異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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080 細工師

 冒険者ギルドまで歩いてくる間に、だいぶ日が落ちてきていることに気づいた。

 作業中で聞こえていなかったが、どうやら夕方の鐘は鳴った後のようだった。

 

 急いでシームの商店街へとワープする。

 3人ともゲートを抜けたところでガクンっと膝をついてしまった。

 ダメだダメだ、本当に阿呆だ。

 ジョブ構成が違うのだからMP量が下がっているだろう。

 

 アコルトに助け起こされながら、シャオクが取り出した強壮丸を飲み込み、一息ついた。

 

 メインジョブに英雄をセットしたことで基礎ステータスは向上しているものの、MPに関しては魔法使いとそこまで変わらなかったようだ。

 単純に僧侶のジョブ効果分が抜けているので、相対的にかなりの割合を持っていかれた。

 微上昇といえど、Lv27分の補正はそれなりに貢献していたのだ。

 

 MPの補給後、立ち上がったあとは普通に歩いて宿へと足を進める。

 

 大した荷物もないのでそのまま食堂へと向かったが、すでに揚げ焼きは売り切れとなっていた。

 まぁ数を絞ってると言ってたし、毎日食べるものでもないからと負け惜しみを考えながら別のメニューを選ぶ。

 

 夕食を食べていると、従業員がやってきて自分宛ての封筒を渡してきた。

 アコルトに差出人を確認してもらうと、カルム・クラストンと記されていたそうなので、早々に食べ終えて部屋へと戻る。

 

 

 慣れた手つきで器用にナイフで封を開け、内容を読み上げてもらう。

 

 件の第二令嬢との面会は、こちらの希望通り夏の上月14日の10時からで問題ないみたいだ。

 場所については、とある宿の社交室らしい。

 簡易的な地図と宿の名前が記されていたので、シャオクにも確認してもらったところ、凡その場所は把握できたようだ。

 

 宿には話がついているので、この手紙を持ってフロントに確認すれば案内してもらえると書いてある。

 自分たちが入室した後、間をおいてフェルス様が入室されるそうだ。

 

 手紙によると、騎士が立ち会ってインテリジェンスカードを表示させ、家屋の所有者名簿との照合でその場で本人確認を行うようだ。

 シームの住人であるミツキであるとの確認が取れた後、ザノフが紹介した際のカルムへの書面等で本当に取引相手であると説明する手筈とのことだ。

 ザノフへの各方面からの信頼の厚さは見事だが、ナルザらへの対応を見た後だと首を捻る部分もある。

 

 あとは正直に受け答えしてもらえれば、カルムがフォローするとある。

 そしてひと通り確認を終えれば、そのまま部屋で食事をごちそうになり、食べ終えれば解散の流れらしい。

 

 どうやらご令嬢側も勢いで面会を取り付けてしまったものの、こちらの了承が取れたカルムがシームの住人であると説明をすると、改めて考えてみて誤解の可能性もあるのではと思い始めたそうだ。

 その場合は領民との交流という名目で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになるらしい。

 立場があると大変だなぁと思いつつも、ノリでやって後悔するタイプのお嬢様の気を感じた。

 

 また、注意事項として自分のインテリジェンスカードに記載された人物は、可能な限り出席してほしいと書かれていた。

 つまりは所有奴隷についてだが、カルムに接触した人物について全て白の確認をしてしまおうということだろう。

 

 シャオクを会わせまいと避けさせていたが、騎士も同行してインテリジェンスカードの確認があるなら、この際()()()として確認を済ませてしまえば後々のためにもなるかもしれない。

 

 なにせ領主家のご令嬢の前で、騎士団の下にジョブを証明するのだ。

 シームやルテドーナの商人ギルド周囲にいるのが見られていて、後にカルムが同業に尋ねられたとしても、あのドワーフは探索者だと答えてくれるはずだ。

 今後無理に別行動しなくて済むと思えばありがたい。

 

