名誉温泉開発部   作:第三のケモナー

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高野豆腐は水で戻してから

 

 

 

 

 

 騒動というのは他の人から話を聞いたり、遠くから見たりするだけならば、他人事で済む場合もあるだろう。ただ、騒動の中心人物である事や、その人物が知り合いであったり、首を突っ込んだり、話し掛けられたりなどあればどうだろうか。

 

 他人事ではなくなるだろう。

 

 

 いつものようにイナは学園の広場を歩いており、風紀委員会本部近くまで訪れていた。

 

(反省文提出しないと)

 

 先日あった『給食部ゲヘナ事変』の罰として、ジュリと二人で反省文を書いたので、イナ一人で風紀委員会に提出しに向かっていた。

 因みにジュリは、食堂と学園から逃げたパンちゃんを追いかけている。

 

(なんか騒がしい気が……)

 

 ゲヘナ学園は銃声などでいつも騒がしいが、この騒がしさはどちらかというと、有名人でも来ているかのような雰囲気だ。

 

(イブキちゃんかな? でもあの子って風紀委員会に用事あったっけ)

 

 万魔殿のアイドル的存在の飛び級同級生を思い浮かべる。しかし、現在の周りの反応はアイドルというより、物珍しさという感じが強いような気がする。

 そして、風紀委員会本部に着くとイナは、反省文をヒナ委員長へ提出する為に執務室前に来る。本来であれば、他の風紀委員に提出すれば良いのだが、あの取調室で直接言われた事であり、あの忙しい中、再度説明するのも大変なのである。

 

(しかも今、食堂で騒動が起きているというのがなんとも言えない……)

 

 イナもジュリと一緒にパンちゃんを追いかけたかったが、フウカ先輩とジュリに

『期限過ぎたら不味い』

と言われたので、こうしてイナ一人で来ている。

 

「失礼します。給食部の纒 イナです! ちょっと今お時間大丈夫ですか?」

 

 執務室のドアをノックして、ヒナからの返事を待つものの、一向に返事が帰って来ない。

 

(やっぱり今留守なのかな)

 

 委員長という忙しい身なので仕方ない。諦めようとしたが、一瞬部屋の中から声が聞こえてきた。イナはいけないと思いつつ、ドアを少し開けて中の様子を見る。部屋の中は誰も居ないと思ったが、バルコニーに人影を発見する。

 

(イオリ先輩?)

 

 誰かと話しているイオリを発見する。イナは気になって奥の方まで侵入し、見覚えある人物を見て固まる。

 

「せ、先生?」

 

 何故かイオリの前に先生が立っており、彼女となにやら話している模様。その光景は、何処かで見たことあるという既視感に襲われるイナ。

 

(まさか、アビドス編の『あれ』なんじゃ……)

 

 イナが言う『あれ』というのは、原作であったイオリの足を舐めるという行為の事を指す。それだけ見るとただの変態だが、この行為に至るまでの経緯が先生をそうさせている。

 

 アビドス対策委員会の小鳥遊 ホシノという生徒が、学校の借金の為に独断で自らの身柄を引き渡してしまった。ホシノを救出するに当たっての協力要請を、ゲヘナ風紀委員長であるヒナに直接頼む為、イオリにやった行為である。

 

 先生へ『会いたいなら土下座して私の足でも舐めたら』というイオリの言葉は、生徒を第一におもっている先生にとって、造作もない行為である。

 

(よりによって今!?)

 

 本当は生で見てみたいが、気持ちを抑えて部屋を退出しようとする。

 以前のアビドスの騒動に巻き込まれたのは、その生で見たいという気持ちも原因の一つであった。同じ過ちを繰り返さない様にイナはドアの方へ向く。

 

「何してるの?」

「ヒナ委員長!?」

 

 後ろを見た瞬間、ヒナが居た。

 アコ先輩もこんな気持ちだったのかと思いつつ、許可を取らず入室した事を誤魔化す為に、心の中で謝りながら先生とイオリの方へ指差しする。

 その方を見たヒナは、先生に気が付いたのかバルコニーまで近づく。

 

「何だか楽しそうね?」

「ひ、ヒナ委員長……?」

 

