紅茶を片手にIS学園でマッ道徳を教える   作:ラウラペロペロ部部長

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第1話

 薄暗い研究施設の中で白衣を着た男が微笑みながら自身のスマートフォンを耳に当てていた。

 

「ええ……はい。大丈夫ですよ、無理はしていませんとも……ええ、ええ、しっかり寝ていますよ」

 

 男の周囲には大量のエナジードリンクが散乱しており、その上男の顔にはクッキリと刻まれた隈が見て取れることから、先程の言葉が真っ赤な嘘であることは苦も無くに見て取れる。

 

「……はい、危険なこともしていませんよ。分かっています、ええ……はい」

 

 そういう男の白衣は胸を中心に真っ赤に染まっており、白衣の下から覗く肌は赤く染まった包帯が巻かれている。そして何よりも目立つのは真っ赤に充血し、琥珀色の色彩を浮かべた左右の眼球。それらは左右の焦点が合わずギョロギョロと動き続けている。

 

 明らかに何かトンデモなく危険なことをやらかした後なのであろうことは想像に難くない。

 

「はい、ではまた今度……たまには私から連絡しろですって? ……まぁ、気が向いたら連絡しますよ……本当です……はい、ええ……では、おやすみなさい」

 

 電子音と共に通話を終わらせた男は自身の血で固まった白衣をそのままに近場に置いてあった書類の束を手に取る。当然書類は血に染まるがそれを注意する人間はここには存在していない。 

 

「経過観察は変わらず順調ですし……そろそろ閉胸しても良いでしょうね」

 

 ようやく無菌室の外に出られそうだ。そう笑う彼の胸には淡い光が灯っており、その手に持つ血に染まりつつある書類には”生体融合型IS”という存在についての情報がまとめられていた。

 

「さて、閉胸すれば適当に誤魔化せるでしょうし……ちょうど教員免許も取れたことですからさっさと計画を進めるとしましょう」

 

 そう言いながら、彼は比較的血の着いていない方の手で1枚の書類を手に取った。

 

「”IS学園”に”織斑一夏”。ああ、インスピレーションが沸きそうな環境です……これだから人間は面白い」

 

 そうと決まればと言わんばかりに書類を投げ出した男は背から展開したサブアームと自身の両腕に器具を持ち、剥ぎ取った赤に染まった包帯の下から現れた巨大な穴を塞ぐ作業へと入った。

 

 もちろん、手が狂うことが無いようにと麻酔など使わず。

 

 

 


 

 

 

「はぁ……」

 

 世界で唯一の男性IS操縦者である”織斑一夏”は今日も今日とて憂鬱な気分で、思わずと言った具合で溜め息を漏らしていた。

 

 なんせ四方八方全て異性で好奇の視線に常に晒されている。この客寄せパンダすら辞表を投げつけるレベルの環境は15の男には……いや、女であってもかなり辛い環境であるのは言うまでもない事だろう。

 

 今だってその辛さに、今の時間あまり人の居ないISの格納庫の方へと一夏は逃げて来ていた。あと4日もすれば”セシリア・オルコット”との決闘があるのだから、今のような時間でさえ何かしらの努力をするべきだと一夏自身も思いはしているが……思春期の人間とは複雑怪奇なものだ。

 

「む、お前は……織斑ではないか」

 

 そんな一夏の背後から、彼に声をかける少女が居た。銀色の長い髪に少しばかり隠れた紅い瞳が、どうして一夏がここに居るのかと見据えていた。

 

 一夏の隣まで小走りで走り、合流した少女は歩幅を合わせながら口を開いた。

 

「こんな時間にこのような場所に来るとは……それに、1人か。篠ノ之はどうしたのだ?」

「えっと……そ、そういうボーデヴィッヒさんこそ、どうしてここに居るんだ?」

 

 男としてのプライド故か、正直にここに居る理由を言うことを躊躇った一夏は”ラウラ・ボーデヴィッヒ”の質問に質問を返すというあからさまな形で誤魔化した。

 

「私か? 私は専用機の整備をして貰いに来た」

「専用機の整備?」

 

 あからさまな誤魔化しに何故か誤魔化されたラウラの返答に、一夏は首を傾げる。

 

