「一旦休憩しよ」
現在、イナは後方の車を遮蔽物として潜んでいる。爆発の時に受けたダメージが疲労感となっているのを感じ、車を背に地べたへ座り込んで休憩する。
ゲヘナへ戻るために風紀委員会についていくと判断したわけだが、この状況でいきなり話しかけるのは流石にイナにはできない。基本的に好奇心はあるが、イナは臆病なのである。雰囲気はぶち壊したくない。
(これからどう帰ろう)
すると隠れている車に近づいてくる足音。考え事に夢中になったイナは背後から来る者に気が付かなかった。人影が見えてからその人物と目が合ってしまう。
「へ? せせ、先生!?」
思わぬ出会い方をしてしまい、混乱している様子で声に出してしまう。
自身が小さくなった影響か分からないが雰囲気が少し硬い印象を受ける。こちらを見るなりびっくりするという事は、不審に思って覗いたというより、隠れようとして先客がいたという事だろう。
そして、先生が右手を動かした際にイナは無意識のうちに身に付いてしまったしぐさで、腰のホルダーからハンドガンを取り出して銃口を向けてしまう。
「"ちょちょっと待った!"」
「あ、すすすみません! つい癖で……」
一瞬自分がなにしているか分からなかったが、銃を手にして先生に向けているのを見て慌てて下す。
(やばい、絶対警戒される……しかも先生に銃口向けたなんて知られたらハチの巣よ)
イナは、先生に付くであろう大量の生徒たちにハチの巣にされる想像をして冷や汗をかく。すると先生はイナの顔ではなく、下半身に目線が下がっている。どこを見ているのだろうと気になって自身の容姿を見ると、スカートの一部が破けており、中から見えているライトグリーンの『アレ』が……
「ちょっとどこ見てるんですか!」
周りにきわどい人物がいるとはいえ、羞恥心は持っている。イナは隠すように両手で塞ぎ、見えないようにスカートを調節する。
(こやつスケベ先生か!?)
すぐに先生が目を逸らしたのを見ると、確信犯である。
「"ち、違うんだ! つい癖で……"」
癖で片付けようとすることに既視感を覚えつつ、イナも気が付かなかった事と先生の気持ちも分かる事を踏まえると少し仕方ないかもしれない。
「癖でって……まあこちらも悪かったです」
これでおあいこだ。
すると、ここに居ることを不審に思った先生がイナへ質問してくる。
「"君はどうしてこんな場所に?"」
イナはよくよく考えてみると違和感マシマシな存在だ。遠くまで来て、アビドスで風紀委員会の戦闘を見ているゲヘナの生徒という変な状況である。
(先生なら言っても信じてくれそうだけど……)
モモトークでも他の生徒に対してホイホイ付いて行ったり、すぐに信じたりするところを見ると、正直に言えばイナのことを信じるだろう。だが、そのまま
『帰る手段を失って、スマホも壊れたから風紀委員に助けてもらおうとしたら一触即発の雰囲気だったんで話しかけられず、車の裏でスタンバイしてました。あと、ついでにアニメやゲームであった戦闘も実際に見たかったから近づきました。』
(怪しい! あと恥ずかしい!)
ここまでの自分の行いを改めて口にすると、間抜けで恥ずかしいという思いがあり、戦闘を見たかった理由が『それ』だと色々とまずい。
イナは慌て過ぎて、普通に柴関ラーメンの爆破のくだりから原作のところを隠して巻き込まれたことにすれば良いところを、大雑把に発言する。
「えっと、風紀委員会に個人的な用事があるので」
風紀委員会の方を向いて自虐的に笑う。嘘は言ってないが大雑把すぎる発言は、先生を困惑させる。
「"……えっと、それは私たちの『味方』ってこと?"」
ん?
どういう意味か分からないイナ。味方といえば味方なのかもしれない。敵じゃないことは確かだが、怪しまれているのだろうか。一応敵ではないことを先生へ意思表示する。
「はい」
「"……分かった"」
(え゛何が分かったの!?)
