異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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088 実験

 水受けに貯めた湯は後で洗い物にも使おうということにして、流さずに残しておくことにした。

 

 2人とともに玄関を抜け、そのまま脇にある納屋へと向かう。

 扉には南京錠のようなものがついていて、一応鍵はかかっていた。

 

 言われた通り一番小さい鍵を合わせてみると、カチリと音がして外すことができた。

 鍵束はそのままアコルトに預けて管理してもらおう。

 

 以前鍋とかを置きに来た際に中に仕舞っていた農具を取り出す。

 鋤だけあればとりあえずはいいとシャオクが言ったので、それだけ持って反対側の畑候補地へと歩き出した。

 

 日当たりもよさそうな一角を、ひとまずは予定地として決めてみる。

 鋤の先をガリガリと引き摺って線を引き、1メートル程度の(うね)が3つほど出来そうなくらいの広さをなんとなく囲ってみる。

 

 

「おためしだし、ハーブだしそんなに広さはいらないかな?

 このくらいの大きさで試してみよっか」

 

 

 2人も同意してくれたので、最初の一歩は自分がやってみよう。

 地面に突き立てて鋤に足をかけ、踏み込むように押し込む。

 

 さすがルテドーナ製というべきか、刃先の半分近くまで地面に刺さった。

 数回掘り返してみて、じゃあ次はと渡してみると、受け取ったシャオクが同じように鋤を構える。

 

 自分がやったのをサクッと突き立てたと例えるのならば、今度は一回でゴソッっと土が掘り返された。

 一息に刃の根元近くまで潜っている。

 すみません、非力で……。

 

 

「お嬢様、耕す前に周囲の雑草を焼いてからされたほうがよく育つと聞きます」

「あ、うん。

 そうしよう」

 

 

 条件など考えずとも家や農家の手伝いでジョブを取得できていた子たちなのだ。

 農業には明るくない自分が指図なんてしなくとも、ハーブ程度の栽培環境くらいは整えられるのだろう。

 

 それからお二人のご意見を頂きつつ、まずはブリーズボールをいくつか投げて伸びている草を刈らせていただいた。

 

 次に燃やした際に延焼しないように、線を引いたあたりの草を引っこ抜いていく。

 ついでに外側の四方には順にウォーターウォールを発動しておく。

 

 魔法を使っている間に中央に草を集めてもらう。

 最後に真ん中にファイヤーウォールを放って、草を灰へと変えていく。

 

 3回目の壁魔法を念じたところで、ここはシャオクに任せることにした。

 万が一の燃え移りに注意してもらいつつ、火が消えたら土を混ぜてもらおう。

 

 

 アコルトを連れ立って、自分たちは家の中に戻る。

 今度は石鹸作りだ。

 

 竈で炭に火をつけてもらっている間に、自分は道具を揃えていく。

 鍋にヘラに手拭いや、容器にするために作ってもらった木枠も持ってきた。

 

 アイテムボックスからオリーブオイル、蜜蝋、酪、シェルパウダーを取り出し、雑貨屋で手に入れたドライポプリも持ってきて中身を開く。

 店員に確認したときに教えてもらったタプスだかイシュコだったか忘れたが、見た目には柑橘類らしき果物の皮を選り分けてナイフで刻む。

 

 そうこうしているうちに火の勢いも安定してきたので、アコルトと場所を代わって実験開始だ。

 

 まずは小さい鍋に蜜蝋を入れて、火から少し離して焦がさないように溶かし始める。

 手拭いを机に敷いておき、零れても問題のないようにした。

 

 ある程度液体になったところで少量ずつ木枠に注ぎ、内壁にロウが広がるように回していく。

 過剰な分は鍋に戻し、木枠の底に貯まりすぎないようにしておいた。

 

 アコルトに手伝ってもらってサイズ違いで合計4つほど、ロウで内側をコーティングした小さい木枠が出来上がった。

 

 脇に置かれた水甕にウォーターボールを放ち、そこから別の鍋に水を抄う。

 鍋を火にかけ、一旦湯が沸くまで待った。

 

 実は現代にいた時に、作品に触発されてそれっぽい材料で石鹸を作ってみたことがあるのだ。

 もちろんあちらで揃う素材や条件はこの世界のものより品質も安定していて作りやすいというのもあるだろうが、見てくれは悪くてもそれっぽいものは完成までもっていけた。

 

 その経験のあるなしでは自信が違う。

 まぁ、シェルパウダーは消火剤の素材にもなるらしいという時点で明らかに違う物質ではあるが。

 それでも、分量についてはおおよその見当がついているのは大きい。

 

 沸騰したところで、シェルパウダーを削って入れていく。

 泡が出始めたので想定と同じ反応だ。

 出てくる泡が少なくなってきたところで火から外し、少し冷ましておく。

 

