異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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095 温浴

 寝ないと決めたつもりも、こう何事もなく時間だけが過ぎていくと暇である。

 腰を痛めそうな振動も、なんだか心地よいゆりかごに思えてきてうとうとし始めた頃、御者から声がかかる。

 

 

「もうウネリアに着くぞ!

 あっ、着きますよ!」

 

 

 結局口調は変なままで変わらなかったな。

 

 顔を出して見てみると、腰ほどの高さの杭がだいたい等間隔に打たれた向こう側に、家々が並んでいるのが見えた。

 魔物が来ないからこの程度の柵なんだろうか。

 

 馬車が通れる程度の幅の柵の切れ目を抜けて通りに入る。

 守衛のような者はおらず、こちらに気づいたらしい住人が御者に声を掛けてきた。

 一応普段も運行しているからか顔パスのような感じでそのまま進み、数頭入る程度の馬房の近くで馬車が止まる。

 

 

「それじゃここまでだな。

 宿は2軒隣だが、民家よりでかいからすぐ分かるだろう。

 馬車の案内所の方は……そっちのお嬢ちゃんが知っているようだったが大丈夫か?」

「はい、存じております。

 ありがとうございました」

 

「ならいいな。

 もしウチの手配が必要ならこの家にきてくれ……、きてください」

「わかりました、何かあればよろしくお願いします」

 

 

 御者の男と別れ、アコルトの先導で案内所へと向かう。

 

 おそらく案内所みたいな文字が書かれた看板のついた建物が見えてきた。

 ブラヒム語なら数字は分かるようになってきたので、読めないということは文字だろう。

 

 入ってみると、カウンターの奥にいた女性がこちらに気づき、気だるそうに向き直る。

 

 

「すみません。

 サラトタ行きの馬車は明日の出発で合っていますでしょうか?」

「明後日だろ?

 ……ああ、あんたたちだいぶ前に利用したことがあるんだね?

 今年の春からちょっと変わったのさ」

 

 

 聞いておいてよかったな。

 今までそんなことなかったのに、と不思議そうな顔をするアコルトと共に事情を確かめる。

 

 サラトタの村には教会はないため、住人に僧侶や神官はいない。

 そのため派遣診療という形で治療薬の販売と共に定期的に訪れるそうなのだ。

 これについてはアコルトも当然知っていた。

 

 ところが春先からそれを管理する担当者が代わったらしく、定期便に合わせての巡回ではなく、巡回が行われる際はそれに合わせての運行にするようにと指定されたそうだ。

 派遣される村側にとっても、これを突っぱねて診療自体を敬遠されては困る。

 渋々その条件を飲んだようだ。

 

 冒険者でも帯同してさっさと回ってしまえばいいのではと考えたが、日程の短縮をしたところで冒険者を雇ったりすれば今度は経費が増えてしまう。

 なにより地方に派遣されるような末端の僧侶や神官が、MP回復薬を使わずに1日にスキルを使える回数は限られてくる。

 教会は名目上やっているだけで、彼らに薬を使ってまで短期間で診療させるような義理はないのだ。

 どうせ一行の宿泊費は村持ちになるのだし。

 

 世知辛さを感じるが、村単位で決まっているようなことに口出しはできない。

 責任を取れないのだから、とやかく言える立場ではないのだ。

 

 

「そうすると、さっきの御者にお願いして明日向かったほうがいいかなぁ?」

「おそらくそうした方がいいかと思われます。

 派遣される方々にも依りますが、同行するのは難しいかもしれません」

 

 

 そうだよなぁ。

 自分たちの都合で日程を変えさせるような連中に相乗りなんて許してもらえるかもわからないし、待ってみても今回は貸し切りでしたでは困る。

 同行できたとしても、なにかで機嫌を損ねても面倒だしな。

 

 

 女性に礼をして、案内所を出る。

 先程の御者の家に戻ってみると、まだ馬や馬車の手入れをしていたようだった。

 

 

「あれ、戻ってきたのか。

 馬車の予約はできたのか?」

「巡回診療で明後日の出発になるみたいなので、やはり明日乗せてもらうのはお願いできませんか?」

 

「あー、今回はそれがあった……、ありましたか!

