給食部イナの朝は早い。
5分ごとにピピピと鳴るスマホのアラームと、眉をひそめて目が半開きになっているイナ。
ちょうど3回目のアラームで黄色いヘイローが浮かび上がり、イナはベッドから起き上がる。
(うわー、髪すごいことなってる……)
洗面台に立ち、顔を洗って姿を見るとオレンジ色のやや癖のある髪の毛が爆発している。昨日色々あって、夜に髪の毛のケアをサボっていたからである。
これは一回シャワー浴びないと治らないと判断したイナは、パジャマと下着を脱いで浴室へ入る。
シャワーの栓を開き、60度にメモリを合わせお湯が出るまで待つ。
湯気が出たところでシャワーの下へ行きお湯を浴びる。
「ふぃ~」
(この体にも慣れたけど、やっぱりツノはこういう時に邪魔だなぁ)
イナのツノは左に2本、右に長いツノが一本と左右非対称で上に生えている。今のところ便利だと思ったことはなく、フウカ先輩のように髪の毛を掛けたりはできない。
他のツノがあるゲヘナ学園生徒は、入口が低いときにぶつかると言っているが身長が元々低い自分にとっては、関係ないことである。
体を拭き、時間をかけて髪をとかしながらドライヤーで乾かす。
乾かした後は、スマホでニュースを流しながら制服へと着替えていく。当たり障りのない内容と天気予報、占いなど聞いていると、突然ニュース速報の音がした。
『速報です。連邦生徒会の会長が行方不明との情報が入ってきました。』
一瞬時が止まったかのように錯覚するその速報は、ブルーアーカイブの物語の始まりを意味していた。
(……っていっても、知っているのはイベントとブルアカミームとアニメ1期だけだけど)
友人からの誘いでアプリは入れていたがメインストーリーはあまり進めていなかった。
ともかく、これから連邦捜査部シャーレに『先生』が赴任してくる。
(まあ関わるつもりはないし、給食部として頑張るしかないよね!)
お腹がすいたので、朝食として昨日『あらかじめ準備していた』フレンチトーストを冷蔵庫から引っ張り出す。
(うわ、カビ生えてる……でも冷蔵庫ついてたよね?)
食パンの一部分が赤くなっており、昨日停電でもあったのかとイナは判断した。
しかし、よく見るとそのカビのように見えるものは『赤く点滅』している。
「まさか……C4」
卵や牛乳など細心の注意を払いながら行ったが、やっぱり『寝かせる』のもダメらしい。多分焼いたら爆発するのだろうか。
こういう時に一番困るのが、処理方法である。
食べるわけにもいかないし、気軽に捨てるものでもないし、そもそも食べ物?を捨てる行為など出来るはずもない。今まではすべて暴走や暴発という名の処理だったわけで、捨てていたわけではない。
「タッパに入れて持っていこうかな……」
危険物をタッパに入れて持っていくなど正気の沙汰ではないが、イナはすでに度重なる失敗により正気ではなかった。
こうして『C4フレンチトースト入りタッパ』をカバンの中に入れて外へ出たイナ。外はまだ薄暗く肌寒さを感じるが、給食部の仲間や生徒のためを思うと、不思議と歩みが早くなるのだった。
「行方不明の連邦生徒会長を探すため……私が居る……そう私こそがキヴォトスの英雄。
今、目の前にキヴォトスの英雄を名乗る生徒が居る。
「こんな朝早くからゲヘナの生徒がうろつくなんて、妙ですね!」
いや、こんな朝早くにゲヘナ自治区で『トリニティ』の生徒であるあなたが居るほうが妙なんですけど。
「いやー、遠くまで来た甲斐がありました! さあ! 挑戦状を、受け取ってーください!」
レイサはそう言うと、イナの目の前にカラフルな挑戦状をたたきつける。
イナが受け取るはずもなく、その様子を見たレイサがアワアワしだす。
「ど、どうしたんですか! ゲヘナの生徒は好戦的で狡猾かつ犯罪の温床だと聞いているのですが?」
(微妙に反論できない)
ただ、このまま放置しておくと風紀委員会や他のゲヘナ生徒だけではなく、トリニティになにされるか分からない。
トリニティの上層部は、口にロールケーキを突っ込んで拷問をすると聞いたことがある。
「あのー、ここゲヘナ自治区になってるんで、風紀委員会とか来る前に帰った方が良いよ?」
「へ? ゲヘナ自治区…?」
どうやら気が付かずに来たみたいだ。
トリニティ総合学園とは、主に3つの学園『パテル』『フィリウス』『サンクトゥス』を合わせて構成される、お嬢様学校である。
真面目な生徒が多いが、政治的な所などで派閥があり、ドロドロとした人間関係があるらしい。
ゲヘナ学園と同じマンモス校ではあるが、昔からこの2校……滅茶苦茶仲が悪い。きっかけがあったが最後、全面戦争へ発展するほどの時期もあった。
そのために、例の連邦生徒会長が何かの条約を結ぶと言っていたが行方不明になった今、どうなるか分からない。
「ゲ、ゲヘナ自治区に逃げたって私は引きませんよ!」
