昨夜はしっかり休息できたためか、少し早めに目が覚めたと思う。
それでも以前より明るい気がするのは、こちらでも同じように夏へ進むと日が長くなるからなのだろうか。
ふと横を見てみると、左には布団の中で丸まったシャオクが、右にはアコルトが手を取ってぴったりと引っ付いていた。
君たち自分のベッドは?
全然構わないんだけど、こんなにベッドが広くなくてもよかったな。
寝具も2人分でよかったかもしれない……なんてぼんやりと考えているうちに二度寝をかまし、本日も揺すられて起きる事になった。
移動の際の荷物は少なかったので、昨日着ていた服に似たものに着替え、身支度をしていく。
長いままだと馬車の中で汚れてしまいそうなので、本日の髪型はおさげを巻いてお団子になっている。
朝食を運んできてもらうようにお願いして2人を宿の部屋へ送り出し、自分はというと台所で肉を焼くのである。
あ、竈の火付けはどうしよう。
ファイヤーボールを撃ち込むのはゆっくりでもマズそうだし、ファイヤーウォールを出して火ばさみで掴んだ炭につけてみるか……?
火打ち石の使い方に悩みながら階段を降りて向かってみると、すでに竈の火は起こしてあって、火力も安定していた。
ありがとう、仕事のできるアコルト様。
アイテムボックスから出したラムを一口大程度に切り分けて塩コショウを振り、フライパンにオリーブオイルを伸ばす。
スジもそんなについていなくて食べやすそうだ。
温まったフライパンにまな板からドサッと肉を入れて、木べらを使って並べていった。
菜箸、作ってもらおうかな……。
片面に焼色がつくまでの間に、ラムをもう一つ取り出して今焼いているものより小さめに切る。
少々火力が強くなってきたのか油が弾けてきたのでフライパンを火から外し、肉を裏返していく。
全て返し終わったら火の上にもどし、焼き時間の間に壁に向かってワープを発動した。
「ありがとうございます、お嬢様」
「朝食をお持ちしました!」
宿の部屋に繋げたゲートから、アコルトたちが出てくる。
昨日と同様に数人前ずつの料理が乗った器と、無造作にパンが突っ込まれたカゴを持ってきてテーブルに並べていく。
「料理の皿だけ持ってきて~!」
「はい、只今お持ちします」
ウチの食器を汚すのも面倒なので、宿の料理の上に焼いたラム肉を乗せていった。
その間にアコルトには竈の火の調整をしてもらう。
うーん、ただの炒め物より数段美味しそうだ。
ギルドの買取額でもラム1つ60ナールなのだから、そりゃグレードも上がるってもんだ。
手も洗い直して食事の準備もできたので、揃って食べ始める。
食材1つでも、足されると満足度が違うな。
飲み物が水なのが申し訳ない。
この遠征が終わったらハーブティー用の茶葉や容器も買いたい。
種から育てている畑の方は、料理に使えるようになるまで相当かかると思うし。
普通に考えたら1日2日じゃ発芽すら無理なはずだ。
もしかしたら、あの塗料爆弾の植物のように現代に比べて成長が早かったりするのだろうか?
でもまぁ農夫のジョブを取得できた時点で、あとはおまけみたいなもんなんだよな。
草木の手入れって大変だし、ひと月くらい様子を見て無理そうなら購入のみにしたっていい。
「そういえば、お弁当ってお願いできた?」
「はい!
代金は払ってあるので、器を返す時に受け取ってきます」
今日は抜かりなく昼食の用意もできそうだ。
食材は一緒でいいので味付けだけ変えてもらい、パンに挟んでもらえればいいと伝えてある。
どうせ肉をこちらで足すので構わない。
食べ終えた後は再び宿行きのゲートを開き、食器の返却だ。
2人が弁当をもらってくる間に、追加の肉を焼こう。
小さめにしたのは肉野菜炒めサンドを頬張ることを考えてだ。
先程の油が残っているフライパンで、肉を焼いていく。
火が通るまでの間にまな板と包丁を洗い、乾燥できるように立て掛ける台へと戻す。
混ぜるように焼き、その間にまたワープを発動しておくとパピルスの包みを持った2人が抜け出てきた。
まだ温かいそれを開いてみると、先程食べたパンに先程食べた肉野菜炒めが挟まっている。
「同じじゃない、中身?」
「シェーマの粉が入っているので、朝食のものより少し辛めだそうです」
「そっか、ちょっとでも違うならいいね。
焼いたラム肉を入れていくから、全部開いちゃって!」
5つの惣菜パンになるべく同量ずつ詰めていくが、自分の食べる量を考えて1つだけ控えめにした。
包みに印でも付けておくか。
アコルトに炭の始末をしてもらい、シャオクには調理器具を洗ってもらう。
流石に扱いは心得ているらしく、石鹸で洗ったりはしなかった。
手入れ用のオリーブオイルの瓶から少し取って、まだ冷める前の熱い竈で馴染ませている。
こちらの洗い物にも、ファルフだったかのタワシがいりそうだな。
パピルスの包みを戻して、水筒の水を補給する。
果物の残りもリュックに詰めておこうか。
もう少しで御者との待ち合わせの時間になると思うので、そろそろ行かなくては。
忘れ物はしていないかな?