 ならこっちとしても行ったほうが商売になるな」

 

 

 妙に乗り気な様子になったので、何故かと聞いてみた。

 本来の定期便と日程のズレもあるし、翌日の帰りの便も教会の者がいる分人数も乗れないはずなので、本当はウネリアに買い出しに行きたかった者があぶれているはずだと得意げに話す。

 普段から競合するには規制を受けそうなものだが、そうしたおこぼれに与る分には定期便としても教会側としても不満は抑えられるので、お目溢しをもらえるそうだ。

 

 

「あ、待て、そうするとお嬢様方の帰りの面倒は見られないな……」

「いえ、大丈夫です。

 あちらに何日いるかわかりませんし、帰る際はその次以降の定期便にでもするので気にしないでください」

 

「そうかぁ!

 それならこっちも気兼ねなく送れるってもんだ」

 

 

 サラトタに着いた後の予定は分からないが、帰るときは一瞬だからな。

 定期便の席を奪うこともないので、迷惑を掛けずに帰宅することができる。

 翌日の出発する時間を約束して、御者の男と別れた。

 

 

 

 

「さて、まだ夕方の鐘が鳴る頃には早いと思うけど……食事が先かな?」

 

 

 せっかく違う町にきたのだから名物料理的なものはないのかとアコルトに聞いてみるが、地理的にも産業的にも微妙で迷宮もないので質素なものしかないだろうという話だ。

 となれば家で料理……とするには買い出しからなので少々手間がかかりそうだ。

 この里帰りの間は外食で済ますかなぁ。

 

 脳内のワールドマップ的には、ここからの都市はたぶんルテドーナやシームよりも、カルメリガかフウルバリの方が比較的近いのだと思われる。

 フウルバリは近隣のリュタルゴの盗賊の件でほとぼりが冷めるまで行きたくはないし、カルメリガはザノフの目がある。

 突発イベントを引きたくないので、大人しく質素な料理で我慢するか。

 

 

 ウネリアに何度か来たことのあるアコルトと一緒に探してみたが、活気のない商店街では買い食いできるような場所はみつからない。

 出歩いている人の数が少ないので、出店みたいなものは採算が取れないのだろう。

 仕方なく宿屋へと向かう。

 

 町唯一の宿屋のように見えたので、こちらでも部屋を取らないと御者に怪しまれるだろうか。

 2人に相談してみるが、カードのチェックで奴隷と判明するのだから、主人のベッドだけがある部屋さえ取れば不審には思われないはずだということになった。

 

 その予定通りに1人部屋を押さえる際に、何度も間違いないかと確認してきた従業員もインテリジェンスカードを確認してからは納得したような表情で手続きを進めていた。

 部屋も取れたので食堂で注文しようとして考える。

 

 奴隷を奴隷らしく扱うというなら、ここで3人とも席について食べるのはおかしくなってしまう。

 確認すると部屋で摂ってもいいとのことなので、肉と野菜の炒めた料理と煮た料理とパンを注文した。

 3人しかいないのに5人前の注文したのには二度見されたが、全て綺麗にいただきますのでと代金を押し付けたので問題ない。

 

 

「お運びいたしますので、お嬢様はお部屋でお待ちください」

「我々がお持ちします!」

 

 

 出来上がった料理を受け取ろうとしたのをやんわりと2人に流されて、1人先に部屋へと踵を返した。

 主人の自覚が足りない。

 

 静々と部屋に戻り待っていると、両手に皿を持った2人も戻ってきたので招き入れる。

 パンはカゴごとだし、料理も1人前ずつではなく2,3人前の大きい器だ。

 2人が狭い部屋に入りきったところで部屋に鍵をかけ、すぐに自宅へと繋がるワープゲートを開いた。

 

