《バイタルサインを見るに昨夜はよく眠れたようですね、レイヴン。これも子守唄の影響でしょうか?》
寝起き早々彼女は何を言っているのだろうか…当然のように幻聴がわたしのバイタルサインを確認している。確かにいつも起床時に感じる頭痛や不快感は無いのだからよく眠れた、とは言えるのかもしれないが。
《中央氷原の件ですが、広大なアーレア海を越える手段としてグリッド086の上層区画に備え付けられた大陸間輸送用カーゴランチャーを使い中央氷原へと向かうことを提案します。ベイラムから早速依頼が届いているようです。確認してみてはいかがでしょう》
…寝起き早々彼女は何を言っているのだろうか?わたしはハンドラーから「パトロンがついてから中央氷原に向かうから休め」という指示を受けているのだが。その為の監視兼身の回りの世話としてオルクスが居るのだから勝手な行動は出来ない。
彼女自身もバルテウスの撃墜後にわたしへ休息が必要だと言っていたにも関わらず勝手に依頼を取ってくるということは…もしかしてこの幻聴は致死量のコーラルを浴びようが昨日1日休んだのだから十分とでも考えているのでは?
…受注してしまったものは仕方ない。信用の低下や違約金を考えるとハンドラーへの無断出撃は避けられないし、彼女の提案が上手くいけばハンドラーの手を煩わせることなく予定よりも早い段階で中央氷原に辿り着くことができるはずだ。
ひとまずオルクスに話を通しておこうと彼の元に向かうと、彼は眠たげな顔でぼんやりとキッチンに立っていた。どうやらフィーカを淹れる為に湯を沸かしているらしい。
「おはようございます、おるくすせんぱい」
『んぅ…?あぁ、おはよう後輩。よく眠れた?』
「はい」
彼は欠伸を噛み殺しながらわたしへ挨拶を返すと、沸いた湯でフィーカを淹れ始めたがその位置だと…
『あっつい!?』
《…オルクスは朝が弱いようですね》
…指に熱湯がかかって悲鳴をあげるオルクス。慌てて流水をかけている姿をみるにどうやら目は覚めたようだ。
『このフィーカちょっと良いやつだ…さて、今日の予定はあるかな?』
フィーカに少し口をつけた後、オルクスが今日の予定について切り出した。
「…べいらむのいらいをとってきた。いまからちゅうおうひょうげんをめざす」
『…仕事、取ってきちゃったの?』
「…うん」
わたしが勝手にやったことになるのは不本意だが流石に幻聴が仕事を勝手に取ってきたと言う訳にはいかないだろう。
『ちょっと待っててくれ、君のハンドラーに確認する』
…そう言い残すと彼は端末で連絡を取り始めた。
『「大陸間輸送用カーゴランチャーを使うというのも発想としては悪くないが、ルビコンにはきな臭い連中も多い。仕事を受けるときは用心しろ」』
…!?一瞬ハンドラーの通信をそのままわたしに聞かせたのかと思ったが、オルクスの声真似だったらしい。
「だそうだ。一応君は致死量のコーラルを浴びたばかりだし、俺も中央氷原に向かう予定は前からあった。同じ仕事を取って付き添いを………なんかもう取ってあるんだけど!?」
《私が手配しておきました、レイヴン》
…わたし関連以外の機器にも干渉出来るのか…いくらなんでも無法過ぎるのでは無いだろうか。
《さあ、レイヴン…仕事を始めましょう》
当然のようにエアがアクセスした垂直カタパルトでグリッド086に到着。ここまでくると「システム解析や改竄には多少の心得がある」では済まない気がしてくる。
《マーカー情報を送信しました。上層に繋がるリフトを目指しましょう》
今回の依頼はハンドラーがベイラムに持ち込んだ中央氷原におけるコーラル集積情報の先行調査。それにあたってまずはカーゴランチャーで海越えをすることになる訳だ。
エアによるとグリッド086は 「ドーザー」と呼ばれるコーラルを向精神薬として扱うならず者の巣窟であり、中でも「RaD」を名乗る一派は 非常に好戦的な武器商人らしい。そういえばルビコンへの密航からテンダーフットを与えられるまで使用していた探査用フレームはRaDの製品だった。
『まずは警備を突破しよう、後輩』
オルクスの機体はEN武器の扱いに長ける白い中量2脚AC。確かアンフォラM2だったか。移設砲台を破壊した時よりも大型のライフルを装備している。
わたしはパルスブレードを昨日のシミュレータでも使用したパイルバンカー、腕部をFIRMEZAに変更。出撃前に済ませておいたアリーナのOSTチップで直撃補正を調整してACS負荷限界に追い込んだ後の決定力を底上げした。
「なんだあ、見ねえツラだな…ここが誰のシマだか分かってんのか?」
