ニカドーに店の場所を聞くと、家具屋の周囲で大体のものは揃うそうだ。
どうせならルテドーナで買うということもできるが、持ち運びやそもそもの移動費も考えればシームで買ったほうがいいだろうとアドバイスされた。
ワープがあるので街間の移動は手間でもないが、シーム内なら大抵の店は購入額次第で家まで届けてくれるらしい。
配達依頼をするにも大工たちがいる間は受取をお願いできそうだが、それ以降だと誰かしらが家に残っていなければいけない。
調理器具や農具といった金物は、棚が置かれたり納屋の出来を確認した上で、自分たちでルテドーナから持ってきたほうがいい気がする。
それ以外のどこで買っても変わりないようなものは、配達日数次第でシームで注文してしまおうか。
質の良いシーツや布団は、貴族向けの店にしかないだろうと言われた。
そりゃそうだろう。
寝具は例の面会の際に、カルムに高級店を紹介してもらおうかな。
もしかしたら詫び代わりに贈ってもらえるかもと思ったが、また婚約者以外の女に寝具をプレゼントしたなどと囁かれたら二の舞いだ。
一つ目の問題すら片付いていないのに。
とりあえずは今からはシームで日用品を見るだけ見てこよう。
ニカドーと、作業を続ける弟子たちに最後までよろしくとお願いして、商店街の方へと向かった。
流石にこの流れで林に向かうのは怪しすぎるからな。
教えられた通り、木工家具の店から数軒のあたりには、生活雑貨を売る店が並んでいた。
店員に大体の品目を伝えて確認してみると、自宅には2日以内には届けてくれるらしい。
明日には事前に注文した家具が届くので、収納には困らないはずだ。
ならばと2人にリストのメモを見てもらいながら、時には書き足してもらいつつ商品を手に取っていこう。
水甕や火消し壺など、割れ物はシームで頼んだほうがいいだろう。
ここから自分たちで抱えてゲートをくぐるのは、色んな意味でリスクが高い。
カゴや食器なんかと一緒に、あれこれ注文していく。
あればあるだけいい手拭いや、房楊枝やコップなども新調してしまおうか。
多種多様な雑貨を扱っているだけあって、店員は商人だった。
ありがたく割引を使わせてもらおう。
ひと通りの注文を済ませて会計を終える。
今からルテドーナに向かっても、買ってきたものを置く場所がない。
ほぼ全て処分してテーブルすらないので、買い物は明日以降だな。
半端に時間が空いてしまった。
かといって迷宮に行くにも……、そうだ。
昨日の今日だが、ナルザに紹介してもらった装飾品の店に行くのはどうだろう。
アコルトには枷の代わりにチョーカーを、特につけていなかったシャオクにも何かをあげてもいいかもしれない。
ナルザにはカルメリガ出立後は来られないかもしれないと伝えただけで、時間があったので令嬢様にお会いするのにアコルトの枷を取り替えたかったといえば一応おかしくはない。
距離的にはそれなりに移動費を使うが、衣装代がまるまる浮いていることも考えれば言い訳はできる。
ドレスをシームへ送らせると申し出たのはザノフからだし、取りに行く行かないの話も別にいいだろう。
2人も移動を伝えて、商店街の絨毯からカルメリガの冒険者ギルドへとワープした。
***
教えてもらった通りを進むと、それほど大きくない建物が見えてくる。
商品を扱っているといっていたが、どうやら販売もしている工房ではなく純粋に加工をするところのようだ。
扉をノックして声を掛けてみると、入ってくれと遠くで声が響いた。
中へと入り、改めて呼びかける。
「こんにちは、ナルザさんの……ザノフ殿の紹介で参りました、ミツキと申します!
こちらで装飾品を扱っているとお聞きしたのですが!」
はい、はい、と声に出しながら奥から男性が駆けてくる。
タルデク ドワーフ ♂ 21歳 鍛冶師Lv2
鑑定をしてみると鍛冶師になりたての者らしく、見習いなんだろうか。
こちらを打ち見て一呼吸置いてから、口を開いた。
「ミツキ……さん、ちょっと待て……お待ち、ください」
そう言ってすぐに奥の部屋へと引っ込んだ。
向こうで大声で話しているようだが、何を言っているかまでは聞こえない。
ややあってから、先程の男性の後ろに一回り体が大きく、たっぷりと髭を貯えたドワーフが続いてきた。
ガゴレ ドワーフ ♂ 56歳 鍛冶師Lv47
いかにも親方然とした貫禄がある。
気圧されながらも、先程と同様の説明をした。
「奥で聞く」
短くそう告げると、のしのしと歩いていってしまった。
あれ?
