異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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 楽しみがあると早起きしてしまう。

 

 窓の外も薄暗いようなのでまだ夜明け前だろう。

 急いで工事現場に行ったところでニカドーたち大工らはまだ来ていないはずなので、早朝に向かう意味はない。

 

 大人しく二度寝しようと隣のベッドに目を移すと、布団に顔を埋めて耳が倒れたアコルトがいた。

 シャオクの方はというと完全に布団の中に埋もれている。

 薄く寝息が聞こえるので、どちらもまだ夢の中だろう。

 

 普段自分が一番遅く起きるので、ほとんど見ることのない姿に和む。

 家の方で本格的に暑くなったらタオルケットみたいなものも必要かな、なんて考えながらぼーっとしていると空が白んできた。

 

 寝たふりをするわけではないが目を閉じて音だけ聞いていると、もぞもぞとアコルトが起きだしたようだ。

 漏らすような欠伸をした後、音を立てないようにそっとベッドから出て、掛け布団を直したようだ。

 

 シャオクの方はまだ布団に取り込まれている。

 

 

ぼふん

 

 

 なにか布団に落ちたような音がしたので目を開けてそちらを見ると、掛け布団に突っ伏したアコルトが手足をバタバタさせていた。

 皆寝ているのをいいことにベッドにダイブしたらしい。

 下の階に響いてないかなぁ。

 

 やがて動きが止まったアコルトの耳がピクッとこちらを向いた。

 ゆっくりと顔を上げるうさぎさん。

 

 目が合ったので笑みを返すと、白い肌の顔を真っ赤に染めて布団に潜り込んでしまった。

 シャオクは未だに布団に囚われている。

 

 

 そのまま時間が経過し、少しずつ日が高くなる。

 

 ベッドの迷宮から脱出したらしいシャオクが起き出してきた。

 起き抜けはいつも以上に髪のクセがすごい。

 

 いつもはアコルトが起きるのが先なのか、あれ?っとした表情で隣のベッドを見つめ、それを見ているこちらに気づいた。

 

 

「おはようございます、ミツキ様」

「おはよう、シャオ。

 アコもそろそろ起きると思うよ」

 

「おはようございます!」

 

 

 急に元気な声を上げたアコルトは、そこからが早かった。

 あれよあれよと言う前に布団から這い出て、着替え、ベッドを直し、洗濯物を畳んで、いつもの姿で迎えてくれた。

 

 目を擦ったシャオクはまだ寝ぼけているのか、のそのそと動き出して着替えはじめる。

 

 

「アコって朝いつも―――」

「お嬢様!

 お水をお願いいたします!」

 

 

 昨日の冷めた水を移して空いた桶を差し出して、こちらへ向けてくる。

 ウォーターボールをそっと入れると、桶を机において身支度の用意をしてくれた。

 

 

「ベッドに飛び―――」

「お召し物はこちらです!」

 

 

 どうやらなかったことにするらしい。

 なんかアコさん元気ですね~と、理解していないシャオクがのんびりとしている。

 

 突き出されたのは新しい下着だ。

 形勢が逆転した。

 アコルトは完全に善意しかないはずなのだが、してやられた感がするのはなぜだろう。

 

 

 アコルト師匠ご指導の下、自分の体を下着に収めていく。

 なるほど、小さいサイズのもので押さえつけずとも安定して収まりがいい。

 知識は大事だな。

 

 今日は暫定的には迷宮へ行かないので、以前購入したアコルトチョイスのおしゃれ服だ。

 

 袖の絞られたブラウスに、やや長めのスカートか。

 自分の身長が低いだけなのかもしれないが、長いほうが精神的にありがたい。

 

 ……たしかにちゃんと体に合った下着を身に着けたら、今までの押さえつけるような着方の時よりも盛られた気がする。

 というかアコルトは体拭きの際に見ていたからか、ちゃんと大きさを考慮して服を選んでくれていたんだな。

 

 

 アコルトの方はきっちりした印象のトップスに、折り目がしっかりついた膝くらいまでのスカートだ。

 相変わらず暗色で落ち着いた色合いが似合うな。

 

