「よし!」
いよいよ、ホシノ先輩救出作戦が今日となった。イナは、鏡の前で下着一枚となった自分を見て、準備に取り掛かる。
「まずは荷物から……」
ダッフルバッグにイナが思う、作戦に必要な物を入れていく。火器は勿論の事、給食部で配備されているショットガンやサブマシンガン、予備弾倉、ショットガンセルと水などの食料品と調理器具を詰め込む。
「これ、必要かな?」
以前、シロコが使っていた小型ミサイルに憧れて、イナが衝動買いした小型ミサイルランチャー。当たり前だが、使いどころはなく、部屋の隅に置きっぱなしになっていたのを引っ張り出した。
「まあ持っていくか」
肩に担いで、バッグの側に置いておく。
(これも忘れずに持って行かないと)
イナ考案の給食部特製『秘密兵器』をバッグを再度開けて入れる。そして、自爆を防ぐための『ガスマスク』を装着する。
次に、自身の装備を整える。防弾チョッキ、弾倉、グレネード類など、銃の金属音、布が擦れる音、チャックを閉める音を立てながら身に付け、鏡の前に立つ。
「何か足らない気がする……あ!」
予備のエプロンと三角巾をキュッと結べば、完璧だ。
ドアの外に出て、ミサイルランチャーを担いで出発する。まるで何処かの世界大戦に出向くかのような装備は、エプロンによって隠れてはいるものの、街中で存在感を纏っていた。
デェェン
\デェェェェェェェン/
(……重い)
流石にキヴォトス人であろうと、重い物は重い。特に、ダッフルバッグとミサイルランチャーは、イナの肩にキリキリとダメージを与えていく。
新調した原付バイクに無理やり載せ、バイクに跨がった時に、イナは重大な事に気が付く。
「……そういえば、ホシノ先輩が捕まっている所知らないじゃんね」
大まかな地図は見せてはくれたが、詳しい場所までは知らない。連絡しようにも、そもそも先生の連絡先も知らない。聞いておけばよかったと後悔しても遅いが、今は調べないと出遅れてしまう。
「風紀委員会は……ダメだ、間に合うかどうか分からないし」
砂漠を原付バイクで走らせる訳にも行かないので、移動手段もない。給食部の車は美食研によって修理している。そうなると、後一つといえば
「便利屋……便利屋だ!」
早速、便利屋の事務所に連絡する。ネットで律儀に連絡先まで書いてあるアウトローは、ここにしか居ないだろう。
* * *
アビドスへ向かう為に準備していた便利屋メンバーは、ヘリの手配をしたり装備を整えたりと忙しそうにしていた。すると、便利屋事務所(仮)に一本の電話が掛かってくる。
「便利屋68、社長の陸八魔 アルよ。悪いけど今はアビドスに……」
『アル先輩? 良かったー繋がって……あ、纒 イナです。依頼といえば依頼なんですけど、自分も先生の所に参戦するので、一緒に乗せて貰えますか?』
「へ?」
いきなりの意外な人物からの電話に、何故行く事を知っているのか、などの色々なツッコミが追い付かないアル。
『先輩にしか頼る人居なくて……勿論、それ相応の報酬も出します!』
先輩にしか頼る人が居ない、報酬も出す……この言葉がアルにクリーンヒットし、二つ返事で了承してしまう。
『ありがとうございます! 事務所の場所教えて貰ったら、こっちから向かいます』
現在の事務所(仮)の現住所を教えて、受話器を置く。
「今の依頼? 誰からの?」
「……纒 イナからよ」
その名前を聞いて、信じられないといった便利屋の面々。
「アルちゃん、どんな依頼だったの?」
「先生の所に参戦するから乗せてくれっていう……」
アルが、依頼内容を言うとムツキは苦笑い、カヨコはため息、ハルカはどうすればいいのかオドオドしている。
「え? 不味かったかしら……?」
周りの反応から、何かを察するアル社長。
「社長、前に危険人物かもしれないっていう話してなかった?」
「……」
風紀委員に監視される程の危険人物が、お気に入りの店を爆破され、自分たちの行いでイナに容疑がかかってしまったまま、何も報復しない訳がないだろう。しかも、誘拐紛いの行為もやってしまっている。
「どどど、どうしよう」
住所も教え、こちらに向かって来てしまう。
「はぁ……あっちが来るならやりやすい。迎え討つよ」
幸い時間は沢山ある。杞憂だといいが、こちらが警戒を緩める理由はない。
「アル様の邪魔者は消します!」
「クフフ、先生とイナちゃんと大変だねー」
アビドスへ行く準備を進めつつ、外の警戒を怠らない。イナが来るまで、この状態は続くのであった。
* * *
「良かった、大丈夫みたいで……」
断られる可能性もあったが、報酬の件で考え直したのだろうか。
基本的にイナは、プロやアマチュア問わず、報酬や契約を大切にしており、例え友達だとしても必ず見合った以上の報酬を渡す。しかし、自分が受けとる側になると、あまり受け取らないという、自分に甘いか厳しいか分からない考え方を持っている。
原付バイクを走らせ、便利屋に向かうイナ。警戒されているとは微塵も思っていない。
(なんか見られてるような……)
明らかにすれ違うドライバーや歩行者から、ジロジロと見られている。スカートを確認するが、風で捲れてはおらず、不思議に思う。
(メイド服じゃないし……)
少し時間が経って、前方にヴァルキューレ警察学校の車がパトロールしているのが見える。法廷速度を守りつつ、ヴァルキューレの車を追い抜く。
(これだけは前世もこのキヴォトスでも変わらない)
やけに緊張してしまうイナ。追い抜いても何も言われないことに安心したのも束の間……
『そこの原動付きバイクに乗っているガスマスクの生徒! 止まって下さい!』
(エエエ!?)
