異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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第3章
094 馬車


「残りのご依頼分は蟻のモンスターカードが1枚に、潅木とコボルトのカードが3枚ずつとなりましたね」

 

 

 詠唱を省略してアイテムボックスを開いて未使用のカードと見比べながら、今受け取った分とカルムが告げた分とで計算する。

 注文の際には強化分もセットで頼んでいるが、ドロップした挟式食虫植物のカードや今後のことを考えるとコボルトのカードはもっとあってもいいだろう。

 

 

「……いかがされましたか?」

 

 

 カルムが不思議そうに声を掛けてきた。

 虚空を見つめてキョロキョロとした様子だったのがよろしくなかったか。

 

 

「いえ、今後もまた頼むとしたらコボルトのカードは多めに依頼しておいてもよさそうかなと思いまして。

 先程のセットのように競売に出ることもあるでしょうし」

「そうですね、ご依頼の枚数が多ければそういった複数枚の出品も視野に入れられますので、入手の機会は増えるかと思います。

 すべてが揃うまでにはお時間がさらに掛かってしまいますが……」

 

 

 そりゃそうだろう。

 入札の機会が増えようが、予定の数量が増えたなら余計に時間がかかるのは当然だ。

 

 

「それはもちろん。

 その上でコボルトのモンスターカードを追加で3枚お願いします。

 伝令をいただくのは、この追加分以外が揃った段階で構いません」

「かしこまりました」

 

 

 依頼料の銀貨を15枚差し出して、受け取ったカルムがそれをアイテムボックスへと仕舞う。

 

 あ、こちらもリュックではなくシャオクのアイテムボックスに仕舞ってもらえばよかった。

 でも魔法使いの咄嗟の行動としては、リュックにしまうことに慣れていた方がいいか。

 向こうがアイテムボックスに入れたのにつられて、じゃあ自分もなんてできないことになっているので。

 

 その後は軽く話をして別れ、商人ギルドを後にする。

 

 簡単にだが、一応関係者であるザノフにも面会の顛末を知らせると言われた。

 お姉様呼びまでは手紙やらに書かれるかは分からないが、ザノフならどうせどこからか情報を仕入れるんだろうな。

 衣装の礼はしないといけないが、なるべくならカルメリガに行きたくない。

 

 冒険者ギルドまでやってくると、やはりルテドーナの人の多さを実感する。

 フィールドウォークを使う冒険者たちに紛れて、ノポモへのワープゲートを繋げて2人と共にその先へと抜けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ノポモを訪れたのは例の逃亡劇以来だったか。

 一面の黄金色だった小麦畑は、所々で色が変わっていた。

 よく見ると、高さが違っていたので収穫で刈り取られた区画もあるようだ。

 

 経由地であることを説明したアコルトはもちろん、シャオクも穀倉地帯というのを知っていたのか、目の前に広がる大農場に特段驚いた様子もない。

 訪れたのは3回目、いや同日だったので実質2回目の自分は広大な景色につい見入ってしまう。

 ゆっくりと見る暇はなかったからな。

 

 

「お嬢様、あちらで乗車の募集があったはずです」

「え、うん、ありがとう」

 

 

 まあ今回も、馬車に乗るまでは急がないといけないので見てはいられないのだった。

 

 一応冒険者も彷徨いているのでウネリア行きを交渉するという方法もあるが、このノポモは各地へ出荷される作物の交易路でもあるため、沢山の選択肢がある中で人口が少ない町へとわざわざ送ってくれる者を引き当てるのは難しそうだ。

 

 アコルトの後ろに続いて、馬車が回れるように設計された広場の方へと向かう。

 収穫された作物が積み荷となって置かれているのも見受けられる。

 更にその奥に、都市間の移動目的らしい馬車も並んでいた。

 

 アコルトが確認をして参りますと場を離れたので、シャオクと一緒に道の脇に避けて待つことにした。

 通りを行き交う人々を眺めながら、次々に出発していく馬車を見送る。

 

 聞こえてくる会話からするとチャーターする感じではなく、行き先を同じにした乗り合い馬車がほとんどのようだ。

 ウネリア行きはまだあるのだろうか。

 

 少しするとアコルトが戻ってきて、少し外れた場所にある馬車を指し示して口を開く。

 

 

「あちらの御者の方がウネリア行きだそうですが、乗客が集まらないので行き先を変更されるところでしたので待って頂いております」

「ありがとう、ちょっと話に行ってみようか」

 

 

 慈善事業ではないのだし、料金が集まらないなら募集を改めることもあるか。

 遠目に見えた御者を鑑定しながら近づいてみるが、レベルもそこそこの商人ジョブの人間であった。

 

 

「……あんたがさっきの子の主人か?