 会食もあるのに服装に関しては特に書かれていなかったので、やはり領民の格好については強いたりしないご令嬢なのだろう。

 カルムに会っていた際の自分たちの普段着で問題なかったようだが、せっかく用意してもらったので着ていくことにする。

 見た目、というか第一印象は大事だしな。

 着ていったことで問題になれば、ザノフとカルムのせいにしよう。

 

 衣装が届くのは明日なので、夕方早めに宿に戻ってくればいいだろうか。

 考えているうちに部屋に湯桶が届き、体を拭き始める。

 

 

 メインジョブを英雄にしていると体が軽く感じる。

 いつもの魔法使いよりフィジカル面の基礎ステータスが高いからだろう。

 

 普段から英雄にしておくという手もあるが、いつ何時インテリジェンスカードのチェックがあるか分からず、英雄の体に慣れすぎると魔法使いでの咄嗟の行動に支障が出そうだ。

 そして何より、レベルによるボーナスポイントの差もある。

 

 英雄のジョブは魔法使いより前に取得したのに、今では逆転してしまった。

 破格のジョブ補正とスキルだからか、レベルアップに必要な経験値が多いのだろう。

 

 ゲームらしいといえばそうではあるが、この世界がゲームならば主人公たる英雄はパラレルジョブもなく高速行動とその肉体のみで成長しなければならないのか。

 MP吸収のある剣もセットに旅に送り出してもらえないと早々に詰みそうである。

 

 というわけで、少なくとも今後しばらくは魔法使いをメインジョブに据えて行動していこう。

 

 体も髪も拭き終え、あとは寝るだけだ。

 忘れずにパラレルジョブを戻しておくか。

 

 ジョブ設定を取得して、いつものポイント編成に設定しようとした時、ジョブ一覧に見慣れない文字があった。

 

 

細工師

 効果  知力小上昇 器用小上昇

 スキル 破魔鏡

 

 

 細工師……?

 初めて見るジョブだ。

 

 またも仕事の名前ではなく、狩人のようにジョブ名なのか。

 作中では、鏡を特産とする工業都市が技術独占のために職人を囲っているなんて描写があったが、やはりあれもジョブのことなのだろうか。

 

 取得に至ったのは、どう考えても今日の金属加工が原因に違いない。

 

 専用の道具で細工用の金属の削り出しと加工。

 それだけなら金を積めば体験させてもらえそうだが、ジョブが得られたとて細工師のギルド神殿で転職させてもらえなければ細工師にはなれない。

 そのギルド神殿の利用を厳格に制限している故に希少なジョブなのかもしれないが、自分はジョブ設定で就くことができるので関係ない。

 

 知力と器用が上昇するのはジョブ名からもなんとなく察せるとして、問題はスキルだ。

 

 破魔鏡。

 

 文字だけ見ると正月の縁起物のようだが、この世界でいう魔というのは魔物や魔法のことだろうか。

 ならば鏡はなんだろう。

 

 ジョブをセットしてスキルを念じてみると、対象を選ぶように浮かんでくる。

 目の前のテーブル……は選択できないようだ。

 ついでに視界に入った自分の腕、というか自分自身が選択できるらしい。

 

 隣を見るとアコルトも、シャオクも選択可能なようだった。

 人物対象のスキルということか。

 

 試しに自分を指定して発動を念じてみる。

 ゲームで鏡といえば擬態を見破るのが有名か?

 

 これで元の男性の姿に……ならないな。

 腕も脚も細いままだ。

 

 

「アコ。

 今の自分、どう見える?」

「……本日も大変可愛らしくていらっしゃいます!」

 

 

 そ、そう?

 違う、惑わされるな。

 

 アコルトは平常運転らしい。

 髪を梳いたりする際によく言われるが、ほとんど聞き流している。

 

 見た目が変わらないのなら、破魔鏡は別の効果なのだろう。

 鏡……映す……見返す……反射。

 反射か。

 

 自分の前にバリアが張られているわけではないが、何かしらの攻撃を反射するという可能性はありそうだ。

 それか錬金術師のメッキのように、物理ではなくこちらは魔法を軽減するとかだろうか?

