幕間,独立傭兵オルクスのわくわくな日々
蜜蝋の翼
……………暗転した視界の中に紅い光の波が見える。
《あなたは…?》
…………紅い波形から音がする。
《第4世代 旧型の強化人間…》
………紅い波形の声が見える。
《あなたには私の「交信」が届いているのですね》
……紅い波形はわたしに話しかけているらしい。
《私は…ルビコニアンのエア》
…エア。
《目覚めてください》
《あなたの自己意識が…》
《コーラルの流れに散逸する、その前に》
エアと名乗る波形がその輝きを増し…わたしの意識は再び暗転した。
ノイズ混じりのCOM音声で目が覚める。ここは…先程までいた制御センターの屋上のようだ。設備からは炎と煙が立ち登り、空からは雨が降り注いでいる。
《レイヴン》
先程の声が、COM音声を遮るようにしてわたしを呼ぶ。ルビコニアンのエアと名乗った女性の声…それが、なぜわたしの名前を知っている?…こいつはわたしの幻聴なのだろうか?
《敵性機体の接近を確認しました。あなたの脳波と同期し…「交信」でサポートします》
わたしの目の前にパルス防壁を持つ機体が飛来してきた。MTが大型のフライトユニットを背負っている。コアのスタイルはMTよりもACに近いか。
脳波と同期…?交信…?意味の分からないことばかりだが、やるべきことははっきりしている。
《メインシステム 戦闘モード 再起動》
…いつもと同じ、障害の排除だ。
《大量の熱源反応…レイヴン 、回避を》
敵機はガシャンと音を鳴らしながら背面の武装を展開。戦闘開始と同時に上半分を囲むような武装から全方位に大量のミサイルが放たれた。少なくとも100連装は超えていそうだ。引きつけてからクイックブーストの連続発動で振り切り、パルスブレードでアーマーに干渉していく。
《敵機について調べました。惑星封鎖機構の無人機体、バルテウス。ダメージを与えるには展開しているパルスアーマーを剥がす必要があります》
エアが伝える中に今役立ちそうな情報はないようだ。とはいえ幻聴がわたしの知らない情報を知っている訳も調べることができる訳もない。こいつは一体何者だ…?ひとまずショットガンとプラズマミサイルでパルスアーマーを突破。
《パルスアーマー消失。今です、レイヴン》
言われるまでもない。パルスブレードで2連撃を叩き込み、吹き飛んだ敵機にアサルトブーストでショットガンを斉射。さらにキックで追撃を加える。
《通信回線は一時的に切断しています。あなたは致死量に近いコーラルを浴びた直後、今は戦うことだけに集中してください》
…ッ!?こいつ…わたしの機体にまで干渉を…!?この機体とケーブルで直接接続されている強化人間のわたしは、COMを操作することで強制的に休眠状態に移行させることが出来る。つまり、今わたしの命はエアに握られているも同然だった。
…今は戦うことしか出来ない。距離を取ろうとするバルテウスにアサルトブーストで食らい付き、ACSへ負荷を蓄積させて直撃を狙う。
《この波形は…!?危険です、距離を!》
敵機がアサルトアーマーの予備動作を見せたため、後方にクイックブーストを繰り返して回避。アサルトアーマーからは逃れられたが、パルスアーマーを貼り直されてしまった。仕切り直しということか。
敵機はバーナーから放射される火炎をブレードのように振るいながら猛攻を仕掛けてくる。近づけばショットガン、中距離ではガトリングガン、離れればグレネード。火炎によって足場を奪われ、上からはミサイルが雨のように降り注ぐ。
多彩な攻撃を切り抜けながら再びパルスアーマーを突破。先程同様、武装を駆使して最大限のダメージを与えていく。
《敵機、ダメージ限界に向かっています》
エアの言葉を信じるならば後一押しか。このまま再度パルスアーマーを展開される前に押し切りたいところだ。アサルトブースト中に撃ち込まれるグレネードを回避し、ミサイルを躱しながら反撃してACS負荷限界に敵機を追い込む。ブレードによって敵機ダメージ限界。
ジェネレータの爆発に巻き込まれないように後方へクイックブーストして…バルテウスは撃墜された。
《敵機システムダウン、完全停止です》
《…レイヴン あなたには 休息が必要です》
エアの言う通りだ。今のわたしはスッラ、バルテウスとの連戦に加えてコーラルを浴びたことで酷く疲弊している。
《それから》
突如、目の前に激しい光が映る。どこかで爆発が起こったようだ。
《あなたが巻き込まれたコーラルの逆流》
雨が止んだ。
《あれは…予兆に過ぎません》
爆発の余波か突風が吹き、先程までの雨雲が吹き飛ばされたらしい。
《ルビコンを焼き払う…この炎と嵐の》
雨雲の去った空は、黄昏のように紅く染まっていた。
「このAC乗り、なかなかやる…!」
「攻撃を集中しろ!」
雨の中で、ACがMTと交戦している。
『数は多いがそれだけだ。囲まれないように機動力を活かせ』
軽量2脚AC…ネクタルを駆るエノメナへ俺がオペレーターとして指示を飛ばす。
現在、傭兵登録を終えたエノメナは初仕事の真っ最中。彼女が受けたのはベリウス北部に配備された大豊核心工業集団の小規模MT部隊殲滅だ。そういえば俺の初仕事も大豊への襲撃だったな。