 悪いけど3人じゃ馬は出せないよ。

 倍……せめて5人でもいてくれりゃあなぁ」

「そうですか……ちなみにウネリアまではおいくらですか?」

 

「1人300ナールだ。

 冒険者に飛ばしてもらうなら5枚はするし、ここじゃ捕まえるのも一苦労だろうが、こっちも商売なんでね」

 

 

 相場を知らないからよくわからないが、安くないか?

 といってもパンが1つ1桁ナールな世界での300ナールなら結構な額にあたるのか?

 

 命がけの迷宮のための装備や奴隷に縁がなければ、質素な暮らしでも暮らしていけるのだろう。

 同じ距離を瞬時に移動できる冒険者は、やはり高給取りなんだな。

 

 

「倍額払うのでお願いできませんか?」

「わかったら他を……って、え?

 いいのかよ、あ、よろしいんですか?」

 

 

 態度が変わるのもまぁわかる。

 もともとの予定のルートを進めるし、人数が半分なら馬に掛かる負荷も半分で済む。

 その後は気を良くした御者の男があれよあれよという間に支度を整え、すぐに出発できた。

 

 

 

 

「──お嬢さんたちはウネリアに何の用なんだい?」

 

 

 すっかり上客扱いで口調が変わった御者が声を掛けてくる。

 幌馬車の中で麦藁をクッション代わりに使わせてもらっているが、サスペンションもないので車輪の振動が直に伝わって酔いそうだ。

 

 

「その先の、サラトタに、用事があります!」

「ウネリアより見るところがないのに用事たぁ、まあいいか」

 

 

 会ったときから一言多いなこの御者。

 

 

「サラトタ行きの馬車なんて何日かに1回のはずだが、いいのかい?

 お嬢さん方よ」

「え」

 

「問題ありません。

 私がいた頃と変わりなければ、明日は村行きの馬車の出る日取りです」

 

 

 よかった。

 思いつきで予定を決めていたが、アコルト先生のチェックが入っていたらしい。

 日に1本どころか数日に1本の田舎だったのか。

 

 

「とりあえず、ウネリアに着いて定期便の日程を確認しよう。

 ……もしズレてたら、お願いできますか?」

「そこは料金次第になるだろ、……でしょうなぁ。

 まあ今日は町に着いて終わりだし、馬を留めてる間に確認してくるなら、明日は交渉次第だな」

 

 

 行ってくれなきゃ困るが、どうしてもダメならサラトタ行きの出る日まで調整だな。

 自宅用の買い物やらルテドーナの商館やら、することはいくらでもあるし。

 

 

 

 しばらくは御者の自慢話を聞き流しつつ、振動に耐えながら乗り続けているが、ふとアコルトに確認する。

 

 

「ねぇ、この移動を半日……?」

「はい。

 冒険者を頼りにできればよいのですが、ウネリアにもサラトタにも冒険者ギルドがありませんので……」

 

 

 ついでに近くに迷宮もないらしい。

 迷宮がないから発展していないとも言えるのか。

 サラトタは小さな村だと聞いていたが、ウネリアも想像以上に小さいのかも知れない。

 

 おしりが痛くなるのは我慢するしかない。

 

 

「そういえば、この道中で魔物とか盗賊とかは出たりしないのかな?」

 

 

 作中では農村からの移動中にグミスライムすら出てきていた。

 

 

「近隣に迷宮がないからか、このあたりで魔物が出たという話は聞きませんね。

 ノポモが直轄地なので、農地に近い場所に迷宮が出現しても、帝都から討伐軍が出されて数年もしないうちに討伐されてしまうそうです」

「なるほど……」

 

 

 というか帝都ということは帝国か。

 さすがにそこまで知らないとなると世間知らず以前の問題を疑われそうで今まで聞けなかったが、王国ではないということだけは心に留めておくことにする。

 

 

「こうやって町移動の商売をやっていられるのも、ソロンブルク帝国軍様々ってやつよ!