 

 わざとスキルを受けてみるというのもなぁ。

 受けなければいけない状況を想定するよりも、詠唱中断の武器で封殺する方がいいだろう。

 

 育てるにしても後回しかな。

 まずは派生先が多いと分かっている戦士からのつもりだし。

 

 それでも、遊び人取得への糧となり得る新規ジョブ取得は嬉しい。

 作中の彼が得た村長ジョブを取得する代わりに数がカウントされるのであれば、仲間の騎士ジョブ問題も解決しそうだ。

 

 心配事が一つ解消されたことで、その後はすぐに眠ることが出来た。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌朝はいつもどおりの順番で目が覚め、着替えて身支度をする。

 今日は注文していた家具が運び込まれる日だ。

 とはいっても、朝一で配達がされるわけではない。

 

 昨日ニカドーに確認した際に、家の場所的にも運び込まれるのは昼前後だろうと言われている。

 だいたいの設置場所も伝えてくれるとのことなので、自分たちは昼過ぎに行って細かい配置を行い、それから金物の買い物にルテドーナへ向かおうかという話になった。

 買い物から戻ればナルザの使いを待つのに宿待機かな?

 

 つまり午前中は時間がある。

 本日は家財移動のために動きやすい服装にしているので、そう、迷宮だ。

 これから寝具などにも資金を使うことになるので、少しでも稼ごう。

 

 2人にも確認してみたが、戦闘は構わないらしい。

 むしろ、明日の面会のことで気を紛らわせたいくらいだそうだ。

 

 ならばと朝食を平らげ、出掛けに軽食もつまんで、カルメリガの迷宮へと移動した。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28

魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/薬草採取士Lv29

 キャラクター再設定    1 鑑定          1

 ワープ          1 詠唱省略        3

 6thジョブ       31 獲得経験値10倍   31

 必要経験値1/10   31 結晶化促進8倍     7

 MP回復速度5倍    15 パーティー項目解放   1

 パーティライゼーション  1 知力          3

                       (残0/126pt)

 

 

 前回結晶化促進にボーナスポイントを振っても確定数は変わらないことは確認したので、今回もこの編成だ。

 探索者はLv30を超えたとてこのまま設定し続けるが、薬草採取士は一旦別のジョブに変更かな。

 結晶化のポイントを知力に戻しても火力が落ちないなら戦士に、手数が増えるようなら補正のある巫女あたりか。

 

 前回上がったばかりなので半日では厳しそうだが、まあ粛々と狩りを始めよう。

 

 

 階層を順に上がっていくのではなく、毎回同じ階層での戦闘はどうなのかと聞いてみたが、普通はそう簡単に進んでいけるわけではないとシャオクに言われる。

 安定した狩り場を見つけられることが重要らしい。

 

 1分にも満たない時間で1戦闘が終えられ、食事も寝床も十分に確保できて、資金の心配もなければ恵まれているか。

 こちらの目指しているのは不労所得だが、この世界では何かしらの対価を払わなければ得られるものも少ないだろう。

 

 同じ作業で飽きないかという質問のつもりだったが、それが迷宮の常識のようなので追及しまい。

 

 

「あっ」

 

 

 ドロップ品を回収していた際に、シャオクが声を上げる。

 

 

「どうしたの?」

「ミツキ様、こちらも落ちたようです」

 

 

モンスターカード:挟式食虫植物

 

 

 手渡してきたアイテムに向かって鑑定を行うと、フライトラップのカードだと分かった。

 何百と仕留めてきてやっと1枚というのは、ドロップ率の低さを物語っている。

 

 

「挟式のモンスターカードだね。

 えっと、どっちの吸収だっけ」

「あ、例の鑑定があるんでしたか……。

 挟式食虫植物のカードはMPですね。

 吸収の場合は、コボルトも一緒に使って融合しないといけませんが……」

 