何故か止められるイナ。周りに原付バイク乗っている人なんて居ないため、自分だと改めて自覚し、道路脇に停める。
車から出てきたのは、元気そうな雰囲気のある青みのかかった銀髪の生徒と、やる気が無さそうで眠気はありそうな青髪ツインテールの生徒。イナの方へ近づき、自己紹介してくる。
「本官は、
「ごめんねー急に呼び止めて。あ、私、
「どうも、纏 イナです……」
一応言われた通りにしたが、止められる理由が分かっていないため、戸惑いながら理由を聞き出す。
「あの、運転で何か? 速度守ってたんですけど」
「だよねー、なんで呼び止めたのさ」
いや、あんたも知らないのかい。というツッコミはさておき、どうやらキリノという生徒が中心となって呼び止めたらしい。
「運転は模範的でした! ただ、その『格好』……エプロンで隠しても、本官の目は誤魔化せませんよ!」
(格好?)
イナは、自身の姿を見ても何も違和感はない。PMCを相手にするならば、これくらいの装備は必要であるとさえ思っている。
……基本的にキヴォトスでは、銃火器の所持や戦車の走行は何ら問題ない。しかし、大量の銃火器を持って行こうならば、市民の安全を脅かすように思われても仕方ない。
実際に周りの人も、銃火器モリモリエプロンの生徒が居るのを見て、2度見してしまう程だった。
「まさか戦争とか襲撃でもする訳じゃあるまいし」
「……」
「え……本当に?」
イナはフブキの『戦争とか襲撃』という言葉に、今更ながら自身の恰好のヤバさに気が付く。キリノとフブキから目線を逸らせて、変な汗がイナの顔を伝って地面に落ちる。便利屋との約束の時間も迫ってきていた。
なんとかしようとした所、ふと、あるポスターが視界に入ったことによって、作戦を思いつく。
「あー自分、用事思い出して……ヴァルキューレのお二人には悪いんですが」
そう言いつつ、後ろに下がって原付バイクに近づく。すぐに跨いで乗れる位置に差し掛かった所で、イナは二人の後方を指さして言う。
「あ! 七囚人だ!」
二人が後ろを見た瞬間、バイクを走らせて逃走を図る。イナの言う七人囚とは、指名手配中のポスターの写真のことである。七人囚本人が居ない事を確認して、逃がしてしまった事に遅いながら気が付く二人。
(この手に限る)
反応に遅れた時間分イナとヴァルキューレの距離が空いてしまう。だが、ヴァルキューレも黙って見過ごすはずもなく、イナの後を車で追いかける。
『現在、襲撃未遂犯逃走中! 応援求む!』
車のスピーカーを切り忘れたのか、他のヴァルキューレ生徒への応援要請の声が響き渡る。その声はイナの耳にも届いていた。
(捕まったらやばいやばい……)
点在するヴァルキューレのパトロール達が集まってきたのか、サイレンの数が段々と増えていく。それにおびえつつ、最短ルートで便利屋の元へ急ぐ。だが、流石のヴァルキューレも、その方面の集まりだけあって、着々とイナとの距離を詰めていく。
(あ、あれは……)
パトロール中の車が、イナの進行方向で道を塞いでいる。逃走経路を読んでいたのか、こちらに向けて発砲してくる。当然のことながら、イナのバイクには防弾なんて施されていない為、当たったら即壊れる。
(
ヴァルキューレによって狭い道路へ誘導されるが、右折したことによりイナが積んでいた小型ミサイルランチャーが落ちる。部屋の隅っこに置いて管理を怠っていた為か、落ちた衝撃でミサイルが発射され、そのロックオン先は、なんとヴァルキューレの車であった。
ドオオオオオオオオオン!!!!!
爆発などお構いなしに、というより、小型ミサイルランチャーが落ちたことに気が付かないイナは、悪路を原付バイクで走り抜ける。
(ひぃぃぃ! 爆弾まで使ってくるなんて)
イナに爆撃している訳ではなく、揺れによりイナのダッフルバッグのチャックが空き、そこから火器が漏れているだけである。後続の追ってくる車にクリーンヒットし、車の窓ガラスが割れる。だが、車体は無事であるので、追手の手は緩んでくれそうもない。
すると、次にダッフルバッグから落ちたのは、イナが考案したという秘密兵器。
落ちた『ソレ』は、粉塵を巻き起こすのみで、視界も良好、スモークの役割も果たしていない。しかし、その粉塵に突っ込んでしまった車は、急にあらぬ方向へ突っ込んでいく。
後続の窓ガラスが割れた車も、次々と同じような様子で突っ込んでいった。それが道を塞いでしまい、イナを追う事は困難となってしまった。
後に、ヴァルキューレ内で『エプロンの悪魔』と噂されるようになったのは、また別のお話……
「大丈夫そうかな……?」
状況が落ち着き、慌てて息苦しくなったので、ガスマスクを脱ぐ。時計を見ると約束の時間ギリギリとなっていたので、イナは急いで便利屋の元へ向かうのであった。
お気に入り、感想等や読んでいただきありがとうございます!
Q.何が始まるんです?
A.大惨事だ
ヴァルキューレまでやってしまったイナは、もうフォロー出来ない……それはそうと、次回はカイザーPMCです。次回もよろしくお願いします!