名誉温泉開発部   作:第三のケモナー

12 / 26


沢山のお気に入り、見ていただいてありがとうございます!

それではどうぞ


干しシイタケはぬるま湯で戻してから

 

 

 

 

 

「アコ行政官! お忙しいところすみません!」

 

 風紀委員会本部。現在、ヒナ委員長などの主力は、攫われたフウカと美食研究会を追って、ゲヘナ学園には居ない。アビドスからの帰りで、そのまま出動し、学園にはアコと駐屯していた風紀委員のみとなっている。

 そしてヒナに命じられて、反省文と謹慎中であるアコの元に一報が届く。

 

「なんですか? 今、ヒナ委員長から任されている事(反省文)で忙しいんです」

 

 自身の机で反省文を書いているアコは、少し不機嫌な様子で反応する。伝令係の風紀委員は、物怖じながら、アコにゲヘナ学園の現状を伝える。

 

「じ、実は……」

 

 厨房に突如として出現した巨大な生物。それが建物を破壊し、風紀委員達を蹂躙している事を伝える。

 

「他の報告には『唐揚げが爆発した』と混乱している生徒も居るようで……」

「……今なんて言いました?」

 

 声のトーンが下がり、なにか失言してしまったのかと焦る伝令係。だが、言ってしまったことに対して聞いているのだからと、繰り返し言ってみる。

 

「げ、幻覚かとは思うんですが、『唐揚げが爆発した』と混乱している生徒が居ると」

 

 アコは聞いてしまった。先ほどのアビドスの爆発に関しては間違っていたが、今回は絶対に間違いない。なぜなら、食べ物が爆発するなど、あの生徒しかいないからだ。

 

(あんの火薬庫ですかァ……!)

 

 力が入り、持っていたペンをへし折ってしまう。その様子を見ていた伝令係は、「ヒィ」と、情けない声を思わず出してしまった。

 ひとまずここは落ち着こうと、アコは深呼吸と咳払いをして頭の中を整理する。

 

「コホン。ヒナ委員長には伝えました?」

「は、はい。委員長からは、『できるだけ戻ってくるまで被害を最小限に』と……」

 

 その言葉に少し安心するも、アコは謹慎の身なので、自身が動けない事がもどかしくなる。

 

「あと、委員長から追加で、『それまでの指揮はアコに任せる』ともおっしゃってました!」

「それを早く言いなさい!」

 

 その言葉を聞いて、今まで不機嫌だったのが、一気に調子が上がってくる。なにより、ヒナの『任せる』という言葉が活性剤となり、すぐさま指揮の準備に取り掛かる。

 

(今回は逃がしませんよ……『ゲヘナの火薬庫』!)

 

 一度、逃げられている相手でもあり、悩みの種でもある。まずは、被害を最小限に、そこからイナを捕縛して尋問するプランを立てる。

 

 

 こればかりは、イナも騒動の一端を担っているため、擁護のしようがない。

 こうして、風紀委員はヒナが戻って来るまで、アコの指揮によって動き始めたのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「キキキッ……このチャンス、逃す手はない」

 

 万魔殿トップの議長である、『羽沼(はぬま) マコト』は不敵な笑みを浮かべながら、学園での騒動を窓から眺めている。キヴォトスきっての戦車や兵器を所持しているこの組織は、ゲヘナ学園の生徒会のような役割を持っており、その活動は外交、内政、財政管理と多岐にわたる。

 もちろんのこと、自治区内の防衛も風紀を正すという意味では、風紀委員会と担ってはいるのだが……

 

「『あいつ』が居ない今、このマコト様が成果を上げて、風紀委員会の存在意義を下げる……そうして、万魔殿マコト様の名前はキヴォトス中に轟くだろう!」

 

 万魔殿と風紀委員会、この双方はとても仲が悪い。正確には、マコトと風紀委員会だが、事あるごとに風紀委員会にちょっかいをかけ、ヒナの仕事を増やしている。

 

 そして今回、ヒナが学園内に不在との情報と、ゲヘナ学園を脅かしている謎の巨大生物の情報を掴み、この計画を思いついた。

 

