異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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081 簀子

 毎度のようにこそこそ周囲を窺って林を抜ける。

 この微妙に緊張感のある移動も、あと数日で終わりか。

 自宅ができてからは内鍵のかかる部屋をワープゲートの設置点にすれば、他人に見られる心配もなくなるだろう。

 

 昼には少し早めの時間だったので、昨日と同様に納屋の作業が進んでいた。

 あれから柱を囲うように壁が出来上がり、扉をつけているところのようだ。

 遠目にも結構しっかりした造りに見える。

 

 

「お!

 家具はもう届いてるぞ!」

 

 

 自分たちが近づくのに気づいたらしいニカドーが、すでに家具屋の搬送が来たことを知らせてくれた。

 運び込みだけのものはすでに大体の場所に置かれていて、今は現地で組み上げたほうがいいものの作業をしているそうだ。

 

 家に入ってみると目についたのは6人用のテーブル。

 その脇には椅子も人数分並んでいる。

 

 炊事場の方には机も置かれ、壁際には棚も設置してある。

 作業中というのは2階らしい。

 

 階段を登り寝室に向かうと、木材を叩く音が聞こえる。

 中に入ってみると、以前湯船代わりの大桶を運んできた木工職人たちがベッドを組み立てていた。

 

 この部屋に置くベッドは3台だが、幅がギリギリだったはずだ。

 話を聞いてみると既製品を隙間なく押し込めるのではなく、この場で3台分の材料を使って大きな1台として組み上げてしまうそうだ。

 

 たしかにその方が無駄がない。

 模様替えも早々ないだろうから、その方が安定もいいだろう。

 こちらは任せておくとして、他の場所も確認だ。

 

 階段を降り、2人部屋の方を見てみる。

 この部屋のベッドは既製品がすでに置かれていて、2台の間には小さいナイトテーブルが置いてある。

 隅の方には箪笥や机と椅子も置かれているので、布団さえ買えば使える状態だ。

 まぁここには入居予定はまだないのでしばらくはそのままだが。

 

 浴室前の突き当りにも棚が置いてあるのを確認し、扉を開ける。

 

 前回来た時は大桶と水受けだけの殺風景だったが、今は壁際に木工品がいくつも立てかけてあった。

 特注のすのこと、衝立だ。

 

 現代でよく見かける長方形の板が連なったモノがいくつかと、それを半円状に切り抜いた幅広のモノが2つだ。

 幅広の方をシャオクに持ってもらい、大桶に横付けすると、くぼみがピッタリとはまり込んだ。

 反対側にも同じように組み合わせると、桶の周囲に1段分の足場が出来上がる。

 

 うーん、見事な仕事だ。

 これなら湯船自体も安定するし、使用後の乾燥や掃除の際にも取り外して使える。

 

 通常のすのこの方も、脱衣場から並べていけばギリギリその足場まで届くので、仮に冬場が寒くなろうと冷えたコンクリートの上を歩く羽目にはならなそうだ。

 表面もやすりか何かできれいに整えてあるので触感もよく、素足でも問題ないだろう。

 もう何枚か追加で作ってもらうのもいいかもしれない。

 

 衝立の方も並べてみる。

 依頼の際に持ち幅を考えてくれていたので、自分たちでも1枚ずつなら腕を広げて抱えられた。

 

 アコルトの耳の先を少し超えるほどの高さなので、目測170cm程度だろうか。

 十分目隠しになる高さだ。

 

 いくらここを風呂として使うのが身内だけとはいえ、だだっ広い空間を目の前に服を脱ぐのには抵抗がある。

 簡易的な壁として閉塞感を出すことで、脱衣場としての意識を持てそうだ。

 頼んだ籠も置くスペースも十分ある。

 

 湯船側にまわり、部屋の広さを確認する。

 

 

「角の貯水槽のところでファイヤーウォールとウォーターウォールでお湯を作って、留め具を外して大桶に貯めていく感じね。

 さっきのところが服を脱ぐスペースで、こっちに回ってきてこの大桶に貯まったお湯に浸かるのがお風呂のイメージかな」

「なるほど……」

 

