異世界迷宮と斉奏を   作:或香

79 / 207
079 攻防

「何を言ってるんじゃ。

 エルフが力でドワーフに勝てるわけがなかろう」

「もちろん、熟練の鍛冶師の方や修練を積んだ方では相手になりません。

 ですが見たところ、彼は鍛冶師になりたてでしょう。

 それならば勝機はあります」

 

「そんなわけあるか。

 おい、お前の主人はおかしいぞ」

「いえ、お嬢様は以前シャオさんに勝たれたことがあります」

 

「なっ……」

 

 

 シャオクがタルデクの手を引いて戻ってくる。

 というか引き摺っているに近い。

 これが鍛冶師Lv2と鍛冶師Lv18、そこに加わる各補正の差だ。

 種族が同じならわかりやすい。

 

 濃い眉を顰めながら、ガゴレが小声になる。

 

 

「……そのドワーフの娘がタルデクより力が強いのはわかった。

 だが、あんたはエルフだろう。

 本当に力だけで勝ったのか?」

「ええ、彼女は鍛冶師ではなく探(・)索(・)者(・)で(・)す(・)が(・)、先日ちょっと比べてみまして。

 こう、テーブルにひじを乗せて手を組んで、相手の手をテーブルまで倒したほうが勝ちという勝負ですね」

 

 

 つまりは腕相撲だ。

 ある検証と、2人に自分の力を信じさせるのも兼ねて試してみたのだ。

 

 その本人であるシャオクも肯定したので、ガゴレもいよいよ本当なのかと思い始めたようだ。

 

 

「……怪我せずに済みゃあいいが、何かあっても責任は取らん。

 ナルザちゃんにはあんたが説明するんじゃぞ」

 

 

 大層な自信だが、それで気が済むのならとガゴレの許可も取れた。

 

 

 

 

 鑑定で確認できるように、ジョブにはそれぞれ各ステータスへの補正効果がある。

 それとは別に、ジョブごとの基礎ステータスがあるようなのだ。

 

 例えば魔法使いは、MPや知力寄りで腕力が低い……むしろ通常の戦闘職よりはマイナスの補正がかかっていると思われる。

 これが、自分が同じようなレベルでデュランダルを持っても、作中の彼と同様の手数で敵を倒せなかった要因の一つだと考えられた。

 本人の肉体的な差異もあるとは思うが、確認できるのは自分の身体ひとつなので、そこは比較できない。

 

 

 そしてこの基礎ステータスは、設(・)定(・)中(・)の(・)メ(・)イ(・)ン(・)ジ(・)ョ(・)ブ(・)が(・)反(・)映(・)さ(・)れ(・)る(・)ことがわかった。

 

 同じパラレルジョブの組み合わせでも、1stジョブを魔法使いにしたのと探索者にしたのとではそもそもの能力値が違っていたのだ。

 というか1stジョブ以外のパラレルジョブは、いくら切り替えてみてもスキルとジョブ効果以外に影響がないみたいだった。

 

 そして、自分には英(・)雄(・)の(・)ジ(・)ョ(・)ブ(・)が(・)あ(・)る(・)。

 圧倒的なジョブ効果の他に、メインジョブに据えたときにあらゆる能力が向上した。

 

 鍛冶師の腕力のジョブ効果は中上昇。

 英雄の効果も中上昇。 

 

 そこが同等、いやレベル差で優位に立った上で、エルフとドワーフの種族による腕力差は英雄の基礎ステータスとボーナスポイントで埋める。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 英雄Lv24

英雄Lv24/剣士9/探索者Lv29/戦士17/魔法使いLv28

 キャラクター再設定   1 鑑定           1

 ワープ         1 詠唱省略         3

 5thジョブ      15 アクセサリ・一      1

 腕力         99 体力           2

                      (残0/122pt)

 

 

 腕力に99ポイント注ぎ込み、腕力上昇のある慢心の指輪を装備。

 パラレルジョブを取得して腕力小上昇のある剣士を設定する。

 

 アイテムボックスをここで空には出来ないので探索者は継続、ついでに体力面も補正するとして戦士も設定し、残るは申し訳程度の魔法使いだ。

 

 剣士と英雄以外に、腕力の上昇するジョブを得られていない。

 鍛冶師はドワーフ固有で自分はなれないし、農夫あたりも腕力だった気がするが未取得のままだ。

 

 他は派生ジョブになると思うが、知力と違って腕力が付いているジョブ自体が少ない気がする。

 パラレルジョブを以てしても一般的なジョブでの腕力強化が頭打ちになる以上、知力強化の魔法主体になるのは必然だったか。

 

 ともあれ、このボーナスポイントの組み合わせでパーティーを解除した探索者Lv11のシャオクには勝利した。

 その時は慢心の指輪までは装備していなかったかな?

