ゲートを抜けた先はルテドーナの冒険者ギルドだ。
食材を買うならシームでもいいが、飲食店の開拓ならこちらのほうがいいだろう。
「まずはこっちで食事をして、帰りにシームで食材を買おうか」
別の領主の土地なので、うっかりフェルスと鉢合わせることもあるまい。
……フラグになってないよな?
今回も、以前アコルトが巡ったという店に案内してもらった。
チーズの店とは同じ方向のようだが、それよりも手前の道を折れて違う路地に入る。
読めない文字が書かれた看板が出ている店の前につくと、アコルトが振り返って口を開く。
「こちらは香辛料を多く使った料理をいただけるお店でした。
中でもスープが複雑な味わいでしたので、お嬢様もご興味を持たれるかもしれません」
「へぇえ、面白そうだね!
いってみよう」
店内に入ってみると、昼の鐘が鳴ったばかりなのにすでに結構人が席についている。
人気店なのだろうか。
アコルトが言っていた具入りのスープがおすすめ料理らしく、それと一緒に肉料理らしきものも頼んでみた。
周りのテーブルを見るに、どれもスパイシーな料理なようだ。
香辛料って高いんじゃなかったっけ。
少しずつ覚えてきたブラヒム語の数字をアコルトに確認してもらいながら読み取ってみるが、値段はこれまでの店とそう変わりない。
となると仕入れ値の高い迷宮産ではなく、現地で育てているハーブでも使っているのだろうか。
そんなことを考えつつ待っていると、少しして順番に料理が運ばれてきた。
見た目には赤というかオレンジというか、そんな感じの色をしたスープに小さくカットされた野菜が入っている。
顔を近づけて嗅いでみると、エスニックな雰囲気がする香りがした。
物珍しそうにしていたからか、先程配膳してくれた店員が近寄ってくる。
説明を聞くに、やはり自家栽培のハーブを多数使っているそうで、香りが弱いかわりに味に特徴のあるものを組み合わせているらしい。
店主がどこかの街で食べた料理を再現したかったそうだ。
熱いうちにどうぞ、と店員が離れていったので料理に目を戻す。
スプーンですくい上げてみると、具沢山の野菜とともに水餃子のようなものがいくつか出てきた。
水気を吸ってもちもちに膨らんだそれを、スープとともに口へ運ぶ。
控えめの辛味や酸味、ほのかな甘味などがする複雑な味だ。
タイ料理のトムヤムクンをかなりマイルドにしたような、ややクセのある面白い味がする。
抑え気味なのは、使っている香辛料のせいだろう。
自家栽培で育てて組み合わせてみても本場(?)の味には至らず、刺激も控えめになったということだったりするのかな?
それでもこのくらいにまとまった味のほうが、初見の客も挑戦しやすいのではないだろうか。
値段も手頃になっているので、手も出しやすくなっているからこその人気なのかも知れない。
新しく客がきた隣のテーブルでも、先程と同様に店員が説明をし始めた。
噂を聞いて食べに来てみた人への接客に慣れているようだ。
パンをスープに浸して食べてみても、けっこう美味しい。
頻繁にではないが、たまに無性に食べたくなる系統の味なので、知れてよかったな。
遅れて届いた肉料理も、タンドリーチキンのように香辛料に漬け込んでから焼いたもののようだった。
こちらもスープに似た焼き色になってはいるが酸味はなくやや辛目で香ばしいので、別々の調合をしているのだろう。
アコルトもシャオクも気に入ったように食べるので、すぐに皿からなくなりそうだ。
聞いてくれるかは別として、自炊の際に香辛料に困ったらこの店に相談してみるのもいいかもしれない。
系統は違うと思うが、カレーを作る際にも参考にできそう……かな?
