異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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076 試着

 思わぬ来客とその後の応酬で気力を持っていかれたが、迷宮前の肉串が安寧をもたらしてくれた。

 美味しいものは、正義。

 

 装備をし直して、午後の狩りを始めよう。

 迷宮の入口で13階層を選択し、黒塗りの扉を潜り抜ける。

 

 夕方にはまたナルザの下に向かわなければならないので、終わり次第すぐにシームに戻るということはできない。

 面倒だがいちいち冒険者ギルドを経由して人混みに紛れるしかないだろう。

 

 

 狩りの方はといえば、相変わらず4ターンの魔法攻撃で植物たちを素材へと変えている。

 さすがに設定中のジョブ全体が3つ4つレベルが上がらない限りは、3発での討伐までは持っていけないだろう。

 

 自分は鑑定でのジョブレベルの確認ができるのでモチベーションを維持できるが、探索者以外の普通の人たちは日銭を稼ぐ以外に目標を立てられているのだろうか。

 同じパーティーの探索者のアイテムボックスが増えるまで何十日と、季単位あるいは年単位で同じ階層に潜り続けるのは並大抵のことじゃない。

 そういう面でもシステムに助けられている。

 

 時間の制限はあるが、午前よりは討伐数を稼ぎたい。

 その思いで、無理はさせない程度に連戦を重ねる。

 

 

 途中、知力ステータスに振っているボーナスポイントを結晶化促進に変更してみたが、手数は増えることはなかった。

 レベルがあがってジョブ効果で火力が着実に強まっているのだろう。

 詳細な検証は後日することにして、一つでもレベルを高くしたい。

 

 この後に衣装チェックがあるからか、アコルトが張り切って索敵をしてくれた甲斐もあって、アイテムボックスを埋めたドロップ素材は、昼前よりも多くの列を埋めた。

 群れの魔物自体の数もそこはかとなく多かったように思えたが、運も向いていたのだろうか。

 

 夕方の鐘が鳴るよりも早めに切り上げて、冒険者ギルドへとワープした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ギルドの外壁に出てきた後は、装備をアイテムボックスに仕舞いながら例のブティックへ向かう。

 そのまま裏口へと回り込むと、ちょうど休憩か何かで扉から出てきた従業員を見つけた。

 

 

「昼過ぎにご案内頂いたミツキです。

 ナルザさんにこちらから伺うように言われたのですが」

「ええ、存じております。

 ご案内いたしますね」

 

 

 あの時に部屋の中で見かけた1人だと思ったが、どうやら覚えてくれていたようだ。

 そのまま案内して、あの衣装部屋の担当に引き継いでくれた。

 

 

「ええと、ナルザさんは……?」

「あちらでお待ちです」

 

 

 指し示された奥まった一角に、トルソーに着せられたドレスを見ながら首をひねるナルザの姿があった。

 

 

「お待たせしました、ナルザさん」

「あら、来てくれたのね。

 これがアコルトちゃんとシャオクちゃんの意見を聞きつつ選んだ、元になるドレスよ。

 とりあえず着てもらおうかしら」

 

 

 シャオクもちゃっかり要望を言っていたらしい。

 自分はその時現実逃避していたので、ウサメイド様のご希望が通っているようだ。 

 

 隅の間仕切りの中で試着させてもらい、着替え終わった順にナルザの前に並ぶ。

 

 シャオクは髪色より淡いグリーンのドレスだ。

 膝のあたりまでの丈でまとまった感じが、サイズも相まっていかにもシャオクっぽくて可愛らしい。

 体型はドワーフの標準らしく、身長に合わせればほとんど手直しがいらないらしい。

 どちらかというとヘアセットのほうが大変そうだ。

 

 アコルトのドレスは、こちらも髪色に合わせた黒。

 サイドのスリットから見える脚が綺麗だし、背中は結構開いていて尻尾用の穴もあるようだ。

 兎人族特有のうなじのあたりの体毛はちゃんと隠れた上で、白い肌がコントラストで美しい。

 

 そして自分はというと……、瞳と同じブルーのドレスだ。

 肩紐の細いキャミソールドレス。

 

 

「既製品をいじるには丈の長さもそうだけど、サイズが困るのよね~」

「いや、これ……露出が……」

 

「確かに伯爵令嬢様へのご挨拶には派手かもしれないけど、3人で並んでみたらちょうどいいと思うわよ」

 

 

 そんなもんか……?

 2人と寄り添い合って、姿見の前に立ってみる。

 

 複雑な装飾はほとんどなく、体型に合わせたシンプルなデザインがメインだから、きれいでも見る人が見れば高級っぽさはそこまでないのだろうか。

 アコルトの黒のドレスが自分の銀髪を映えさせているようにも見え、それだけでは寒色の冷たい印象になるところに淡い緑が差し色となって柔らかいイメージが入ってくる。

 

 いやそれでも。

 2人がスレンダーに見えるだけに、並ぶと尚更自分の1点に視線が行ってしまう。

 

 ご挨拶に行くだけであって、社交界で男を引っ掛けるためではないのだ。

 というかこの格好で行ったら、いくら低身長でも伯爵令嬢様に婚約者を誘惑したとか言われない?

