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「早速準備しようジュリ!」
別の調理室へ移動し、料理の準備を進めていく二人。今日のメインメニューは『唐揚げ』と『お楽しみデザート』だ。デザートに関しては、給食部のみんなで話し合って決めており、ジュリの得意なパンケーキにしようと思っている。
もちろん、下ごしらえ担当はジュリ、調理担当はイナなので生物や兵器を生成することはないだろう。
「始めましょうか、イナちゃん!」
「よしいくよ!」
そして調理が開始される。
まずは、主食である白米から。一気に大量に炊ける立体炊飯器とガス炊飯器を使ってお米を炊く。基本的に給食部として料理に対する怠惰は罪だが、怠けたいのではないので使えるものは使っておく。
時間短縮のため無洗米で、ジュリに頼んで水を入れてお米を浸水させる。今日はパンケーキなので、いつもよりも米の量は少なめで調節している。
ちなみにイナの場合、浸してしばらくすると、お米がゼラチンみたいになってダイナマイトの原料であるニトロゲルになってしまう(一敗)。
その間にイナは食材と油の準備、ジュリは皮むきや食材を切ってもらう。前半はジュリの方が大変であり、イナは手伝いたい気持ちをなんとか抑えて自分のやるべきことに集中する。
(『混ぜる』『焼く』『盛り付ける』『煮る』『蒸す』『揚げる』『茹でる』……)
イナはいつも通り、何度も自身ができることを繰り返し意識し、合わせ調味料を作る。
唐揚げ用の下味をつけるのは駄目だが、下味用の合わせ調味料などを混ぜても大丈夫なのは、フレンチトーストの件で分かっている。
そして、ジュリが野菜や鶏肉などを切り終わり、鶏肉を合わせ調味料に漬ける。次の段階である、小麦粉を付ける作業に入るところで、ハプニングが発生する。
「これもしかすると、パンケーキ用の小麦粉足りないかも……」
薄力粉がパンケーキに回すほどの量がないことに、今更ながら気が付く。
するとジュリが、
「私、フウカ先輩の行きつけの所へ買いに行きます!」
焦りや張り切っているのも相まって、イナの制止する声も届かない。仕方ないので、イナも今自分ができる事を考える。
(たしか、パンケーキの小麦粉とベーキングパウダーって、不均等やダマにならないよう一緒にふるいにかけるんだったよね?)
イナは
(……ん? なんか火薬くさい?)
小麦粉は白いままなのに、やけに火薬のにおいがする。思い返して、さっきまで爆発や銃撃戦に巻き込まれた事によるものだろうと判断した。
(やっぱり、パンケーキ用の小麦粉足りなかったか……)
ただ、唐揚げ用の『ふるいにかけた』小麦粉は確保できたので、後はジュリにやってもらうことにする。
「ただいま戻りました!」
ちょうど、小麦粉を抱えたジュリが買い出しから戻ってきた。急いだのか、少し息を切らせながら小麦粉を下す。
「おかえり―! 一応小麦粉とベーキングパウダーふるいにかけておいたから、残りの小麦粉はお願い」
「ありがとうございます!」
ジュリは足りなかった小麦粉をふるいにかけながら足していき、イナは炊飯器のスイッチを入れる。これで残るは、オニオンスープを作るのと、鶏肉に小麦粉と片栗粉をまぶして揚げる、パンケーキに材料を入れて混ぜて焼く、そして盛り付けるだけだ。
結構な量あるが、いつかは終わる。それに、料理をする楽しさと食べてくれると思う気持ちが原動力になり、手が止まることはない。
そして、ジュリが小麦粉と片栗粉を鶏肉にまぶし始め、イナはパンケーキの材料を混ぜる。
(『混ぜる』『焼く』『盛り付ける』『煮る』『蒸す』『揚げる』『茹でる』……?)