まずは米を見つけないとライス抜きになってしまうのではあるが。
結局パンをお代わりしてまで、スープを残さずしっかりと拭きとるように食べてしまった。
満足満足。
きっとまた、思い出したように食べたくなる日がくるんだろう。
昼食を取った後は冒険者ギルドに戻り、そこからシームの商店街の絨毯へと移動する。
とりあえずここから、普段の食材を買う店を見繕いながら家に帰ろうか。
シャオクに話を聞きながら、以前住んでいた頃に通っていたという店に寄ってみる。
畳んでしまっている店もあったが、大体の店はずっと営業しているようだ。
青果店はやや商店街寄りで少しばかり家から距離もあったが、パン屋は割と近い場所に新しく出来ていた。
新しいと言っても数年前からあるそうだが。
冷蔵庫のような便利なものはないので2,3日で消費できる程度の野菜と、売れ残っていたパンを買う。
氷魔法の使える魔道士にはやくなりたいものである。
主食のパンは毎朝焼きたてを買いに来て、それ以外のものは何日か毎にまとめて購入するのがよさそうだな。
まとめ買いの日はみんなで出かけてもいい。
食材を買ったらそのまま自宅へと帰ってきて、鍵を開けて中へと入る。
食材を戸棚に仕舞いつつ、この後の予定の確認をしようか。
「えーっと、迷宮産で料理に使いそうなのはオリーブオイルにコボルトソルトかな?」
「他にはスパイススパイダーのペッパーも必要でしょうか」
自分が話しながらポンポン置いた食材を、流れ作業のようにアコルトが分類して片づけていく。
これがズボラと整頓できる人の違いである。
「それもか。
肉はパーンかラピッドラビットだよね」
「そうですね、他の牛や豚のバラ肉となるともっと上の階層になるので、ミツキ様はまだ戦っていないはずです」
夕方に布団の配達が来ることを考えると、一人は家に残っていないと困る。
アコルトは索敵でついてきてほしいので、必然的にシャオクに残ってもらうことになる。
迷宮に一番詳しい者を留守番にして新規階層は無理だ。
……よく考えたらパーンも戦っていないな。
魔法を使ってきて不人気らしいので周回もできそうだが、肝心の待機部屋まで到達している迷宮がない。
あ、いや方法はある。
「シャオ、行ったことのある迷宮でパーンが一番低い階層出てくるのはどこ?」
「パーンですか?
えーっと……カルメリガの9階層ですね」
低くても9階層なのか。
となると道中の魔物は最大4体の群れか。
「そこで待機部屋に一番近い小部屋には移動できる?」
「あ、はい、できます!
ボス部屋には入らずに階層を回るパーティーについて行ったことがあるので」
ならいけそうだな。
他にも目的の魔物の迷宮の階層を確認しつつ、チャートを考えよう。
シャオクもつれてカルメリガの迷宮にワープで移動し、ダンジョンウォークで目的の小部屋に連れて行ってもらったら待機部屋まで案内してもらおう。
デュランダルを使って英雄メインの速攻で、パーンを討伐しヤギ肉を手に入れる。
それで道順の確認もできたところで、シャオクを留守番に送り出す。
肉の大きさを見て追加で数回倒し、メイン食材を確保する。
次にクラザの2階層にワープして、ボスのスパイススパイダーからペッパーを、抜けた先の3階層で魔法主体にボーナスポイントを調整してコボルトを狩ってコボルトソルトを入手する。
その後はシームの迷宮に移動して、5階層でナイーブオリーブを倒せば、夕飯までに必要なものは揃うだろう。
明日以降は多めに狩ればいいので、今日必要な分は1グループ程度ずつでも倒せば大丈夫なはずだ。
考えたプランを2人に伝え、アイテムボックスから装備を取り出し始める。
ん?
よく考えたら、今日は15日で迷宮は休みだと伝えたはずだった。
「アコもシャオもごめん。
思い返してみたら今日の迷宮は休みにするって言ってたし、休憩にして配達が来たら食べに行くことにしよう」
すでに装備を身に着け始めていた2人がこちらを見つめてくる。
「ボクは案内だけですぐに戻ってきますし……」
「私も少しの索敵のみですので、戦闘はあってないようなものです。
一桁の階層なら、お嬢様の魔法で魔物に近づかれる前に済んでしまうと思われます。
お嬢様がお疲れならもちろんお休みにしていただいて構いません」
……それもそうか。
「わかった。
じゃあ悪いけど、行ってこよう」
予定が二転三転する主人でごめんよ。
粗方装備し終わって、シャオクが鎧を身につけるのを待ちながらボーナスポイントの調整だ。
いくら装備品が体にフィットするといっても、羽織るだけのジャケットとは違って着込む必要がある。
パーン以外は先制攻撃だけで仕留められそうである。
そのパーンも英雄メインの編成でデュランダルを持てば、使ってくるとされる魔法攻撃も封殺できるはずだ。
よもや英雄Lv24の攻撃力5倍が、9階層の魔物相手に攻撃力不足とはならないだろう。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 英雄Lv24
英雄Lv24/魔法使いLv28/探索者Lv29/僧侶Lv27/戦士Lv17/剣士Lv9
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
6thジョブ 31 武器・六 63
アクセサリ・一 1 腕力 11
敏捷 10
(残0/122pt)
低階層物理突破用にしていた編成の、1stジョブを魔法使いから英雄に替えた形だ。
タルデクくんしばき編成から腕力を減らして僧侶を加え、デュランダルを持った状態とも言える。
オーバーホエルミングを多用するからMP確保に6thジョブにしているが、デュランダルを使うなら不要だったか?