 

 

「アコルトちゃんに言われて一応用意しておいたけど、その様子なら要りそうね。

 はい、これ」

 

 

 薄い生地だが、首元から上半身を覆うショートジャケット……いわゆるボレロというやつか。

 奪い取るように受け取ると、すぐに袖を通して身につける。

 胸元を全て隠せているわけではないが、先程よりかなりマシだ。

 

 アコルト、よく進言してくれた!

 と思ったが、そもそもこのドレスデザインに持っていったのはナルザとアコルトでは?

 

 誇らしげに胸を張るアコルトをまじまじと見つめていると、ふと気づく。

 奴隷の証というべき首の枷だ。

 

 作中のヒロインが頑なに外さなかったために、もはやデザインの一部のように認識していて、こちらも改めてそれについて考えることはしていなかったが、不要じゃないか?

 奴隷がありふれた世界なので、従者と紹介されれば誰もその拘束具に突っ込んではこなかった。

 

 あれ?

 でも寝るときには外していた気がする。

 

 確認してみると、どうやら寝る時以外はつけていたらしい。

 体拭きの際には外して身を清め、起きたらまたつけてとやっていたそうだ。

 

 普段から外して構わないと伝えるも、主人である自分とのつながりに感じて就寝時以外はなるべく外したくないとのことだ。

 うーん……。

 

 これまで放置していた自分が悪いのだが、なにか別の装飾具とかに替えてもらえないだろうか。

 

 

「例えばチョーカーとか、そういう別のものをプレゼントするからさ」

 

 

 それなら身につけたいとアコルトの目の色が変わる。

 

 

「あら、いいわね。

 よかったらそういうのを扱ってるところを紹介してあげてもいいわよ」

「本当ですか!?」

 

「あっ、でもミツキさんエルフだし、ちょっとどうなるかしら……。

 加工を仕切ってるのはドワーフの工房なのよね。

 親方さんは腕が良くて気さくだし、お弟子さんの中には仕事として割り切ってくれる人もいるとは思うんだけど……」

 

 

 まーた種族問題か。

 どうにかなんないのかね、それ。

 

 

「うーん、おそらく兄さんの名前を出せば、話を聞くくらいはさすがにしてくれるはずよ」

「それ、ザノフ殿の確認を取らなきゃ……」

 

「いいのいいの!

 ここにミツキさんを連れてきたくらいだもの、兄さんだいぶ気に入ってるわよ。

 面白がってる部分もあると思うけど、そんな相手が無下にされたら取引先の対応も変わるのも当然よ」

「そうですか……?」

 

「だから、ザノフからの紹介って言っちゃっていいわ!

 兄さんも後から聞いたって、私からの繋がりだとすぐ気づくだろうし、聞いてないなんて咎めるような内容とは思えないし」

 

 

 兄妹揃って押しが強すぎる。

 まあ、いいものが手に入るのならそれに越したことはない。

 

 教えてもらった工房はカルメリガにあるそうなので、後日訪ねることにしよう。

 ザノフやナルザにはしばらく来ないかもとは言ったが、家具の目処がついて時間が空けばワープでいつでも来れる。

 

 衣装の方は着た状態で仮止めしたり、広げたり詰めたりする細かい手直しのメモを取った後、ナルザに返却して元の服に着替えた。

 

 

「それじゃ、仕上げたものを後で送るから楽しみにしててね!

 今度カルメリガに来た時には、別の服もおすすめしてあげるから!」

「ありがとうございます!」

 

「あと、これ」

「えっと、なんですか?」

 

 

 話に聞いていない袋を見せられた。

 その口を開けて中身を取り出しつつ、ナルザが当然のように説明する。

 

 

「何って、下着よ下着。

 ドレス用のは一緒に送るけど、やっぱり数日分はないと困ると思ったから渡しておくわ。

 追加分はアコルトちゃんと選んで買いなさいね」

「はい……。

 ありがとうございます……」

 

「もちろん、ドレス代に加えて兄さんに請求するから大丈夫よ!

 あーすっきりした!」

 

 

 特急の仕事を入れられた怒りも乗った、ありがたい手土産を恭しく受け取った。

 や、やっと終わりか?

 

 ある程度防音も利いているらしく、うっすらと夕方の鐘の音が聞こえたところで、丁重に礼をして店を後にした。

 迷宮自体よりも疲れた一日だったように思えてならない。

 

 冒険者ギルドへと戻り、人混みに紛れてシームへとワープした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 商店街からのいつものルートで眠る人魚亭へと戻る。

 

 フロントの脇を抜け、荷物を見てまた服を増やしたのかとミトラグに白い目で見られながらも部屋に戻る。

 不可抗力なんです!

