《あと15秒で爆発します!》
〔621…お前の仕事はまだ残っている、集中を切らすなよ…!〕
深度3の超高出力レーザー障壁を停止させる為に巨大高炉の変圧チャンバーを破壊したわたしは炉心溶融が進んで爆発寸前の巨大高炉を脱出している。時間稼ぎの無人ACを退けて隔壁を抜け、アサルトブーストを起動。至る所から発生している爆炎を避けながら出口を目指す。
《レイヴン!入口から離れてください!》
〔爆発するぞ!衝撃に備えろ!〕
わたしが脱出した直後、巨大高炉が爆ぜた。入口の隔壁はひしゃげ、高炉からは炎が上がっている。
〔どうやら…間に合ったようだな〕
ハンドラーが思わず安堵したように声をあげた。
〔…見ろ、レーザー障壁が消えていく〕
下を見れば、エネルギーを維持出来なくなったレーザー障壁が出力を落としていく。
〔コーラルは近い、俺たちの仕事にも…ひとつ区切りが付くだろう〕
地中探査の終わりは着々と近づいている。コーラル集積地まではもうすぐのはずだ。
《レイヴン。アーキバスからの指令に加えて、ルビコン解放戦線からも依頼が届いています。差出人はミドル・フラットウェル、解放戦線の実質的指導者が…あなたに会いたいそうです》
高出力レーザーの先、未踏領域へ踏み込む目前でアーキバスから依頼が届いている。内容はレッドガン部隊の殲滅。ここでベイラムを完全に潰しておきたいというよのもあるだろうが、それ以上に目障りなわたしを使い捨てつつ敵部隊を消耗させるのが目的だろう。
それが分かっているのならば解放戦線の依頼を受けるべきなのだろうが…ここで禍根を残し、未踏領域へ向かうことが出来なくなるという事態は避けなければならない。やはりここはアーキバスからの依頼を選ぶべきだろう。
「621、仕事だ。アーキバスグループから依頼が入っている」
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独立傭兵レイヴン
これは当社系列企業シュナイダーからの依頼です
まずウォッチポイント・アルファにおける
アーキバスとベイラムの戦力状況をお伝えしましょう
先走り突入したベイラム部隊は
防衛兵器による損耗で離反者も相次いでおり
直近で発生した我が方との交戦においても
敗走を続けています
しかし敵方には依然としてレッドガン総長
G1ミシガンが健在であり
近く調整を終えた乗機ライガーテイルが
主力MT部隊を従えて投入されるとの情報があります
そこで、貴下にはこれを迎撃し
ベイラムを再起不能に至らしめていただきたい
なお、受諾なき場合はヴェスパー第4隊長が
これを代行することが決定されています
ブリーフィングは以上です
よろしくお願いします
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…アーキバスの目的は、目障りなわたしを使い捨てつつ敵部隊を消耗させるのが目的であると先程わたしは考えた。ならば、ここでわざわざV.IVラスティを単騎で使うのは…V.IVラスティがアーキバスにとって不利益をもたらしうる目障りな存在である、ということだろうか?
爽やかな言動とは裏腹に、彼がわたしに向ける鋭い視線から何かを隠しているとは思っていたが…
〔…やり遂げて戻れ。それ以上に俺から言うべきことはない〕
ハンドラーからの言葉はいつもと比べて簡素なものだ。多重ダムの際の会話を考えると、恐らくG1ミシガンとハンドラーは知り合いなのだろう。わたしがミシガンと交戦することについて思う所があるのかもしれない。
わたしも、彼からはG13を貸与されている。アイスワーム討伐作戦においても、スタンニードルランチャーという大役を任せられた。恩を仇で返すような真似になるが…独立傭兵というのはそういうものなのだ。躊躇いは捨てなければ。それが出来ないのなら、死ぬのはわたしなのだから。
〔………ミッション開始〕
《敵性反応。降下部隊、来ます!》
わたしの目の前にMTが降ろされた。交戦開始だ。
「突入しろ、役立たずども!」
「AC単機だと…?アーキバスめ…レッドガンを舐めやがって」
「舐めているのは貴様だ、ケネベック!そいつは壁越えにワーム殺し…何よりG13を付けてまだ生き延びている強運野郎だ。ライガーテイルの準備が整うまでは単独でかかるな、脱出レバーはいつでも引ける状態にしておけ」
ベイラムの掲げる物量による制圧への対策として、今回わたしはショットガン2丁に6連装プラズマミサイル、プラズマ機雷投射機という構成に変更している。アリーナでG1ミシガンの機体構成についても把握してきた。
近くの敵は回転体の投射とショットガンで仕留め、離れた敵と大量のヘリはプラズマミサイルのマルチロックでまとめて片付ける。
《第2波、来ます!》
「G5のイグアスも、こいつには相当やられてるらしい」
「イグアスだろ?負けが込んで逃げ出したとかいう…」
