「ぬあー! 疲れたぁ!」
朝の調理は多忙を極めており、イナやジュリによる兵器化下ごしらえと生物生成調理も相まって騒がしいものとなっていた。
そして現在……
給食部の調理場は落ち着きを取り戻していた。フウカ、イナ、ジュリの3人は休憩しており、ついでに第二校舎で実施される授業に向けて予習している。
「そういえばフウカ先輩、フレンチトーストどこやったんですか?」
フウカが調理場の外に持って行ったっきり、例の『C4フレンチトースト入りタッパ』の姿がない。
「あーあれね……
保冷剤と一緒に風紀委員会に『処理』してもらうように頼んでおいたわよ」
「風紀委員会に……フウカ先輩すみません、ありがとうございます」
風紀委員会に任せたのなら一安心と胸を撫で下ろすイナ。
フウカはソファーで寝ているジュリを見ると、毛布を持ってきてかけてあげる。
「こっちこそ、いつもありがとう。私一人だととてもじゃないけど出来なかった。イナとジュリにはいつも助けられてるわ」
「フウカ先輩……」
よくゲヘナ学園は悪魔の集まりだと言われるが、はっきり言うとフウカ先輩は天使である。なぜこの学園に入学したのかは謎だが、イナと同じように見た目で判断されたのではないかとイナは思っている。
「フウカ先p…」
バンッ「フウカさん!こちらに居ますでしょうか」
にもいつも支えてもらっています、と言おうとした途端にドアが開いて4人の生徒がズカズカと入室してくる。
(눈_눈)
入ってきたのは『美食研究会』という4人組。
キヴォトスに出没する食のテロリストで、何か気に入らない所や至らない点があれば、店ごと爆破したり、店の在庫を根こそぎ食べ尽くすヤバい集団である。
この給食部も以前カツについて至らない点があり、爆破されている。もちろん学園非公認であり、風紀委員会や他の組織に指名手配されている。
「いい匂いする! 今日の昼食かな!」
メンバーの一人『
彼女は食べ物と思えないようなゲテモノを平気で食べる生徒であり、なんとジュリの料理でさえ食すことができる。
「今日の献立は……油淋鶏でしたね。楽しみです☆」
同じくメンバーの一人『
大食いで彼女の右に出るものは居ないほど、無限かと思われる胃袋の持ち主である。瞳孔にある✕マークは、こちらを食べるのではないかとイナは恐怖している。
「やっほーイナ!」
メンバー最年少『
このメンバーの中では比較的まともであるが、食べ物の事になると止められない。イナとは面識があり、同じゲヘナ学園1年生である。
「フウカさんに用事がありまして」
美食研究会のリーダー『
美食研究会をまとめて?いるリーダー。美食に対して異常なこだわりを見せており、フウカを誘拐したり、食堂を爆破したりなど行動力が色々とおかしい生徒である。
「私に何の用で? まさかまた連れ去る気じゃ!?」
フウカは幾度と無く美食研究会に誘拐されている。理由としては調理要員としてだが、都合も考えず、いつもジュリやイナを気絶させ縛り上げて吊るしている。
「そうはさせません!」
イナはフウカを庇うように前に出る。愛銃『給食部の護身用銃typeC イナカスタム』を構えながらハルナに標準を合わせる。
「あら、私はただ美食の為に行動している者。それに必要なのがフウカさんであるというだけです」
そう言うハルナの横からアカリがイナに銃を向ける。
「あまり邪魔をするようなら……気絶させて食べちゃいますよ☆」
「ヒッ」
アカリの眼光に威圧されるイナ。本当に食べられてしまいそうなその眼は、まな板に乗せられているような錯覚を覚える。
「それで……一体何の用なの?」
食堂に緊張が走る。
ジュリは寝ており、イナは銃を構えているがほぼ役に立たない。フウカは抵抗すれば爆破される事を危惧している。
そしてハルナの口が開く。
「『ランダムトマト』を探しておりますの」
「……??????」
え?