ネリザは親方が気さくだとか言ってなかったか。
勘違いだろうか。
「……お進み、ください」
「し、失礼します!」
見習いの彼に促されるように、ガゴレを追って工房の中を進む。
扉を抜けると、奥の椅子に座ったガゴレが顎をしゃくる。
手前のソファに座れとのことらしい。
「タルデク、もういいぞ」
「はい!」
見習いの青年ドワーフを見送ってドアが閉じられると、部屋に残ったのは自分たちとガゴレだけだ。
アコルトたちに目配せして、3人とも横並びに座らせてもらう。
座ったのを確認してか、ガゴレは脇に置いてあった瓶の栓を抜き、中の液体をゴクゴクと飲み始めた。
酒か?
何割か飲んだところで再び栓をして、ふっと息を吐き、こちらに向き直る。
「ガゴレじゃ。
この工房を仕切っとる。
昨日の夜に出入りの業者からアンタら……」
ジロリと目を向けられた。
「ミツキです。
こちらはアコルトと、シャオクといいます」
「……ミツキというエルフらが訪ねてくるとは聞いとった。
もっと後のはずじゃったが、もう来るとはな」
ナルザはザノフの紹介ということにしてしまえと言っていたが、あの後ちゃんと言伝をしてくれていたようだ。
「お忙しいところにすみません」
「ナルザちゃんの頼みじゃなければ断っとったな。
儂はともかく、ここはエルフの居心地も悪かろう」
ナルザ……ちゃん?
それは一旦置いておくとして、どうやらガゴレ親方はエルフに対しては特に偏見もないらしい。
移動中に向けられた視線のうちのいくつかや、対応をしてくれた青年の目が厳しかったのは、まあそういうことだろう。
親方が奥へ通したから突っかかってこない、というだけか。
「で、何が欲しいんじゃ。
わざわざウチを紹介されたからにはやりたいことがあるんじゃろ」
たしかにナルザが言っていたように気さくに感じる。
弟子の前では厳格な感じだったが、退出させたところをみると、ガゴレもこっちのほうが楽なのかもしれない。
「その、こちらのアコルトの枷の代わりに、装飾品を贈りたいんです。
あと、シャオクにもなにか……」
「…………」
ガゴレは無言で動き出し、いろいろな形をした小さな金属の部品がじゃらじゃらと入った箱を取り出した。
「えっと……?」
「あんたが選んだ意匠を装飾品につけてやろう。
それがナルザちゃんが店じゃなくてここを紹介した理由じゃろ。
料金はまぁ……ものによる」
店売りの商品ではなく、自分が選んだものを贈りなさいということか。
自分がもらう側だったら、既製品よりも自分のために作ってもらったもののほうが嬉しい。
理由はわかったが、急に言われてもそんなモチーフなんかすぐに思いつかないぞ。
アコルトにどんなデザインがいいのか聞くというのも違うだろうし、どうしたものか……。
……。
…………あ。
小学校の頃だったか、名前の由来を調べるとかそういう宿題があった。
光希の方は両親に聞けばすぐ済んだが、問題は鈴城の方だった。
遠方の親戚に連絡も取って調べてもらったが、結局は鈴木からの表記替えやら読み替えやら曖昧な調査結果になって有耶無耶になってしまった。
直接は関係なかったが調べていた中で音が一緒だった
4枚の花弁のシンプルな花も可憐に感じて、幼いながらも家紋があるならこれにしようと思っていたくらいだ。
ちなみに大根モチーフの家紋はあるにはあったが、本当に大根そのもので後から知って愕然とした。
……話が逸れすぎた。
ともかくスズシロ・ミツキの数少ない日本語由来の部分として、自身を表すデザインとして、4枚の花弁をモチーフにしてみよう。
シンプルなのでつけていても特段目立たないし、首元ならドレスの邪魔にもならないだろう。
「……ええと、これと、これ、この形の組み合わせで花のようにしたいです。
自分のスズシロの意味もある花の形なんです」
「ほう」
「あっ、名字があっても、自分は貴族ではありませんので!」
「じゃろうな。
ナルザちゃんにもザノフにも、ここには貴族は近づかんようにしてもらっとる。
貴族と職人が直接関わると、碌なことがなかろう」
種族には寛容でもそっちは厳しいらしい。
貴族でも職人を尊重してくれる者もいそうだが、確率は低いか。
「シャオはどんな装飾品をつけたい?
同じモチーフをあしらおうと思うんだけど」
「そうですね……。
イヤーカフあたりでしょうか?」
シャオクが右耳を触りながら答える。
ドワーフのすぐ伸びる髪には、なかなか小物を付けにくい。
エルフと同じように長く伸びた耳なら、戦闘の邪魔にもならずおしゃれもしやすいということなのかな。
「まとまったようじゃな。
儂がやれば材料費と技術料で……2万ナールもらおうかの。
弟子にやらせれば、その2割でいいがどうするかの?」
9割が技術料な気がするが、工房の親方直々にオーダーメイドならそんなもんなのか?