「無駄口を叩くな、オールバニー!イグアスは貴様らの100倍は強い、こいつはその20倍も強かったというだけだ。一体貴様らの何倍になるか…そのスカスカな脳みそで計算してみろ!」
「2000倍です!総長!」
「答えていないで手を動かせ!」
「!?了解です!」
漫才かと見紛うほどの掛け合いとは裏腹にレッドガンの攻めは苛烈だ。足を止めれば(今はタンクだが)火力を集中して蜂の巣にされることだろう。爆撃ドローンを叩き落とし、回転体の投射でシールドを叩き割っていく。
《第3波です、レイヴン!》
「突入するぞ!」
「おお!」
「ライガーテイルの調整完了は近い!それまで保たせておけ!」
「まずいな、美味しいところだけ持っていかれるぞ!」
「総長にはもうメダルも要らんでしょう、手柄は我々に譲ってもらいたいもんです」
「ならばG13を落とせ!落とせばベイラム碧色勲章ものだ!…あのメダルはいいぞ 投げると遠くまで飛ぶ」
勲章など無価値ということだろうか?交戦開始直後の脱出レバーやG5の評価からも、G1の人柄が伺える…今からその彼を殺さなければならないのだが。
…ライガーテイルの投入は近い。少しでも数を減らさなければ。ACS負荷限界に追い込んだ4脚MTへショットガンの斉射とブーストキックを繰り返して行動させず、一方的に撃破する。
「ライガーテイル、調整終わりました!」
「無理はせんでくださいよ、総長!」
「遅い!このまま終わるかと思ったぞ、ポトマック!」
…ついに…敵将が来る。
「…よく聞け、役立たずども。愉快な遠足の時間は終わった、直近に自殺の予定がある者だけが付いてこい!」
「了解です!総長!」
《G1ミシガン、ACライガーテイル、来ます!》
「行くぞ、ミシガン総長に続け!」
「ライガーテイルを援護しろ!」
「うおおおっ!」
G1が投入されると同時にパルスプロテクションを展開。パルス障壁がわたしのショットガンからMTを守る。
〔…いよいよ本命が来たか。621、押し切られるな。圧力はかわしていけ〕
ハンドラーが久方ぶりに口を開いた。
「戦線離脱した腑抜けは物陰で亀になっていろ!貴様らは教訓を得る必要がある、日記を付けておけ!」
自殺の予定…決死の覚悟を決めたMT部隊の士気は極めて高い。G1との交戦中にバズーカを撃ち込まれる訳にはいかないため、G1の攻撃を凌ぎながらMT部隊の撃破を優先する。
「不甲斐ないです、総長…!」
「その声は数学が得意なオオサワか!貴様は近接射撃訓練を2割増やせ。半年後には、かけ算以外もできるようになる」
MTは一通り片付いた。ショットガンと機雷投射機、プラズマミサイルを全て使ってG1を削っていくが、パルスプロテクションで射線を遮られる。強引に近づけばガトリングとミサイルで迎撃され、回り込めばプロテクション内部に逃げ込まれる。
《第5波!畳みかけてきます!》
まだ部隊が残っていたのか…流石に苦しいものがある。一旦G1から離れて部隊を迎え撃つ。
《ベイラム部隊、50機撃破…流石に打ち止めでしょうか》
「ひとり雇うだけで この戦力だと・・・!?」
「オオサワ!うちの幹部にも、算数の授業が必要だったようだな!」
「なんの、足し算で勝てばいい!」
最後の4脚MTも、先程同様反撃の隙を与えずにショットガンとキックで撃破。しかし右腕のショットガンは全弾、左腕も残り30%まで撃ち切っている。
《ベイラムMT部隊の殲滅を確認、あとはミシガンを!》
「ここからはシンプルな殴り合いだ。見て学んでおけ、役立たずども!」
先ほどまでのように躊躇していられる余裕も最早無い。リペアキットを使用してからG1の元へアサルトブーストで間合いを詰める。
ガトリングは加速力に任せて装甲で弾き、2連装グレネードと包囲してくる分裂ミサイルを横にクイックブーストで躱して肉薄。体当たりからのブーストキックで衝突する。
左腕から撒かれた爆撃を懐に潜り込んで回避し、回転体を投射。ショットガンも撃ち込んだら一旦プラズマミサイルを目眩しにして離脱。着実にダメージとACS負荷を蓄積させていく。
…ACS負荷限界。ショットガンで怯ませてからプラズマ機雷投射機を2度叩きつけたが、まだ足りない。ショットガンを捨てたことで空いていた右の拳を振るう。
3度目の拳でライガーテイルが爆ぜ、地面を転がった。
「聞こえているか、役立たずども!ミシガンは転んで死んだ、伝記にはそう書いておけ!」
《ACライガーテイル、G1ミシガンの撃破を確認》
〔………やったか…よく耐えた、621。仕事は終わりだ〕
…ミシガンは転んで死んだ。きっと部隊員達が復讐に走らないように、生き延びる理由を与える為の言葉だ。
あるいは、わたしのこの罪悪感を和らげる為の言葉なのかもしれない。
都合の良い解釈だけれど、ミシガン総長ならばもしかしたら…と思ってしまうのだ。
「ありがとう、ございました、みしがん…そうちょう」