(キキッ、何もできなかった風紀委員会は、さぞ悔しいだろう)

 

 ヒナの悔しがる表情を想像し、思わず笑みがこぼれた時、戦車長の『(なつめ) イロハ』から連絡が来る。

 

『マコト先輩、本当にやるんですか?』

「無論、やるつもりだ。ありったけをぶつけても構わない」

 

 マコトの言葉を聞いて、通信に聞こえない程度にため息を付くイロハ。

 対象が戦車や軍隊ならば、どうにかなりそうだが、相手にしているのは未知の巨大生物である。イロハが見た事がある映画では、大体、兵器が通用しないパターンが多い。

 

『また何か、企んでいるんですか』

「案ずるなイロハ、そのうち分かる」

 

 そして、戦車と後方支援の爆撃の準備が整い、後はマコトによる号令のみとなった。

 

「キキキッ、撃て!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「イナちゃん待ってぇ」

「ハァ、ハァ……こ、ここまで来れば大丈夫かな」

 

 イナとジュリは、ひとまず広い所へ行き、建物が破壊されないようにする。黒パンちゃんは、建物に遮られながら進んでいるため、こちらの走る速さよりは遅いようだ。

 

(大変なことになった……)

 

 黒パンちゃんの方を見ると、逃げる生徒、興味津々で写真を撮る生徒、応戦する風紀委員と、まるでパニック映画かのように混沌とした状況だ。もれなく、応戦した風紀委員には、唐揚げ爆弾と触手攻撃をお見舞いしている。

 爆弾については、唐揚げが切れるのを待つしかなく、本体も触手攻撃があるため、ヒナでないと対処は難しいだろう。

 

(多分、ヒナ委員長はフウカ先輩の救出に行っているだろうし、逃げるしかない)

 

 かといって、数千個の唐揚げを切らす頃には、ゲヘナ学園は崩壊している。何か対策はないものかと、考えていると、突然サイレンと放送が鳴り響く。

 

 

『全校生徒に告ぐ、ケガしたくなければ速やかに巨大生物から離れなさい。繰り返す、速やかに……』

 

 

「な、なんですか? この放送」

「多分、パン……なんとかティーとかいう、うちの生徒会じゃない?」

 

 パンちゃんと言いすぎて、パンデモニウム・ソサエティーの名前が出てこないイナ。この放送は以前にも聞いたことがあるので、それを覚えていたが、何の為にこの放送を流したのかは分からない。

 

(巨大生物っていうのは黒パンちゃんの事だろうけど……)

 

 すると遠方から、ガタガタと音を立てて『巡回中』の札を引っ提げた戦車が、黒パンちゃんの方へ進んで行くのが見えた。

 

「もしかして、一斉砲撃を?」

「パンちゃん……」

 

 ジュリは、あのパンちゃんの事を心配しているのか、不安そうな顔で戦車が行った方向を向いている。

 

「……ジュリ、気持ちは分かるけど、こればっかりは」

「はい……」

 

 自分たちが生み出してしまったが、愛情込めて作った料理が、このような形になると心にくるものがあるのだろう。

 

「パンちゃんが可哀想になるね……」

「みんなの給食が……」

 

「「え?」」

 

 

 変な間が開いてしまう二人。

 

「パンちゃんならきっと大丈夫です!」

 

 どこから来る自信なのか分からないが、生み出した本人が言うのならば、大丈夫なんだろう。

 

(いや、大丈夫なら大丈夫で状況は変わらないんじゃ……)

 

 というか、あの唐揚げは、もれなく全部爆弾だろう。

 

 

 

 そうして一斉砲撃が始まり、大きな音を立てながら爆撃も投下される。黒パンちゃんの姿は、砲撃と爆撃により、黒煙と砂煙で見えなくなる。あれだけの攻撃を受ければ、いくら耐久性が高いものだろうと粉々になるだろう。

 

 

 万魔殿側も撃退したと判断して、攻撃を止める。だが、煙が晴れて黒パンちゃんの姿が見えた時、その判断は間違いだったことを知る。

 

 

「嘘だろ……」

 

 誰が漏らした言葉かは分からないが、この光景を見ていた者の総意だった。

 柔らかく、頑丈な黒い体は爆撃を軽減し、赤い触手はダメージを受けてはいるものの、砲撃を跳ね返していた。

 

GYAAAAAAAAAA!!!!