 あっ、やつですよ!」

 

 

 聞こえていたらしい御者が会話に割り込んでくる。

 もう砕けたままでいいから変な口調をやめてほしい。

 

 そして作中に出てきた皇帝の名前とは違う国名が判明した。

 これならあとでアコルトに詳細を確認してみるか。

 

 

「それに盗賊だって、まずうちみたいな馬車は襲わないな。

 小さくて売りさばけるような積み荷もないし、襲ったところで人ばかりで逃がしたら面倒だ。

 だいたい田舎から出てくるならまだしも、向かう分には金もそんなに持ってるとは思えないしな」

 

 

 これから襲われるフラグ立てみたいな発言をするんじゃないよ。

 

 それなら帰りはどうするんだと聞いてみると、定期便や商隊の後ろにしれっとついていくらしい。

 万が一襲われたとしても、前をいく大荷物の馬車がやられている間に小回りの利く自分たちは逃げ遂せるのだとか。

 

 ということはこの馬車が襲われたとしたら、自分もそれを囮にワープをさせてもらってよろしいか?

 ……まあ実際はよほどの相手でない限りは、多少なりとも関わった相手を見殺しにはできない性分だと理解している。

 

 そんな杞憂をしながらも、特にイベントが発生することはなく順調に馬車は進んだ。

 

 

 ノポモから結構離れたためか、日が高く昇っても鐘の音は聞こえない。

 2人に確認してみても、おそらく12時は過ぎただろうという見解だ。

 

 御者に休憩はどうするのかと聞いてみると、もう少し先にひらけた場所と近くに川があるので、そこで馬を休ませるらしい。

 移動中は時間ではなくて場所で決まるのも当然か。

 

 

「ほら、あれだ」

 

 

 街道と呼ぶには少々物足りない、多少の通行で草が生えていないだけの土の道から外れたところに、斜めに走る川が見えた。

 アコルトが川魚を見たことがあるようだったし、サラトタの方にも流れが続いているのだと思われる。

 

 御者が示した方向には何本かの木が生えていて、その近くには馬車を留められそうなスペースがある。

 更に近づいてくると、焚き火跡のようなものもあるようだった。

 確かに休憩場所になっているらしい。

 

 1つ試してみたかったことを思い立ち、アコルトとシャオクに小声で伝え、御者から身を隠せるように並んでもらった。

 振り返った程度では自分の状況はわからないようにだ。

 

 というのも、ワープの条件の検証のためである。

 

 遮蔽セメントを無視できて、ゲートの設置場所にも制限はない。

 あとは()()()()()()()()()()()使()()()()()()を試したい。

 

 まずは前方を見て休憩地との距離を確認する。

 今真横を通り過ぎたばかりの大木と、休憩予定地とは目測で数百メートル。

 仮にワープで戻ってこれなくても、走れば追いつける距離だ。

 勝手に降りたこと自体は不審がられそうだが、ずっと座っていて振動が辛かったとかなんとか言えばいいだろう。

 

 

「(お嬢様、今です)」

 

 

 タイミングを計っていてくれたアコルトの合図でワープを発動し、馬車の内側にゲートが開かれる。

 幌の支柱に沿って湾曲した形状をそのままに、扉1枚分の大きさで黒く塗りつぶされた様子は異様な感じだ。

 この厚手の布の裏側は今どうなっているのだろう。

 

 おっと、そんなことを気にしている場合じゃない。

 第1段階、移動中の物体の内部でもゲートを開くこと自体はできた。

 床板を軋ませないように、そっとその中へと入っていく。

 

 出てきた先は、想定通り先ほどの大木だ。

 馬車からはその太い幹で死角になるようにしてある。

 第2段階、移動中から任意の場所を指定しても、指定先が移動元に合わせてズレることはなかった。

 これはゲートを開けた時点で大丈夫な気もしていたが。

 

 そして問題の第3段階。

 移動中の馬車の内部へとゲートを開けるかだ。

 一度閉じたゲートを再び開くように念じる。

 同じ馬車の同じ場所を思い浮かべてワープを発動すると、再び黒塗りの扉が大木の表面に現れた。

 

 ───繋がった。

 

 馬車が休憩地に着いてしまう前にと、急いで潜り抜ける。

 抜け出たところで、待ち構えていたシャオクに組み伏せられた。

 

 え?