 潜り抜けつつパーティライゼーションでMPを回復し、どちらも抜け出たところでゲートを閉じる。

 テーブルに料理を置いてもらって、一息つく。

 

 

「お疲れ様、ありがとね」

「ありがとうございます、お嬢様。

 宿代のためとはいえご不便をおかけします」

 

「ううん。

 部屋も取らなきゃ不自然だし、どうせ食堂も宿のベッドも使わないからこれでいいよ」

「出掛けていることにすると、近辺で買い物に出られないのがちょっと不便ですね……」

 

 

 シャオクの言うとおりであるが、ちゃんと準備を進めてからにしなかった自分が悪い。

 反省点として、今後気をつけよう。

 

 料理を食べてみると、昨日や今朝食べた料理に比べてなんだか物足りない。

 おそらく迷宮産食材が使われていないからだろうということだが、そんなに違うことなのか。

 ……変な成分とか入ってないよね?

 

 

 すっかり食べ終わった後、洗い物のために流しに持っていこうとして踏み留まる。

 食器を返すにも、部屋で食べただけなのに洗ってあったらおかしいだろう。

 重ねさせてもらって、返却してこなくては。

 

 

「えーっと、強壮丸にも余裕があるし、お風呂も入れようかと思うからシャオは器を返してきて、迎えに行くまでそのまま宿の部屋で休んでてもらえる?

 ベッドもつかっていいよ。

 アコは畑に水をやった後、万が一誰か来ないか見ておいて」

「はい!

 じゃあ、こちらを持っていきますね」

 

「かしこまりました」

 

 

 ウネリアの宿の部屋にワープを発動し、シャオクが食器を持って入っていくのを見届けてからゲートを解除する。

 庭先の水甕にウォーターボールを発動し、ハーブへの水やりをアコルトに頼んだ。

 

 自分はというと浴室へ行って魔法の連続発動だ。

 すのこを並べ直して、水受けにも板をはめ込んでせき止める。

 

 発見したパーティライゼーションの仕様のお陰で少しだけスムーズにお湯を貯めつつ、半分ほど溜まったところでアコルトが入ってきた。

 窓が空いているので、ここにいても誰かが家に近づくのは分かるらしい。

 

 

「お嬢様、ご提案があるのですが……」

「なになに?」

 

 

 美味しい料理に慣らされてしまったアコルトさんが言うには、明日の朝食も宿の部屋といいつつ自宅で食べるのなら、肉だけでも迷宮産のものを焼いて加えてはどうかということである。

 なるほど。

 どうせ人目を忍べるのなら、メインだけ追加してしまえばいいのだ。

 

 アコルトたちが料理を部屋に運んでくる間に、1人こちらで肉を焼いていればいい。

 そして手頃な迷宮産の肉は、シーム2階層のラム肉。

 道中はグリーンキャタピラーが出るので不人気だし、ボスのビープシープもチープシープに比べたら凶暴なので人も少なそうである。

 

 なにより今ならデュランダルでMP回復に使える。

 先人のように、魔物を倒しつつ湯を溜めていくか。

 

 ボーナスポイントを調整してデュランダルを取り出し、シームの2階層の小部屋へとワープした。

 アコルトの索敵を頼りにボス前の待機部屋へと進むと、目論見通り待機パーティーはおらず、ボスへの扉も開いていた。

 

 2人でボス部屋へと侵入すると、煙が発生して集まりだす。

 慌てることなく部屋の中央へと歩んで、ビープシープが姿を現した瞬間にデュランダルを振り下ろす。

 

 一撃ですぐに煙へと変化して、アイテムを残した。

 

 

ラム

 

 

 ドロップ品を拾い上げてアイテムボックスへと収納する。

 

 

「今さっきだからまだ待機部屋には誰もきてないよね……?」

「おそらくはそう思います。

 移動してきた小部屋の周囲にも、魔物以外の物音はしておりませんでした」

 

