名誉温泉開発部   作:第三のケモナー

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あけましておめでとうございます

それではどうぞ




きゅうりは塩で揉んで脱水を

 

 

 

 

 

「外出する家無いなった……」

 

 キッチンの事故により外出する家が無くなったイナ。壁が無くなり、吹き抜けるような風は体を冷やしていく。

 

「どうしよう……」

 

 もしこれから外を彷徨いたならば、ヴァルキューレに見つかった瞬間にアウトだ。そもそも『外出禁止』で外出する家が無い場合はどうすれば良いのだろうか。

 

『困ったら連絡してね?』

 

 ふと、別れ際にフウカ先輩に言われた事を思い出す。

 

「そ、そうだ、フウカ先輩」

 

 そう言って、瓦礫の中からスマホを見つけ出す。この爆発でも携帯が無事だったのは、もう壊れたくないとミレニアム郊外で買った『壊れないくん』のおかげである。

 

 早速、モモトークを開いてメッセージを送る。

 

〔フウカ先輩!! 下ごしらえ失敗して家無くなりました!〕

 

(これで一先ずは大丈夫)

 

 イナは送ったのを確認し、改めて周りを見渡す。ゲヘナ自治区の外側なので人はあまり居ないのと、キヴォトスでは爆発がよくあるので通報はされない……と思う。

 瓦礫から家具は見えており、幸いなことにクローゼットは大丈夫なので衣服はなんとかなりそうである。しかし、冷蔵庫と家が無くなってしまったので食べ物と住むところがない。

 

「それにしても返信が来ない……」

 

 瓦礫を掃除したり、家具を動かしたりしているうちに時間は経っているはずなのだが、一行にフウカ先輩からの返事、ましてや既読も付かない。

 

(寝る時間でもないし、どうしたんだろう)

 

 フウカ先輩の身に何かあったのだろうと心配する。

 もしかしたら……とすぐさまSNSを確認し始めるイナ。

 

「oh……」

 

 美食研究会の公式アカウントを見た瞬間、何故フウカ先輩と連絡が取れないか分かってしまった。

 

〔フウカさんとエビを食べるために漁村に行ってきます。〕

 

「こんな時にー!」

 

 後、連絡先を知っているかつ、頼れるのはジュリと便利屋68くらいしか居ない。

 

「今は便利屋頼らない方がいいし、ジュリ……いや、止めとこう」

 

 ただでさえ、ヴァルキューレに目を付けられているのに風紀委員会まで敵に回すのは良くない。

 かといってジュリを頼ると、またあの『生物兵器』を一緒に作ってしまう可能性がある。

 

(そうすると、風紀委員会か先生?)

 

 自ずとその二択になる訳だが、確実に味方になってくれそうなのは『先生』だろう。ただ連絡先は知らないのでここからシャーレまで移動していく必要がある。

 

「変装するしかないか……」

 

 かといって例のガスマスクはヴァルキューレに知られているだろうし、ヘルメットで顔を隠すには自身のツノを何とかしないといけないし、服装も割れている。

 

「そうだ! 『メイド服』!」

 

 アスナから貰った(というか借りパクした)メイド服ならば、ミレニアムに行かない限り服装でバレる事はないだろう。そしてサージカルマスクを付けて髪型を変えれば完璧だ。

 

(変装のプロだなこれ)

 

 ポニーテールを下し、顔の半分は覆われている為、誰がどう見てもゲヘナの生徒とは思わない。

 

 ただし、イナの特徴的なツノを除けばだが。

 

 

「よし、出発しますか!」

 

 バイクは押収されてしまっているので、イナはもう一つの移動手段を使う。

 

(勿論、『徒歩』で!)

 

 

 

 

ーーーー

 

 爆発した住居の影からイナの事を監視している者が連絡を取っていた。

 

「アコ行政官……聞こえますか?」

 

 その正体はゲヘナ風紀委員。行政官であるアコへ呼びかける。

 

『どうしました? 私は今、美食研究会の事で忙しいのですけど』

 

 フウカを誘拐し、漁村まで行っている美食研究会を裏から追跡しているアコは、突然の別作戦からの報告に鬱陶しいといった様子で答える。

 

「す、すみません……ですがあの火薬庫が」

『火薬庫なら今外出禁止でしょう。まさか本人が分かってない訳でもないですし』

 

 今の現状を伝えるべきか一瞬、悩んでしまう。作戦優先的には美食研究会の方が優先だ。

 だが、その『火薬庫』が変装して出てきた所を見てしまい、考えを改めて報告する。

 

「落ち着いて聞いてください。自分の家を爆発させ、変装して歩いて何処かに向かってます」

 

『……バカなんですか?』

 

 思わず罵倒するような言葉が出てしまうアコ。それを誤魔化すように咳払いをして発言を続ける。

 

『外出する家が無ければ外出とはならないなんて考え……浅はかですね。やっぱり反省して無かったですか』

 

 言葉が出てくるにつれ、声が大きくなっていく。

 

『ヒナ委員長がどれだけ構ってるか分かるんですか!? いや、分からないからこうも面倒ごとばかり起こすんでしょうね!』

 

「あの、アコ行政……」

 

『私とヒナ委員長との時間も無くなるしで、何故こうもテロリスト共は自分勝手に……!』

 

「えっ『取り敢えず、その火薬庫を追跡してください!』りょ、了解しました!」

 

 そう言って通信が切れてしまった。何とも言えない感情になりながら、アコに言われた通りイナの追跡を始める。

 

 

(しかし、なんでメイド服?)