 

 馬車の床に押さえつけられ、驚いた衝撃で維持できなくなったゲートが消えてしまった。

 

 

「おいおい、暴れないでくれよ!」

「申し訳ありません。

 少し寝ぼけていたようで、立ち上がろうとして転んでしまったようです」

 

「あんた、お嬢さん方は軽いし人数も少ないから大丈夫だけどよ。

 もうちょっとで休憩だから待ってくれよな!」

 

 

 帰ってきた時、ちょうど御者が振り返りそうなタイミングだったようだ。

 心苦しそうなシャオクと目が合う。

 

 

「(すいません、すいません、ミツキ様!)」

「(大丈夫、むしろ助かったよ)」

 

 

 このたまに容赦がない感じは、今も御者の相手をしているアコルトが指示を出したのだろう。

 フィールドウォークのできない場所に、ゲートが開いているのをしっかり見られたら危なかった。

 

 服についた干し藁を取りつつ、かろうじて聞こえるくらいの声で2人に礼を述べる。

 秘密がバレるくらいなら多少の痛みなんて飲み込める。

 ……こっそり手当てを連打したが。

 

 

 

 無事休憩地に着いた後は、御者が馬の世話をしているうちに木陰から家にワープした。

 朝食の残りのパンと果物を手当たり次第リュックに詰め込み、即座に戻ってきた。

 

 帰れるとはいえ無計画すぎるだろ。

 せめて昼食の弁当くらいは用意しておいたほうがよさそうだ。

 今回はバッチリ身を隠せていたので痛い思いはせずに済んだ。

 

 アコルトがカバンに入れてきたジャーキーのような干し肉を齧りつつ、パンを水筒の水で流し込む。

 どちらも固くなってきているので顎が疲れる。

 

 リュックから出した風にアイテムボックスからジャックナイフを取り出し、果物を切っていく。

 今朝シャオクが買ってきてくれたモモに似たフルーツで、常温でもみずみずしくて甘かったので、自分は先ほどの分とこれで昼食は十分だ。

 おそらく2人は足りないだろうが、我慢してもらう他ない。

 

 羨ましげに見ていた御者と馬にも果物をあげたので、休憩後の道程は寝ていても構わないと言ってきた。

 まあ魔物でも盗賊でもきてしまったら対処するのは自分たちなので寝るつもりはないが。

 

 

 食事を終えて準備を整え、休憩地を後にする。

 馬の調子もよさそうなので、幾分かは予定より早く着きそうだと御者が言っていた。

 

 昼前と変わらない振動に揺られながら、ワープについての考察でもしようか。

 

 先ほどの検証で、ワープの移動先には思い浮かべた地点ではなく、ゲートを開いた対象物の前に出てこられることが分かった。

 移動中かどうかというのは関係ないらしい。

 

 となれば絨毯を掲げられるような道具を持っていけば、実質どこへでも……と思ったが改めて考えてみる。

 

 商店街やギルド内部に設置されている絨毯だって、時間によっては丸めて片づけられたり、翌朝また広げて置かれていたりする。

 それは毎日寸分違わぬ位置にあるとは言えず、通行人の振動なり風なりで誤差ではあるが移動をしていると言えるだろう。

 

 つまり、フィールドウォークだってゲートさえ開ければ同様に移動できるのではないだろうか。

 でもあれか、荒野の真ん中から帰ることはできても手荷物以外は置きっぱなしだし、逆にそこに出てくるだけの必要性もないか。

 結局はその先の町にしか用事はないのだし。

 町まで行けばいくらでも移動先はあるだろうしな。

 

 やはりネックになるのはMPか。

 移動先として覚えた絨毯を遠くの町に運んでもらっても、そこまでのゲートを開けるだけのMPを有していないと意味がない。

 鍛えに鍛えた冒険者と、魔法使いや魔道士でパーティーを埋めてジョブ効果でブーストして、やっと誰か一人を送れるとかその程度なんだろう。

 それこそ王族とかの同盟国への亡命手段みたいな。

 

 1人でパラレルジョブでステータスを盛れる上に、扉一枚分の壁さえあれば他に移動の制限もないワープができるのは自分だけの特権だ。

 キャラクター再設定ができるのが自分だけだったら、だが。

 

 

 ともあれ、今後はこのことを前提に行動できそうか。

 例えば知らない土地行きの商隊の荷物を覚えておくとか、今後港町に行けたら出航前に船内だけ見学させて貰うとか……。

 さすがにそれは一部屋分だけ船室なり倉庫なりを借りた方がいいか。

 なんにせよ、長期移動の間ずっとその場にいる必要はないというのは気が楽だ。

 

 まあ今回のはもう人数も顔も把握されているので離脱はできないが、これからはするかしないかは別としてそういう手もあるというだけで心持ちも違う。

 それよりはウネリアに着いたらまず食事だな、と2人の顔を眺めながら幌からの景色を流し見た。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/商人Lv30
(村人5 農夫1 戦士17 剣士9 巫女1 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 森林保護官23 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv19



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次回は3/13更新の予定です。
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