 さすがにジョブ効果の強まってきた鍛冶師相手では厳しかったが、ほぼ補正のない状態ならなんとかなるはずだ。

 

 それもあってこの前の休日で単独行動が許されたのだ。

 ワープだけでは心配とアコルトがいうもんだから、これなら並のドワーフに襲われても大丈夫だと説くことが出来た。

 結局、ジョブ不明の頭目がいる盗賊団に鉢合わせて全力で逃げる羽目になったが、それは話していない。

 

 

 前置きが長くなったが、つまりこういうことだ。

 

 鍛冶師Lv2というほぼジョブアドバンテージのないドワーフという種族補正だけのタルデクくん相手に、英雄Lv24かつ剣士Lv9で、パーティーメンバーから鍛冶師Lv18の腕力補正を受けた非力なエルフ(腕力+99)の自称魔法使いミツキの力比べが始まるのだ。

 タルデクが想像以上の怪力だったとしても、オーバーホエルミングもあるので虚を突けるだろう。

 

 ズルとか言わない。

 

 

「シャオ、伝えて。

 『力比べをして、自分が勝ったら態度を改めてほしい』」

「はい。

 useduosiatihsowebarukarakitotatana、agamasikustim。

 otinuoyuremataraowodiat、abetakihsom。」

 

 

 聞こえたらしいタルデクが首を傾げながら応える。

 

 

「adnettiinan?

 oteroonuf-awod、agustiaonufureiawoy?」

「akusedniawokagonurekaminufureiawoyonos?」

 

 

 シャオクが追加で何を言ったのか分からないが、タルデクの眉が見る見る吊り上がる。

 

 

「orimettay、aduotuoj!」

 

 

 明らかに激昂しているが、了承はしてくれたらしい。

 ガゴレにお願いして手頃なテーブルを準備し、シャオクがタルデクにやり方を説明する。

 

 その様子を見ながら冷静になってきたが、露見していい内容じゃなかったことに今更気づいた。

 加工場にそれ以上人が入ってこないように閉め切らせてもらう。

 親方のスペースが弟子たちと離れていてよかった。

 

 

 テーブルを挟んでタルデクと向かい合う。

 どちらも利き腕は右だったので、左手でテーブルの縁を掴み、右手を組み合った。

 

 ゴツゴツした手で、腕の太さは自分の倍以上ある。

 二の腕のあたりなんてその比じゃない。

 こりゃ弱いと見られても仕方ないか。

 

 公平のためにガゴレに開始の合図をお願いすると、さっきまで呆れた様子だったのに結構乗り気で引き受けてくれた。

 勝負事は好きらしい。

 

 合図は聞こえれば何でもいいと伝えると、ブラヒム語で言ってくれることになった。

 

 あれだけ蔑んだわりには、タルデクはこちらの手を握りつぶすでもなくしっかりと組んでくれている。

 偏見以外は真面目な人物なのかもしれない。

 まあこちらはボーナスポイントで水増しさせてもらっているんですけど。

 

 

「準備はいいか?

 ……よし。

 それでは、────始め!」

 

 

 聞こえた瞬間、オーバーホエルミングを念じる。 

 強者の余裕のつもりか様子見のつもりか、その場で動こうとしなかった相手の腕を、手前に引きつつそのまま倒した。

 

 秒殺。

 スキル効果が終わる頃に、テーブルに寝かされた自身の右腕を見て、タルデクは負けていることに気づいたようだ。

 

 

「……ah?」

 

 

 これでは納得しないだろうとすかさずシャオクに耳打ちし、スラク語で伝えてもらう。

 

 

「oyusediiettarometeriowarakihcahigust、edonusamihsowebarukarakihcedijnakannok

 enusednabnohahed」

「attakawaa、a……」

 

「ではガゴレ殿、もう一度お願いしますね」

「う、うむ」

 

 

 さすがに不意打ちとはいえエルフがドワーフに勝つのを目の当たりにするのは信じられないようだ。

 先程の感じからして、たぶんタルデクの腕力は探索者の時のシャオクより低い。

 