「実際に使うときに説明するけど、大桶……お風呂だから湯船って呼ぶんだけど、まず外で体を洗ってきれいにしてから、湯船のお湯に体ごと入るんだ」

 

 

 湯に浸かった時の快感は、体験してみないと分からないし、反応が楽しみだ。

 

 

「それでこんなに大きな桶にされたのですね。

 あっ、お嬢様。

 中に何かあります」

 

 

 覗き込んだアコルトに続いて大桶の内側を見ると、段状になった木材が置いてあった。

 背面が桶の内壁に沿うように、カーブさせて整えてある。

 依頼した湯船用の踏み台か。

 

 

「シャオ、それを使って湯船に出入りできる?」

「試してみます!」

 

 

 股下ギリギリだった大桶の縁も、すのこによって嵩上げされたお陰で、多少はスムーズに内側へと移動できた。

 出る際は踏み台を使うと、入るときよりも楽そうに出られたようだ。

 

 

「これならボクでも出入りが簡単です!」

「よかった。

 アコ、ちょっと取ってくれる?」

 

「かしこまりました」

 

 

 シャオクと交代するように、今度はアコルトが大桶に入る。

 アコルトはもともと段を上げなくても普通に出入りできたので軽々だ。

 

 

「お嬢様、どう……ぞ、わぁ!」

 

 

 あ、重たい素材で作られているのだった。

 見た目は小さいが想定以上の重さだったらしく、前に倒れないように踏みとどまったアコルトが逆に尻餅をついた。

 珍しい。

 そして可愛い。

 

 

「……こ、こちらです」

「うん、ありがとう。

 おしり大丈夫?」

 

「問題ありません!」

 

 

 真っ赤な顔をそっぽに向けたアコルトから受け取った踏み台は、持てないほどではないが想像以上に重い。

 かなり硬く、水よりも比重が大きい特殊な木材なのだろう。

 

 それなのに必要な形状に加工し、踏み台ということで段状に整えてありながらも怪我をしないように角を取ってある。

 こりゃ高かったのも頷ける出来だ。

 

 シャオクにも確認させた後、アコルトに再び湯船の中に台を戻してもらって家財の確認を終える。

 

 ニカドーに今日明日に雑貨屋から商品が届くはずだと声がけをして、テーブルの周囲にでも置いておくようにお願いした。

 そのまま離脱して、商店街へと向かう。

 

 掲げられた絨毯から、ルテドーナの冒険者ギルドへとワープした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ギルドの壁から抜け出てきたところで、昼の鐘が鳴った。

 順調に予定が進んでいる。

 

 食事をしてから調理器具や農具を揃えれば、時間的にも早すぎるとは思われないだろう。

 そうだ、せっかくルテドーナにきたのだ。

 

 

「前に散策して美味しかった店ってどこにあるの、アコ?」

「はい、ご案内できます。

 近い店からでよろしいでしょうか?」

 

「うん、お願い。

 1軒でいいからね……?」

 

 

 近い店()()、って……。

 

 迷う素振りもなく進むアコルトの後ろに、シャオクとともに続いて歩く。

 冒険者ギルドからそう離れていない場所に、飲食店が立ち並んでる。

 このあたりは何回か来てはいるが、まだ訪れていないうちの1軒なんだろうか。

 

 少し進んだところでアコルトが立ち止まる。

 

 

「こちらのお店です。

 いつものお食事よりは少し割高になりますが、チーズを使った料理がとても美味しくいただけました」

「へぇ!