 

 変装するならするで普通なら目立たない恰好をするにも関わらず、メイド服という目立つ格好をしている。ただし、対象は幾度となく監視の目を搔い潜っているので、油断は禁物だ。

 

(いやでも、凄く目立ってないか?)

 

 さっきからすれ違う人がイナの事を二度見している。しかも、別の場所でヴァルキューレから所属について聴取を既に二回ほどされている。

 

(もしかして、裏をかいて?)

 

 外出禁止で逆に目立つ格好をする事によって、ヴァルキューレの『隠れるなら目立たないように』という先入観を利用している可能性もある。

 その証拠に聴取を受けた二回ともイナだとは気付かれずに済んでいる。

 

(アコ行政官はバカとは言うけど、もしかして『バカのフリをしている』だけなんじゃ……)

 

 なんせ、ヒナ委員長などのトップから直々に監視を言われているのが何よりも説得力を持っている。あの温泉開発部や美食研究会でさえ、ずっと監視するなんて事はしない。

 

「ん? 止まった?」

 

 電車を乗り継いで着いたのは、エンジェル24が中にある大きなビル。確かあの建物は先生が居るシャーレの建物だ。

 そしてビルを見上げたかと思えば、対象はその中に入っていった。

 

「アコ行政官、対象はシャーレに入っていきました」

『……シャーレに? もしかして先生と?』

 

 アコもイナがシャーレに行くとは予想出来なかったようだが、シャーレに居る以上、目的は先生だと確信する。

 

『そのまま待機して、異変が起きたらすぐに連絡を』

「了解です」

 

 

 

 

ーーーー

 

「いやーヒヤヒヤする」

 

 移動中は駅構内と街中でヴァルキューレに声を掛けられた。その瞬間にバレたと思ったが、ヴァルキューレから聞かれたのは『何故その恰好を?』だけだった。

 

 以前にヴァルキューレからの聴取で失敗したので、今回は正直に『変装です』ときちんと答えた。すると何故かヴァルキューレは痛い生徒を見たかのように『頑張れ』と言って去っていった。

 

(変装が完璧すぎたのか?)

 

 そうこうしているうちにシャーレのビル前に着いた。シャーレに入るためには自身の学生証を持っていれば自由に入れるようになっている。その為、誰が入ってきたのかは記録に残ってしまうのだが、イナはそんな事は考えていない。

 

「あ、エンジェル24」

 

 シャーレの中に併設されているコンビニ……のようなもの。ブルアカでスケジュールやショップを開いた際に見る事が出来る。

 

 先生の所に直接行こうとしたが、イナの腹の虫が鳴る。フウカ先輩から送って貰ってからイナは何も食べておらず、作ろうとした結果がああなってしまったからである。

 

(何か食べるもの買おう)

 

 入店チャイムとともにイナが入ると、レジ内でガラケーをいじっている店員の姿が見えた。

 

「い、いらっしゃいませ!」

 

 慌てて携帯を仕舞うが、イナには丸見えである。

 店内にはお客さんが居らず、壁に所々銃弾の痕やガラスが割れているのが確認できた。他のエンジェル24と比べて随分とボロボロである。

 

(ここら辺は治安悪いし、中で銃撃戦とか襲撃とかあったのかな)

 

 イナはゼリーとパンをレジへ持っていくと、レジの店員さんが会計を始める。この店員さんの名前はソラと言い、24時間働いている疑いを掛けられているアルバイトだ。

 

「えっと、合計で240円となります!」

「カードでお願いします」

 

 カードでお支払いしている途中にも、ソラはイナの事をチラチラと見ていた。イナは気になってソラに聞いてみる。

 

「……あの、何か気になる事でも?」

「い、いえ! あ、あのメイドさんって初めて見たもので……すみません!」

 

(あーそうだった)

 

 キヴォトスでもあまり見ないメイド姿をしている人が入店してきたら、自分でも見てしまうだろう。

 

「えっと、これは変装というか仮装というか……シャーレの先生に会いに来た為に着てきただけで、メイドって訳ではないからね?」

「先生に会うために着てきた……?」

「そうそう」

 

 何故かぐるぐる目になっているソラ。そのまま会計を済ませて商品を渡してきたのはいいのだが、心ここに在らずといった風だ。

 そのまま店を出てシャーレのオフィスまで向かう。途中エレベーターが点検中だったが、階段があったのでそれを利用して向かった。

 

「この先に先生が……よし!」

 

 意を決してドアを開けるイナ。すると、そこに居たのは先生ではなく頭の上にヘイローが浮いた生徒だった。

 

「あれ、あの人は……」

 

 青いに近い菫色の髪を高い位置で二つに結んでいる所謂、ツーサイドアップにした髪型。制服はミレニアムサイエンススクールのセミナーの恰好をしていた。

 

「先生? もう戻ってきたんですか?」

 

 直接は会った事がないが、イナもよく知るその生徒は振り向いてこちらを見る。

 

「え?」

 

 ミレニアムサイエンススクール2年生『早瀬 ユウカ』がそこに居たのだった。

 

 

 

 

 







感想等ありがとうございます!

今年もイナをよろしくお願いいたします。
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