 

「おお、来られましたなミツキ殿。

 お待ちしておりました」

「ええと、ご手配いただき感謝いたします」

 

「こちらのナルザという者に説明はしておりますので、ご相談ください」

「は、はい。

 ありがとうございます」

 

 

 

ナルザ 人間 女 42歳 防具商人Lv8

 

 

 年齢の割には見た目の若い女性が前に出る。

 

 

「ナルザです。

 まぁまぁどんな子が来るのかと思ったら、可愛らしい子たちじゃない!」

「3日後までにシームに手配を頼むぞ」

 

「3日で!?

 ……ミツキ様たちはいつシームに戻られるの?」

「今日の夕方には……」

 

 

 絶句するナルザ。

 どうやら話を聞いた感じ、ナルザはザノフの末の妹らしい。

 そしていつも周到な計画をする割には、身内の扱いが雑なようだ。

 ナルザをあしらいながら、「できると思っているので甘やかしません」と言ってのけた。

 

 ザノフがあとは任せたと従業員たちに伝えて立ち去ると、ぶつぶつと呟いていたナルザが近づいてきた。

 

 

「それじゃあ、ミツキ様。

 まずは採寸させていただいてから、考えてみますね」

 

 

 とりあえず貴族でもないし、様付けではなくていいと自己紹介する。

 ナルザもデザインとかコーディネートの方が主で、接客は不得手らしく、さんづけで呼び合うこととなった。

 

 目隠しで仕切られた区画に移動しながら、ナルザが独り言のように続ける。

 

 

「本当は一から作りたいのだけれど、オーダー内容的には既製品を手直しした方がそれっぽいかしら……。

 明日明後日はカルメリガに来られるかわからないそうだし、14日の朝に着るのだから前日には届いていないと……」

「あの……」

 

 

 移動だけして放置されかけているのは困る。

 

 

「ああ、ごめんなさいね。

 とりあえず装備や服を脱いで、下着になってもらえる?」

 

 

 ああ、採寸ってそうか!

 現代の大衆向けのスーツ店のように、服の上から簡易的に測るわけじゃないのだった。

 

 体拭きのときはもう作業なんだと意識しないようにして、日々の一連の流れとして終わらせるところまで持っていけている。

 仲間である2人の前でならともかく、初対面の人の前に肌を晒すのはなぁ……。

 

 いや、考え方が悪いのだ。

 医者の診察だと思えばいいだろう、それも裸でなく下着までなのだし。

 

 元々食事の前に装備はある程度外していたので、残っているのはブーツやカチューシャくらいだ。

 その後は言われてた通りに下着姿になる。

 

 目盛りの振られた紐を体に合わせられ、ナルザがメモをとる。

 少しずつ覚えてきた数字が順に振られているが、センチ幅ではない。

 おそらくインチ幅でもないので許そう。

 

 

「ミツキさんっておいくつ……というか聞いてもいいのかしら?」

「構いませんよ、18歳です」

 

「あら、娘と一緒くらいなのね!

 会ったことはあるかしら?

 商人ギルドの受付をしているネリザっていう子よ」

 

 

 カルメリガの商人ギルドといえば……ああ、ザノフを紹介してくれた子か!

 母のナルザに娘のネリザ、そういうことか。

 あの子にスーツを見せた際に服飾オタクのようだったが、純粋に教育の賜物ということか。

 

 

「古着屋の場所を教えてもらったことがあります」

「……そう、変な店主の居る古着屋ね。

 兄さん、こっちが本業なのに余程のことがないと来やしないんだから、用事が何であれミツキさんが連れてきてくれて良かったわ」

 

 

 オーナー、仕事しろ!

 まぁこっちで貴族相手の仕事をしているよりも、庶民がいじった古着や布を並べていたほうが楽しそうなのは分からなくもない。

 そもそも普通はオーナーが直接客の相手をすることもないだろうしな。

 

 雑談をしながら、次々に採寸をしていく。

 とくにアコルトと会話が弾んでいるようだが、測り終わった自分はその間そそくさと服を着直した。

 

 

 

「さて、3人とも採寸はおわったので、次はどういう衣装にするのかだけど。

 その前に……ミツキさん」

「はい……?」

 

「あなたはまず、下着のサイズとつけ方が合っていないわ。

 教えてくれる人がいなかったのかもしれないけど……」

 

 

 そんな機会なんて生まれてこの方あるわけないだろ!

 なんとなくのサイズを着るのじゃだめなのか。

 

 

「あなたウエストも細いし身長の割に結構あるんだから、ちゃんとしなきゃダメよ!」

「え」

 

 

 胸部を押さえてナルザが声を荒らげる。

 

 パラメータ調整してないんだから平均サイズじゃないの、()()

 なんで?

 

 姿見を持ってきてもらって確認させてもらったが、どうやら特別盛られているというわけではなく、比率の問題らしい。

 顔や胴回り、手足は身長相応に細く小さいのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと聞いて、合点がいった。

 

 思い出したのはあのキャラメイクの調整バーだ。

 身長の項目だけいじって他を触らぬままに終わってしまっていたが、あの2つがおそらくそれぞれの設定だったのだろう。

 

 下げた身長と連動して大体の箇所は小さくなったが、個別パラメータのところは元の身長用の比率が適用されていたに違いない。

 そこは全部同期していてくれよ!