 チーズか、いいね」

 

 

 その割には排気の煙がモクモクと出てきているが、何を焼いているんだろう。

 とりあえず中に入るか。

 

 アコルトに続いて店に入る。

 扉を開けてすぐに分かるほど、肉の焼ける香ばしい匂いが室内に満たされていた。

 

 テーブル席に移動しながらも、視線は奥の厨房で焼かれている肉の塊に釘付けだ。

 回転台のようなものにセットされて火の上で回し焼かれている。

 

 さすがに歯車機構のようではないから、ついている取っ手をそのまま腕力のみで回しているみたいだ。

 炙られて落ちる脂の香りが食欲をそそる。

 

 アコルトに美味しかった料理を聞くと、やはりあの肉らしい。

 迷いなくそれを人数分頼む。

 

 一口大に切られた野菜が肉の脂で炒められて皿に敷かれると、その上に焼色のついた肉がどっさりと載せられる。

 回転台で炙られた肉の表面を削ぐように盛っているようだ。

 カリカリと焦げ目のついた部分と、火は通りつつ肉としての厚みを持った部分がそれぞれの皿に入るように計算されている。

 遠目にも旨そうだ。

 

 まだかまだかと待っていると、皿が調理台に置かれたまま、今度は黄色い塊を取り出した。

 そうか、チーズ料理だった!

 

 削られた断面が熱されて、表面がふつふつと蒸気を出し始めた頃に、大きめの調理スプーンでドサッと肉の上にかけられていく。

 えーっと、チーズラクレットだっけ。

 もうあんなのうまいに決まってる。

 

 表面を焼き直したパンも一緒に届き、店員に代金を渡しつつ3人分揃うのを待った。

 目を見合わせて小さくいただきますと合掌した後、一気に食事に取り掛かる。

 

 んー、美味い!

 チーズの塩味が想像より若干強いが、野菜も肉もその分薄味に控えてあるようだ。

 あまり酒は飲まない方であったが、これは流石にビールに合うだろう。

 

 いつものようにハーブティーにしたのは惜しかったな。

 これは食後に飲むとして、この後は買い物くらいだし、今は酒を頼みたくある。

 

 さすがに現代のビールのようなものはないのでエールを注文し、2人にも聞いてみた。

 シャオクは酒を所望したが、アコルトは肉の追加をご希望のようだ。

 そんな気はしてた。

 

 料理自体にコストがかかっているので単価も高く、飲み物も追加したので普段の食事よりは結構割高となったが、それに見合うだけの満足感だ。

 他にもチーズを使ったメニューがあるらしく、間違いなくリピート候補の店だな。

 

 

 いい気分になったところでお腹が落ち着くまで休憩し、その後は金物屋へと向かう。

 以前、散髪用の鋏を買った店だ。

 

 あの時はスルーしていた鍋やフライパン、包丁などの調理器具やカトラリーを見繕っていく。

 石鹸のためにも小さな手鍋を余分に数えてみたりと、あれもこれもと欲しくなる。

 

 竈で鍋を火にかけるための設置台が必要だと言われ、シャオクに確認しつつサイズの合うものを選ぶ。

 金属でできている所謂五徳のことだが、こちらの言葉ではアラキーザというらしい。

 家の竈は二口なのでそれに合わせてリストに加え、後は農具か。

 

 外においてあった鋤や、水撒き用に甕から水を掬う杓など、最低限の道具を会計に回す。

 必要な際にはまた買いにこれるし、金物が増えすぎても手入れしきれずに傷んでも困る。

 

 

「必要なものはだいたい揃ったかな……?」

「はい。

 あとは実際に作業にうつる前に確認いたします」

 

「うん、シャオもありがとね」

「いえ!

 大丈夫です!」

 

 

 分担してリュックに入れて担いではいるが、やはり重たいものはシャオクにお願いすることになる。

 全身金属の装備ほどではないだろうが、エルフと兎人族ではいくつも持つのは厳しい。

 一瞬の勝負に勝ったとはいえど、実際は主人に持久力がないことは2人とも分かっているのだ。

 

 絨毯のかかっている大きな武器屋の近くまで行き、ルテドーナの街からシームの商店街へとワープした。

 

 

 リュックの中の鍋がガチャンガチャンと音を立てるのを気にしているうちに、自宅の近くまで戻ってこられた。

 

 声の様子から、作業員たちは家の裏手に回っているようだ。

 近くにいないところを見ると納屋の方は完成したのか?