「ボーデヴィッヒさんってドイツの代表候補生で、軍人だっただよな?」

「ああ、初日の自己紹介でもそう言ったな」

「だったら専用機の整備ってのはドイツでやって貰うんじゃないのか? ほら、機密とか色々あるだろ?」

 

 数日前までは専用機という概念すら知らなかった一夏であったが、幼馴染と自身の姉によるパワーレベリングによって今ではIS学園で専用機の整備をして貰うと言うことに対して違和感を覚える程度には知識を着けていた。

 

「基本はそうだな。ただ、どういう訳かジョン――普段私の機体を整備している者がIS学園に勤め始めたらしくてな? 最近は会っていなかったことだし、挨拶ついでに整備を頼もうと思ったのだ」

「へー……そうだったのか」

 

 ここ数日で染み付いた軍人と言われて納得してしまうような雰囲気とは一変。年相応な雰囲気でどこか嬉しそうに言うラウラに一夏は少しばかり驚く。

 

「興味があれば織斑も見に来ると良い。かなり参考になると思うぞ」

「ああいや、俺は――」

 

 自分の恋愛には頭が腐っているのかというほどの鈍感さを発揮する一夏であるが、どうにもラウラと彼女の言う”ジョン”という男? の2人キリの時間を邪魔するのは申し訳ない気がして断ろうとした。

 

 しかしその言葉は、直後に鳴り響いた爆発音によって掻き消されてしまった。

 

「ッなんだ!?」

 

 とっさにラウラを庇う様にして、一夏は爆発音がした方向を見やる。見れば壁に大穴が開いており、廊下の先が見えない程の土煙が漂っている。

 

 その土煙の中で、ユラリと人影が立ち上がった。

 

「ケホッケホッ……どうやらバレルに歪みがあったようですね。俺の目測で判明しなかったとなるとナノメートル単位の歪み……それでこれほどの暴走を引き起こすのですから実戦では使えたものではなさそうです」

 

 土煙の中に立っていたのは、整った顔立ちの2mはあるかという長身の男だった。

 

 そんな男の姿を見て一夏の脳内には、この男が学園内に侵入したテロリストでは無いかという考えが一瞬浮かんだが、その考えは一瞬で霧散した。

 

「ジョン!!」

 

 前に立っていた一夏を避けてツカツカと歩き出したラウラが男の――”ジョン・ウェイン・ウェスト”の名前を叫ぶ。その雰囲気はなるほど小さくともドイツ軍人の風格を感じるものだ。

 

「おや? ああ、ラウラですか。こうして会うのは久しぶ――」

「どうしてこうもお前はまた性懲りも無く危険なことを!!」

「――あいやぁ……俺の見立てでは失敗しないはずだったんですよ? ただどうも俺の目にも分からない程の歪みがあったようで――」

「お前はいつもそうだ!! 自分を信じすぎていつも事故を起こす!!」

「そこらの器具よりも俺の目の方が精度が良いのですから――」

「だとしてもだ!!」

「ゥウン……」

 

 自分よりも圧倒的に小さいラウラ相手に反撃も虚しく怒られているジョンを見ながら、自分は邪魔だろうと一夏は静かにその場を後にしていた。

 

 そんな折、確か前に読んだ漫画にこんなセリフがあった気がするなと一夏は口を開く。

 

「織斑一夏はクールに去るぜ……」

 

 

 


 

 

 

 さて、俺はどこでやらかしたのだろうか。新機軸の装備の開発をIS学園というアウェイ環境で行い、結果としてナノメートル単位の誤差で失敗した事が直近の目立つやらかしだろう。

 

 だがまぁ、根本は違う。

 

「ですが、見ての通り怪我無かったのですし危険性は無かったと言えるのではないでしょうか?」

「IS学園の壁がこうも損壊する程の事故が危険性無しであってたまるか!」

 

 やはりというか、なんというか……この俺が思わず降参しようかと思うほどの正論を叩きつけてくるこの少女――ラウラ・ボーデヴィッヒこそが、俺のやらかしの根本だろう。

 

 俺、ジョン・ウェイン・ウェストは前世の自分との連続性が完璧に維持されている。こちらの世界に生まれてから学んだ言葉に当てはめれば、俺は転生者と呼ばれる存在なのだろう。

 