 

 ネタキャラとして身長を最大にして他2つを最小にしていたら、人体が凹んでいた可能性もあったかと思うと恐ろしすぎる。

 小さい方でも更に身長を下げていたとしたら、出るところが出すぎているやばい見た目になっていた未来もあったのか。

 この程度でおさえていて本当に、本当によかった。

 

 

 そこからは半分説教だった。

 揺れるのが邪魔なので小さめの下着にしておさえていたのがダメだったらしい。

 

 だって知らないもん……。

 他の人と並んで比べる機会なんてないし、お供の2人は……だし。

 服装や髪についてはあれこれとしてくれるアコルトも、さすがに下着がどうこうとまでは指摘してこなかったし。

 

 

 

 

「────すること!

 ────もするように!」

「はい……」

 

 

 とりあえず今後気をつけることを一つ一つ聞かされている。

 なんかかわいそうになってきたよ、自分。

 

 

「────アコルトちゃんにまかせること!」

「はい……」

 

「承諾取れたわよ、アコルトちゃん」

「ありがとうございます、ナルザ様」

 

「え?」

 

 

 なんか勝手に決まったな?

 

 

「お嬢様にお仕えすることが決まった日に、『余りにもおかしいことをしたら、注意して窘めてほしい』と仰っていただきました。

 こだわりがあるのかと思い、下着のつけ方まではご指摘いたしませんでした。

 今後はお手伝いさせていただきたいと思います」

 

 

 言ったよ、言ったけどさぁ。

 最後の安寧が崩れ落ちる音がした。

 

 

 落ち着いて、いい方向に考えよう。

 一通りの作法や、侍女的な内容も学んだアコルトがサポートしてくれるのだ。

 間違っていたのなら、正しく身につけた方がきっと体も楽になるはずだし、衣服も長持ちするに違いない。

 

 どうせ毎日顔を合わせるのだ。

 知ってしまったのなら「まーた間違ってつけてるよ、お嬢様」なんて思われているほうが嫌だ。

 ほんの一瞬なんだし、お願いすることにしよう。

 

 

「う、うん。

 これからよろしくね、アコ」

「かしこまりました!」

 

 

 いい笑顔だ。

 

 

 

 

「どうせ兄さんに請求がいくのだから下着も一緒に買うとして、肝心の衣装の方は希望はあるかしら?

 一張羅なら今後のためにもドレスがあったほうがいいと思うのだけれど……」

 

 

 そういえば元々そういう話だった。

 

 

「ザノフ殿が話されていたように、シームの住人となった自分が、フェルス様にお会いするために用意したと分かるような衣装であれば……」

「それはデザインの方でなんとかするわよ。

 着たい衣装はないのかしら?」

 

「別になんでも……」

 

 

 ナルザの視線が鋭くなる。

 

 

「アコにおまかせします……」

「はい!」

 

 

 代金はザノフ持ちのはずだが、他のものまで持っていかれたような気になってしまう。

 

 交代で何着かの試着用の衣装を着せてもらい、印をつけながらどこに手を加えるかをアコルトとナルザが協議している。

 シャオクはそれを感心しながら聞きつつ、自分は今日はこのあとどうするかと現実逃避した。

 

 2人の方針は早めに一致したらしく、店に来てから1時間ほどで3着ともだいたいの内容は決まったらしい。

 

 

「それじゃ、仮のデザインで進めてみるから、今日の夕方にまた寄ってくれるかしら?

 正面じゃなくて裏口の方から入ってもらえれば、こっちにはすぐ来れるわ」

「わかりました」

 

「その時に着て確認してもらって、仕上がったものを間に合うように送らせてもらうわね」

「ありがとうございます」

 

「1セットは一緒に入れておくけど、普段の下着もアコルトちゃんに選んでもらって買うのよ、ミツキさん」

「はい……」

 

 

 死んだ目になりながらなんとか返事をし、ナルザには裏口を教えてもらい、そのまま見送ってもらった。

 重い足を引きずるように冒険者ギルドへと向かう。

 

 今回のことは、自分が今までおろそかにしていたツケが回ってきたのだ。

 日常生活はなんとかそれっぽくこなしているが、結局体は元とはベツモノで目を逸らしてきた部分も多かった。

 

 いい機会と考えることにする。

 考えるけど恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

 

 ギルドから迷宮へと移動し、気持ちを切り替えるために外へ出て、買った肉串を頬張った。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv27
魔法使いLv27/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv26/森林保護官Lv22/薬草採取士Lv27
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv21


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv18



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次回は1/6更新の予定です。

あけましておめでとうございます。
日付を狙って書いたわけではないですが、新年最初の更新がこんな内容になってしまいました!
ごめんなさい。

仕事は絶賛繁忙期で休めておりませんが、今年もなんとか続けていけるように頑張ります。

本年もよろしくお願いします。
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