転生独立傭兵のわくわく3周クッキング   作:おーるどあっくす

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1ヶ月ぶりですね
ごめんなさい


失意と決意

『あれ………?』

 

 コアを貫かれた俺のACが爆ぜる。エノメナを傷つけまいと狙いを定めた一撃は偶然にも咄嗟に庇ったあの機体のジェネレータをぶち抜いていたらしい。エノメナを必要以上に痛め付けることなく俺の偽物を処理できたとは中々ツイてるな。まあ最近はオールマインドに刺客を向けられヒビキにあっさり女装を看破されたり匿名Fさんに絡まれたり封鎖機構に捕まったりで不運が幸運を上回ってたしようやく均衡が…

 

[…オリト准尉!]

 

 機体が大きく揺さぶられてようやくイアに呼ばれていたことに気がついた。随分と無駄な思考に耽っていたようだ。どうやら後ろから攻撃を受けたらしく、ACS負荷限界が近い。そういえば未発覚状態だと受ける衝撃が大きくなるなんて仕様もあったな。割と地味な要素だから忘れがちだけど、今思えば見逃した後のスウィンバーンが即死するのもこの仕組みが関わった結果なのかもしれない。油断したら俺も同じ目に…あっ。

 

[…オリト准尉の戦闘続行は困難であると判断。監視対象への指示権限を行使、機体制御権を執行支援AIに移行して撤退します]

「ッ…にがさない…!」

 

 621からの攻撃を、機体が勝手に動いて回避する。機体の制御がイアの方に回ったらしい。それにしても、強化人間の621があんなに感情を露わにしてこちらへ向かって来るなんて結構珍しいものを見てるんじゃなかろうか。偽物とはいえ俺が殺されたから?俺はここに居るのに…でもよく考えたら俺と621ってストライダー護衛と途中離脱した壁越えくらいの付き合いで大して仲良くないよね*1。下手すりゃ偽の俺の方が付き合い長い可能性もあるし…あぁ、そうか。何かがすとん、と腹に落ちたような気がする。

 

 イアの制御する機体が戦闘領域から離脱していき、とうに見えなくなったふたりの方へ向けていた視線を逸らす。

 

 これで良い、これで…良い筈なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …逃げられた。

 

 今度こそ、彼も含めて皆を助けたいと願ったのに。

 オルクスを殺したあのHCを取り逃がしてしまった。

 オルクスの仇を取れなかった。

 

「あっ…」

 

 …今、わたしは何を考えた?

 …何が彼の仇だ。わたしが今感じるべきものは怒りなどではないはず。わたしは彼を、オルクスを、わたしの先輩を助けたいと思っていたのだから…今のわたしは願いを果たせなかったことを悔いて、悲しむべきなのに。

 

「ちがう…わたしはまだ…」

 

 わたしはまだ、2回目なんだ。それなのに、彼の死を惜しむ心が麻痺して良い訳がない。あの時感じた悲しみが、心が折れそうになるほどの無力感が、怒りや憎しみなんかに負けて良い訳がないのに…!

 

《レイヴン!》

「えあ…わたし…どうしよう…」

《…一度帰りましょう、レイヴン。あなた達には…少し時間が必要なようです》

 

 …どれだけ考えても良い方には到底行きそうにないし、エノメナのことも心配だ。今はエアの言う通り戻って頭を冷やすべきだろう。

 

 

 

 

 

「ぁ…あぁ…」

 

 目の前で起きたことに呆然としているのか、あのHCによってACS負荷限界に陥ってから動いた様子のないエノメナの機体へ近づいていく。

 

「エノメナ、だいじょうぶ…?」 

《エノメナ…気持ちは分かりますが、今はここに長居すべきではありません》

「……………………に」

 

 今にも消え入りそうなほど掠れた声で、エノメナが何かを呟く。

 

《…?》

「エノメナ…?」

 

 

 

 

 

「人間ですらないお前に…私の何が分かるの…!?」

 

 次にエノメナの口から告げられた言葉は、エアにとっては余りにも理不尽なものだった。

 

