幕間2.独立傭兵オルクスのわくわくな日々
続 眠らぬ街の逢瀬
「壁越え」を果たしたわたしに対してハンドラーは休暇を取って機能回復手術を受けてはどうかという提案をしてきたが、わたしにとってそれが今必要だとは思えない。
「壁越えの傭兵」という価値を示したわたしにはこれまで以上に多くの依頼が舞い込んで来たのだから、人生を買い戻すにはまとめて稼いだ方が良いだろう。
そう伝えると、ハンドラーはいつも通りふたつの仕事を取ってきた。1つ目は以前共闘したV.IVラスティの戦闘ログ回収、2つ目はBAWS第2工廠潜入および通信途絶の原因調査。
2つ目はルビコン解放戦線からの依頼だ。多重ダム、武装採掘艦、壁を攻撃してきた傭兵であるわたしにこのタイミングで依頼とはどういった吹きまわしなのだろう?
…解放戦線の考えは分からないが、わたしが考えた所で意味はない。今はいつも通り先に目が入った【戦闘ログ回収】を引き受けることにした。
「621、仕事だ。ベイラム系列企業から依頼が入っている」
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G13レイヴンに伝達!
ベイラム同盟企業大豊からの依頼だ
我が方はアーキバス強化人間部隊
「ヴェスパー」について調査している
今回の調査対象は…その第4隊長ラスティ
対象が壁越えにて侵攻した領域を洗い
撃破された残骸から戦闘ログを回収してもらいたい
なお「壁」は現在アーキバスが掌握し
同社MT部隊が駐留する調査拠点となっている
よって本作戦は連中の主力が配置換えを行う
間隙を突いて決行されなければならない
限られた作戦時間内に十分な件数のログを回収する…
これが今回の依頼内容だ
G13レイヴン!迅速な遂行を期待する!
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「621、そろそろルビコンにも慣れてきただろう。たまには撃ち合う以外の仕事もしておけ」
なるほど、普段とは違った立ち回りが求められるようだ。戦闘…弾薬費は最小限に抑えるべきだろう。
[メインシステム 戦闘モード起動]
(ミッション開始だ。周辺の機体残骸を探り、V.IVラスティとの戦闘ログを回収しろ)
作戦領域に到着、今回は制限時間のある依頼だ。この辺りの地形を考えるとまずは落下してきたグリッドの残骸の下から確認していくのが効率的だろう。
〔それだ、621。解析はこちらで行う〕
内容を確認…記録映像のようだ。この機体はかつてBAWS第2工廠に配備されていたらしい。次の仕事の作戦領域だ。何事もない日常風景でV.IVラスティとは関係無さそうだが…
〔このログは…コピーを取っておく、企業には必要ないものだろう〕
ハンドラーが言うには映像の片隅に干渉された形跡があるらしい。モニター欺瞞形式のジャミングを受けているそうだ。ハンドラーはこのログを保存して何に使うつもりだろうか…
〔ログを解析する〕
…仕事に戻ろう。壁際の方へ戻り、二つ目のログを確認。機体の制御状況の確認出来るシステムログだ。FCSがフル稼働していた形跡が見られるがまるで敵機を捉えられていない。V.IVラスティの速度に翻弄された極めて一方的な戦闘だったようだ。
〔V.IVの実力を示す情報にはなるだろう〕
今度は目的の情報を得られた。次のログはすぐ目の前だ。プラズマミサイルのマルチロックで周囲の安全を確保。
〔これで3つ〕
内容は…文書データだ。目的のものではない。
〔…コーラル湧出状況の裏取り程度にはなるだろう〕
次を探そう。壁から離れて下へ向かう。
〔解析していくぞ〕
周囲のMTを片付けてからログを確認。今度はしっかりとスティールヘイズが写っている映像だ。シュナイダー製高機動フレーム“NACHTREIHER”を軸に手数や速度で優れる武装が携行されている。以前オルクスが、
『ヴェスパー部隊はEN武器の使用を推奨していて実弾武器は通常運用されないらしい…俺は瞬間的な衝撃に優れる実弾が好きだからヴェスパーには向いてないな』
と言っていたはずだが、V.IVラスティはそれを使いこなしているようだ。
〔有用な情報だ 調査対象の乗機構成が見て取れる〕
すぐ近くにてBAWSの旧型ACの残骸を発見。左腕には大型のチェーンソーを装備している。
〔これで5件〕
内容は…ルビコニアンのアクスという人物の日録らしい。どうやらこの機体のパイロットのものでは無さそうだが…何気ない日常が語られている。
〔………価値のないログだ〕
この辺りにはまだ2つ残骸があるようだ。確認しよう。
〔解析する〕
作戦開始前に交わされた同志との会話のようだが…
〔…これも価値のないログだ〕
またしても外れのようだ。次の残骸は…ジャガーノート?もう一機いたようだ。輸送されて来たMTを片付けてから内容を確認。V.IVラスティとの交戦中に通信の接続を試みていた形跡がある。この口ぶりは…説得?
