閉まった扉から向き直ると、どこからか現れた煙が部屋の奥に集まりだして次第に魔物の姿となった。
コラージュコーラル Lv1
煙が晴れると、コラーゲンコーラルをそのままデカくしたような岩の塊が突き出てきた。
こんなのにのしかかられたら、その質量だけで危険すぎる。
歪な岩頭を大きく振りかざしてこちらを狙って近寄ってくる。
「ラッシュ!」
幸いにも大振りでわかりやすい動きのため、反対側に避けて戦士のラッシュを打ち込んだ。
ザリッと刃先で岩を撫でる感覚を手に感じ、すぐに後方に引くことにする。
流石に今の能力では1階層と言えどボスは一撃ではないか。
遅れて叩きつけられた頭部で、床が抉られ……てはいない。
迷宮の床は存外硬いらしい。
破壊不可なんだっけ。
それでも衝撃は結構なもので、足元が振動した。
岩(珊瑚?)なので痛覚はないであろうコラージュコーラルは、先ほどと同様に頭部を振り回しながら近づいてくる。
デュランダルのMP吸収があるので、戦闘中の英雄スキルも試しておく。
「オーバーホエルミング」
敵の大振りな動きがさらに緩慢になった。
いや、自分の動きが速いのだ。
手薄になった側から近づき、側面に回り込む。
頭の振り上げを躱してさらにラッシュで切りつけたところで手応えがなくなり、煙へと変わり始める。
コーラルコラージュだった煙が空気に溶ける頃には、感覚の加速が切れた。
ニカワ
ドロップ品が現れたので拾い上げ、アイテムボックスに仕舞おうとすると、箱が5つになっていた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv5
探索者Lv5/英雄Lv3/戦士Lv3
増えた2ポイントを詠唱短縮に振って、詠唱省略を取得する。
スキルを念じるだけでよくなるので、戦闘中に詠唱のために息を整える必要がなくなった。
ボスがいた出現した場所の奥に、いつの間にか入り口と同じような黒い板が現れていた。
これがボス部屋の出口なのだろうか。
通り抜けると、1階層の入口と似たような小部屋に出られた。
探索者のダンジョンウォークを念じてみると、1階層と2階層を選べるようになっていた。
ここが2階層の入口のようだ。
2階層からは魔物が最大2体の群れになるはずだ。
どんな魔物が出るかくらいは、迷宮前に立っている階層送りの探索者に聞いておけばよかった。
恐る恐る通路を進むと、ドタドタとせわしなく動き回る足音が聞こえてくる。
デュランダルを構えて様子を見ると、こちらに気づいたようで足音が向かってきた。
コボルト Lv2
コボルト Lv2
濃紺の顔をした小人だ。
二頭身くらいしかなく、でかい目玉をギョロギョロと動かしていて気持ち悪い。
スピード自体は大した事ないが、見た目はホラー映画さながら、ナイフを振りかざしながら迫ってくるのは如何にも魔物だ。
近寄られるのも嫌なので、リーチを活かしてデュランダルを振り回すと、2体とも掠ったそばから煙になった。
弱い。
そういえばコボルトは他の魔物と比べても弱いという描写があった気がする。
コボルトソルトをアイテムボックスに仕舞いつつ、慎重に足を進めた。
何グループか倒しながら小部屋を通りつつ更に進むと、1体だけのコボルトが通路の奥にいた。
どうやらこの通路は行き止まりらしい。
後方をちらっと鑑定したが何も居ないようだったので、デュランダルからボーナス武器・五のフラガラッハに替えてみる。
向かってくるコボルトを一突きすると、これも煙に変わった。
弱すぎないか。
いや、そもそもボーナス武器・五でも2階層のコボルトにはオーバースペックなのだろう。
分かれ道に戻って別の通路へ進むと、今度はコボルトとコラーゲンコーラルのグループと対峙した。
寄ってくるコボルトは一刀で消えたが、コラーゲンコーラルは3回目の攻撃でやっとコーラルゼラチンに変わった。
デュランダルの強さと、コボルトの弱さが浮き彫りになる。
動作の遅いコラーゲンコーラルなら、フラガラッハでもやっていけそうだ。
HP吸収もついているので保険もある。
念の為、敵の出ない2階層入口の小部屋にダンジョンウォークで移動し、ボーナスポイントを調整する。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv6
探索者Lv6/英雄Lv4/戦士Lv5
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
3rdジョブ 3 武器・五 31
アクセサリ・一 1 獲得経験値10倍 31
必要経験値1/10 31
(残1/104pt)
MP吸収はないためスキルを使いづらいが、これで実質経験値効率100倍だ。
2階層はコボルトが多くて不人気なのか他の人を全然見ないし、2体の群れでの出現というのもあって効率がいい気がする。
コボルトは確かに気持ち悪くて鬱陶しいが、挙動が騒がしくて不意打ちはされないし、当たれば一撃である。
今の自分にとっては、この2階層がいい狩り場なのかもしれない。
曲がり角と、コラーゲンコーラルにだけ気をつければやっていけそうだ。
探索者がLv7になったところで、お腹も空いてきたので切り上げることにした。
強壮丸を1粒取り出して飛ぶ前に飲み、宿屋の裏手の木にワープする。
たしかにMPが減ったのは感じたが、前ほど鬱屈した気分にまではならなかった。
レベルが上った分、この距離での移動なら薬なしで大丈夫なのかもしれない。
今後は迷宮から帰る前にはデュランダルで回復しておけばよさそうだ。
日が落ちて暗くなっていたので、結構な時間迷宮に居たらしい。