なにかを察した先生に、イナも困惑する。微妙な間の後にそう答えられると嫌な予感がしてしまう。説明を求めようと先生の顔を見ると、何故かすっきりしたような顔をしており、聞くに聞けない。
ドオオオオオオオオオン
考える暇もなく、風紀委員による砲撃が対策委員を襲う。そして砂と煙が晴れた所から風紀委員のイオリとチナツが見えた。
(チナツだ!)
見知った人物を確認して少し安心するイナ。
だが、次の瞬間、イナは安心とは程遠い光景を目の当たりにする。
(先生ぃぃ! なんで『体隠してない』の!?)
車の影から体を出しており、十分に流れ弾が当たりそうな状況にイナは戦慄する。おそらく、生徒が心配になったのだろうか。すぐさま盾となるべくイナも車の影から出てくる。
……身長足らないとか言ったら調理してやる。
幸いにも砲撃は止まるが、時間の問題だろう。
そして対策委員会の元へ、イナと一緒に行く先生。その姿を見たアビドス高等学校1年『
「先生っ! ここは危ないから離れといて! ゲヘナの風紀委員が便利屋を捕まえにっ……?」
見たこともない生徒が先生を守っているのを発見したアビドス高等学校一同は、イナを見るなり頭の上にハテナを浮かべる。
(そりゃそうなるわ! 『誰?』って)
アビドスの生徒からすれば初対面であり、先生にくっついている謎の生徒といった感じだ。
その雰囲気を変えるように先生がイナにとって衝撃的な発言をする。
「"この子は『味方』だよ"」
(ファッ!?)
そしてアビドスの面々は「先生が言うのであれば。」とそれを察するかのように頷く。実際、大量に進攻してくる風紀委員達に、この人数で勝てるかどうか分からない。味方が多いに越した事はないが……
(もしかして分からないの自分だけ?)
生徒を守るため前線へ行った先生。
アビドス自治区近くでのゲヘナ風紀委員会の進攻を止めるアビドス高等学校の生徒達。
またしても何も知らない 纏 イナさん(15)
イナが混乱している間、チナツが遠くにいるイナの存在を確認する。
「あのツノ、イナ…?」
「『ゲヘナの火薬庫』か。手っ取り早く逮捕するぞ!」
それを聞いたイオリはチナツの制止を振り切り、アビドスやイナの元へ突撃する。その速さは凄まじく、あっという間に相手側の射程内へ進む。
「ちょっとイオリ!? 物事には順序があるとあれほど……戦闘は避けられそうにないですね」
勝手な突撃に呆れるチナツは、イオリを急いで追いかける。
「風紀委員が12時の方向から単独で接近中! その後ろからも中隊が来ています! 皆さん準備してください!」
アヤネから伝達された通り、正面から堂々と向かってくるイオリの姿が見えた。すぐさま先生は、『シッテムの箱』というタブレットを取り出して起動する。
(そうだ、先生には『それ』があったの忘れてた……)
『シッテムの箱』
見た目は普通のタブレット端末だが、防水機能を備えた代物。本質はタブレットの中身であり、『アロナ』と呼ばれるOSが管理している。これがあれば銃弾も不思議な力で防ぐことができ、ハッキングもできてしまうという。先生しか起動できず、アロナの声は生徒には聞こえない。もちろん、イナにも聞き取ることができない。
(これもしかして自分も戦闘に?)