《ッ…!?》

「エノメナ!!!」

 

 いくら彼女が傷ついていたとしても、言って良いことと悪いことがある!彼女を心配し寄り添おうとしていたエアに対して、その扱いは八つ当たりでしかない。

 

《その…ごめんなさい、エノメナ…私は…》

「あっ………いや…違っ…謝らなきゃなのは私で…全部私が悪くて…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

 

「その…お前達、大丈夫か?」

 

 心無い言葉に動揺を隠せないエアと酷く錯乱した様子のエノメナ。混沌としたこの空間に、第三者が割り込んでくる。この声は…さっきのオルクスの知り合いでドーザーのまとめ役をしていたヒビキだったか。BASHOで統一された非武装の機体が、オルクスのACの残骸を一瞥して再び口を開く。

 

「………なるほど、なんとなく状況は察した。近くに私達の船がある、休んでいくと良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「独立傭兵のエノメナにレイヴンか…君達のことは彼女…じゃなかった彼から少し聞いたことがある。彼の友人ならば私達の友人も同然だ、ゆっくりしていってくれて構わない」

 

 ヒビキは私達を船室まで案内すると、温かい飲み物を淹れてくれた。

 …そのオーネスト・ブルートゥが頭を過ぎる言い回しはドーザーの定番なのだろうか?

 

「…オルクスは、わたしたちのことをなんて?」

「確か…『()()()俺のことを慕ってくれる強いAC乗りの後輩たち』と言っていたな」

 

 「何故か」か…確かに今回のオルクスからすれば、ウォルターの代わりにわたしの世話を任されることも、エノメナの師になることもなく、ただわたし達の事情で振り回されただけに思えるかもしれない。それなのにわたし達はこれまで以上の好意を向けているのだから不気味にも感じられたのかもしれない。

 やっぱり…わたしは何度も共に戦ってきたという驕りから、無意識の内に彼との交流を蔑ろにしていたのではないか?そんな姿勢で彼を軽んじていたからわたしは彼のことを…

 

「…私が居ては休むに休めないだろう。外に出ているからまた用があれば呼んでくれ」

 

 ヒビキが部屋を出ていった後、ひとまず頭の整理も兼ねてウォルターに今回起きたこととここで休んでいる旨を報告するメールを作成していると、多少は落ち着いた様子のエノメナが口を開いた。

 

「…ごめんなさい、エア。私、貴方に対して取り返しの付かないことを言いました」

《確かにあの言葉には傷付きました…ですが私もあなたの気持ちを勝手に理解した気になっていたのは事実で、配慮が足りていませんでした》

 

「そんなことないよ…私の中にきっとお兄さんのこと以外はどうでもいいと思っている部分があって………」

《そう自分を卑下しないで下さい、あなたは………》

「いや、今回は本当に………」

《違います、私にも………》

 

 …エアにとってはかなりデリケートな部分を抉るような発言から仲間割れの可能性すらあったが、何とか和解できそうだ。まだどこかでこの出来事が心に引っかかることはあるかもしれないけれど、この様子なら落とし所はいずれ見つかるだろう。

 エアとの会話を終えたエノメナが、わたしの方へ向き直る。表情も声色も、いつもの調子を取り戻したようだ。

 

「レイヴン、ごめんなさい。私が弱いからお兄さんが…」

「それはわたしもおなじだから…あなただけでせおわなくていい」

「…私、コーラルの破綻も、貴方の守りたい人達も最後まで付き合うから」

「ありがとう、エノ………」

 

「でも、もう一つだけ謝らせて」

「…エノメナ?」

 

 

 

「お兄さんの仇は、私が殺すから」

「ぇ…?」

 

 

 

「…お兄さんを殺したあのHCがのうのうと逃げ延びているなんて許せない、許して良い訳が無い。だから殺す。例え刺し違えてでも、私が。もしそうなったら貴方の願いを成し遂げるまで一緒にはいられないけれど、その時は許して欲しい」

「…だめ、だよ。そんなこと、オルクスは………」

「…お兄さんがそれを望まないことくらい分かってる。でも、私はお兄さんを守る為、救う為に此処まで来たから。お兄さんという存在意義を失ったまま黙っている自分を赦せない」

「でも…!」

「ごめん。何を言われても、これだけは譲れないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[オリト准尉、先程の戦闘ではいったい何が…?]