(デジャヴだ……というか先生、現在進行形でペロ……)

 

 ヒナの後ろから覗くと、先生が屈んでイオリの足を本当に舐めているのが確認できる。挑発したイオリもイオリで大概だが、緊急事態とはいえ足を舐めるのは流石先生である。

 

「顔を上げてちょうだい。そんなに頭を深く下げて……よっぽど深刻な事が起きてるのね」

「いや、その委員長……先生は跪いてるんじゃなくて、その、足を舐め……」

 

「"ふぃナ(ヒナ)うぃナ(イナ)!"」

 

(……えぇ! 自分も!?)

 

 ちょうど、先生から見える位置に居たので、ヒナのついでにイナの名前も(足を舐めるというより咥えながら)呼ぶ。

 

「ッ~~~!!!???」

 

 ヒナは先生をまじまじと見た瞬間、顔を赤らめて声にならないような小さな悲鳴をあげる。自分も初見なら、ビックリするどころじゃないだろう。

 

「と、取り敢えず、中に入って話しませんか?」

 

 何故か、イナが場を回す事になってしまうのであった。

 

 

 

 

「小鳥遊 ホシノが、ね……」

「"緊急事態なんだ……ヒナ、協力お願いできる?"」

 

 イオリは、学園で起きた騒動を鎮圧するために出動しているため居なくなっている。

 そして先生は、ホシノがカイザーコーポレーションに捕えられた経緯をヒナとイナ(!?)に話していく。

 

「事情は分かった」

「"なら……"」

「でも保留にさせてちょうだい」

 

 先生の期待する気持ちは分かるが、風紀委員会も自身の学園の風紀を守る事に忙しい。また、ゲヘナ風紀委員会によるアビドス侵攻の件であったように、自治区外のいざこざは、誤解や戦争を招きやすい。

 

「"イナはどうかな?"」

「すみません、自分も保留で。給食部の活動が……」

「"謝らなくてもいいよ!"」

 

 イナにも協力を仰ぐが、ヒナと同じく保留という答えが帰ってきた。

 

(本当は少しでも力になりたいけど、給食部の活動も大事)

 

 イナもイナで、給食部の調理も宅食もしなければならない。自分の都合だけで動いてしまうと、フウカ先輩やジュリに迷惑を掛けてしまう。

 

「"そうか……分かった! 話を聞いてくれてありがとう!"」

 

 先生は、真っ直ぐな目をしながらお礼を言うと、執務室を退室する。

 

 

 残った2人は、足舐めの事もあり、少し気まずい雰囲気を醸し出すが、イナが反省文を提出したことにより、なんとか回復した。

 

「確かに受け取った。もう、あの様な揉め事は起こさないで」

「すみませんでした」

 

 ヒナは反省文を受け取ると、執務室の机へ着席する。イナも退室しようとするが、ドアの前で立ち止まり口を開く。

 

「ヒナ委員長、先生は……」

「分かってる。自分の望みの為に膝をつく姿なら、これまで何度も見てきた。でも、一人の生徒の為に跪くのを見たのは初めて。」

 

 イナが言いきる前にヒナは、先生の事を語っていく。そして、その言葉に続けて

 

「できる限りの事はする」

 

 ヒナの『できる限り』というのは、いい意味で信用出来ない。その言葉を聞いて少し安心したイナは、執務室を後にする。

 

 

「……纒 イナ。あなたが先生を気に入った気持ちが分かった」

 

 執務室で一人になったヒナは、先生の覚悟を受け取り、残った風紀委員の業務を開始する。イナが言いかけた続きは恐らく、『先生は、跪くほどの覚悟を持って来ている』と言いたかったのだろう。

 

 もし、先生を手伝ったとしても、こちらは借りを作るしかメリットはない。また、大義名分を挙げても、アビドス侵攻に対する謝罪はもう済んでいる。

 

(けど、ゲヘナの火薬庫(纒 イナ)が来ればどうかしらね)

 

 心なしか、執務室でのヒナの業務速度は、いつもよりも速くなっていた。

 

(これじゃあアコの事も言えないわね)

 

 経緯は違えど、以前のアビドス侵攻時のアコと似たような事をやっている事に口角が上がってしまうのであった。

 

 

 

 

(だ、大丈夫だよね?)