イナには見えないが、ちゃんとシッテムの箱にはSpecial枠で編成されているため、逃げられない。
(今更断れない、やるしかない……)
これ風紀委員の執行妨害になるのでは?と思ったが、考えたくない現実は記憶の海に流しておく。ホルスターからハンドガンを取り出し、アヤネと共に出撃する。
* * *
(信じてよかった)
イナの後ろ姿を見て先生は確信する。
イナの言う『個人的な用事』の詳細は分からないが、おそらく自身の学園が他の自治区へ進攻という明確なルール違反に居ても立ってもいられなくなったのだろう。
(あのときの苦笑い、味方かどうかの答え…こうして一緒に戦ってくれるのは心強い)
『先生! よろしくお願いします!』
「"よろしく、アロナ"」
タブレットからOSであるアロナの声が聞こえてきた。
『あれ、新しい生徒さんですか?編成に組んでおきます!』
アロナがそう言うとSpecial枠にイナが組まれていく。
「"ありがとう!"」
前衛はシロコ、ノノミ、セリカ
後衛はアヤネ、イナ
「"それじゃあ、皆いくよ!"」
先生指揮のもと、風紀委員会と対立する。
イオリがシロコへ銃弾を撃ったのをきっかけに遮蔽物をうまく利用した市街地戦が始まった。
「おとなしく、校則違反者を渡してもらう!」
「こっちの自治区で起きたから処遇はこっちで決める。」
その間にイオリの後ろから来た中隊が戦闘に参加し、セリカとノノミはシロコの援護とその中隊を相手にする。
「"ノノミ! 後方の中隊の殲滅! セリカ! シロコの援護を!"」
「任せてくださいー!」「了解よ!」
ノノミがマシンガンでイオリの後ろの風紀委員を蹴散らし、セリカがシロコへ向けられているヘイトを稼ぎつつ他の風紀委員を殲滅していく。
「"アヤネ! みんなに回復と物資を!えっと……"」
先生はイナの方を向き、そういえばまだ名前を聞いていないことに気が付く。
「纏 イナです先生。自己紹介遅れてすみません」
それを察知したイナによって、自己紹介を挟む。
「"イナ! アヤネの援護と護衛を!"」
「分かりました!」「了解!」
激化する市街地戦、風紀委員は数が多く捌くのが大変だが、先生陣営は着々と対象の数を減らしていった。戦闘が進むにつれて、風紀委員達も後衛から攻めようと、市街地の路地裏から進攻してくる。
だがそれも叶わず、路地裏の出口の上から大きな看板が降ってくる。道を塞ぐように降ってきたそれは、進攻をストップさせ、一瞬のスキをついたシロコとセリカによって倒されていく。
(イナ……上手い!)
先生と対策委員会は見ていた、イナが『ハンドガンで看板を打ち抜いた』のを。
ただただ数を減らすのではなく、進攻の選択肢を狭くすることによって守りやすくするその方法は、対大人数での効果的なやり方でもあった。
そして……
「"シロコ! 『あの』ドローンを!"」
「ん。ドローン作動開始」
イオリに向けて小型ミサイルが搭載されたドローンがイオリに向けて発射される。
「ぐっ……な、なに? 私たちが負けただと!?」
イオリを含めた中隊は、一旦の後退を余儀なくされる状況である。そして後方より、イナも先生も知っているチナツが現れる。
「"久しぶり、チナツ"」
「お久しぶりです。まさか、こんな形で再開するとは……先生がいらっしゃることを知った瞬間、勝ち目はないと後退するべきでした。私たちの失策です」
そして先生の近くにいるイナを見てなにか言いたげそうな顔をするが、その前にアヤネが所属を聞き出した時に、
『それは私から答えさせていただきます』
風紀委員会No.2行政官のアコが通信越しにホログラムとして現れる。イオリとチナツはアコの登場に驚きを隠せない。
『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の風紀委員会行政官、天雨 アコと申します』
いきなりの通信にNo.2の登場とアビドスの面々は警戒する。
『さて……私たちはあくまで、ゲヘナ学園の校則違反した方々を逮捕するために来ました。愚行とも思われる「アコちゃん!?」……イオリ? 無差別に発砲せよとは言っていませんよ? 反省文のテンプレートは、私の左の机の引き出しにあります』
イオリは反省文を書かされることが確定してしまい、落ち込んでいる。
『話は逸れましたが、風紀委員会としての活動にご協力をお願いできませんか?』
「それはできません! これは自治権の明確な違反です!」
アヤネがアコの言葉に反論する。他のアビドスメンバーも同意見のようだ。するとアコは困ったように言う。
『あら、簡単なことじゃないですか、そちらの……
(え?)
誰かの心の声がしたような気がした。
あれ、おかしいな給食部なのに料理してない…
次で一区切りとなりますのでお待ち下さい。
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