〔興味深い内容だ 高値が付く可能性がある〕
残り時間も迫っている。崖下に降りてMTの残骸を確認…どうやらこの機体のパイロットは作戦開始と同時に脱出レバーを引いたようだ。
〔売れる情報ではないな〕
〔どうやらこれが最後…〕
「そこのAC!私たちの同志じゃないね…!お前か…お前がみんなをやったのか!?」
残骸に近づくと、上からACが降ってきた。バトルログのターゲット、ルビコン解放戦線のリトル・ツィイー…ACユエユーだ。ここにいる彼女の同志をやったのはV.IVなのだが…場所は違えどわたしがやったのも確かだ。人違いとは言い切れないだろう。
〔…解放戦線の生き残りか。相手をするなら時間はかけるな、目標達成を優先しろ〕
「恥知らずの…企業の狗め!出ていけ!この惑星から出ていけ!」
アラートに反応してグレネードを回避。ツィイーという名前は先程確認した2つ目の価値のないログに出ていた筈だ。彼らは、戦場に出るべきではない、ちゃんと恋をして幸せな人生を…と非番だったことに安堵していたが…彼女のほうからアーキバスの占領する場所に飛び込むようでは全て無意味だ。
「私だってコーラルの戦士だ 負けるわけにはいかないんだよ…!「灰かぶりて 我らあり」だ!」
警句を唱えながら近接武器もない癖にこちらへ突っ込んでくる無謀なユエユーをパルスブレードで迎撃。更にショットガンを撃ち込む。
「欲に塗れた傭兵とは…違うんだよ!」
こちらのことを好き勝手言いながら放たれるグレネードは照準が追いついていないのか見当はずれの方向へ飛んでいく。反動で脚を止めた所をパルスブレードで切り捨てた。
「ごめんよ…アーシル…約束…守れなかった…」
どれほど正しい言葉も実力が伴わないのなら無意味、戦場とはそういうものだ。30秒も掛からない戦闘だった。
最後のログを確認…これはV.IVラスティの暗号通信だ。
“時が来…らファーロ…がエルカノ…技術を…供…る
それ…では隠し通…なければ”
ファーロン…エルカノ…どうやらV.IVは何かを隠しているようだが…
〔…621、このログは高く売れるぞ…まだ時間はあるが目ぼしい残骸は全て調査した。621、仕事は終わりだ。帰投しろ〕
今日の仕事はここまでだ。アーキバスの主力部隊が戻ってくる前に帰投する。
[新着メッセージ 2件]
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G13 レイヴン!
貴様の働きでV.IVの情報が多少は集まった
ミシガン総長にも報告しておこう
もう一点! 自己紹介がまだだったな
俺はコールサインG6 レッド
精鋭部隊レッドガンの末席に名を連ね
貴様のような独立傭兵の相手をしている
これからも使い倒してやるから覚悟をしておけ!