「大丈夫なら、そろそろ宿を出て御者のところにいこうか」
問題もなさそうなので、3人でゲートを潜ってウネリアの宿の部屋へと移動する。
シャオクが休憩で座っていた程度のベッドを、念の為一晩寝ました風に布団を掛け直しておいた。
フロントの従業員に鍵を返却して礼を述べ、宿を後にした。
御者の家にやってくると、すでに馬車に馬を繋いでいるところだった。
「おっ、おはようございます。
お約束通り、今日はサラトタ行きの片道で間違いないでしょうか?」
丁寧に直っている口調が逆に不審に思えてくる。
聞いてみると、自分たちに失礼がないように奥さんに怒られて修正されたらしい。
馬房の陰にいた女性がニコりとして目が合ったので、会釈を返す。
「では料金をこちらに受け取りまして……、はい。
お忘れ物がないようでしたら、出発してよろしいでしょうか?」
これはこれで気持ち悪い気がしてきた。
いっそのこと会ったときの口調で構わないと伝えてみたが、顔は笑ったまま目だけで馬房の方を確認していたので察した。
修正じゃなくて粛正でもされたのか?
「問題ありませんので出発しましょう」
「かしこまりました、すぐにでも。
ええ、すぐにでも出発しましょう!」
その場から逃げるように馬車が移動を開始し、これはまた帰ってきたら怒られそうだなと思いながらサラトタ行きの旅が始まった。
貸し切りということで昨日ほどではないが高めの料金を支払っているからか、干し藁が増量されてその上にはシーツが敷いてあった。
どうやらこれも奥さんの指示らしい。
振動も軽減……はそんなにされていないが、少なくとも硬い床板にまばらな藁の上ではなく、結構なふかふかの藁に3人とも座れているのはありがたい。
どうせ往復分の馬の餌は積まなくてはいけないのだし、シーツ1枚で気分だけでもよくさせるのは賢いな。
ある程度町を離れて林道を進む頃、御者の緊張も解けたのか話し方も戻ってきた。
「さすがにここまでくれば……、よし。
じゃあ改めて、今日はサラトタ行きだ。
途中、また川の近くで休憩を入れた後、夕方前には村に着く。
そっちのお嬢ちゃんは来たことがある感じだったか?」
「はい。
以前は住んでおりましたがしばらく離れておりましたので、存じ上げないこともあるかもしれません」
「ああ、それは構わないな。
それで仕事が増えたようなもんだし。
いや、住人の顔馴染みがいてくれるだけで話が早いぜ」
どういうことだ、とチラリとアコルトの方を見ると、なにやら納得した様子で頷いていた。
「あの村の衛兵……というか見回りがすごくてな、いつの間にか弓矢を向けられて『目的は?』なんて聞かれるんだぞ。
俺も何度か通って顔を覚えてもらうまでは苦労したぜ。
村の規模は小さくても、ウネリアなんかよりよっぽど住人は安全だと思うぞ」
アコルトが耳に顔を寄せてきて、「おそらく祖父の関係者です」と呟いた。
急に吐息混じりで囁かれたので、なにかくるものがある。
自分は耳が弱点だったらしい。
「知り合いかと思われますので、私が対応いたします」
「おお、助かるな!
村に着く前になると思うが、その時は頼んだぞ」
憂いが取れて調子の良くなった御者に影響されてか、馬車を退く馬も快走している。
ノポモウネリア間は迷宮も討伐され魔物が出ないとしても、サラトタには魔物が出ることがあるらしいし、アコルトが入ったことのある迷宮も周囲のどこかにあるのだろう。
巡回があるのも当然と言えば当然か。
そうすると盗賊も警戒されているサラトタ周辺には寄り付かず、いてもウネリア側だろうな。
そのウネリアもノポモの兵士にすぐ泣きつけるのだから、周囲にはいないのかもしれない。
ああ、それでリュタルゴは村ぐるみなのか乗っ取られているのかまでは分からないが、盗賊が固まっていたのか。
アジトのように隠れて屯っているよりも、住人として堂々としていた方が疑われにくいだろう。
でも1人でいただけで襲ってきた奴もいたが……、あれは村の奥に入りすぎたからかな?