いや、万が一の手当スキルは損にならないはずだ。
まあこれでいいだろう。
短時間ではあるが不在にするので玄関に鍵をかけ、アコルトが留守番予定のシャオクに鍵束を預けた。
まずはカルメリガへ……と思ったところで気づく。
3人でフル装備ならMPがごっそり持っていかれる。
あぶないあぶない、と強壮丸を取り出して準備しておいた。
……僧侶をつけてなかったら向こうでいきなり瀕死だったな。
気を取り直してゲートを開き、カルメリガの9階層へとワープした。
***
自分がゲートから出て、アコルト、シャオクと続いて抜け出てきたタイミングで強壮丸を2粒飲む。
沈んだ気分も回復し、戦闘に問題はなさそうだ。
「じゃあシャオ、移動をお願い」
「わかりました!」
シャオクがダンジョンウォークの詠唱をすると、先程通ってきたばかりのような黒塗りの扉が迷宮の壁に現れる。
今度は来たときとは逆の順番で、その奥へと進んでいく。
自分が最後にゲートから出ると、9階層の入口小部屋より少し広い程度の部屋に出た。
正面と左右に通路が続いており、部屋の中には人の姿はなかった。
「えーっと9階層だから……こっちです!」
シャオクがルートを思い出したらしく、左側の道を先導して歩き始めようとしたところを止まってもらう。
ついでにシャオクのアイテムボックスの中身を整理して、ジョブも鍛冶師に戻しておいた。
解散されたパーティーも、自分が組み直す。
その間にアコルトが耳を通路へ向けて音を探っていた。
「そちらからは物音は聞こえないようです」
「ここは一本道の通路で、2回ほど折れた先がすぐに待機部屋なので魔物に遭わないこともあります。
それにボスがパーンなので、待機しているパーティーがいないのかもしれません」
なるほど。
それならアコルトの索敵に引っかからないのも頷ける。
肉がほしいだけの自分たちにとっては、大分ありがたい構成の迷宮のようだ。
そのまま進んで通路を抜けると、説明通りの待機部屋になっていた。
奥に見える扉も開いたままなので、すぐにでも挑めるようだ。
「話した通り、自分が剣で仕留めに行くね。
素早く動くスキルを使っていくから、巻き込まれないようにボスに近づきすぎないように。
詠唱中断もあるから、魔法が飛んでくることは心配しなくていいはずだよ」
「かしこまりました」
「パーンは魔法が厄介との話ですが肉弾戦もしてくるそうなので、ミツキ様も退く時はボクの盾の後ろにどうぞ!」
「わかった、ありがとう!」
オーバーホエルミングで近寄って攻撃して退く。
これを忠実にこなしていれば問題ないはずだ。
念の為強壮丸を口に含み、自分を先頭にボス部屋へと侵入する。
2番目に盾を持ったシャオク、そのやや斜め後ろにアコルトが続く。
部屋の奥に何か落ちているように見えて、進みながら目を凝らして鑑定をしてみる。
皮のミトン(○)
アイテムがある。
「……アコさん!
入らずに止まって!」
何かに気づいたシャオクが辺りを見回しつつ声を上げる。
「申し訳ありません!
すでに……」
アコルトが応えるのが先か、扉が閉まるのが先か。
侵入者を逃がすまいと動き始めた石造りの壁は、音を立ててその口を閉じた。
いつもならどこからか煙が湧き出すタイミングであったが、今回はそれがない。
ガキィン!
代わりに開始を告げたのは、金属同士がぶつかるような鈍い音だった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 英雄Lv24
英雄Lv24/魔法使いLv28/探索者Lv29/僧侶Lv27/戦士Lv17/剣士Lv9
(村人5 農夫1 巫女1 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 森林保護官23 奴隷商人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv19
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次回は2/20更新の予定です。