「装備につけたら、それを敵に当てなきゃいけないんだっけ?」

「そうですね。

 身につけていてもスキル武器で攻撃しないと効果がでないはずです」

 

 

 そこが困るんだよなぁ。

 杖にMP吸収スキルをつけたとて、接近して殴りに行かなければならないのは後衛として破綻している。

 遊び人に魔道士と、今後ジョブを取得して連続魔法が使えるようになったら、確実にMP不足になる。

 

 回復速度を20倍にしたところで、瞬間的には一気に欠乏するだろう。

 どうにか回復薬以外でMPの回復手段を考えなくては。

 

 遠距離武器って何がある?

 投げたら魔物全部にあたって自動で手元に返ってくるブーメランとかありませんよね。

 この世界はそこまでファンタジーじゃない。

 

 結局中距離の鞭か、……弓?

 でも弓は矢の補給や取り回しの問題で却下したんだよなぁ。

 

 無限に矢が出てきて番えられる矢筒とかない?

 あとは魔力で出来た矢が使えるジョブとか。

 MP消費で作成して、撃てるやつ。

 

 ……だめだ。

 そもそもそれは兎人族の狩人の領分だし、MP補給のためにMPを使っていたら意味がない。

 外したら大損だし。

 

 考えては否定しを頭の中で繰り返しながら、植物たちを狩りながらの探索を続ける。

 次第に増えていく生薬素材が視覚化された経験値のように思えて、アイテムボックスの列を埋めるごとに先程の手段の回答が迫られている気になってくる。

 

 やっぱりジョブに関する知識がほしいな。

 読み聞かせ、ではないが本の内容を読み上げてくれるサービスとかはないものか。

 

 代読……仕事としてありそうだな?

 高額かもしれないが、確認してみるのはアリな気がしてきた。

 

 

 そんなことを考えながら迷宮を回っているうちに、やがてそろそろ昼食時だと声がかかる。

 

 ドロップアイテムの量は……前回ほどには及ばないか。

 それでも、薬草採取士だけはレベルが上っていたので十分だろう。

 

 何度もジョブ一覧を確認してみたが、特に派生ジョブが現れたりはしていなかった。

 

 まぁ専門性が高すぎて、枝分かれしにくそうなジョブではある。

 Lv50まで上げたら流石に何か現れそうだが、それはもっと深層の狩り場が見つけられるまでお預けだろう。

 

 ジョブを替えての火力の確認はまた次回ということで早めに切り上げて、装備をある程度仕舞ってからシームの冒険者ギルドへと飛んだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 今日はこちらでドロップ品の売却だ。

 滋養丸と強壮丸を自分のアイテムボックスに1列ずつ、アコルトたち2人にそれぞれ10粒ずつの常備分になるように補充し、残りを売却へと回す。

 

 一昨日のものと一緒に納めて3割増を利かせつつ、カウンターの販売員が戻ってくるの待っていると、差し出されたトレイには金貨が乗っていた。

 1万ナールに届いたらしい。

 

 素材が一つ30ナールでも、合わせて丸一日分ならこれだけの稼ぎになるのだ。

 とはいっても、この後の買い物でかなり飛びそうな気はしているが。

 

 ギルドから一旦宿の部屋へとワープし、装備を外して仕舞う。

 ついでにシャオクのアイテムボックスの中身も一旦回収して、探索者のジョブに設定しておいた。

 

 アコルトについては狩人でいいだろう。

 武器としての剣を持つのがアレで戦士では格好もつかないし、パーティー内に探索者2人は不自然だ。

 種族固有ジョブなら、就いていておかしいと言われることもないはずだ。

 

 置けそうな荷物は置いてリュックを軽くし、宿の部屋から家近くのいつもの林にゲートを開いた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/薬草採取士Lv30
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 細工師1 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv18


所持モンスターカード
・蟻        1
・芋虫       1
・挟式食中植物 0→1



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次回は1/21更新の予定です。


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