 

 もらってきた下着類をアコルト先生に確認してもらい、それまでのものも見てもらった。

 古着屋で最初に買ったゴワゴワ下着は、布面積が大きかったのもあってすでに装備の手入れ用の布になったり処分はしたが、そこそこ生地の良い方はどうしよう。

 

 サイズ的な問題でも2人にもちょうど合うわけでもないので、というかこれ以上の再利用は自分が嫌なので次回迷宮に行った際に処分することにした。

 チリも残らないように焼き払います。

 

 

 荷物を置いて食堂へと向かう。

 さっきはおかえり、とだけ言って迎えてくれたミトラグが、今度は話しかけてきた。

 

 

「そういえば教えてもらったあの料理だけど、おためしとして数は絞ってだけどメニューに追加してみたよ。

 肉のもあるから、よかったら頼んでみてね!」

「そうなんですか、楽しみです!

 ぜひ食べてみます!」

 

 

 なんと、試行錯誤の甲斐あってか一部の揚げものが追加されたらしい。

 通常メニューよりもオイルの消費もあるので頼み放題というわけでもないが、広まってくれるのが楽しみだ。

 

 食堂へ向かい、魚の干物の揚げ焼きと肉の揚げ焼きを頼む。

 もちろん2人前も食べられるわけがないので、アコルトたちにお裾分けにする予定ではあるが。

 2人は気になっていた肉の方にしてみるようだ。

 

 厨房の方から小気味よい音が聞こえてきたかと思うと、ややあってから良い香りを漂わせて料理が運ばれてきた。

 衣もキツネ色のいい色合いで、油もしっかり切れているようだ。

 

 下味というか、干物にしている時点で塩味がついているので、魚の方はそのままいけるらしい。

 骨も外して一切れずつのサイズにしてあるから、フォークで刺して食べやすい。

 料理酒でも使って戻してあるのか、身もふっくらとしているように思える。

 

 うーん、チーズとかマヨネーズがほしい。

 あ、マヨネーズはわからないがチーズは市場にも存在するか。

 挟み揚げにしたってよさそうだ。

 

 肉の方は、こちらも一口サイズとなっているので、いわゆる一口カツみたいな感じだ。

 ソース、というかタレのようなものも添えてあるが、これは他の炒め物なんかに使われているやつだな。

 

 ちょっとしょっぱい味なので、カツにも合うには合うが、今ひとつだ。

 塩コショウでもよさそうだが、甘みのあるウスターソース的なものもほしい。

 高級料理屋ならちゃんとしたのを仕入れていそうではあるか。

 

 それをここに置けという訳にもいかないので、買うなら自宅用だろう。

 魚醤の目処はあるので、カツ丼でもたれカツでもと思ったが、米がない。

 一番必要なのに……。

 

 ノポモの大農園を隅から隅まで見たら希望があるだろうか。

 いや、時期が悪いか。

 夏の下月から秋季にならないとそもそも判別すらできないかもしれない。

 品種改良されていないのだとしたら、もしかして時期も違うのか?

 

 とまあ自分の感想は置いておいてだ。

 

 アコルトとシャオクの2人にも好評のようだ。

 食べきれない分をそれぞれにお裾分けして、それも瞬く間にペロリと平らげた。

 

 シンプルに焼いた肉も好きだが、こっちもけっこう好き、くらいのようだ。

 それくらいでいいだろう。

 毎日揚げ物なんて頼まれたら、お母さん泣いちゃいます。

 

 帰りがけに店員にも出来を称賛して、感謝を述べられて部屋へと戻る。

 

 酒にも合うだろうし、間違いなく人気商品になると思う。

 ……これから夏本番なのに。

 

 近い未来の店員の地獄を幻視しながら、届いた湯桶を受け取って体拭きに移る。

 

 今日は迷宮に、突然のザノフに、衣装に、下着に……と、いろんな汗をかくような事だらけだった。

 大半が冷や汗だったが、自分の心境は別として話はいい方へと向かっていたと思う。

 

 交代で髪を洗えば、上気した心地でそれらも忘れられる気がした。

 というか忘れたい。

 

 寝る時は緩い肌着を身につけるので、アコルトチェックを受けるのは朝だな……。

 そのアコルトの首筋を見つめる。

 

 言っていたように枷は外しているようだ。 

 跡は……残っていないようだ。

 

 つけていた枷自体も見せてもらったが、硬質な見た目の割にかなり軽い。

 それもそうか。

 妾用の奴隷にわざわざ跡が残るような拘束具をつけて価値を落とす必要性はなく、これは身分を表すための装飾に近いもののはずだ。

 

 それ故に証としてつけていたいというのも分からないでもない。

 じゃあファッション的にも、自分が与える装飾品でいいとなる。

 そっちにもっていけてよかった。

 

 明日はまた差し入れでも買って改築現場に顔を出し、場所を確認しながら注文済みの家具以外のものをリストアップしてこよう。

 

 いよいよ家が入居間近となるとワクワクしてくる。

 正確には明後日から家具の搬入ができるだけであって、まだ大工たちの作業は残っているのだけれども。

 

 楽しみで眠れないという気持ちになっていたが、体の方はそうでもないらしくいつの間にか眠りに落ちていた。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/薬草採取士Lv29
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv18



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次回は1/9更新の予定です。

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