宿に入り、旅亭に声を掛けて鍵を受け取る。
そのまま食堂の方へ向かって、鍵の番号を見せてカウンターで注文する。
宿泊付きの食事は何種類かのメニューから選んで飲み物1杯がつくらしい。
文字が読めないので近くのテーブルで食べられていた美味そうな肉料理を指して同じものを頼み、飲み物はエールを試してみる。
甘みがあり常温で飲みづらかったが、濃い味付けがされている肉とよく合った。
いつか魔道士になれたら毎日宿と酒場を回って氷を出す仕事で食べていけないかなぁ、と思ったところで魔法使いのジョブ取得という試練があったのを思い出した。
重要な部分は何度も読み返したので覚えている。
作中では探索者Lv8、英雄Lv6、戦士Lv5、剣士Lv1のジョブを付けた状態で、2階層のニードルウッド相手にMP全解放を発動して取得していた。
少なくともそれ以上のジョブを設定し、1階層のコーラゲンコーラルか2階層のコボルト相手ならできるだろうか。
となればMPの上昇する僧侶を取得するのが必須だろう。
明日の目標は僧侶の取得からの魔法使いの取得にしよう。
アルコールを入れた高揚感はあるが、気分が悪くなることないようだ。
今日は1杯に控えておいたが、どうやらこの身体でも飲酒は問題はなさそうなので、気分が乗った時は好きに頼んでみるとしよう。
食事を済ませ、食堂から出て部屋に戻る際に、従業員にお湯をお願いした。
ベッドに腰掛けて装備を外してくつろいでいると、部屋の戸がノックされた。
湯の張った桶を受け取り、絞った手ぬぐいで体を拭きつつ風呂に思いを馳せる。
肩までお湯に浸かりたい。
石鹸もほしい。
公衆浴場とかないのだろうか。
早急に風呂付きの借家か持ち家が欲しくなってくる。
身体を一通り拭き終わったが、髪の毛も湯に通したい。
使っていない手拭いを追加で出しておいて、湯桶の正面に座る。
髪の先から湯につけつつ、頭を突っ込んでみた。
頭皮までじんわりと熱が伝わり気持ちいいが、傍から見たら全裸土下座である。
それで湯に頭を入れているから拷問に見えなくもない。
間抜けな格好を想像して吹き出しつつ、髪を絞るように水気を落とした。
乾いた手拭いで残りの水分を拭き取ると、残り湯で下着を洗った。
椅子の背もたれに濡れた手拭いと一緒に掛けておけば、一晩で乾くだろうか。
従業員に金を払って洗濯してもらうのもありだったな。
コンパクトミラーのことばかり気にしていたが、そういえば現代から持ってこられたものの中には櫛もあった。
リュックの底を確認すると、2本の内の片方は折れてしまっていた。
100均のプラスチック製だから仕方ない。
欠片を集めてリュックのポケットに移し、明日の迷宮で捨てることにしよう。
無事だった方の櫛で髪を梳かしつつ、明日の着替えを出して袖机に置いた。
取り出す際に盗賊のインテリジェンスカードが出てきたが、これも換金できるか確認しなくてはならない。
金を持っていそうだから試しに襲うなんてことをしていた強盗常習犯だから、きっと懸賞金がかかっているだろう。
騎士団へ行って、僧侶と魔法使いを取得して、奴隷探し。
明日もやることがいっぱいだ。
寝るときまでゴワゴワの服を身に着けていたくないので、一糸纏わぬ姿でベッドに潜り込む。
独り者の特権だ。
仲間ができたらどうしよう、とその答えを考える間もなく眠りについた。
***
仮眠をしたのもあってか、昨日よりは早い時間に起きられたようだ。
掛け布団をめくって露わになる美少女ボディにびっくりはするが、興奮するわけでもなく淡々と着替えを済ませる。
ちょうど日差しがあたる位置に椅子を置いておいたからか、掛けていた洗濯物も乾いていた。
クローゼットとリュックにそれぞれ仕舞い込み、装備を装着する。
竜革のブーツを履きながら思ったのだが、現代から持ってきたブーツはどうしたらいいのだろう。
装備品ではないので着用者にフィットしないし、防水透湿素材なんてオーバーテクノロジーが過ぎる。
また切り刻んで迷宮に廃棄だろうか。
もったいない気もするので、とりあえずはまだクローゼットの肥やしにしておこう。
湯桶を返却し、食堂へ向かう。
朝は軽いものがいいなぁ。
迷宮にいく人はもっと早い時間に出るらしく、そこそこ空いている。
比較的ボリュームの少なそうなのが肉野菜炒めだったので、それを選んでさらに少なめにしてもらう。
値段は変わらないよ、と言われたが食べきれないほうがきつい。
パンがついたので、飲み物はハーブティーにしてもらった。
活動的な人向けの濃い味の炒め物をおかずに、少し堅めのパンを齧る。
時間が経つにつれてだんだんとパンが堅くなっていくので、ハーブティーに浸して食べることにした。
朝であまり準備時間が取れないから作り置きを温めて提供しているのだろう。
だから朝食が夕食より安めに設定されていたのか。
美味しいことには美味しいが、顎が疲れるし喉が渇く。
ハーブティーのおかわりはサービスだったので喉を潤した後、フロントで鍵を預けて騎士団の駐在所へと向かった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 探索者Lv7
探索者Lv7/英雄Lv5/戦士Lv6
(村人5 剣士1 商人1)
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24/06/27
ボーナスポイントに誤りがあったので訂正
24/07/22
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