 その間に別の鍋に水を入れて火にかけ、さらに一回り小さい別の鍋にはオリーブオイルを入れる。

 人肌より熱い程度まで温めたところで小さい鍋を内側に入れて、所謂湯煎のような状態で同様の温度にまで上げていった。

 温度計がないので感覚でしか分からないが、できてさえくれればいい。

 

 シェルパウダー溶液も鍋の外側に触れてみて同じくらいの温度感になった頃、オイルの方の鍋に中身を注いでいく。

 ヘラを使って泡立たないようにしっかりと混ぜてみると、全体がオリーブオイルの色から少しずつ白っぽくなってきた。

 

 続いて酪を加えてさらに混ぜる。

 ベージュに近いような色合いになり、もったりとクリーム状になってきたように思える。

 

 最後に細かく刻んだ乾燥果皮を加えて、だいたい均一に混ざったかというところで、用意していた木枠へと流し込んでいった。

 まるでホットケーキの生地のようだ。

 

 ヘラで表面を平らにならして、石鹸についての作業はとりあえず終わりだ。

 後はふたでもして丸一日置いて固まればいい。

 

 固まった後も乾燥を続けて数週間熟成させる必要があるわけだが、そのためのサイズ違いの木枠である。

 小さいサイズの石鹸から使っていけば、大きいサイズの方にはちゃんと期間が取れるだろうとの目論見だ。

 

 本来はこの熟成期間に鹸化されて肌に触れても問題のないものになるのだが、作中では作った翌日から使用していた。

 まだ生地は緩かったそうだが、皮膚に刺激もなく、泡立ちもちゃんとしていたらしい。

 

 不思議世界の不思議素材を科学で解明できるはずもないので、そういうものとして考えるしかない。

 自分たちも明日テストしてみて、ダメなら手順通り数週間の熟成期間を取らなければとても人体には使えないだろう。

 家を手に入れるのを待たずに、場所だけ借りてさっさと作っておけばよかったかもしれない。

 

 

 少しでもその一部を消費されたアイテムは、アイテムボックスには入れることができない。

 削った残りのシェルパウダーは固形のままで保存もしやすく料理や掃除にも使えそうだが、溶かした蜜蝋はどうしよう。

 

 アコルトに聞いてみたが、蝋燭を作ってみてはどうかと言われた。

 確かに、溶かして型に入れて固めるだけなら良さそうだ。

 石鹸用の木枠はまだ余っているから、あれを使えば何とかできそうか。

 

 しかし、芯になるものがない。

 

 

「モンスターカード融合に使用しないミサンガを使われてはいかがですか?」

「あ、そっか」

 

 

 ミサンガ自体は二束三文なので、シャオクの作成したスキルスロットのないそれはとっておいたままだ。

 手が汚れていないアコルトにお願いして、荷物の中から探してきてもらう。

 

 今度は蜜蝋全体を溶かすために湯煎にかけている間に、残りの木枠を並べてみる。

 鍋の中のロウの量と見比べて、入れ物の方が余りそうで安心した。

 

 

「見つけて参りました」

 

 

 何本かのミサンガを手に持ったアコルトが戻ってくる。

 鑑定してみるも、やはりスキルスロットのないものだけだ。

 

 

「ありがとう。

 じゃあほどいて()って芯を作ってみよう」

 

 

 三つ編みのように編まれていると、火をつけた際に燃え方がおかしくなるかもしれない。

 結び目を切り落とすと簡単に解けたので、それを縒って木枠の底に届くくらいの長さを1本ずつ作っていく。

 

 あとはこれに溶けたロウを吸わせて芯にするわけだが、アコルトが代わろうと申し出たのを断って自分がやることにした。

 主人の手を心配してだろうが、すでに汚れているのでもう今更だ。

 そこまでロウも熱くなくなってきたし。

 

 アコルトには炭の後処理をしてもらうことにして、自分は縒り紐を持ってロウにくぐらせる。

 しっかり全体に染み込んだようなので、まっすぐになるように両端を引っ張っていると、そのまま少しずつ固まり始める。

 支えなくてもいいくらいになったので、木枠に入れてやると支柱のように立たせることができた。

 

 芯を立たせた木枠に、鍋の残りのロウを流し込む。

 だいぶ冷えてきているので、こちらはすぐにでも固まりそうだ。

 

 木枠にすべて流し込んだ後は、湯煎で残っていた湯を使って、鍋や手に着いたロウを落としていった。

 敷き布に使っていた手拭いは汚れてもうだめそうなので、何かのついでに燃料代わりに燃やしてしまってもいいかもしれない。

 湯煎に使った鍋以外の器具は、調理には使えないし乾いたら納屋行きかな。

 今回の成果がうまくいけば、次回使う機会があるだろう。

 

 

 石鹸や蝋燭も納屋で保管するかと持ち出したところで、耕し終えたらしいシャオクがこちらへと向かってきた。

 先に納屋への運搬を手伝ってもらってから、畑の方へと向かう。

 

 指定の範囲の土を一通り掘り起こしてくれたようで、ほぐされて柔らかそうな土に変わったところに畝が3つできていた。

 

 

「シャオもありがとう!