 そして今の俺が生まれ生きているこの世界は、前世では創作物として扱われていた世界だ。とはいえ作品名と大まかな概要を聞いていただけなので俺自身内容は大して知らない。

 

 だが、今も俺の目の前でプンスコ怒っているラウラ、彼女が本来の筋書きでは先程そそくさと去って行った織斑一夏という少年に好意を抱いているはずだったという事は知っていた(聞いていた)

 

 ならばやはり――

 

「まぁまぁ、良いでは無いですか。ケガ人はおらず被害は――20分もあれば修復できる程度。終わり良ければ総て良しという言葉が日本にはあると言います」

「それは結果論に過ぎないだろう!?」

「ええ、結果論にすぎません。ですがこの世界は結果が全てなのですから、こうも怒ることは無いと思いますが」

()()の身を案じるのは当然だろう!!」

 

 ――どうしたって、俺のやらかしだったのだろう。

 

 本来は同年代の彼と、甘くて暖かなボーイミーツガールを繰り広げるはずだった子兎はクソッタレの悪い大人に引っかかった。

 

 いや、俺も精一杯抵抗はしたんだけどな? ちょっとフィジカル差にモノを言わされて……うん、一旦考えるのやめるか。

 

 とにかく、俺はとてつもなくやらかしたと言う訳だ。そのやらかしへの対処は……まずは直近のやらかしについて終わらせるとしよう。

 

「”恋人に案じてもらえる”それは男冥利に尽きる嬉しい事です。ですが、それが過剰な心配であるのも事実。とりあえず今日の所はこの話は終わりで良いでは無いですか。昼休みもそろそろ終わります……ラウラ、君にも俺に会いに来る用事があるのでしょう?」

 

 とりあえずラウラがここに来た理由を出して誤魔化すことにする。これでもしラウラが俺のことが心配で見に来たなどの理由で来ていれば大いに逆効果だが、彼女がそのような理由で俺に会いに来ないという事は俺自身がよく解っている。

 

「むぅ……確かに時間が押していることは確かだな。分かった、この話は後にする」

「ありがとうございます。で、どうしてこんな時間に俺に会いに来たのですか?」

 

 俺の予想としては……ISの整備だろうか?

 

「専用機の整備を頼みに来た」

「ッシ……なるほど、でしたら預けて下されば放課後には万全の状態でお渡しできるかと」

 

 予想が当たっていたことに小さくガッツポーズしつつ、現実的な作業終了の目算を提示する。

 

「では頼もう。放課後すぐに取りに来る」

「分かりました、責任をもって整備します」

 

 恋人である以前に技術者とクライアントだ。しっかりと仕事を成し遂げると約束する。

 

 俺の宣言を聞いたラウラはするりと()()()()の下のレッグバンドを解いて俺に手渡す。当然、身長的に俺が少しばかり腰を折って高さを合わせて受け取る必要があった。

 

 それにしても、俺だから良い物をロクな設備が無い状態の整備員に待機状態のISを渡すんじゃないわよ! 割と困るんだからねこういうの!!

 

「確かに、受け取りました」

 

 ラウラの専用機である”シュヴァルツェア・レーゲン”を受け取って、さて仕事を始めようかと腰を真っ直ぐに戻そうとした時、ふとラウラに腕を引かれる。

 

 なんだなんだと振り向けば、グイッと腕を引かれてバランスを崩しかける。そしてそんな俺の視界全体を白が覆って、唇にふわりと柔らかな感触を感じた。

 

「さっきの話の続きも、これの続きも放課後に……だぞ」

 

 そうクスリと笑って走り去っていく黒兎を見送って。やっぱり俺は彼女に勝てないのだと再認識しながら、すでに半ばまで修復を進めた壁を無視して少し離れた扉から格納庫内に戻る。

 

 さてやるかと意気込んで、ポイっと投げるようにして放ったレッグバンドは光を発して主を失った鎧として地に降りる。

 

「さてと、ここからは俺のお仕事の時間だ」

 

 ()を起動し、サブアームを展開する。拡張領域から取り出した工具の調子をクルリと回して確認し、問題ない事を確信して久方ぶりの我が子の装甲に触れる。

 

 やはりISは良い。気分が良くなる。

 

「超特急で終わらせよう」

 

 そう言って、躊躇は敵だと一気に装甲を引き剥がした。

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