材料を混ぜながら、先ほどのように繰り返す。しかし、ある違和感が脳裏に浮かぶ。
(あれ? なにかおかしいような……)
合っているような、合ってない感じがするが、何回も唱えているはずなので間違うはずがない。
そして、後に『第1次給食部ゲヘナ事変』と呼ばれる騒動が、ついに始まる……
「じゃあ、交代しようか」
パンケーキの生地を混ぜ終えたイナが、先に唐揚げを揚げるためにジュリと持ち場を交代する。あとは揚げるだけだ。
ジュウ、パリパリと音を聞きながら、揚げ物の色を見る。揚げあがったものから移していき、また次のものを高温の油へ入れる。香りと出来立てを見るとお腹が空いてくる。
しばらくして……
「よし! あとはパンケーキを焼いてっと……」
すべて唐揚げを揚げ終わり、油の火を止めてパンケーキを焼く作業へと移ろうとした時。
「あぁ、『パンちゃん』が!」
(パンちゃん!?)
ジュリの言葉に反応して声がした方向へ向くと、一匹のパンちゃんとジュリが追いかけっこしている光景が見える。調理道具を散乱させている様子にイナが声をかけると、こちらに振り向いて少し笑顔になりながら……
「また動き出しちゃいました!」
(そっかー動き出しちゃったか……じゃなくて)
「ジュリ、下ごしらえ頑張ってたからしっかり休んで? 手伝ってくれるのはうれしいけど」
ジュリのことだから、持ち場を交換して少し手が空いてしまい、手伝おうとしてパンちゃんを生み出したのだろう。気持ちは凄く分かる。幸い、一匹だけなら多分大丈夫だが……ずっと気になっている事をジュリに聞く。
「あと……その、パンちゃんってそんな『色』してたっけ?」
いつも見ているパンちゃんの色は、紫と緑色の毒々しい色と触手のようなものが生えた見た目をしている。
しかし、このパンちゃんは触手は生えているが、色が黒と赤の配色となっている。まるで、RPGの色違いのモンスターのように見え、ちょっとカッコよくなっている。
「そういえばそうですね。なんで色が違うのでしょうか」
どうやら、ジュリにも分からないらしい。
直観的に見ると、パンちゃんの『亜種』か『突然変異』が考えられるが、飛び跳ねて移動する動きや習性は今のところ普通のパンちゃんだ。
「あ、こっちに来た」
黒パンちゃんがイナの所に近づいてくる。基本的にはジュリの言う事を聞くものの、イナやフウカ先輩に襲い掛かる時もある。この個体は襲い掛かってこないので少し安心する。
(あれ、どうしたんだろう)
イナに近づいて止まったと思ったら、調理台にある唐揚げの方を向いているように見える。そして、タコみたいな触手を伸ばして、唐揚げを掴んで『食べた』。
「ちょちょっと! パンちゃん!?」
今までの習性から考えられない行動をとる黒パンちゃんに驚く暇もなく、凄まじいスピードで唐揚げを頬張るように食べ続ける。その姿は美食研のアカリを想起させた。
「パンちゃん駄目! これはみんなの唐揚げです!」
ジュリが必死に止めようと試みるも、言う事を聞かない。やむを得えず、イナがハンドガンを取り出してパンちゃんに銃口を向ける。
「パンちゃんには悪いけど、独り占めは駄目だからね!」
数弾発砲すると相変わらずのイナエイムで当たらないが、音に反応した黒パンちゃんの動きが止まる。一瞬分かってくれたかと思いきや、こちらに向けてペッと一つの唐揚げを吐き出す。
(いや別に、自分の唐揚げが欲しかったとかじゃなくて?!)
そう思ったのもつかの間……
ドオオオオオオオオオン!!!!!
唐揚げが『爆発した』
「ジュリ、大丈夫!?」
「大丈夫です!」
イナとジュリともに爆発によるケガや油による火事は大丈夫そうだが、調理器具などが散乱して、とてもじゃないが料理の続きなどはできない状態だ。
(あれじゃまるで、『自分が下ごしらえ』したかのような……いやまて?)