 シャオクはゆったりしたセーターのような服に、珍しくスカート……と思ったが、よく見ると足ごとに分かれている。

 幅広のパンツルックらしい。

 これもアコルトチョイス。

 

 着替えや洗顔、歯磨きが終わって、髪のセットをお願いする。

 耳の高さくらいで1本のポニーテールにまとめると、根本をリボンで結び、その先の毛束をねじりながら巻いていく。

 ピンで留めながらお団子をつくり、最後に毛先を流して跳ねさせる。

 先生、すごく後ろが見たいです。

 

 

 皮の靴を履いて、階段を降りる。

 いつもの従業員のフロント前を通り、食堂へ向かった。

 

 流石に朝から揚げ焼きメニューはないらしい。

 パン粉も卵も油も、余ったものを使わないと仕入れが増えることになるからな。

 そもそも軽い朝食だから価格を下げているとのことだったし、しょうがないだろう。

 

 いつも通りの食事をして、部屋に引き上げる。

 

 

「今日はまたニカドーさんたちに差し入れしつつ家の様子を見て、頼んでる分以外の必要なものを考えよう。

 明日の運び込みに合わせられたらよさそうだね」

「大型の家具は注文されているので、後は調理器具などでしょうか」

 

「ミツキ様が畑もしたいと言っていたので、農具もですかね?」

「うん、そのへんは現地で確認したほうが、足りないものも思いつきやすいかなって」

 

 

 スマホの一つでもあれば、通話はできなくとも写真にメモにと便利だが、大人しく筆記具をカバンに詰める。

 インク瓶の持ち歩きはいつも怖い。

 アコルトにお願いしようかな。

 

 フロントで鍵を預けて、シームの商店街へ向かう。

 このところはすぐに移動が多かったので何日かぶりだっけ。

 

 前回のタレ焼きも好評だったが、別のものにしてみようか。

 随分前に食べた、芋を芯にした肉団子が目についた。

 たしかこれも美味しかった気がする。

 

 1串に3つ刺さっているし、これも10本あれば行き渡るかな?

 自分たち用に3串先に注文して、追加を茹でてもらっている間に食べる。

 

 1つ食べて、残りはそれぞれに1つずつあげた。

 これも粉や衣を付けて揚げても美味しそうだ。

 広まってくれ、フライ。

 

 流石に足りなくなったらしく、急遽追加でつくねを量産してまで作ることになってしまった。

 袋代も込みで200ナール程度ならちょうどいいだろう。

 

 2人に半分ずつ抱えてもらいながら、いつもの林にワープする。

 慎重に周囲を確認したが、やはりこのあたりは通る用事のある者がいないようだ。

 

 

 家の近くまで来ると、何人かが表で作業しているのが見えた。

 というか、柱と屋根だけの納屋が建っている。

 その周りでニカドーが中心となって指示をだしているようだ。

 

 

「おはようございます!

 もう出来上がりそうですね」

「おう、ミツキさんたちか。

 工事は予定通り進んでるな」

 

 

 アコルトたちに目配せし、肉団子の袋を見せる。

 

 

「こちらはまた差し入れです。

 よかったら食べてください!」

「ありがてぇな!

 おい、集ご……いや、作業を続けろ!

 悪いな、配りながら家の中を説明させてもらうぜ」

 

 

 串1本のために作業を中断させるのも申し訳ないし、その方がいいだろう。

 快諾し、弟子たちにアコルトとシャオクが食べ物を配りながら挨拶していく。

 手持ち無沙汰な自分は、ニカドーに確認して水甕にウォーターボールを足していった。

 

 納屋の作業は先程見た通り、基礎と柱が終わって屋根がかけられた状態で、あとは壁や扉の作業だろう。

 3日後の受け渡しまでには問題なく出来上がるそうだ。

 

 玄関から屋内へと入る。

 邪魔だった壁や柱が取り除かれ、軽く見渡しただけでも広くなっている。

 

 

「もともとの造りがこの大きさだったんだ。

 テーブルを置きたいとか言ってた場所も、十二分にスペースがとれるだろ?」

 

 