 

 ならばと待機部屋行きの隅に向かうようにゲートを出現させて潜り抜ける。

 物陰からこっそり出てきたが、やはり他のパーティーはいない。

 

 

「じゃあアコはここにいて。

 お風呂に何回か使ってからまた戻ってくる」

「かしこまりました」

 

 

 仮に待機部屋に人が入ってきたとしても、迷宮の壁とアコルトの影になるようにゲートを設置するので、出てくる場面を直接見られることはないだろう。

 

 浴室の壁から抜け出てウォーターウォールを発動し、少し待ってファイヤーウォール。

 また間を空けてウォーターウォールを念じてを繰り返す。

 回数を数えつつやっているので、出来上がる湯の熱さは大丈夫だろう。

 

 ある程度魔法を使用したところでワープを使い、アコルトの脇へとでてきた。

 

 

「2回目行こうか!」

「お待ち下さい。

 あと何回ほどボスを仕留めることになりそうでしょうか?」

 

「うーん、4回、かな?」

「それでしたらパーティーから私を脱退させて、ボス部屋には2人では入らず、ここで移動場所の監視にさせたほうがよいかと思われます」

 

 

 アコルトも流石にデュランダルの一撫でで沈む相手なら心配もないらしい。

 待機部屋への出入りだけが今のところ誰かに見られる危険性があるだけなので、確かに言う通りここで監視をしてもらいつつ姿を隠せるように立っていてもらったほうがよさそうだ。

 

 提案通りにアコルトをパーティーから解除して、ボーナスポイントを調整する。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28

魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/巫女Lv1

 キャラクター再設定   1 ワープ         1

 詠唱短縮        1 5thジョブ      15

 武器・六       63 獲得経験値5倍    15

 必要経験値1/5   15 MP回復速度5倍   15

                      (残0/126pt)

 

 

 ついでに取得したままの巫女のジョブレベルをあげておこう。

 ポイントの関係で鑑定を外すことになるが、自分たちしかボスに挑まないなら出現場所は分かっている。

 これならいくらか上がってくれるはずだ。

 

 アコルトを待機部屋に残したまま、ボス部屋へと入りビープシープを両断。

 ドロップアイテムのラムを拾って、ワープで自宅の浴室へと移動しお湯を溜める。

 少し気分が悪くなってきたところでアコルトのもとへと転移して、索敵状況を確認する。

 

 これを4度繰り返し、最後にアコルトをパーティーに再加入させて2人で浴室へと戻った。

 

 巫女はLv3になっていた。

 25倍効率でボス討伐といえど、2階層で5体倒しただけではこの程度か。

 最初の1回は経験値効率に振る前だったしな。

 レベル上げには階層の魔物を群れ単位で倒していったほうが断然いいんだろう。

 

 追加分のラム肉は毎食1つを切って焼けばよさそうなので、5つもあれば明日の分は大丈夫なはずだ。

 

 

「じゃあシャオを迎えに行ってくるから、アコはタオルや着替えの用意をしておいて」

「かしこまりました」

 

 

 浴室の壁にワープゲートを開き、宿の部屋へと戻ってくる。

 

 

「シャオ、お待たせ」

 

 

 ピクっとはしたが、以前ほどには驚かなくなったのは慣れだろう。

 

 

「随分掛かったようですが何かありましたか?」

「明日以降のために、迷宮でお肉を採ってたんだ。

 こっちで食事を買うにしても、食べる時に向こうに行くなら焼いたラム肉くらい追加でつけてもよさそうかなって」

 

「そうですね……。

 こんなこと思う日が来るとは思いませんでしたが、普通の安い肉ではちょっと物足りない感じも……。

 奴隷としてはこれほどの食事を頂けるだけで、本来は十分に恵まれているんですけど!」

 

 

