異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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082 花芯

「アコルトちゃんいるかしらー?」

 

 

 ノックの後には聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

 

 

「ナルザ様のようですね」

「たしかにそうみたいだけど、デザイナーが直接来るものなのかな?」

 

 

 忙しそうだった本人が足を運ぶとは思えなかったが、高級店ならお抱えの冒険者もいるはずだし、ありえなくはないか。

 思案しているうちに再度ノックされて呼びかけが続く。

 

 

「ミツキさーん、シャオクちゃーん?

 いないのかしらー?」

「います!

 ちょっと今着替えてまして!」

 

「どうせすぐ試着してもらうのだし、そのままでいいわよ!

 開けてもらえる?」

 

 

 相変わらず押しが強すぎる。

 それでも、着付けや最終調整のためにわざわざ出向いてもらったのならありがたい。

 

 さすがにもう一枚羽織らせてもらってから、どうぞと扉を開けた。

 

 

「あら、体も拭いていたのね。

 こっちに置いてもいいかしら?」

 

 

 おそらくドレスが入っているだろう袋を示したので、体拭きの際に横に退かしてあったテーブルを使ってもらった。

 遠慮なく入ってきたナルザにつづいて、体格の良い狼人族が入ってきてギョッとしたが、鑑定をするとちゃんと女性であった。

 

 冒険者のジョブに就いていたので、袋を置いて部屋の隅に控えたこの者が配達担当なのだろう。

 即座にドアを閉めてくれたし、ナルザに対して諦めの表情をしていたので普段から苦労していそうだ。

 

 

 袋から取り出された、完成したと思しきドレスを着用する。

 基本的にはアコルトに手伝ってもらって、ナルザがこうすると入りやすいなどとアドバイスを入れる形だ。

 

 高級感を出しすぎないために後付の装飾がほとんどない分、縫製の工夫が凝らされているようだ。

 ドレープ部分の見せ方や背中側の留め具のことなど、注意点が細かく伝えられた。

 

 ……覚えられそうにないのでアコルトにお願いしよう。

 

 着てみての少々の手直しも終え、アコルトが当日の髪型を相談していた様子も落ち着いた頃、ナルザが思い出したように荷物を漁って何かを取り出した。

 

 

「これよ、これ!

 忘れるところだったわ。

 ガゴレ工房さんから預かってきたわよ!」

「ありがとうございます!」

 

 

 受け取ったチョーカーとイヤーカフには、きれいに磨かれた花弁型のモチーフが留められていた。

 タルデクが夜通し磨き上げたと思われる部品が、夕方前でおちてきた陽の光に煌いている。

 

 目を引いたのは花びらだけではない。

 その中心に収まっている、オーダーした覚えのない青い宝石のような石だ。

 小指の爪より小さい極小サイズだが、花芯の位置で光を反射して輝いている。

 

 アコルトが首の枷を外してチョーカーを結び、シャオクも右耳にうまくつけられたようだ。

 互いの装飾を眺めながら笑顔も絶えない。

 

 

「似合っているわよ、よかったわね!

 親方さん気安くていい人だったでしょう!」

 

 

 それはガゴレに気に入られたかによると思うが、部屋に並んだ作品も、いま手元にある装飾具も、その腕の良さを物語っている。

 ……気になるものは聞いておいたほうがいいか。

 

 

「ナルザさん、この花の中央にはまっている宝石なんですが……」

 

 

 コレも含めたデザインを依頼したんじゃないのかと問われたが、作成の流れを説明した。

 当然、加工に入ったところからしか話していないが。

 

 改めてモチーフを見てもらうと、小ささもあって宝石自体はそこまで高価なものでもないそうだ。

 ただ、その有り無しではデザインとしての引き締まり方が違う。

 石の色については、主人である自分の瞳の色に近いものを選んだのではないか、ということだ。

 

 ナルザ曰く、ガゴレはいつもおまけしてくれるらしい。

 相手次第で好々爺すぎるだろ。

 

 初めに提示してきた価格も考慮すると、自分や弟子に作業させた分を追加の宝石の作業分で補填したのだろうとナルザが推測した。

 どっちにしてもザノフに請求が行っているらしいので詳細は分からない。

 

 素直に厚意として受け取って、カルメリガに行った際にお礼をすればいいと助言をもらった。

 今後も仲間が増えた際に同様の装飾品をお願いすることになるだろうし、また迷宮に向かう時にでも挨拶をしに行こう。

 

 同じパーティーということで、自分にも同じデザインの何か身につけられるものがあってもいいかもしれない。

 こう、出来上がったものを見ると欲しくなってくる。

 仲間が増えるまでに考えておこうかな。

 

 その時は自分がまたパーツを切り出さないといけないのか……?