 そう言ったニカドーの声も、モノがない空間に少し反響しているくらいだ。

 6人掛けのテーブルも余裕だろう。

 

 

「撤去した以外に細かいところも補修はしてるから、長く住めるぞ。

 引き渡しまでにまだ見ておくからな」

「ありがとうございます!」

 

 

 コンクリートから土間に切り替わる炊事場周辺も、余計なものが処分されている。

 特に洗い場のあたりはスッキリと片付けられているのがありがたい。

 

 

「最初は煤が多く出るとはおもうが、竈はすぐに使えるぞ。

 排水は外に出るところまではしてあるが、下水の方にはまだ全部繋げてねぇんだ。

 ま、それも引き渡しまでには終えられるから、心配しないでくれよな」

「よろしくお願いします」

 

 

 階段を登り、2階の部屋へと向かう。

 

 こちらは今後自分たちの寝室となる。

 以前はごちゃごちゃと荷物が詰め込まれていたようだが、今は全部処分されたようで窓から差し込む陽の光があるだけだ。

 

 

「ここにあった傷んだ家具やらは、依頼通り処分させてもらったぜ。

 前にベッドを3台置きてぇと言ってたが、問題なさそうだ。

 隙間はなくなるだろうが、同じサイズのが収まるだけの幅は確認しといたぞ」

 

 

 宿の方に連絡もなかったので、それ以外の問題も特に発生しなかったのだろう。

 仮にダメなら注文していた家具を変更しなきゃだしな。

 

 明日の運び込みには問題なさそうだということで、階段を降りる。

 

 お次は廊下の奥にあるシャオクのおじいさんの部屋だった2人部屋。

 この部屋も家具は取り除かれていた。

 

 隅の方には木でできた箱のようなものが残っていたのでニカドーに確認すると、これは処分した家具の一部らしい。

 変色して腐っていたような箇所も多かったが、どうにか傷みのない無事な部分を組み合わせて、踏み台を作ったそうだ。

 背丈の低いシャオクなら、どこかしらで使うのであって困ることはないはずだ、と。

 

 同じドワーフということや、職人として思い入れのあるものの大切さから、何かしら残したいという想いを汲んでくれたのだろう。

 シャオクが感謝して何度も頭を下げている。

 自分からも礼をして、シャオクが落ち着いてから次の場所へと向かう。

 

 2人部屋を出た向かい側はトイレだ。

 依頼通りに、水をいれるタンクが設置されている。

 これについては桶や水甕を使って補充もできるが、自分が利用する際に水量を確認してウォーターボールでもいれておけば枯れることはないだろう。

 大きめの口で、それを覆う蓋が置かれていた。

 

 柱を回り込むようにもう一方の廊下へと進む。

 

 こちら側のトイレは増築したほうだな。

 先程のものと同様に造られているようだ。

 あちらは寝室のある2階への階段に、こちらは風呂に近いので、少なくとも朝夕で別のトイレに入った際に水量を確認すればいいか。

 

 さて、最後の部屋は例の浴室だ。

 ドキドキしながら扉を開ける。

 

 前回設置した大桶はそのままに、部屋の角に壁と同じ色をした立派な水受けができていた。

 まだ衝立を置いて部屋を仕切っていないので、かなり広い部屋に思える。

 

 

「どうだ?

 ご希望には沿ったもんが出来たと思うが」

 

 

 近づいていって、その縁を触ってみる。

 壁と同様に非常に固く、そこから伸びる注ぎ口もしっかりとしている。

 縁にある溝に板を差し込むことで、要望通りに水をせき止めて貯めておける造りになっていた。

 

 

「ばっちりです!

 試しに水を入れてもいいですか?」

「まだ待ってくれ!