 

 まだ鍵は取り付けられていない納屋に農具を仕舞い、家の中に入って調理器具や鍋をテーブルに置いていく。

 例のアラキーザは竈にセットされた。

 穴の規格がある程度決まっているのだろうか。

 

 外へ出て声のする方に足を進めると、大工たちが下水の工事をしている様子が見て取れた。

 コンクリートの溝をつながるように埋め込み、街から流れる本流の方へと接続させているようだ。

 逆流防止や傾斜など、そのあたりは本職以外にはできないだろう。

 

 

「荷物を置かせてもらいましたー!

 自分たちは宿に戻りますー!」

「おうよ!

 雑貨屋が来たら家の中に入れとくぞ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 ニカドーもこちらの扱いが大体わかってきたのだろう。

 帰り際に作業用の甕に水の補充を頼まれた。

 

 土作業なので洗い流すのに必要なはずだ。

 快諾してウォーターボールをそっと入れていると、泥だらけの弟子の一人が水を浴びたいなどと言ってきた。

 

 一応これ攻撃魔法なので……。

 神籬のスチールワンドはアイテムボックスに仕舞ったままだが、パラレルジョブその他の補正を解除したって素の火力が魔法使いLv28の威力のはずだ。

 途中で止められないし、いくら体力補正のある戦士ジョブの肉体労働者だとしても、無傷とはいかないだろう。

 

 効果の終わって残った水ならと断りを入れて、空いた容器に余分に入れてやり、工事現場を後にした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 眠る人魚亭に到着し、フロントに確認するが、まだドレス類は届いていないようだった。

 どうせしばらく部屋で待機になるので、装備の手入れでもしてもらおうかな。

 

 簡単なものは日々してもらっているが、時間があるので念入りにしてもらってもいいだろう。

 割引のために2桶分の湯を依頼……いや、ドレスの試着もありそうだから先に体拭きもしておくか。

 4つ分注文して階段を上がった。

 

 部屋に着くなり装備をアイテムボックスから取り出して2人にお願いする。

 結構あったはずの手入れ用のオリーブオイルも、少量ずつだが日々消費しているので残りは10個を切っていた。

 

 また取りに行かなくてはな。

 揚げ焼きの人気が出たらミトラグにも頼まれそうな気もするし。

 

 

 自分は先に体を拭きつつ、2人が手入れをする様子を眺める。

 竜革に油が馴染んできているのか、発色も良くなってきたように見える。

 

 攻撃用途にはそこまで使っていないアコルトの鞭やシャオクのカトラスを拭いた手拭いも、結構汚れてきた。

 ある程度使用したら手拭いも一新した方がいいだろう。

 

 手入れが終わった後しっかり油汚れを落とし、2人が体も拭き始めた。

 その様子をぼんやり見ていたが、寝そうになったところで声がかかった。

 洗髪だ。

 

 先に洗ってもらっていると、寝そべる体勢や湯の温かさでさらに催眠が加速する。

 順番に洗い合い、シャオクの番になるとなんとか目も覚めてきた。

 

 あれ、結構髪の毛がスッキリしているような。

 緑の跳ね上がる毛先がいつもよりおとなしい気がする。

 

 

「体拭きの前に、鋏で少し整えさせていただきました」

「あ、うん。

 明日のためにそのほうがよさそうだね」

 

 

 おそらくまともに見ていなかっただろう主人の様子から、頼れるウサメイド様が教えてくれた。

 別に今はメイド服を着ていないけど。

 

 洗い終わって肌着を身に付け、湯桶を脇に寄せる。

 髪を拭き終えたら桶を下げてもらおうか。

 

 そう思ってベッドから立ち上がったところで部屋の扉がノックされた。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/薬草採取士Lv30
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 細工師1 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv18




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次回は1/24更新の予定です。

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