 ジョブレベルの恩恵もあるだろうが、様々な異能を目にして過信されているのか、むしろシャオクのほうが遠慮がなくて強かった。

 これならオーバーホエルミングを使わずとも勝てる気がする。

 

 

「では改めて……。

 ────始め!」

 

 

 開幕でスキルは使わない。

 タルデクも今回は最初から倒そうと力を入れている。

 

 でも、それまでだ。

 相手の親指を上から押さえ、脇を締めて腕と角度を揃えて体ごと引き倒した。

 

 テクニックもあるんだよ。

 それもアコルトの狩人のお陰で器用さが上がってるかもしれないしな。

 今度は誰が見ても腕力勝負で勝ったように見えるだろう。

 

 離した手を見つめながら信じられないと膝をつくタルデク。

 

 

「────あんた、いやミツキちゃん。

 本当にやるとはのぉ!」

 

 

 膝を打ってガゴレが称賛してくれる。

 というかちゃん付けはなんなんだよ。

 

 

「こいつは仕事の腕には見込みはあるんじゃが、如何せん思い込みがあっての。

 いつも相手は実力で見ろとは弟子たちには言っておるが、今回で思い知ったろう」

 

 

 研鑽を重ねている熟練の鍛冶師であるからこそ、種族という括りに囚われず技術で見ているんだろうな。

 あ、ナルザのことを気に入ってるのは、そういう技術面からきているのかもしれない。

 ということは自分は、パワー系エルフとして気に入られた……?

 

 

「純粋な力量だけじゃのうて、体や力の使い方も見事じゃった。

 儂、気に入ったぞ」

 

 

 言語的に弟子が聞き取れないからってはっちゃけすぎだろう、親方。

 未だに愕然としているタルデクのもとにガゴレが近寄り、何か小声で話している。

 

 何度かうなずいたタルデクが急に立ち上がり、こちらに深く頭を下げて言葉を紡ぐ。

 

 

「この度の、非礼、申し訳ありません、でした。

 今後は、皆さんに限らず、態度を改め、ます」

「……はい。

 謝罪を受け入れます」

 

 

 シャオクに返答を訳してもらいつつ、ついでに今後も頑張ってと言っておいてもらう。

 そのままタルデクは部屋の隅の方に控えた。

 

 

「さてと、ミツキちゃん」

 

 

 むず痒いからその呼び方はやめてほしい。

 

 

「今回のことは、この部屋の中だけのこととして口外せんでほしい。

 タルデクの評判は自業自得としても、噂を聞いた事情を知らんドワーフから、ミツキちゃんがいらん目を向けられるのも避けたいんじゃ」

「するつもりもありませんでしたが、確かにそうですね」

 

 

 あまりに露骨でイラッとしたのでやってしまったが、こちらとしても大事になるのは避けたい。

 

 

「代わりといってはなんじゃが、あの花のデザインを自分で加工してみんか?」

「……ええっと、先程までお願いしていたパーツを組み合わせる作業ですか?

 素人には難しそうですが」

 

「いや、金属を切り出す作業じゃな。

 形状も単純じゃし、金属片から削り出したほうが楽じゃろ。

 なによりモチーフをあんたが一から作った方が連れの2人も喜ぶと思うぞ」

 

 

 振り返ってみると、アコルトもシャオクもうんうんと首を縦に振っている。

 

 

「切り出した後の作業っていうのは……」

「それはこっちでやる。

 磨きと細かい調整と装飾品への取り付けじゃな。

 磨くのは、タルデクにやらせてもいいじゃろうか?」

 

 

 急に全員から見つめられたドワーフの青年は、先程以上に縮こまって見える。

 

 

「別に罰という意味じゃないからの。

 そいつは仕事は丁寧じゃし、急な作業は他の弟子は空いとらんのでな」

 

 

 親方直々に任せるくらいだ、新人ながらも腕は悪くないのだろう。

 ガゴレが言語を変えて伝えると、元気が出たようにタルデクが返事をしてこちらに礼をした。

 

 

「ではお願いします。

 ナルザさんが明日の夜にはシームに荷物を送ってくれるそうなので、それと一緒にもらえるとありがたいです」

「あ、明日じゃと!?」

 

「ええ、もともと今日チョーカーとかにパーツを取り付けてもらうって話だったんじゃ……」

「……忘れとったわけじゃないからの。

 まあ磨くのはこいつじゃし、いいか」

 

 