 贅沢を覚えさせた自分の罪なのだろう。

 作中でも食い道楽などと揶揄されていたくらい、深層にはもっと美味しい食材が待っているのだから、この程度ではないのだろうな。

 

 シャオクを連れて、自宅へと戻る。

 

 荷物を置いて靴を揃えていると、アコルトがお願いしていたものの他に、納屋から石鹸の木枠も1つ持ってきてくれた。

 1つ目の小さい方は食器用で、こちらはお風呂用にしようか。

 

 前回と同じくデュランダルを差し込んで、シャオクに石鹸を取り出してもらう。

 このままでは大きいので、半分に切って木枠に戻し、濡れないように浴室の外の棚に仕舞っておこう。

 使用分がなくなっても納屋まで取りに行かなくて済む。

 

 まずは皆で服を脱いで、先に洗濯をすることにした。

 桶に移したお湯の中で湿らせた衣類を泡立てた石鹸で洗っていく。

 

 きっと皮脂とかそういう、今までの水や湯だけでは落としきれなかったやつを取り除いてくれるはずだ。

 濁った桶の中の湯を取り替え、水受けに溜めたお湯から新しく注いで、今度は泡が出なくなるまで濯ぐ。

 

 想像以上にお湯を使っているようだ。

 デュランダルを消した分まるまる浮いていたポイントをMP回復速度に振りつつ、溜めていた湯を補充する。

 

 洗い物も一通り終わったので衝立にでも掛けておくか。

 ハンガーみたいなものもほしいな。

 

 

 熱気と作業で体は冷えていないが、早く湯に浸かりたい。

 

 放置していた湯船の温度を確かめ、すこし熱めのお湯を足して調整した後、体を洗おう。

 いや、まずは髪か。

 

 手桶に掬ったお湯を頭から被り、髪全体を濡らす。

 何回か流してホコリとかは取れたであろうくらいで、石鹸だ。

 濡れた手で泡立てて、頭皮に揉み込むように洗っていく。

 

 わしゃわしゃと指を動かすと、細かい泡立ちで髪が包まれていく。

 しかしロングヘアは大変だなこれ。

 

 

「アコもシャオも、こんな感じで石鹸を泡立てて髪から洗っていってね。

 拭くときと同じように、体の上の方からやっていけば汚れがきれいになっていくから」

「はい!」

 

「お嬢様、お手伝いいたしましょうか?」

「うん、ちょっと髪が多くて大変だからお願い」

 

 

 最初はたどたどしかったものの、湯の中でやっていたのとだいたい同じだと分かってきたようで、毛先の方まで丁寧に泡を馴染ませてくれているようだ。

 その間に自分は肩から腕へと、泡のついた手拭いで擦っていく。

 もっと少量で泡立ちのいいスポンジってないのかなぁ。

 

 

「ねぇ、洗い物に使ったりするもので、乾かした植物の繊維のものってあるかな?」

「植物の繊維ですか」

 

「コイチの実のふすま、ではなくてですか」

「うーんと、もっとこうそのままというか……」

 

 

 ヘチマタワシみたいなやつ、なんてのは通じるわけがないよな。

 

 

「水気の多い実の植物なんだけど、干しておいて水分が抜けたものだったり、茹でて皮とか種を取り出して繊維だけにしたやつ……じゃ通じないか」

「ファルフでしょうか……?」

 

「え、あるの?」

「お嬢様が仰っているものかはわかりませんが、似たようなものは見たことがあります。

 祖父が馬や牛につかうブラシ代わりに使うこともありました」

 

 

 それっぽいな。

 名前はどうでもいいが、ウリ科の繊維のしっかりしたものに近ければいい。

 

 

「サラトタの更に奥の方に生えている植物なのですが、毒があるので食べないようにと祖父から言われておりました。

 狩りに行った際に、極稀に乾いたものがあったら拾ってくるという程度ですね」

 

 