 

 

 その後は衣装の保管方法や手入れのレクチャーをアコルトが受けつつ、話が盛り上がってきたところで、ずっと大人しかった冒険者の女が刻限を告げた。

 おしゃべりなナルザのストッパー役でもあったのか。

 

 夕方の鐘が鳴る前には帰らなくてはいけないらしい。

 どうやらそんなに長居をするつもりはないはずだったということなので、だいぶ融通を利かせてくれていたようだ。

 世話になった感謝を述べると、また服を買いに来るようにと何度も話が再開し始めたので、その度に冒険者がため息を吐いて引き剥がしていた。

 

 そのままややあって、鐘の音が響く。

 

 後ろ髪を引かれるように留まろうとして、ついに連れて行かれたナルザを見送った。

 冒険者が部屋の外までで十分だと制したので、そこでお別れだ。

 たしかに宿の入口までついていったら話が再開してしまうに違いない。

 

 

 扉を閉めてドレスを脱ぐ。

 アコルトが服が傷まないように保管してくれている間に、普段着へと袖を通した。

 

 着るだけでも緊張したが、明日は令嬢様の御前に立たなければならない。 

 ボレロは前回よりも厚めの布地に、面積も増やしてもらったので、衣装自体に対する気恥ずかしさは幾分か減った。

 

 誤解の可能性は向こうも意識しているとはいえ、もともとは出頭要求のようなものなので、伝聞どおりに話の通じる相手であることを願いたい。

 なんとかいい方向に話が進んでほしいものである。

 寝具のためにも!

 

 

 3人とも着替えが終わり、時間も時間なので階段を降りて食堂へ向かう。

 一応臭い対策に香辛料の少なそうな料理を選びつつ食べ始めると、ミトラグが近づいてきた。

 

 

「食事中に悪いね。

 さっきにミツキさんたちを訪ねて人が来ていたみたいだけど……」

「ええ、ナルザさんと送迎の冒険者の方ですね」

 

「ああよかった、ちゃんと知り合いだったんだね。

 みんなの名前と部屋番号まで知ってて、持っていた依頼書?にアコルトさんの字でミツキさんの名前があったそうだから、従業員が通しちゃったようなんだ。

 問題なかった感じかな?」

 

 

 ブティックの衣裳部屋でのやりとりの間に、そのあたりもアコルトが対応してくれていたのか。

 

 

「はい、荷物を届けてもらう予定でしたので……あ、お伝え忘れていました」

「そっか。

 ま、事前に分かっている時は教えておいてもらえると、相手にも失礼がないからよろしくね。

 何も証明できないと僕か兄貴が来るまで待ってもらって、カードの確認をすることになるし。

 といっても明後日にはもう家に移っちゃうと思うけど!」

 

「すみませんでした……」

 

 

 荷物として衣装と装飾品が届けられておわりと思っていたが、それでも言っておけばよかったな。

 次回から気をつけてくれれば構わないとミトラグは言ってくれたが、肝に銘じておこう。

 

 

「ところで何が届いたの?

 聞いてもいいなら、だけど」

「ドレスですね、3人分の」

 

 

 しまった、また服を増やすような発言を……と思ったが、ミトラグの表情は呆れではなく困惑の色を表していた。

 

 

「(えっと……。

 本当に貴族じゃないんだよね……?)」

「違います!

 あれは、その」

 

 

 急に声をあげてしまったので、まばらに座っていた他の宿泊客たちの視線を集めてしまった。

 大したことではないとアコルトとシャオクが取り成してくれたので、周りの者もそれぞれの会話に戻り始める。

 

 

「(食後に以前お邪魔した奥の部屋に伺ってお話しします!

 他にもお伝えすることがあるので!)」

「(えっ、なんだろう。

 お手柔らかにね……)」

 

 

 不思議そうな顔をして食堂を出ていくミトラグを見送って、残りの夕食を急いで食べることにした。

 

 領主の娘からの呼び出しなのだし、宿泊拠点にしていた宿ということで迷惑をかけることもあるかもしれない。

 直接何かあるわけではないが、事情くらいは話しておいた方がミトラグもうまく立ち回ってくれそうな気がする。

 

 一番控えめの量なはずなのに最後に食べ終えた後は、食堂を出てフロント奥の部屋へ向かった。

 

 

 扉をノックして名乗ると、どうぞと声が返ってきた。

 

 

「やあやあ、待ってたよ。

 それで、話って何かな?」

「うーんと、どこから話せばいいのか……」

 