「い、イナちゃん、パンちゃんが!」
何かを思い出しそうな所で、ジュリから声がかかる。パンちゃんを見ると、パンケーキの生地が入った大きなボウルを触手で器用に持ち、ラーメンのスープを飲み干すかのように口であろう場所に流し込んでいる。
よく見るとその生地は、ジュリが混ぜた後と同じオーラが纏わりついている。ジュリに詳細を聞くと、生地を焼くときに混ぜてしまったらしい。
「ねぇ……なんかデカくなってない?」
見るからに巨大化している黒パンちゃん。そのサイズは、キヴォトスでよく見る戦車よりも2回りも大きい。
調理場が窮屈になったのか、天井と壁を破壊する黒パンちゃん。そして、ついでにと数千個あった唐揚げを自分の体内へ取り込んでいく。
「ずいぶんと食いしん坊なパンちゃんでしたね!」
ジュリはいつも通りだが、イナは冷や汗が止まらない。
「……これヤバくない?」
調理場が破壊されるのもヤバいが、何よりヤバいのは、『これ』が世に解き放たれることだ。
天井と壁を突き破るほどの頑丈さと耐久性、触手を使った攻撃と機動力、唐揚げを使った爆撃。もはやこれは……
(『生物兵器』だ……)
イナはハンドガンをリロードしようとするが、弾がない。風紀委員会との銃撃戦でほとんど使ってしまった。
(普段使わないから、弾も無くなってる……)
「何事ですか! ……こ、これは一体?」
異変を察知した風紀委員会が駆けつけるものの、見たことがない惨状に状況の処理が追い付いていない。
「こちら第4駐屯部隊。給食部の厨房に巨大な……うわああ!!」
『どうした!? 何があった!』
処理しきれないため、応援を呼ぼうと通信で呼び掛けるが、黒パンちゃんの触手攻撃一発で気を失ってしまう。
『全部隊に伝達! 食堂の厨房に異常発生! 直ちに応援求む! 繰り返す、食堂の……』
巨体のまま、ガリガリと音を立ててこちらへ振り向く。ジュリとイナを発見したのか、先ほどの風紀委員の時と同じく触手を動かして攻撃しようとしてくる。
「に、逃げるよ!」
ジュリの腕を掴んで誘導し、目的地はないが、とにかくあのヤバい攻撃から逃げる。イナが後ろを見ると、黒パンちゃんが追いかけて来るのが見えてしまう。
(どうしてこんな事に!?)
ジュリのパンちゃん以外は上手くいっていたはず。何もハプニングはなかったと……
(いや、小麦粉が足らないハプニングはあったけど
……小麦粉?)
自分の行動を思い出すと確かその時、小麦粉を『ふるいにかけて』、それを唐揚げやパンケーキの生地に使用した。
『ふるいにかけて』
「それだぁ!!」
おそらく、唐揚げが爆発したのも、パンちゃんの変異種が生まれたのもそのせいである。イナとジュリそれぞれのミスは今までにあるが、合わさったミスなどイナは想像もしていないし、初めてである。
故に、現場監督のフウカの存在が抑止力になっていたから事件は起きなかった。
現場監督が誘拐されることは何度かあったものの、その度に風紀委員会がすぐに美食研から救出したり、自分たちもきちんと待機したりと、このような事態は防がれていた。
「イナちゃん、ごめんなさい。私が……」
ジュリは責任を感じているのか、走りながらイナへ謝ってくる。
「いや、ジュリのせいじゃないよ。唐揚げ爆発したのもパンちゃんが変異したのも自分の影響だし」
こんなどうしようもない状況はとにかく……
「反省会は後! とにかく被害出さないためにも外いくよ!」
廊下から外へつながる通路へ逃げる二人。途中、風紀委員会とすれ違うも、もれなく全員黒パンちゃんになぎ倒されている。
事件は始まったばかりである。
* * *
「ん? なんですかあれは」
巡回中の戦車から
「見なかった事には……出来そうもないですね」
ちょうど、『上』から連絡が入ったのを見てみぬフリは出来ないと察する。
こういう治安維持は風紀委員会の仕事ではあるが、『あの人』は一体何を考えているのだろうか。どっちみち、あの巨大な侵略者を野放しにするとこちらにも被害が来る可能性があるので、行くしかない。
「はぁ……めんどくさい」
そう言い、ため息をしつつも、戦車を方向転換させ侵略者の元へと進ませていくのであった。
突然変異したパンちゃんの特徴は、これだけでは終わりません。
これを書いている時、ずっと脳内であの音楽が流れていました……
次回もよろしくお願いします!