装飾品の類なんて、相場がわからない。
取り付けるのはレザー製のチョーカーと、スチール製のイヤーカフらしい。
防具やアクセサリに該当する装備品ではなく、完全に機能のない装飾品とのことだ。
弟子の場合の値引きがすごいが、一生モノになりそうだし、出来が良い方がいいに決まってる。
「ガゴレ殿にお願いしたいと思います」
「ほう、いいんじゃな?
元のチョーカーもイヤーカフも、1割もせんぞ」
ぶっちゃけすぎだろ。
「ナルザさんが腕の良い親方と仰ってましたからね。
よろしくお願いします」
「……っふ、はは!
ナルザちゃんに言われたんじゃ仕方ないのぉ。
よし、作業場の方へ行こうかの!」
そっちで焚き付けたほうがよさそうとみたが、やはりな。
相当気に入られてるんだな、ナルザ。
部屋まで来た時と同じようにのしのしと歩いていくガゴレに続いて、作業場へと進む。
途中、意匠を付ける元となるチョーカーやイヤーカフを長さやサイズを試しつつ2人が選んで、加工場所へと足を運んだ。
ガゴレは無言で頷きながら、たまに一言ぼそりと指示を出すくらいだ。
その演技はいつもしてるのか……?
元となる材料と道具を揃えたところで、口数の少なくなったガゴレに再度モチーフの形状を聞かれる。
持ってきたパーツを組み合わせて花の形状を作り、それに合わせて取り掛かろうとしたところで、入口で案内をしてくれた青年が焦った顔をして近づいてきた。
「akusnatihsuod、nassayo!
oyussiihsako、etnanurusiniroodijihsonufure、iratesarawasowuguodanijiad!」
聞き取れない言葉で何かを喚いている。
ドワーフの言葉だろうか。
聞きつけた他の弟子たちもなんだなんだと顔をのぞかせる。
「ukedurat、ozelesuru!
erodominabitomomareamo!」
ガゴレが怒鳴ると、集まってきていた弟子たちが驚いたように散っていった。
「(シャオ、どうしたの、これ?)」
「(あ、スラク語……ドワーフの言葉で、その……)」
「(ブラヒム語で教えてくれる?)」
「(ええっと……。
エルフであるミツキ様が親方さんの道具を触ったり、指示を出しているように見えたのが気に入らなかったようです。
それで叫んで、人が集まってきたところを親方さんが一喝しました)」
なるほど。
あのタルデクとかいう青年は、ブラヒム語が得意ではない上に、エルフをよく思っていないのだろう。
まともに聞き取れていたら、依頼人と職人の会話だと理解できたはずだ。
それにガゴレが寛容だったとはいえ、気軽に道具に触れたのもまずかったようだ。
取ってくれって言われたんだぞ、こっちは。
彼のエルフに対するバイアスが、すべてを悪い方向に見せているらしい。
言葉はわからないが、下がっていろみたいなニュアンスを言われたらしいタルデクが、口惜しそうに踵を返す。
「inaknanufureanuosawoyannokednan……」
その途中でボソリと呟いた言葉に、シャオクがビクッと反応した。
「なんて?」
「いえ……」
「いいからそのまま教えて」
「……なんでこんな弱そうなエルフに、と」
ほーぉ?
Lv2の鍛冶師様はよほど強いらしいな。
通訳を聞いてアコルトが鞭を所望したが出しません、ステイステイ。
「シャオ、呼び止めておいて」
「はい……」
とりあえずは親方であるガゴレに話を通さなくては。
散っていった弟子たちに睨みを利かせて戻ってきたガゴレに近づく。
「悪いな。
もうあいつはあんたらには近づかせんからの」
「いえ、ああいう考え方の方もいらっしゃるのはわかっています。
ただ、彼も言葉だけでは納得しないでしょうし、どうでしょう?
ひとつ、彼と自分とで力比べというのは」
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/薬草採取士Lv29
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv18
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次回は1/15更新の予定です。
(訳)
「akusnatihsuod、nassayo!
oyussiihsako、etnanurusiniroodijihsonufure、iratesarawasowuguodanijiad!」
(おやっさん、どうしたんすか!
大事な道具を触らせたり、エルフの指示通りにするなんて、おかしいっすよ!)
「ukedurat、ozelesuru!
erodominabitomomareamo!」
(うるせぇぞ、タルデク!
お前らも持ち場に戻れ!)
「inaknanufureanuosawoyannokednan……」
(なんでこんな弱そうなエルフなんかに……)