 そうか、ヘチマは食中毒があると聞いたことがあったな。

 単にそれを食べなければいいというだけでなく、その花から別のウリ科が花粉を受けて、毒性の高いものができてしまうこともあるという文面も見た気がする。

 

 となると小さな村では他の食用の野菜があるので栽培はできないし、したところで売りに行くには馬車で時間もかかる。

 もとが毒のあるもの、なんて聞いたら売れるものも売れないだろう。

 経由にノポモの大農園を通るなら、通行すら拒否されるかもしれない。

 

 アコルトのおじいさんが自生場所を把握しているなら、買い取らせてもらうの───

 

 

「もゅわあああ!」

「……いかがされましたか?」

 

 

 きょとんとした顔で首を傾げるウサ耳少女。

 シャオクは自分の声に驚いて自身を洗う手を止めている。

 髪が泡まみれだ、もこもこでかわいい。

 

 

「……なにしてるの」

「御髪は終わりましたので、そのまま御身体へと」

 

 

 冷静になろう。

 アコルトはいつもと同じことをしているだけなのだ。

 

 頼まれた髪を洗い終わり、そのまま背中へと移る。

 自分が物思いにふけって肩と腕までで手が止まっていたので、アコルトの丁寧な手付きは順番に背中以外の場所へと伸びていく。

 今日はたまたま、その時に手拭いに泡がついていたので滑りがよかっただけだ。

 

 

「洗うのは、髪と背中までで、大丈夫、だからね!」

「はい、お嬢様のお手が止まっていなければ」

 

 

 それは分かってくれてるんですか?

 大きく息を吐いてから足先まで急いで洗うと、桶の湯を被り泡を洗い流す。

 

 3人ともしっかり汚れを流したので、湯船に入ろうか。

 今日は水量を調整したので高さもバッチリだ。

 

 2人とも寄ってきて、肩を寄せ合って力を抜いた。

 各々の場所でもいいんだよ?

 

 

「アコ、体調はどう?」

「はひひょうぶです……」

 

 

 おー、溶けてる溶けてる。

 熱っぽいのではなく、純粋に気持ちよさそうな様子だ。

 たぶんこのほかほかうさぎさんは、もう風呂の魅力からは逃れられまい。

 

 

「シャオも、具合が悪いとかはない?」

「気持ちい……あ、元気です!」

 

 

 種族的にも熱に強いとかあるんだろうか。

 体の芯から温まる快感には誰も抗えなさそうな気がする。

 

 

 

 入浴を終えて後始末もして、水分を取りつつ寝室へと移動する。

 髪もキシキシとはしてこないので、石鹸で傷んだ様子もないようだ。

 

 すべすべとした肌の感触と、ほんのり香るミルクと柑橘の香りがうれしい。

 アロマオイル的なちゃんとした香料には程遠いが、あの材料でなら上出来だろう。

 アコルトの毛並みやシャオクの髪も、なんだか艷やかに見える気がする。

 

 キングサイズのベッドといえばシングルベッドを2台並べた大きさのことをいうが、ここには3台分を詰め込んであるのでその5割増しの大きさだ。

 もともと個別で3台のつもりだったが、組み立ての時点で一繋ぎになっているので、上に乗る布団の単位が分かれているだけに過ぎない。

 

 昨日はアコルトを休ませるためにそれぞれの布団に分かれて寝ていたが、今日はどうだ。

 寝室に着くなりアコルトとシャオクにそれぞれ端に陣取られたので、必然的に真ん中が自分となる。

 (あるじ)としてはこの位置が正しいのだろうが、壁が近いほうが安心できる気がするのは何故だろう。

 

 日中の馬車とは雲泥の差の柔らかい布団に身を埋め、これなら疲れも取れるだろうと思ったところまでで意識を手放した。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/巫女Lv3
(村人5 農夫1 戦士17 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 森林保護官23 奴隷商人1 盗賊1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv19



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次回は3/17更新の予定です。

キリが悪くてちょっと長めになりました。
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