 

 一応、『先生は変態じゃないんです』と言いたかったのだが、杞憂だったようだ。給食部へ戻る為に、廊下を歩きながら後の流れを確認する。

 

(トリニティ、風紀委員会、便利屋がアビドスの危機に駆けつけるけど……)

 

 なんせアニメとゲームでは流れが若干違う。というか、その二つと、このキヴォトスとの違いも見受けられている。

 

(ヒナ委員長は行ってくれるかな……)

 

 心の中では大丈夫だと思っているが、何処か引っ掛かるようなモヤモヤとした感情が湧いてくる。

 

「ただいま戻りました!」

「お帰りイナ。大丈夫だった?」

 

 給食部での騒動は収まっている様子で安心したイナは、フウカ先輩とジュリに報告する。

 

「その『先生』っていうのは、前に言ってたアビドスと風紀委員会の銃撃戦で会ったシャーレの?」

「そうです。いやービックリしました」

 

 あのアビドスの出来事については、給食部ゲヘナ事h……黒パンちゃん事件後に二人に話してある。聞いた時に、二人からなんとも言えない目を向けられたのは記憶に新しい。

 

「一度会ってみたいですねー」

「会ったら給食部の料理食べて貰いたいね」

 

 先生への感想を述べつつ、給食部の活動を始める。

 

「さあ、献立考えるわよ!」

 

 会議はつつがなく進行するが、終始イナは、何処か心ここに非ずといった様子だった。

 

『"イナはどうかな?"』

 

 先生の言葉を思い出しては消えてを繰り返し、ヒナ委員長と他の生徒が駆けつけてくれるだろうと、自分に言い聞かせる。

 やがて会議も終わり、調理場へ行き料理に入っても、イナは同じ状態であった。

 

「ちょ、ちょっとイナ!? お米!」

「……え、ああ?! すみません!」

 

 お米に水を入れてニトロゲルを作ったり……

 

「イナちゃん! こう、コンロを二つ使って火力を2倍にした方が良いんじゃないですか?」

「……んあ? 良いんじゃない?」

「良い訳ないでしょ!」

 

 ジュリのハチャメチャな料理理論に賛同してしまったり……

 

「なんか焦げ臭い……イナー?!」

「ハッ! しょうが焼きが……」

 

 今までに無いようなミスをしてしまったりなど……

 幸いフウカのお陰もあり、大きな事故には発展しなかった。ジュリもイナの様子に気が付いており、イナの事をずっと心配そうに見ていた。

 調理も終わり、休憩に入った時に二人から声がかかる。

 

「反省文提出してから何かあったの?」

「私達、相談乗りますよ!」

 

 二人にはお見通しだということと、相談しなかった自分を反省し、執務室での先生とのやり取りを言っていく。

 

「実は……」

 

 話を聞いた二人は、すぐに安心したような顔になった。

 

「ピンチなんでしょ? 行ってきなさい!」

「ここは私達に任せて下さい!」

 

 何を言われてしまうのか、緊張していたイナだったが、二人からの励ましの言葉に感極まる。

 

「フウカ先輩、ジュリ……ありがとうございます!」

 

「食材と料理人が居るのに、すぐ側に居るお腹を空かせた人を無視するのと同じようなものよ。給食部として頑張って来なさい!」

「そうです! なんなら私達も参戦します!」

「じゅ、ジュリ、それはまずいから……」

 

 お墨付きをもらったイナは、ヒナへアビドスへ行く事を連絡する。

 いつの間にか、心の中のモヤモヤは晴れ、その後の給食部の活動はいつも通りのイナであった。

 

 

 

 

 





読んでいただき、ありがとうございます!

補足
 イナのモヤモヤというのは、原作通りに行くか不安な気持ちもありますが、大部分はフウカが言った事と、助けないという選択肢に抵抗があった事で占めています。


 いかがだったでしょうか。感想、ここすき等参考にしておりますので、良ければどうぞ。それでは、次回もよろしくお願いします!パンヂャン
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