…ザイレムを撃墜した後、喪ったものを偲ぶ暇もなく私達の戦いは続いた。
アーキバスの残党をルビコンから追い出す為に、バスキュラープラントに吸い上げられたコーラルを簒奪しようとやって来た企業を追い払う為に、そしてより強大な戦力を伴ってルビコンの鎮圧に現れた惑星封鎖機構に独立を認めさせる為に。
解放戦線の精神的支柱にして自由意志の象徴たるレイヴンとして、私はひたすらに戦い続けた。そんな私の側にはエアが居て、ラスティが居て、ブランチも力を貸してくれていた。
ここに居ないのはウォルターとオルクス、そして彼の友人であるふたりだけだ。
友人たちの助けもあって、ルビコンは独立を宣言。一つの惑星としての自由を取り戻した。
…しかし、戦いばかりで未だ手の回っていなかったコーラルの破綻については無策。現在は安定しているものの、この状況から破綻はオーバーシアーの杞憂だったなどと楽観出来る根拠は皆無だ。
サム・ドルマヤンの助力もあり辛うじて星外への流出は避けているものの、未だコーラルはルビコニアンたちの糧として、エネルギーとして、一方的に搾取され続けている。
《レイヴン、本日はシュナイダーからの客人との対談です。恐らく…ALBAへの技術提供に対する対価としてコーラルの催促に来るつもりでしょう》
「…なんとか、時間を稼がないとね」
未だ破綻への備えが整っていない状態でシュナイダーにコーラルを持ち出されれば人とコーラルの共存どころではない。破綻のリスクがある地点が更に増してしまう。
対談相手をフラットウェルと共に待つこと少し。指定されていた10分前にシュナイダーの役員は現れた。
「ご機嫌よう、レイヴン様にフラットウェル様。わたくしはシュナイダールビコン支社計画の代表、フローレイン・ファーニスと申しますわ!」
「あ、よろしくお願い致します…?」
強烈な自己紹介と共に現れたのは容姿の整った女性。ルビコン支社という話は聞いていないけれど…問題はそこじゃない。
「それと、こちらはわたくしの秘書兼護衛の…」
「…エノメナ、だよね」
「…うん、久しぶりだね。レイヴン、エア」
フローレインの後ろに控えていたのは、成長した姿のエノメナだった。こうして彼女と直接会うのは温泉以来、話をするのは…オルクスの訃報を伝えた時以来だった。
「あら、おふたりは既にお知り合いのようですわね…積もる話があるようでしたら、わたくし達で先に話し合いを進めておきますが…」
「じゃあよろしく…レイヴン、少し付き合ってくれる?」
「…分かった」
…フラットウェルに利権問題を任せて良いのかは不安が残るけれど、流石に断ることは出来ない。
「オルクスのこと、ごめんなさい。私が巻き込んだから…」
「貴方は悪くないよ、レイヴン。『やり残したことがある』なんて言って首を突っ込んだのはお兄さんの方なんだから、むしろ貴方が被害者でしょ」
彼女が気丈に振る舞っているだけなのは明らかだった。
「お兄さんは酷いよね。人に向ける優しさも、自分で背負う責任も中途半端なんだもん。そのせいで、貴方はいまだに彼のことで自分を責めてる」
「…貴方だって、そうなんだよね?」
「…うん、今でも考えるんだ。貴方の戦いに連れて行って貰えていたら、彼を助けられたのかなって。そんな未来、少なくともあの時の私にはありえないのに」
「……………」
「…彼、わたしの思いを…隣で戦いたいって知ってたんだって」
エノメナは悔しそうに顔を歪め、拳を握り締めている。
「『憧れてくれる気持ちは嬉しいけど、私を守れる程強くないって…!』私は!彼に守られたいんじゃなくて!彼の力になりたかったのに…!彼にとって私は結局守るべき対象で、舞台にすら上がれていなかった…」
慟哭のあと一息ついて、落ち着いた口調で彼女は話を再開した。
「…ごめんなさい。こんなこと言ったら、また気負わせちゃうよね…こんな話をしにきたわけじゃないのに」
「…大丈夫」
それは、オルクスを守れなかった私が背負うべきものだから。彼女の本音が聞けて良かった。
「ありがとう、やっと落ち着いた。今回ルビコンに戻って来たのは…コーラルについて…そして、エアについて話したいことがあったからなんだ」
《私について…ですか?》
「私とケイトはお兄さんの死を知った後、フローレインとの縁でシュナイダー社に加入することになったんだ」
「そういうことだったんだ…ここで会うと思わなかったから、驚いた」
「ミドル・フラットウェルがシュナイダーへ技術提供を求める対価としてコーラルの利権を持ち出したのは流石に知ってるよね」