 

 食堂でアコルトたちとこそこそと作戦会議をして、言える範囲は正直に伝えておこうということにしたので、詳細は伏せつつ順に説明する。

 

 ある商人に取引の依頼を頼んだが、こちらが商談に不慣れで何度も相談に通い詰めてしまったところ、相手の婚約者に誤解されてしまった。

 こちらもその商人もそんな気はサラサラなかったが、商人が商談相手である自分のことを守秘義務で伏せたため、余計ややこしくなってしまい、ついに婚約者側に呼び出されてしまったのだと。

 

 

「面倒な人に目をつけられちゃったんだね……。

 ミツキさん、まだシームに移ってきて10日かそこらでしょ?」

「ま、まぁ……。

 面会の設定日が明日で、その婚約者というのが、シームの領主家第二令嬢のフェルス様という方なんだそうです」

 

「うん、……う、ん?

 フェルス様!?」

 

 

 固まるミトラグ。

 これ、迷惑かけそうだから一応って思って説明したけど、ヤバいとこに目を付けられたって思われてないか?

 

 

「え、えっと、一応勘違いだって方向で話が進んでいて、ただのお食事会になるみたいです……!」

「それならいいけど……いや、いいのかな?

 ご貴族様との揉め事には巻き込まないでほしいな……」

 

 

 こっちだって避けられるなら避けたいよ!

 

 

「フェルス様も噂で聞く分には護衛と市中の店に出歩いたりしているって話で、領民と何かあったなんて聞いたことはないし、大丈夫だといいね」

「このあたりには来られたりしないんですか?」

 

「うちは宿屋と不動産だしね。

 それに近くの飲食店だって僕らにとってはおいしいけど、貴族街や商人ギルド周りに比べたら質は劣るだろうから、わざわざ足を運ばないと思うよ」

 

 

 魚料理はおいしいが、伯爵家くらいなら取り寄せて料理人に作らせるか。

 いいなぁ、食材も調味料も調理器具もたくさんあるんだろうな。

 

 腕を組んだり顎に手を当てて考え込んでいたミトラグが口を開く。

 

 

「あまりの衝撃で忘れていたけど、そういえばドレスはその呼び出しに着ていくためだったのかな?」

「そうです!

 フェルス様の婚約者の商人……カルム殿を紹介してくれた方が、令嬢にお会いするなら衣裳を整えて行った方が心証がいいだろうと、用意してくれることになって……。

 紹介されたときは貴族だなんて話はなくて、カルム殿もフェルス様のことは話題にしませんでしたし、自身のことは末席の一族だから気にするな、なんて」

 

「そ、そのへんにしておこうか。

 一応、このシームでは領主家のご令嬢とその婚約者様だから、あんまり言うのは控えた方がいいと思うよ」

「はい……。

 とにかく紹介元の方がドレスを用意してくれることになって、今日届けてもらったところです。

 カルム殿も弁明のフォローをしてくれる予定ですし、これ以上宿にご迷惑をかけることはないはずです!」

 

 

 ご令嬢由来の依頼だという惰眠の鋼鉄槍の取引や、最悪モンスターカードの依頼内容をカルムから説明してもらえば、頻繁に会っていた理由も理解してもらえるだろう。

 さすがに落札したカードの行方までは問われないはずだし、シャオクが()()()だというのもその場で証明されるわけで、伝手があると見せかけている鍛冶師の行方も割られることはない。

 

 そしてお嬢様の機嫌を取って、食事を済ませればいい。

 ザノフも万が一なら弁明にくるとまで豪語したのだし、疑いは晴れるものだと確信している様子だった。

 

 ミトラグもひとまずは納得してくれたので、説明はここまでとして部屋に引き上げることにした。

 

 

 帰りがけにフロントで湯を頼もうとして、思いとどまる。

 

 試着の前に別料金で湯桶を準備してもらったが、あれ以降は食事しかしていないのだし今夜の分はもういらないのではないか?

 翌日に変更できるかを確認したところ、問題なさそうだったので、朝食後にもらうことにしようか。

 

 朝は早めに朝食を済ませてからお湯をもらって体を拭き、ドレスに着替えて指定の宿に向かうことにしよう。

 となればと、自分たちの部屋に着くなりシャオクのアイテムボックスを整理して探索者に変更する。

 

 インテリジェンスカードのチェックがあるんだし、忘れていましたでは済まされない。

 

 

 自分も1stジョブが魔法使いであることを確認して、明日のために早めに床に就いた。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/商人Lv30
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 細工師1 薬草採取士30 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11




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次回は1/27更新の予定です。

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