 理解できずにただ仕事を任せてもらえると思って嬉しそうなタルデクを皆で見つめ、ガゴレが肩に手をやった。

 頑張ってくれ。

 

 

「切り出しが早く終わればその後もなんとかなるじゃろ」

 

 

 その後は親方らしい的確な指示をもらいながら作業を進めていった。

 工具に金属片を取り付けて固定し、ノミのような刃先が変わった形状の道具を握らされて、打ち出すように花弁の形を切り出していく。

 

 確かに腕力も必要だが、結構繊細に角度をつけながらの工程だ。

 鍛冶師なら腕力の他に器用もジョブ効果で上昇するが、自分はアコルトの狩人の恩恵を受けている。

 中上昇は伊達じゃない。

 

 切り出した後には筋彫りというやつだろうか、縁取るようにラインを引く作業らしい。

 素人にやらせるには細かすぎない?

 

 なんとか2つ分の処理が終わり、ガゴレの及第点を貰えたので大きく息を吐いた。

 

 体力とかにボーナスポイントを振っておいたほうがよかったんじゃないか?

 でも腕力が足りなかったらそもそも作業にならないか。

 

 やっぱりポイントで底上げなんてズルはするもんじゃない。

 

 装着予定のチョーカーとイヤーカフに、花弁のモチーフを重ねて位置を確認する。

 こうしてみてみると、ワンポイントだが装飾品感が増して、自分の作品という実感も湧いてきた。

 

 

「位置はこれでいいかの?

 ……よし、じゃあ明日の朝までにこいつに磨かせて、その後は儂が完成させる。

 儂は今からナルザちゃんに輸送の話をつけてくるかの!」

「ありがとうございます!

 ……えっと、料金は」

 

「ん?

 作ったのはミツキちゃんじゃし、材料は余った欠片じゃし、磨くのはタルデクの練習じゃしな。

 間を取って、紹介してきたザノフから取らせてもらうかの。

 どうせナルザちゃんにも無理させとるんじゃろ?」

 

 

 ザノフ、もう少し身内の扱いを考えたほうがよさそうだぞ。

 きっとそれで済むだけの親密な間柄なんだろうが、なんだかヒヤヒヤする。

 

 

「ありがとうございます。

 もしかしたら今後も仲間が増えたら、同じようなものをお願いするかもしれません」

「その時はちゃんと請求するからの。

 あと納期は緩くしてくれんと困るぞ!」

 

 

 それはそうだと笑いあった後、感謝を述べて後の作業をお願いする。

 ガゴレとタルデクが部屋の外まで見送ってくれたので、礼をして出ることにした。

 

 タルデクが駆け込んでから締め切られていた親方の加工場の扉が突然開いたので、各々の作業をしながらも部屋の中が気になっていた弟子たちは困惑した表情をしている。

 中からエルフとその連れの少女たち、やたら機嫌のよさそうな親方のガゴレ、毛嫌いしていたはずのエルフに頭を下げるタルデクがでてきたからだ。

 

 ガゴレはこれからナルザに会いにいくし、タルデクは事情を話すのを止められているし、そもそもこれから朝までの作業が待っているのでそんな暇はない。

 通りすがりに弟子たちへ会釈をしつつ、お世話になりましたと声を掛けてから工房を後にした。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 英雄Lv24
英雄Lv24/剣士Lv9/探索者Lv29/戦士Lv17/魔法使いLv28
(村人5 僧侶27 巫女1 商人30 薬草採取士29 細工師1 森林保護官23 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv18



---
次回は1/18更新の予定です。






(訳)

「useduosiatihsowebarukarakitotatana、agamasikustim。
 otinuoyuremataraowodiat、abetakihsom」
 (ミツキ様が、あなたと力比べをしたいそうです
  もし勝てば、態度を改めるようにと)

「adnurettiinan?
 oteroonuf-awod、agustiaonufureiawoy?」
 (何言ってんだ?
  弱いエルフのあいつが、ドワーフの俺と?)

「akusedniawokagonurekaminufureiawoyonos?」
 (その弱いエルフに負けるのが怖いんですか?)

「orimettay、aduotuoj!」
 (上等だ、やってみろ!)

「……ah?」
 (……は?)

「oyusediiettarometeriowarakihcahigust、edonusamihsowebarukarakihcedijnakannok
 enusednabnohahed」
 (こんな感じで力比べをしますので、次は力を入れてもらっていいですよ
  では本番ですね)

「attakawaa、a……」
 (あ、ああ分かった……)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。