ジョーが適合者と分かってからは、ミネ博士以下技術員の行動は早かった。
すぐに外に出て、一通りの実験設備を準備してしまったのである。
「俺、これから格闘者になるのか……?」
「まぁ、別に肉体改造されるわけではないので問題はないと思いますが……」
「なんか、漠然とした恐怖があるなぁ……」
そんなことを言いながら、シャープバックルの使い方が書かれた紙を読んでいるジョー。 そこにミネ博士がやってくる。
「それじゃあ、ジョーは変身の準備して。イツキは私と一緒に観察してちょうだい」
「はい」
「……よし、腹くくるしかねぇ!」
そういってジョーは準備されたシャープバックルを受け取り、低めの台の上に乗る。
ミネ博士とイツキは、研究員や技術班のいるテントに入った。
「各種モニター監視、問題なし」
「遠隔観測装置、準備よし」
「救護班の準備も出来ています」
「シャープバックルの最終調整は万全です。いつでもいけます」
「了解。イツキ、万が一ジョーが暴走した時のための対応よろしく」
「え?」
「それでは実験を開始します。ジョー、変身して」
テントの周り、インスタンスの窓や屋上からは、レジスタンスの戦闘員や避難民がジョーの様子を伺う。
ジョーはバックルを腰に当てる。ベルトが伸びて腰に装着された。
右手でアイテムを持ち、それを顔の左側に持ってくる。そのままアイテム上部のボタンを押した。
『シャープ!』
それをバックルの右側のスロットに装填し、回して固定する。
『セッティング!』
アイテムから右手を離し、ジョーは右腕全体を回し、左側に持ってきてポーズを取る。
右腕を体の左から右に持ってくると、ジョーは叫ぶ。
「変身!」
そしてグリップを回して抜刀する。
するとバックルから流体状の金属が溢れ、ジョーの全身を覆いつくした。
『ソードマン シャープ!』
変身は成功した。その様子を技術班はモニターから、戦闘員や避難民は目視で確認する。
「各種パラメータ、許容範囲内です」
「現実改変度、ごくわずかと推定」
「暴走の様子もない……。大丈夫そうね」
一応腰にバックルを装着していたイツキは、ひとまず安堵した。
「おぉ、なんだか力が湧いてくる感じがするぞ……」
自分の体をじっくりと見るジョー。装甲をまとっている分、重量は重くなっているはずだが、それを感じることのない身の軽さは驚きもあるだろう。
「戦力の増強に成功したわね。これでイツキの負担を軽減することが出来るはずだわ」
ミネ博士がジョーの元に歩み寄っていく。そこにはイツキもいた。
ジョーは変身を解除して、ミネ博士と向き合う。
「こいつはいいですな。昔の自分を思い出しますよ」
「それなら結構。あなた、戦闘は慣れている?」
「えぇ。銃はもちろん、刀剣や格闘戦もいけます」
「それならいいわ。今日からイツキと交代で当直室で待機してもらいます。6時間ごとに交代って感じかしら」
「了解です。良かったなイツキ。休憩出来るぞ」
「そうっすね……」
イツキは思わず苦笑いする。
それから数日、イツキとジョーは入れ違いで当直室に駐在することになった。イツキにしてみれば、それまでずっと待機状態だった上に、敵襲があれば真っ先に戦闘に身を投じなければならなかった。心身共にすり減らす生活をしていたのは確かだ。
それが軽減されたのは、とてもありがたいことである。久々にぐっすりと眠れたのも確かである。
そしてイツキが当直に入る時だった。
「敵襲ーっ!」
それを聞いたイツキとジョーは、言葉を交わす事もなく、全力で走る。
方角的には東の方角だろうか。そちらから、大量の「オール・ワン」の戦闘員がやってくる。
「こりゃまた大量の敵さんが出てきたな」
「この程度なら問題はないですけどね」
しかし今回は少し様子が違っていた。
敵の戦闘員の群れが、ぱっかりと左右に分かれたのである。
そこに出来た道から、二人の人間の影が現れたのだ。
「へぇ、君が例のアルファですか」
「その隣は……。なるほど、シャープに適合した人間らしい」
なんだか意味ありげにイツキたちのことを見る二人。
「あなたたちは一体何者なんです?」
イツキは単刀直入に聞く。
「私たちは『オール・ワン』の精鋭にして唯一の格闘者部隊のメンバー。つまり、あなたたちと同じ格闘者ってこと」
「今回は様子見をしに来たって感じですけどね」
「ちなみに私がルビー、こっちがスイフト」
ルビーが丁寧に自己紹介してくれる。
「目的がなんであれ、敵なら倒すまで!」
そういってジョーがシャープバックルを装着する。イツキも遅れてバックルを装着した。
そして、それぞれのアイテムを起動させ、バックルに装填する。
「変身!」
『ファイター ヘリクゼン・アルファ! ファイターフォーム・パワードミサイル!』
『ソードマン シャープ!』
そして二人とも変身した。
「では、その実力を見せてもらいましょう」
ルビーは腕を前に振る。すると、敵の戦闘員が一斉に襲い掛かってきた。
イツキは空中に浮かび、ミサイルを乱発する。一方でジョーは、接近してきた敵の戦闘員を片っ端から斬り捨てていく。
「はっ! ほっ! でぁ!」
軽快なテンポで戦闘員を斬っていく。
ジョーが近距離戦闘で戦うなら、イツキは遠距離攻撃で戦う。上空から雨のように降り注ぐミサイルと弾丸によって、敵の戦闘員は蹂躙されていく。
そしてものの数分で戦闘員が全滅した。
「ざっとこんなもんよ」
「さすがっすね、ジョーさん」
イツキも地上に降り、ルビーとスイフトに対峙する。
「んー……。まぁ、今日はここまでにしましょ。実力も測れたことだし」
「そうですね。敵が言うのもなんですが、お互い余計な血を流したくはないでしょう」
そういってルビーとスイフトは踵を返す。そしてそのまま煙のように消えてしまった。
「なんだったんだ……?」
「さぁ……」
そんなイツキたちを遠くから見つめる一人の男。カイドウである。
「……俺は、どうすればいいんだ……」
カイドウは「オール・ワン」の諜報部員に監視されていることを知っている。今回ルビーとスイフトが自分のことを追いかけているのも知っているのだ。
「あいつらが前線に出てくれば、間違いなくレジスタンスは負ける。そうすれば、俺への依頼は消える。だがそうなれば……」
カイドウは重い足取りで、その場を後にした。