俺は彼女の付き添い兼オペレーターとしていつでも援護に入れるように控えている。殺すことを恐れるかもしれないし、初仕事で死なれるのは寝覚めが悪いからね。ここで人を殺せないのなら今度こそ諦めてもらうべきだ。
「独立傭兵が、ここまでやるのか…?」
「アーキバスめ…当たりを引いたか…!」
『目標残りわずかだ。焦らず各個撃破していけ』
まぁ…その辺りの心配は不要だったようだが。エノメナの動きには迷いも躊躇もない。これに関しては俺が過保護過ぎたのかもしれないが…俺だっていつまでも彼女の側にいてやれる訳にはいかない。
彼女は621のように強化人間でも、俺のようにコーラルで肉体が底上げされている訳ではない以上、流石に中央氷原に連れて行くには不足がある。ミサイル程度なら躱してくるLCを相手取れば、彼女に勝ち目はほとんどないだろう。
それにしても…
「…現状を自分で変えたい、だっけ?その意志は悪くないんじゃないの?」
「確かにそれなりの力はあるようだが…意志だけで戦えるなら苦労はない」
『なんで居るんですか…シャルト姉さんにキング兄さん…』
ブランチって多重ダム防衛で揃うのが久しぶりとかそういうレベルでそれぞれ勝手に動く組織だったはずなんだが。俺がレイヴン先輩に拾われた時も勢揃いしていたし…これじゃブランチが仲良し傭兵サークルみたいじゃん。
「アンタがまた新人に目をつけたみたいだからどんなものか気になったのよ」
「レイヴンのライセンスの件といい色々動いているようだからな」
…教育実習かな?まぁ新参者の俺の事を気にかけてくれるのはありがたいんだが。ベテランの先輩方から見たエノメナはどうだろうか…
「オルクスが指導しただけあって実力は平均以上だけど…アレは長生きしない奴ね…」
…長生きしない?無理はしないように教え込んだつもりなんだが…
「そうだな…身の丈に合わないものを背負ったままでは飛び立てないだろう」
身の丈に合わない…エノメナの望みが…?
「まぁ…あまり気負い過ぎないようにね」
「俺たちは止まり木だ。アレに縛られるなよ」
そう言い残すと先輩2人は去っていった。
スッラの件といい、俺は何か見落としているのか…?
私の放ったハンドミサイルは目標へまっすぐに向かっていき、命中したMTはバラバラになった。青い尾を引きながら雨と共に降り注ぐプラズマミサイルは着弾と同時に爆発を引き起こし、MT達を巻き込んでその装甲を灼いていく。
私の引いた引き金が、人を殺していく。
…思ったよりも人を殺すのは簡単だった。罪悪感が無かった訳じゃないけれど、人を殺すことよりもお兄さんのかけてくれた期待を裏切る方が私にとっては怖かった。
『…敵MT部隊の殲滅を確認。仕事は終わりだ、お疲れ様』
…いつの間にか全て片付けていたらしい。お兄さんの控えていた場所まで戻る。
「戻りました」
『…』
お兄さんからの反応がない。
「お兄さん?」
『あっ、あぁ…ごめん、考え事をしていた』
「何か私に問題がありましたか?」
『それは問題ない、初めてとは思えないほど良い動きだった』
私はお兄さんの期待に応えられたみたいだ。
『それじゃ…』
突如、目の前に激しい光が映る。北西の方で爆発が起こったみたいだ。
『これは…』
爆発の余波による突風を、お兄さんのパルスプロテクションが防ぐ。
『…もう、そんな時期か』
雨雲の去った空は、黄昏のように紅く染まっていた。
Chapter1完
ここからオルクスの出番と火力が増して行きます
◯621
今作の主人公
◯エア
今回はバルテウスについて調べてみました!
いかがでしたでしょうか?
これからもレイヴンの活躍から目が離せませんね!
◯オルクス
今作のメインヒロイン(失笑)
◯エノメナ
本人の知らん所でフラグが積み上がっていく子
621の目は…
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赤
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青
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黄
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緑
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灰
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茶
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黒
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その他
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オッドアイ