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いつもブリーフィングで聞く声の主はレッドガンの番号付きだったようだ。恐らくだが、ルビコンにいるうちは長い付き合いになるだろう。
もう一つのメッセージは…また傭兵支援システムからだ。
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登録番号Rb23識別名レイヴン
貴方の実績情報が更新されました
機体OSに対する強化権限が付与されます
もう一点
オールマインドは貴方を戦闘機能検証プログラム
「アリーナ」へと招待することを決定しました
アリーナは登録傭兵の技能向上支援を目的とした
仮想戦闘シミュレータです
ルビコンにおける傭兵の格付け
それを測るひとつの指標となるでしょう
奮ってご参加ください
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なるほど、アリーナに参加することで謝礼のCOAMとOSTチップを獲得出来るらしい。利用出来るものは活用させてもらうとしよう。早速シミュレータを確認することにした………
…やってしまった。
ベッドに腰掛けて、シャワー音から意識を逸らす。
…一応言っておくが、ヤってしまってはいない。
いつも通り行きつけの酒場を出て帰ろうかという時に、以前に声をかけてきた身売りの少女を見かけた。
彼女自体は今日までで何度も見かけていたもののトラブルに巻き込まれたくないのでずっと無視していたのだが、日に日にやつれていく姿に見かねて手を差し出してしまったのだ。
俺が誰かの理不尽に憤れるような殊勝な性格をしていないことは俺が一番良く知っている。俺は自分の利益になるかどうかでしか物事を測れない人間だ。621に近づいたのだって原作知識を踏まえて敵対すべきじゃないと考えただけだからな。
このグリッドにいる身売りの女なんて基本的に寝ている隙に金目の物を抜き取って蒸発するような連中ばかりだ。実際、飲み仲間も何人かは引っかかって泣かされているからこれまで無視して来たんだが…
「えっと…傭兵のお兄さん、身体…綺麗にしてきました」
『…机の上に食べ物を置いておいた。味気ないレーションしか無くて悪いが』
考えているうちに彼女はシャワーを済ませていたらしい。ACのコックピットに非常食を常備していて良かった。
「…!ありがとうございます」
お世辞にも美味しいとは言えない、栄養補給用のレーションを頬張る彼女の顔つきは幾分かマシになったようだ。
色気のない身体には客が寄ってこず、金がないから身体はやつれ、汚れていくばかりでさらに客足が遠のいていく。
本当にルビコンで生きるってのは厳しいねぇ…
俺だってレイヴン先輩に拾って貰えなかったら雪原で凍死…いや、あれは普通に解放戦線から逃げた俺が悪いわ。彼女は生きる為に取れる手段がアレしかなかったということだろう。
「…ごちそうさまでした。その…お兄さんが初めてのお客さんなので、上手く出来るか分からないですけど…頑張ります」
『あ、そういうのは良いから』
「え」
だって、性病とか怖いし…クッソ失礼だから本人には言わないけど。ただでさえ前世では風呂場ですってんころりんというクソダサい死に方をしてるのにえっちして病気感染されて死ぬとか恥を重ね過ぎる…俺はChapter4に入った辺りで「この星を出て…普通の人生を…」して今度こそ天寿を全うするつもりなのだ。
…これでもし彼女がそういう行為にノリノリだったら期待させるだけさせて何もないクソ客なのでは?
まぁ良いや、所で彼女は1人も客捕まえられてないのか。本当に向いてないよ…
身体売っても食うに困るとか、かなり詰んでる…住む家も頼れる家族もないんだろ?俺が養うのは出来ない訳じゃないが余裕はないんだよな…こういう孤児を拾うシチュエーションで対価の代わりに家事をやってもらうとかあるけど…やってもらうことが特にない…
…独立傭兵になればオールマインドがガレージヘリを格安で貸してくれるし他の傭兵みたいに欲をかいて一攫千金とか言い出さず現実に立ち回れば衣食住を自分で確保できるよな?
いやいや…子供に戦いを強いるとか、やっぱり俺はクッソ無責任な偽善野郎だな。いや、そもそも彼女に手を出してる時点でお察しなんだが。どうしたものか…
「…私を目的もなく一晩買ったり、美味しいご飯を用意してくれたり…もしかして傭兵って儲かるんですか?」
あ、君の方から言ってきちゃうのか…そりゃそう考えるよね。
『俺はまぁ結構反則使ってるからなぁ…死ぬリスクの方が高いぞ』
「でも、お兄さんがいなければ私はきっと…このまま待つよりも、自分で現状を変えたいです」
………さてはこの少女、レイヴンポイント高いな。
「私を、傭兵にしてくれませんか?」
◯ソフィー
ラスティと戦闘して死んだ
◯オルクス
超無責任クソ野郎
孤児を墜としてる暇があるなら621に会えよ
◯身売りの少女
オルクス曇らせ要員
本編ではオルクスに会えずに死んでるか身売りで大成功してると思います