 

 黒パンちゃんの咆哮が学園に響き、その咆哮は激昂を意味していた。

 

(もしかして、今までのって追いかけっこだったとか?)

 

 イナが思った通りなのか、黒パンちゃんの様子が変わる。口を開け、その中から『普通サイズのいつものパンちゃん』が列を成して出てきた。

 

「パンちゃんの中から、パンちゃん達が!」

「え、何あれは……」

 

 ぞろぞろと出てくる姿は、ペンギンの行列を思い出す。そしてパンちゃん達は、バラけて思い思いの場所へ散らばっていき、各々戦車に向かっていく。

 

 

 そして、数秒後に爆発音と爆煙が巻き起こる。

 

(え? また爆撃を?!)

 

 最初は、万魔殿が再度攻撃を行ったのかと思ったが、黒パンちゃんは爆撃を受けていない。よく見ると、黒パンちゃんの周りで起こっているものであり、先ほどまで戦車が居た位置で煙が上がっている。

 

「もしかして…?」

 

 深く考える暇もなく、黒パンちゃんは次の行動に移っていく。

 口らしき所をモグモグさせて、大きく開ける。中から出てきたのは、先ほどの普通サイズよりも大きいパンちゃん2匹。その2匹が急に『縦になり』、触手を絡めてボビン型となり、まるでそのまま転がりそうな形に変形した。

 

「イナちゃん、あれってなんですか?」

「私にも分からん」

 

 すると、方向転換し、触手を駆使して物凄いスピードでイナ達が居る所とは違う方角へ転がっていく。

 

(あの方向って、パンなんとかティーがある所じゃ……)

 

 数十秒後に万魔殿の方から、爆発音と黒煙が上がった。

 

 というかあの形はまさか……

 

「分かったかも……」

「何か知っているんですか? イナちゃん」

 

 イナの脳裏に浮かんだのは、ある『兵器』。実際に戦場で使われることは無かったが、あのインパクトのあるシルエットは印象に残っている。

 

 

「『パンジャンドラム』だ……」

「『パンちゃんドラム』…?」

 

 紅茶をキメたある国で、発案と試行錯誤された兵器。結局、何処へ行くか分からない挙動、平地で車輪が空回りする、そもそもの推進力が足らないなどの問題から、実践投入することはなかった。

 

 パンジャ……パンちゃんドラムは、触手による推進力とパンちゃんによる自動標準、安定した走行で対象を爆撃できるのだ!

 

(じゃなくて、普通にあそこ爆破させるのはヤバいって!)

 

 被害を増やしていく量産型パンちゃん、それを防ぐ風紀委員会、第二弾のパンちゃんドラムを放とうとしている黒パンちゃん、混乱する万魔殿構成員、逃げる生徒……ある意味、この学園の校風である『混沌』に合っているが、このままだと収拾がつかなくなってしまう。

 

「イナちゃん! パンちゃん達が来てます!」

 

 ジュリが言った通り、量産された個体がこちらに向かっている。ハンドガンに弾はなく、逃げ切れるほどの体力はない。

 

(詰みなのでは?)

 

 

 半ば諦めそうになった時、こちらに向かってきたパンちゃん達と第二弾のパンちゃんドラムが『大きな銃声』によって爆発する。

 

「この銃声は……」

 

 聞き覚えのある銃声は、イナとジュリの後方から聞こえてきた。二人が振り向くと、白髪と大きな羽、風紀の文字が書かれている腕章、機関銃を構える姿が見えた。

 

 

「聞きたいことは沢山あるけど、取り敢えず、下がっててちょうだい」

 

 

 風紀委員長の空崎 ヒナがゲヘナ学園に帰還した。

 

 

 

 

 





 バグパイプの幻聴が聞こえてきそうです……
 それはそうとイナとジュリ、この後色々と大丈夫なんでしょうか。

読んでいただいて感謝です!次回もよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。