高火力なミサイルと堅牢な装甲を持つ見慣れないMTを片付けながら進んでいくと、黄色く彩られたACがわたしたちの前に飛び降りてきた。
「ボス、見ててくださいよお…この「無敵」のラミーが、客人をもてなしてやりますんで」
《登録情報から機体名「マッドスタンプ」と識別。ランキング圏外です》
『RaDの番犬、
振るわれるチェーンソーを後方にクイックブーストして回避。確かに当たればひとたまりもなさそうだが、近接推力はかなり低いようで回避は容易い。反対の腕に装備されている珍妙な見た目の武器も照準補正が間に合っていない。
「これを躱わすとは…クソッ…ビジターにしちゃあ、やるな」
わたしを追うのに夢中になっているうちにオルクスのレーザーライフルで背後から撃たれ続け、ダメージが蓄積している。
「おっ、俺のマッドスタンプがあーっ!?」
《敵ACの撃破を撃破》
ACS負荷限界に陥った敵機のコアを鉄杭が貫いたことであっさりと敵機は動きを止めた。
『おかしい奴を亡くした…』
「ビジター!好き放題やってくれているようだね」
門番を退けたわたしたちが開いた隔壁を抜けると、広域放送が聞こえてくる。
「私らRaDは、来る者は拒まないのがモットーだ。せいぜい歓迎しようじゃないか」
『…RaDの頭領、
当然のことだが、広域放送の女性…オルクス曰くシンダー・カーラの声色は侵入者を歓迎するという雰囲気ではない。目的を果たす為には押し通るしかないだろう。
《…なるほど。せっかくです、招待に応じましょうか 》
丸く変形する珍妙な兵器やブレード持ちの4脚MTを退け、エアの調べたシンダー・カーラについての情報を聞き流しながら先へ進む。カーラは随分とやり手のようだが、今の仕事そのものには必要のない情報だ。オルクスの気付いたバトルログのほうがよほど役に立つ。
「待ってたよビジター、約束どおり歓迎しよう」
隔壁にアクセスしていると、後方から何かの落下音が2つ。先程も見た変形する兵器が不意打ちとして投入されたようだが…
『見え透いている』
青い光が立て続けに2機を貫く。オルクスはこの展開を予測してレーザーライフルをチャージしていたようだ。
「…へえ…やるじゃないか」
パーツを拾いながら屋内を進んでいくと、溶鉱炉の辺りに違和感を感じる。スキャンすると溶鉄の流れていない方に空間があるようだ。試しに潜り抜けてからその空間でスキャンを行うと反応あり。このシルエットは…ACのようだ。
「くっ…勘のいい取り立て屋め…!だが、君たちに返済する道理はない。死んでもらおう!」
先制攻撃を仕掛けると、敵機は意味の分からないことを言いながらこちらへ反撃。
《何か勘違いをしているようですが…撃退しましょう》
『鼻が効くな、後輩。借金王ノーザーク、倒せば懸賞金が貰えそうだ』
どうやらこいつには懸賞がかけられているらしい。この狭所で2対1ならば長くは持たないだろう。
「安心したまえ、君たちの融資を無駄にはしない。ほら、この新たな機体を見てくれ。こうして私の信用は拡大していくのだ!」
…確かに敵機はレーザーハンドガン、バーストライフル、拡散バズーカ、シールドを装備しアーキバスとベイラムのフレームという各勢力のパーツを揃えたバランス型で、探査用フレームだったかつてのわたしと比べれば実力があるように依頼人は考えるだろう。
「くっ…どうして分からない…!借りた金を、なぜ返す必要がある…!?」
『借りたものも返せない馬鹿には制裁が必要だな。さっさと終わらせよう、後輩』
レーザーライフルはコアを避けて頭部と脚部を撃ち抜き、敵機の動きを停止させる。
「ある金は活かすべきだ…なぜ理解しない…」
『破綻した負債の妥当な末路だ。まぁ、借金のカタとして実験台にでもなれば生まれ変わるさ…生きていれば、だが』
ノーザークは命まで取り立てられなかったが、オルクスの口ぶりからしてどちらにせよ無事では済まないのだろう。
《敵ACの撃破を確認。行きましょうか》
寄り道をしてしまったが本来の目的に戻ろう。バトルログ持ちを仕留めながら指定された座標を目指す。
「どいつもこいつも不甲斐ないね…あんたらのどっちかを雇った方が安く付くんじゃないかと思えてきたよ」
《MT多数、慎重に行きましょう》
バトルログやパーツを回収しながら進むと開けた場所に大勢のMTが見える。
『どうやら連中は歓迎会をしてくれるらしい。俺たちもクラッカーで盛り上げるとしよう』
そう言うと、オルクスは天井にぶら下がっていたタンクを狙撃。どうやら爆弾だったらしく、MTを一掃しつつ4脚MTをACS負荷限界に追い込む。