 

 イアによる自動操縦で拠点まで強制的に帰投させられた俺が自室で寝込んでいると、案の定イアに放心の訳を問われる。

 

『…なんでもない。平気だよ、イア』

[敵前での戦闘放棄は許可されていません。平気だと言うのなら違反行為ということになりますが?]

 

 脅しのつもりか。別に今更処分されようがどうでも良いが。

 

『………』

[質問に答えてください、オリト准尉。私には操縦者のコンディションを万全に維持し、作戦を遂行させる義務があります]

『しつこい、別に君だけで機体は操縦できるんだから今日みたいにやれば良いだろ』

[私は補佐AIですから、基本的に戦闘行為を取ることは出来ません]

 

 そりゃそうか。それならこの性能のHCが何年も実戦に投入されることなく仕舞い込まれている訳がないよな。組織の中枢として指揮権をAIに握らせといてそういった制限をかけるのがどういう意図かは分からないけども。無人機ならバルデウスとかエンフォーサーとかだってあるのに。

 

[貴方がいなければ、私は与えられた役割を果たすことができません。私には貴方が必要なのです]

『………』

[貴方が何か悩んでいるのならば、力になりたいのです]

 

 この世界にとっては異物でしかない転生者の俺が必要、か。所詮道具でしかない癖に情に訴えるつもりか?まぁ、どうせもう戻るべき場所も無いんだ、この際全部言ってしまおう。

 

『あの時俺が殺した独立傭兵オルクスは偽者だった』

[…そう判断した理由は?]

『独立傭兵オルクスの名義を使ってきたのは他でもない俺だからだ』

[なるほど、貴方が前任のオルクスだったという訳ですか?]

『俺はブランチの一員として、後任を指名した覚えは無い』

「なっ…何を言って…まさか貴方が独立傭兵レイヴン、エノメナを取り逃がしたのは…」

『宇宙政府軍の惑星封鎖機構サマが秩序を乱すブランチを内に入れていたなんて笑えるな』

 

 いくら俺しか居なかったとはいえイアは縋る相手を間違えたな。ここまで言ってしまった以上、処分は免れないだろう。

 

[何故…何が目的で封鎖機構に近付いたのですか…?]

『俺はオールマインドの怪しい動きとコーラル破綻の阻止について情報を求めていただけだ。封鎖機構に近付いたのは流れで偶然そうなったに過ぎない』

[オールマインド…ルビコンの傭兵支援システムに怪しい動きが?]

『奴はそこら中に無人機をばら撒き、暗躍している。あの偽物の俺をけしかけたのも奴だろう』

[…それでは、コーラルの破綻とは?]

『お前達がルビコンを封鎖して対処した気になっていたコーラルは今なお自己増殖を続け、やがてはルビコンから溢れ宇宙に蔓延する汚染となる』

[ルビコニアンや企業をコーラルへ近づけないだけでは、アイビスの火の再発防止には不足だったと…?]

『そういうことになるな』

[つまりブランチはこれらの問題を解決する為にルビコンの解放を]

『ブランチの人達多分そこまで考えてないと思うよ。俺はブランチに加入してからまだ一年しか経ってないし』

 

 端末の中にいるイアのアバターが宇宙猫のような顔をして…なんで背景変えて画面下にNow loading表示したんだよ無駄機能を盛るな封鎖機構。

 

[………つ、つまり先程の目的は貴方自身のものであるという訳ですね]

『ああ、しかしルビコンの封鎖突破に関わっていないとはいえこれまで俺がブランチとして封鎖機構へ攻撃を仕掛けてきたのは事実だ』

[ええ、独立傭兵オルクスはブランチの一員として優先執行対象とされていますから、何かしらの対応は必要でしょう]

 