レイサは引く気はないらしく、イナの疑いが晴れるまで付いてきそうな勢いだ。挑戦状を受けとれば楽なのだが、銃はあまり使いたくないし、気絶してしまえば給食部の活動に遅れてしまう自信がある。
ならばと、イナはまず自己紹介から始める。
「とりあえず……私はゲヘナ学園キョウシュウ部の纒 イナです。こんなに朝早いのは、毎日4000人程度の生徒を相手にしてるので、朝一に行かないと間に合わないからなんです」
途中噛んでしまったが、自己紹介は神聖不可侵の行為…旧約聖書にも書いてある。
「強襲部…? 4000人!? 具体的にはどのような……」
何故か予想していたリアクションと違うことに違和感を覚えるがイナは続ける。
「え? (食材を)切ったり、(鍋で)煮たり、(業者と)値段交渉したり……」
「(生徒を)切ったり、(生徒を)煮たり、(ブラックマーケットで)値段交渉したり!?」
「あ、でも時々失敗して(自分の下ごしらえかジュリの料理で)生き返ることもありましたね…」
「(処理した生徒が)生き返る!?」
レイサは目の前の小っちゃいゲヘナの生徒を恐れて少し後ずさりする。
(そういえばレイサって子ゲームイベントで見たことあるな)
トリニティ自警団(非公認)に所属しており、主にトリニティ自治区内での取り締まりを行っている。どうやら、朝の速報で居ても立っても居られないで遠くまで怪しい人物でも探していたのだろう。
だがここはゲヘナ自治区。レイサも『熱血バカ』と言われるが、自治区での縄張りは理解している。
レイサも挑戦状を出したら出したで後に引けなくなっている。ましてやイナのことを悪くて強いやつと思っているため、見逃すこともできない。
「分かったレイサ、じゃあこうしよう……『モモトーク』交換してここは一旦休戦としようか」
イナは給食部活動開始時刻が迫っているため、挑戦状を拾って『一旦休戦』の提案をする。おそらくレイサは、『監視』という名目で交換してくれるはず……
「分かり、ました! これ私の『モモトーク』のコードです!」
レイサとモモトークを交換して、『友達』の欄に入れておく。その後、レイサはゲヘナ自治区を離れるようにイナと別れた。
「今のうちに銃の練習しようかな……」
今後控えているレイサとの決闘に備えようと考えるイナであった。
「フウカ先輩! ジュリ! おはようございます! お待たせしました」
エプロンを着て厨房へとたどり着いたイナはフウカとジュリに挨拶する。
「イナちゃんおはようございます!」
「おはようイナ! いつもより遅いからジュリと心配してたのよ」
いつもよりも遅れていたため、心配をかけてしまったらしい。理由としては、朝のレイサの件だがトリニティの生徒のことを言うわけにもいかないので
「実は料理の練習をしてて、失敗したのをどう処理しようかなと迷って遅れちゃいました……」
イナはカバンの中から『C4フレンチトースト入りタッパ』を取り出し、フウカ達に見せる。
フウカは少しギョッとするも、興味本位でイナに聞いてみる。
「ただの焼く前のフレンチトーストに見えるけど…?」
そう言うとイナはタッパの蓋を開けて、赤く点滅しているのを見せる。
「最初はそう思ったんですけどね、この感じどうやらC4になっているようで……」
「なんでそんな危ない物をタッパに入れて持ってくるのよ!」
フウカの言う通りである。
涙目になっているフウカはすぐさま蓋を閉めて、調理場の外に持っていく。
「イナちゃん、私も朝パンケーキ作ったんですけどまた動き出しちゃって……」
聞くとどうやらジュリも少し遅れてきたみたいで、パンちゃん達に付き合っている間に時間が過ぎてしまったそうだ。
そしてフウカ先輩も戻ってきており、深呼吸をすると
「さあ! 今日もがんばるわよ!」
「「おおー!」」
時間は進み、ある場所にて……
「結局どこにもなかったね」
「販売元も産地も突き止めたのにね!」
「まあでも美味しい野菜もたくさん食べたから満足です」
4人のゲヘナの生徒が軽トラックに乗って道路を走っている。
「これは直接フウカさんに聞くしかありませんね」
どうやらこの4人はある食材を探しているが、見つからなかったようだ。車を走らせながらリーダーと思われる銀髪でお嬢様気質の生徒がつぶやく。
「一部の生徒に振舞われた通称『ランダムトマト』……『美食研究会』として食べない訳にはいきません。」
次の目的地はゲヘナ学園、大きなエンジン音を立てながら車の進路を変える。
「さあ、給食部のところに行くとしましょう!」
イナに悪寒走る!
イナのプロフィールは?
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別に…
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いる