食堂は緊張状態から一気に解放されるが、なんとも言えない雰囲気に変化する。
そんな名前のトマトは知らない。フウカ先輩に用があると言っていたから知っているのかと顔を見るも、困惑している様子にしか見えない。
「……もしかしてこの状況、誰も知らないんじゃないの?」
ジュンコが核心をつくような発言をする。
イナはそれに続けて気になった事を聞く。
「ジュンコ……ランダムトマトって何?」
詳しく話を聞くと、前にカレーと一緒に出たサラダに入っていたトマトの事を言っていたらしい。一部のトマトがランダムな味になっていたことから、そう名付けられているという。
だが、困った事にそんなもの入れてない。確かにその日、ごく一部の生徒からクレームが入ったが、給食部で『ちゃんと状態を確認しよう!』という結論になっていた。
「販売元と生産者にも行ったのに『知らない。』って言われちゃった!」
「でも野菜美味しかったですね☆」
イズミとアカリがそう言うとフウカが青い顔になった。
「……また取引先が無くなった」
今までの美食研究会の行動を見るに、取引先の野菜を全部食べ尽くしたのだろうとフウカは察する。
「イナ、もしかして……」
「なんですか? フウカ先輩……」
何かを思い出し、イナに確認するフウカ。
「前のトマトってイナが一部切ってたよね」
「はい……あ」
そういえば、トマトを一部切り分けて大変なことになっていたのを思い出す。
『閃光弾になってランダムな味』に…
(あらやだ完全に自分が切ったトマトの事じゃないですかやだー! A.Y.K.Y)
心の中で大蛇丸()になりながら事の重大さを再確認する。
「どうやら、心当たりがあるようですね」
ハルナはイナとフウカの表情を見て、ランダムトマトがあると判断する。
ここでもし、『傷んだトマトがー』と言うと食への冒涜として爆破、在庫云々の話をすると供給元が爆破、正直に言っても失敗したのを提供したことで爆破されるだろう。
ここでイナが前に出る。
「ハルナ先輩、ランダムトマトというものはないですが、似たようなものはあります。ただ、食べる為には危険が伴います。それでも食べますか?」
イナは覚悟した。その決断を受けたフウカも腹を括る。
「当たり前ですわ。元々食には危険が伴うものですし」
「いよいよ食べれるの!? 楽しみ!」
「待った甲斐がありましたね☆」
「イナ食べさせてくれるの!?」
厨房へ行き、冷蔵庫の野菜室からトマトを4つ取り出す。そしてジュリがいつの間にか用意してくれた『グラサン』をかける。
(これをかけると何処までも行けそうな気がする)
地形での適正がSSランクになりそうな気持ちになりながら、トマトをくし形切りに8つに分ける。
ここから時間との勝負で皿に乗せ、美食研究会の面々に出す。
そして、フウカ先輩とジュリにもグラサンをかける。
「ただのトマトですが?」
困惑するハルナだが、言った瞬間にまばゆい光が食堂を包む。
「え? え? 何!? 何も見えないんだけどー!」
それもそのはず、閃光弾ですから。
光は段々と小さくなっていき、目が慣れた頃には光る前と変わらないトマトがそこにあった。
「変わってないように見えるけど……まあ、頂くわ!」
ジュンコがそう言うと4人はランダムトマトを口に入れる。
「「「「ッ!?」」」」
何か衝撃を受けたように固まる美食研究会の面々。表情は様々であり、嬉々している者や苦虫を食い潰したような顔など見られている。
「これは……中々、味わったことないもので……」
「柑橘類ですねこれ」
「おいしい!」
「何これー! チョコ?」
満足したかどうかは分からないが、8つに切り分けたトマトを完食してしまった。
その後は異変を見つけた風紀委員会によって、美食研究会は食堂を後にする。
その際に
「新しい味を楽しめました」
とお墨付きまでもらった。
初めて自分が切ったものを褒められたイナは嬉しかったが、フウカをいつも誘拐したり、給食部を爆破したりする人物に言われたとなると複雑な気持ちになるイナなのであった。
「よ、良かったわねイナ」
「はい……何か色々と失った気がしますが。えっと、取引先どうしましょうか」
「……どうしよう」
食堂にはジュリの寝息だけが聞こえていた。
「ヒナ委員長、報告が」
風紀委員会本部
首にカウベルのついた青髪の生徒がヒナに報告をしていた。
「美食研究会が給食部に接触したとのことです。爆破はなかったのですが……
『
ヒナはそれを聞いて一瞬手を止めるも、一息ついて事務仕事を続行する。
「アコ、分かっているとは思うけど美食研究会はイナを『そのような』扱いをする可能性は少ない。でも引き続き監視をお願い」
「承知しました」
アコと呼ばれた生徒が持ってきたコーヒーを片手にゲヘナ学園給食部のイナの資料を見る。そこには、普通の学生と同じような内容が書かれているが、『学外秘』と書かれた2枚目以降の資料が追加されている。
(『ゲヘナの火薬庫』、金属探知機にも引っ掛からない、偽装も簡単……注意が必要ね)
C4フレンチトーストの報告書では銃弾が当たっただけで爆発したという。
(その気になれば『黒い雨』だって……)
最悪の事を考えると頭が痛くなる。
外部に漏れてしまえば、他校やブラックマーケットの混乱などバランスが崩れ、トリニティとの条約にも支障をきたす。
さらに今は連邦生徒会長の行方が分かっていないのも相まって、治安も僅かながら悪化している。
(はぁ……めんどくさい)
ヒナは抱える問題の多さにため息をつくのであった。
次回もよろしくです!
イナのプロフィールは?
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別に…
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いる