順調に馬車は移動を続け、鐘は聞こえずともアコルトたちの体感でいう昼前には目的の休憩地へと着いた。
馬車を停め置くスペースが木陰になっている場所だ。
リュックに入れてきた弁当のパンを広げて頬張る。
当然すっかり冷えてしまってはいるが、普通の肉は硬くなってきているものの、ラムの方はそこまでだった。
やはり迷宮産、迷宮産は信頼できる。
それでも常温なので、朝食べた出来立てほどの美味しさはない。
宿の食堂が入れてくれたピリ辛のシェーマの葉のアクセントがなければ、ちょっとしょんぼりだったかもしれない。
弁当は弁当用に冷めても美味しい料理があるといいな。
電子レンジが切実に恋しいが、この世界であんなものを作れたら、錬金術師どころかその上位のジョブまで余裕で解放されそうな気がする。
端的に言って自分には無理というやつだ。
昨日と同じくデザートに果物を剥いて食べた後、馬車での移動を再開する。
満腹になったので非常に眠たいが、哨戒しているサラトタの住人と出会した際に、アコルトの既知の人物相手に主人が寝ていてはバツが悪いので頑張って起きていよう。
なにかしておくことは……と考えたが、シャオクのジョブくらいか。
昨日の宿は主人のインテリジェンスカードだけでいいと言われたので、変更は特にしていなかった。
この後は別行動をすることもメンバーが外れるようなこともなさそうなので、シャオクをリーダーにパーティーを組み直して置いたほうが無難だろう。
アイテムボックスの中身を預かり、ジョブを鍛冶師から探索者に変更してパーティーを解散する。
すぐにシャオクから勧誘が飛んできたので了承した。
これで全員のカードチェックがあっても問題ない。
……里帰りなら手土産が必要なのでは?
そっとアコルトに確認してみるが、身売りした娘がちゃんとした主人に召し抱えられても、戻ってこられること自体がまずないのだという。
身売りした時点でもう家族には会えないのが当然であるので、会える機会を用意してくれた主人がさらに礼を尽くすのは、恐縮するどころか怪しすぎるとまで言われてしまった。
余ったラム肉でも使ってくれって渡せばいいのかな……。
自分たちではほとんど使う様子のない滋養丸あたりは、もらっておいて困らないだろうか。
あれはどうだ、これはどうだ、と聞いてみるも結局アコルトの家族が受け取ってくれるかどうかだ。
一度村まで移動できたら、今後もワープで気軽に来られることのほうがよっぽど重要だしな。
日が傾きだした頃、何かに気づいたらしいアコルトが馬車の外を気にし始めた。
「来ましたね」
「えっ、何が?」
あちらです、とアコルトが指した方向を見つめると、遠くから馬が近づいているようだった。
さらに寄ってきて見えてきたのは、馬上で弓を引き絞る男だった。
盗賊か!?
…………単身で?
慌てて幌の陰に隠れつつ、目を凝らして鑑定を念じてみた。
オラガル 兎人族 ♂ 62歳 狩人Lv66
兎人族だ。
ジョブも盗賊ではなく狩人だし大ベテランの域だろう。
すごい勢いで近づいてくる男の頭上には、長い耳が立っていた。
安心する暇もないまま、鏃の先を少しばかりこちらからずらして御者へと話しかけてきた。
「ああ、なんじゃお前か。
ということは診療の訪問は遅れるということか」
「毎回驚かさないでくださいよ……。
後ろのお客が案内所に聞いた話には、明日らしいです。
その前に入れ違いで希望者がいれば、俺が運ぼうかと」
なんだよ、その口調でも流暢に話せるんじゃん。
というか咄嗟でもその対応になるほど恐怖を刻み込まれているのかもしれない。
強面の渋い声にウサ耳という、現代人からしたら反応に困る人物が、ジロリとこちらに目を向ける。
その視線を阻むようにアコルトが前に出て、口を開いた。
「ただいま、おじいちゃん」
「お前……いや、ア、アコルトちゃんか!?」
ここにもいたのか、ちゃん付け爺。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv28
魔法使いLv28/英雄Lv24/探索者Lv29/僧侶Lv27/巫女Lv3
(村人5 農夫1 戦士17 剣士9 商人30 錬金術師1 細工師1 薬草採取士30 森林保護官23 奴隷商人1 盗賊1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv22
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11
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次回は3/21更新の予定です。