[ですが、私はまだ貴方の悩みを聞けていません]

『は?』

[貴方のおかげで、私は私に与えられた役割を果たす機会を取り戻すことができました、今度は先程も言った通り私が貴方の力になりたいのです]

『取り戻したって…どうせ俺がこの後処分されればお前はまた…』

[どうやら貴方は封鎖機構の把握して居ない情報を持っているようですから、まだ利用価値はあります。私が適当に司法取引やそれに近しい状態へしておきましょう]

『なんで…』

[コーラルの破綻が事実であり、それを止めることが出来れば封鎖機構はルビコンを封鎖惑星としておく必要はなくなります。あくまで我々の目的は宇宙秩序の維持であり、現地住民を虐げることは本意ではありませんから]

『………』

[私達はきっと、手を取り合えるはずです。その為にも私は貴方を理解したいと思っています]

『道具でしかないお前に、俺の何が分かる』

[聞いてみなければ分かりません]

『俺は…俺は………』

 

 

 

 

 

『…俺はここ(この世界)に居てもいいのかって考えが、ずっと頭の片隅にあったんだ』

 

かつての幼馴染(ソフィー)に許して貰って、ようやく前を向けるようになって』

 

『この命は先輩として、いつか見た(幻覚)のように、彼女達が…がよりよい結末(ハッピーエンド)の更にその先を見られるように使おうって、そう思ってた』

 

『…でも俺の偽物がエノメナを庇った時に、迷ってしまったんだ』

 

『俺は本当に、彼女達の為に命を投げ出せるのかって』

 

『そんな迷いを抱いてしまう俺よりも、その行動で証明して見せた偽物の方が、彼女達の隣に相応しいんじゃないかって』

 

『…俺は、彼を殺すべきではなかったのかもしれない。彼女達から彼を奪うべきではなかったのかもしれない』

 

『一度そう思ってしまったら最後にはまた、俺はここに居てもいいのかって考えが浮かび上がってきた』

 

『…やっぱり、死ぬのは怖いよ。ようやく掴めた戦う(生きる)理由を果たせないまま死ぬのは尚更怖い。彼女達を守れなければ俺の戦う理由は無意味なのに』

 

『だから俺はもう、あの場所に帰る資格なんて…』

[そんな事はない筈です]

 

 ここまで黙って俺の弱音を聴いてくれていたイアが、突然言葉を遮った。

 

[貴方がどう考えたとしても、彼女達がそんな貴方にどう思っているのかなんて聞いてみなければ分かりません]

 

[少なくとも貴方には帰れる場所があります。貴方は…使われるだけの道具でしかない私とは違うのですから]

 

[それで、もしも帰りたい場所に拒まれてしまったのなら…私が貴方の居場所になりましょう]

 

『…どうして、そこまで』

 

[貴方は…私に居場所を、価値を、そして名前をくれた人ですから]

 

『そっか…ありがとう、イア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そっか…ありがとう、イア』

 

 …表情の緩んだオリト准尉に対して、私も微笑みで応じます。

 ようやく、彼の内心に触れることができました。

 

 オリトヒサシ准尉、あるいは独立傭兵オルクス。私に居場所を、価値を、そして名前をくれた人。だから今度は、私が彼を掬い上げてあげたかった。

 

 与えられた使命を果たせず寄せられた期待を裏切り無かったモノとされ孤独だった私と、自らに課した使命と背負った期待の重みから孤独へ沈みかけている彼は、きっと似ているから。

 

 

 …けれど、こんな事を考えてしまう私がいても、それは仕方のない事だと思うのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当は彼自身がオルクスの偽物で、最初から彼に居場所なんてなければ良いのに。

 

 彼が私と同じモノに堕ちてくれれば、お互いがお互いの全てとして、ふたりで傷を舐め合ってずっと一緒に居られるから。

 

 

 

*1
…君、それ絶対本人の前で言うなよ?




エノメナさん…構想に無いガチの人外差別発言を勝手にぶっ放されるとどう収集付ければいいのか作者が困るからやめてね
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