 表面は固まっているが、芯の方がまだのはずだ。

 余裕を持ってあと2日は自然乾燥させたい」

 

 

 なるほど、そのマージンを取っても引き渡しの15日には間に合うということか。

 こんなものを造るのは初めてだろうに、そのあたりの日程も計算されているのはさすが親方といったところだ。

 

 

「耐火耐熱自体は問題ないが、使う時は先に水から入れるようにしてくれ。

 壁でもなんでも、熱いとこに水をぶっかけると傷みやすいからな」

「わかりました!」

 

「あとはこの部屋の排水だな。

 注文の時に見せたが……」

 

 

 そう言って受け口と反対奥の角へと向かう。

 蓋を拾い上げてその奥を見せつつ口を開く。

 

 

「前回詰まってたゴミやらは取り除いて、下水に通るようにしてあるぜ。

 部屋の隅の溝も流れるようにしてあるから、染料を床にこぼしても水で洗い流すこともできるぞ。

 あとはたまにゴミが詰まってないか見て、掃除してくれりゃあいいだろ」

 

 

 浴室の方はすでに水回りが完成しているようだ。

 まあ受け口を造る関係で、水の流れ方を見る必要もあっただろうからな。

 

 

「滅多なことはねえと思うが、ヒビが出たり他にもなんかあるようだったら知らせてくれよな」

「その時はよろしくお願いします」

 

 

 こちらはすのこや桶が届けば、入居日から使えそうだ。

 どちらかというと魔法によるお湯作りのほうが心配だな。

 

 

「家の中はだいたいこんなもんだが、大丈夫か?

 引き渡し前に一通り掃除はさせるが、細かいところは自分たちでやってもらった方がいいな。

 3人には広いし、大変かもしれねえが頑張ってくれよ」

 

 

 む。

 そうか、手入れのことも考えないとな。

 メンバーが増えたときのことを考えてダイニングも広めな分、日々の掃除やらは負担が大きいか。

 

 拠点が自宅に移っても、迷宮から戻ってからの時間は変わらない。

 むしろ、宿住まいだからこそ委託できていた食事の準備や掃除に、これまで以上の時間が取られるのは間違いない。

 もちろん自分も手伝うつもりではあったが、家事のみの要員を雇うのもありだな。

 

 朝夕の食事の準備をメインにしてもらえれば、日中は自由にしてもらっていていい。

 あと洗濯か。

 風呂の準備は自分にしかできないのだし。

 

 そうすると……、いやこのへんは2人と話し合ってちゃんと考えないとダメだ。

 すぐに雇っても、アコルトの故郷へ向かう間は無駄に何日も1人で待機させることになる。

 住み始めてからの様子を見て、相談していこう。

 

 

 ニカドーは表での仕事に戻っていったので、3人で浴室に残される。

 

 

「えっとじゃあ、必要なものを思いついたらどんどん挙げていこう」

 

 

 風呂場の椅子やら桶やらは前回注文してあるので、その他のものだ。

 アコルトにお願いして筆記具でメモを取ってもらう。

 

 バスタオル……大きめの手拭いは、交換も考えて多めにほしい。

 掃除にも使えるし、通常の手拭いはたくさん欲しいな。

 棚は注文したが、持ち運びのできるカゴもあるといい気がする。

 

 ダイニング出てきて、まずは炊事場か。

 

 洗い場には水を貯めておく甕がいるだろう。

 竈には炭、火から外したそれを入れておく壺、掴むための火ばさみなど、どんどん購入予定が増えていく。

 

 当然食器もいるし、煮炊き用の深底の鍋やフライパンのような浅いものもいるだろう。

 包丁にまな板、スープ用のお玉なんかもなくてはならない。

 箸がないので、用途別に長さの違うフォークなども必要かもしれない。

 まぁこのあたりは金物屋で実物を見て相談するのもありだ。

 

 寝室へ向かう。

 2階へ上がるのが面倒だったので2人部屋の方だ。

 

 マットレス……はないだろうから、ベッドの上に置く厚手の敷布団と、掛け布団だろう。

 枕もいるか。

 夏本番用にタオルケットのような薄手のものもほしいし、肌触りの良いシーツもほしい。

 このあたりが高くつきそうだな。

 

 いや快眠のためなら高くなって当然だ。

 ここは妥協しない。

 その代わりに、まずは3人分でいいだろう。

 

 アコルトたちとも意見を交わし、リストがまとまったところで、ニカドーに店の場所を聞くために外に出ることにした。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/薬草採取士Lv29
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv18



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次回は1/12更新の予定です。

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