「あんた、勘がいいね…それにしても歓迎の花火をクラッカー呼ばわりとは…今度のビジターは一筋縄ではいかないようだ」
爆発が落ち着いたところで4脚MTにパイルを打ち込んで撃破。
「分かった、あんたの実力は分かったよ、ビジター。降参するよ、これ以上は割に合わないからね。通してやるよ、行きな」
《次は…どういう魂胆でしょうか?進んでみましょう、レイヴン》
カーラの言葉通り、巨大な隔壁が左右に開いていく。ここまでの歓迎からしてただで通す訳が無いだろう。エアが手配したらしい補給シェルパで弾薬補充と機体修復を済ませてから最深部へ向かう。
「ビジター、あんたらは向こう見ずだね…嫌いじゃないよ」
隔壁の向こうに待ち構えていたのは赤熱した破砕アームを備える重機。
「でも さよならだ」
破砕アームで挟みこもうと迫り来る敵機を上昇で回避。ショットガンを撃ち込むが装甲に阻まれて跳弾。この距離で弾かれるとは…
『コイツは…!』
《やはり罠でした。流石はドーザー、評判どおりです》
エアはどうもドーザーに対する当たりが強いように感じる。
『解体作業用の無人重機…破砕アームに巻き込まれたら即死もあり得る。気を引き締めろ、後輩』
《グリッドの床材にも使われる鋼材が装甲を固めています。どこかに弱点があるはず…それを探しましょう》
『正面は危険だな。俺が注意を引くから後輩は開口部を叩いてくれ』
弱点というと真っ先に目につくのは正面と上の開口部だ。オルクスも考えは同じらしい。彼が正面で敵を引きつけている隙に煙突へ散弾を撃ち込んで内部へ直接ダメージを与えていく。
「やるねえ、聞いていた以上だ。だが、クリーナーが笑えるのはこれからさ」
聞いていた以上?こちらのことを相手は把握している…?いや、自意識過剰か。恐らくランク7であるオルクスについてだろう。アームを振り上げた無人重機が噴火を起こし、掲げた腕を振り下ろす。
《行動パターンが変わった…危険です》
『効いているようだな。このまま仕上げに入ろう、後輩』
開口部から撒き散らされる頻度の増えた溶鉄を警戒しつつ攻撃を続行。ACS負荷が限界に達した敵機にパイルバンカーを打ち込む。
『下がってくれ、後輩。これで…終わらせる』
射撃の構えを開始したオルクスを確認して上昇。チャージにより威力の引き上げられた青いレーザーは開口部へ真っ直ぐに突き刺さり、大きな爆発を引き起こした。
《敵機システムダウン、完全停止です》
『…あっつい。熱中症になりそうな歓迎だった…』
「…ビジター 私たちは不幸な出会いだった。あんたらとは仲良くした方が賢明みたいだね」
今回の件はお互い水に流そう、ということだろうか?
「上層に行くんだろう?案内しようじゃないか… この「灰かぶり」のカーラがね」
手熱い歓迎を終えたことで、わたしたちは目的を果たす為の切符を手に入れた。
◯インビンシブル・ラミー
オルクスの存在でランク圏外に追いやられてしまった
◯ノーザーク
これが今度の実験体かね?
◯オルクス
手が熱い…ってやかましいわ
◯エノメナ
実力不足で中央氷原には連れて行ってもらえなかった
621の身長は…
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それ以下
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110cm〜
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120〜
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130〜
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140〜
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150〜
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160〜
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170〜
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180〜
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190〜
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200以上