 それじゃ種を……あ」

 

 

 どこからが農夫の取得条件か分からない

 もし畝づくりからだったらと思い、地面に突き立ててあった鋤を手に取る。

 

 

「ごめん、シャオがやってくれたので問題なかったんだけど……」

「……あ、ジョブの条件ですね!

 大丈夫です!」

 

「うん、一応畝作りからするってことで、ちょっとだけ手を入れさせてもらうね」

 

 

 こちらも察しが良くて助かる。

 出来上がっていた畝の端を一旦崩し、再度盛り立ててからハーブの種を蒔くことにした。

 

 2人に聞きながら種類ごとに畝を変えて種を植え、ふんわりと土をかけてやる。

 外用の水甕にウォーターウォールで水を補充し、杓で水をあげた。

 これで畑を作るところから種を蒔くところまで行ったので、農作業を大丈夫なはずだ。

 

 鋤と杓を納屋に戻してもらいながら、自分はジョブ設定を確認する。

 

 これでどうだ……?

 

 

 

 

農夫

 効果 腕力小上昇

 

錬金術師

 効果 知力小上昇 器用微上昇

 スキル メッキ

 

 

 どちらも取得できている!

 

 家を手に入れてからの目標がクリアできて、一安心だ。

 

 

「無事農夫のジョブが取れたよ、ありがとう」

「おめでとうございます、お嬢様」

 

「よかったです!

 えっと、言っていたようにお家の方では石鹸をつくっていたんですか?」

「うん、うまくできてるか分からないけど……。

 もしかしたらちゃんとできるまでにかなり時間がかかるかもしれない」

 

「それでもあのような材料で石鹸を作れるものなのですね……」

 

 

 人に問題なく使えるかはまだ分からないが、化学反応のようなものはおそらく起きたらしく、錬金術師のジョブは取得できていた。

 こちらも細工師と同様にジョブの存在を伝えてややこしいことになるのは避けたいので、一旦伏せておくか。

 

 1回物理軽減のメッキは優秀な描写だったが、すぐには露呈しないだろう。

 当たり所がよかったとかで、気付かれないかもしれない。

 

 あれ。

 そういえば錬金術師のジョブ効果は小上昇に微上昇だったのに、細工師は小上昇が2つだ。

 名前的に同列のジョブじゃないのか。

 

 とすると、破魔鏡はメッキの単なる魔法防御版ではないのかもしれない。

 検証……は結局だいぶ後にはなるだろうが、ちゃんと把握はした方がよさそうだ。

 

 村人を1として……15、16個目のジョブを取得できた。

 あとは探索者がLv30になれば武器防具商人と料理人で19個、そこに戦士も上げられれば派生ジョブは騎士に賞金稼ぎに暗殺者で22個となり、彼が遊び人を取得できたジョブ数と同じになる。

 

 ジョブの条件は憶測でしかないが、盗賊討伐の懸賞金は得ているし、魔物を毒にして倒すのもクリアしている。

 騎士は槍で魔物を倒すんだったっけ。

 しまった、鋼鉄の槍があったときに済ませておけばよかったな。

 

 

 頭の中でぐるぐる考えつつ、家の中へと戻ってきた。

 浴室の方で土やオイルやロウが飛んだ服を着替えてしまおう。

 

 アコルトに着替えを持ってきてもらって、みんなで普段着に着替えた。

 いつもと違う場所で脱ぐのはドキドキしたが、よく考えたら今後はここで脱ぐのが当たり前になるのだと気づいたら一気に落ち着いた。

 水受けに残しておいた湯もだいぶ冷め始めていたので汚れた服を軽く濯ぐ程度に留めて、残りは夜にやることにする。

 

 

 浴室を出ようとしたところで、遠くで鐘が鳴る音がした。

 どうやらお昼らしい。

 

 とりあえず昼食は店に食べに行こうと話を付けて、家の窓や扉を閉めて回る。

 今後の移動はこれが基本になると伝えて、内壁にワープゲートを開いて足を進めた。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/森林保護官Lv23/商人Lv30
(村人5 農夫1 戦士17 剣士9 巫女1 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11




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次回は2/16更新の予定です。
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