「うん、そして…その契約は私のせいで保留されている。コーラルは私達と同じだから」
「私はエアの存在を知っているから、貴方がそうした理由は何となく理解出来る。だから、シュナイダーとルビコンが対立するのは避けたかったんだ」
「…ありがとう」
「それで今回、フローレインとケイトの力を借りて代替案…技研の遺産とか、カーマンラインの調査とかで技術者を黙らせようって相談に来たの」
エアの存在を知っているエノメナがルビコンに残っていてくれたらと思ったことはあった。けれど彼女は…私とは違う場所でコーラルの事を考えてくれていたらしい。
「貴方達の恐れている破綻はルビコンだけの問題じゃない。私達もシュナイダーの側として、力になりたい」
『ありがとう…!』
私は選択の果てで「宇宙に1人取り残されたC4-621」とは違う可能性を掴み取った。しかし、ルビコンにおける「レイヴン」の物語は未だ結末を迎えていない。
破綻への備えに人とコーラルの未来、そして企業との確執。未だ問題を解決する具体案はないけれど、私は別れを踏み越えて確かに進み続けている。
初めて彼に救われたあの日から、私は星をずっと追いかけてきた。
1度目は焦がれるだけに終わった。星を追って踏み込んだAC乗りの世界は厳しく、手を伸ばすことすら叶わずに死んだ。
それで私の…エノメナという少女の物語は終わる筈だったのに。
唐突に始まった2度目の人生は、快調だったはずだ。私は前回よりも格段に強くなって、友人も出来た。憧れの人の本質にも近づいた。
…結局、それは私の自惚れでしかなかったのだけれど。
目が覚めた時、私とケイトは既にルビコンの星圏内にはいなかった。睡眠薬でも盛られたのだろう。彼にとって私は守るべき対象で、ケイトはその保護者。私は重石として捨てられた。彼にそんなつもりがないことは分かっているけれど、私にはそうとしか思えなかった。
結局、お兄さんはやり残したことがあるとルビコンに残り…そのまま帰ってくる事は無かった。
レイヴンからお兄さんの訃報が届いた後、しばらくの間私は無気力な日々を過ごした。私の追いかけていた星が…憧れという生きる理由を失った後、何をすれば良いのか分からなくなってしまったから。
沈んでいくような日々から私を引き上げたのは、やはりと言うべきかケイトだった。お兄さんの遺産を浪費し、惰性で生きている私を彼女は見捨てずに叱咤してくれたおかげで、私は立ち上がることが出来たのだ。
彼女の提案でルビコンの外の友人…シュナイダー上層部役員の令嬢であるフローレイン(と彼女の舎弟のおばかさん2人)と再会した私は、お茶をご馳走されているうちにシュナイダーへ入社することになった。コネ入社って怖い。
フローレインの側近AC乗りとして実績を重ねた私にはお兄さんと共に戦った友人…レイヴンとエアのことを考える余裕が生まれた。レイヴンはルビコン解放の英雄となったそうだが、彼女もお兄さんのことで心に深い傷を負ったことだろう。何か力になりたいと思った私はようやく、自分から行動を起こすことが出来た。
…もっと早く行動して私の思いをお兄さんに伝えていたら、彼は思いに応えてくれたのだろうか。
…あの時の私に
未だに私は、お兄さんの死を引き摺って進んでいる。
…目が覚めるとそこは、遠い記憶の路地裏だった。グリッド77の路地裏で残飯を漁り、泥水を啜る薄汚れた身売りの少女に戻っている。どうやら私には、まだチャンスが残されているらしい。
前回を通して、理解した。私の生きる理由はお兄さんが全てだ。彼が居なくなれば私はひとりで立ち上がれない。
…背中にACと接続する為のコード挿入口はない。どうせなら記憶だけじゃなくて、それも残しておいて欲しかったけれど流石に贅沢か。別に、そんなものは無くとも…
…今度は私が、
[ここに居たのですね、エノメナ。探しましたよ]
聞き慣れた声が、私の名を呼ぶ。
[私の名は、ケイト・マークソン。貴方を助けに来ました]
…違う。これは、私の友人じゃない。
[さぁ、それでは行きましょうか。着いてきて下さい]
作り物のような美人が、私の手を掴んだ。
[独立傭兵オルクス
我々は貴方の正体を既に把握しています]
『はいはいアクスのことね。別に隠してるつもりなんてないっつーの…』
[Cパルス変異波形シンシア
我々と共に人類と生命の可能性を…]
『?????誰それ…知らん…こわ…』
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