濃紺のフードとツインナイトソード 作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世
”鮮やかな濃紺のフード付きマント
流離する王族の装束
精神力を高める
それは、使命の旅へと贈られる
遥か彼方、二度と帰ることのない旅立ちに
仕方ない。導きが、見えてしまったのだから”
濃紺のフード
ーー
私は、外の世界では王族と呼ばれる階級の出身だった。
一般には、王族とは貴族と市民の上に立ち、為政者として君臨する特権階級の事だ。
そびえる城、居並ぶ騎士達。それらを傅かせて君臨するのが王族たる証だ。
しかし、私はそんな豪奢な生活とは無縁だった。
私は死んだ先王の一人娘だった。
今、国の王となっていたのは先王の弟。
つまりは私の叔父なのだが、彼にとって私は邪魔な存在だったようだ。
権力を盤石にするためには、兄の残した遺産はすべて打ち払わなければならない。
そういう妄執に取りつかれていた国王は、ひどく私を冷遇した。
そのせいで私は王族でありながら、暗い書斎に押し込められ
燭台の灯りを頼りに本を読むしかない少女期を過ごした。
そんな生活のせいか、はたまたおかげか、私は幾つかの祈祷を覚えたり、霊薬の調合を習得したりした。
愚かにも、私はそれらの技能を修めれば叔父に認められて再びこの書斎から出られると思っていた。
だが、彼の反応はその真逆であった。
それは私が15くらいの頃、出来上がった薬を叔父に見せに行ったときの事だ。
「・・・その力で何をしようとしていた?」
彼はひきつった顔でそう言った。
私はその声色を聞いて、段々と笑顔を失っていった。
叔父は手に持っていた霊薬の瓶を地面に落とすと震えながら後ずさった。
「・・・私は、お前が恐ろしい。祈祷で、私の命を狙うのか・・!」
「お前の顔を見ると兄を思い出す・・・!私は手の震えが止まらない」
彼は恐怖した。その目はまるで化け物を見るかのように血走って、怯えていた。
「ちが・・・違うんです!叔父上!私は・・・ただ・・!」
私は弁明しようとした。
しかし、彼と、彼を囲う臣下もみな同じような顔をして
私に恐怖しているのを見てそれをひっこめた。
その時私の中で、生きる希望がぽっきり折れた音がした。
それから私は、城館の書斎からさらに厳重な警護の離塔に移された。
ここにはもう私の給仕をしてくれる召使も、霊薬の手伝いをする家令も居ない。
遠くに山と王宮を望むだけの寂しい個室。
私はもはや人生に意味を見いだせず、その景色にふけっていた。
「給仕の時間だ。此処に置いておくぞ」
そんなロマンチックな感傷に浸っている時に、無遠慮に扉を開けて彼は入って来た。
「・・・あんまし食欲がわかないな・・置いといて」
私は気だるけに返答する。
「連れないな、王女様」
彼はそう言って食事を机の上に置いた。
私は彼の方へ首を向ける。
この無遠慮で躾のなっていない男は私に唯一残った配下の騎士である。
彼と私は小さなころから知り合いで、身分に差が有れども同年代故こうやって砕けた口調で話し合う仲だ。
彼の父が、先代の国王に義理立てして叔父に楯突いた結果家は没落。
彼も貴族としてではなく一騎士としての生活を余儀なくされている。
「ほんとにそういう無遠慮なところ、嫌いだわ」
私はうんざりした様子で彼に言う。
「はっ!好きに言ってろ!没落王女様!俺は今にこの王国の大元帥になってやるさ」
私は彼の発言に呆れていつものように適当に「はい、はい」と返答する。
彼はそう言う誇大妄想をよく口にする。
現実主義な私からしてみれば、それは馬鹿げた発言でしかないのだがその馬鹿馬鹿しさが
陰鬱とした今の私の気持ちにとって良い薬かもしれない。
だから不思議と彼に嫌な気持ちは抱かなかった。
私はやがてようようしく腰を上げて、ご飯の置かれた机へと向かった。
その時、私は扉の方から窓へ向かってぼやっとした黄金の光跡の様なものを見た。
私は何度か目をこすり、眉間にしわを寄せた。
「どうした?目が見えにくいのか?」
彼がそう言って、顔に疑問符を浮かべる。
この光は私以外には見えないのか?
「ほら、ここになんか・・・ボヤっとした光が見えない?なんか・・・変な感じがするんだけど・・・」
私は手振りを織り交ぜながら説明した。
それを聞いた彼はしばらく口をへの字に曲げていたが、何かを思い出したかのようにハッとすると
急に顔を強張らせた。
「・・・・それは、導きじゃないか?」
「導き?」
「そうだ・・・導きだ。俺たち、褪せ人にだけ見える黄金の道しるべ・・・」
彼はそう言った。
褪せ人。それは我々の祖先の、或いは我々自身の古い名称だ。
かつて神話の世界である”狭間の地”から追放された我々の祖先は戦士として蛮地やこの国に覇権を打ち立てた。
その伝承に従うなら、当然私たちも褪せ人となる。
「そんな物、伝承上の空想物でしょ・・!?私がそんなものが見えるはず・・・!」
「じゃあ、どうしてお前が言ってる光跡と”導き”の特徴がまったく同じなんだ!?俺には何も見えない!!」
私は急の事で混乱した。そして頭の中にあった褪せ人の記憶をゆっくりと思い出した。
「褪せ人は確か・・・その導きに従って行動するのよ・・!その目的は」
「王になる事・・?」
私と彼は向かい合ってごくりと息を呑んだ。
褪せ人の使命を果たす旅は過酷で有名だ。多くは、というよりはほとんどが帰ってくることはない。
だから私と彼はとりあえずこの秘密を二人だけの間にとどめておこうという事にした。
ーーー
「おめでとう我が姪よ。祝福が見えるようになったと聞いたぞ」
叔父は、私を急に呼び出しかと思えば導きの話をにこやかな表情で持ち出した。
私は驚愕の表情でその声を聴いた。
あの事を知っているのは私と彼だけ。だが、彼がそれを叔父に報告するとは思えない。
となれば、叔父は私の塔に聞き耳を立てる間者を放っていたのだろう。
日ごろから生活の様子を観察されていたかと思うと寒気がする。
「私は嬉しいぞ。お前には”使命”を果たしてもらうためにこちらでもできるだけの支援をしよう」
叔父はそう言うが、心根では邪魔者が消えてくれてうれしいのだろう。
目の奥ではほくそ笑んでいるのが丸わかりだ。
私はもはやそれ以上仕方がないので、その命令を受けることにした。
導きなぞ、くそったれだ。
叔父は国事として私の出発を喧伝した。
それは国民に、王と私の間には不和は存在しないという宣伝と、彼の寛大さをアピールするためだろう。
その割には叔父は私に装備品以外には騎士団は愚か、まともな従卒さえ付けてくれなかった。
唯一私の供をしてくれたのは、幼馴染の彼だけであった。
「いいの?褪せ人の旅は過酷だって、自分で言ってたじゃない」
「馬鹿言え、俺の腕前があれば王だって神だってなんだってなれるぜ」
またもや彼は馬鹿げた物言いをした。
でも今度ばかしは、彼の大言壮語が頼もしい。
ファンファーレと紙吹雪。
私はもう二度と帰ることのない故郷を惜しみながらも後にした。
ーーー リムグレイブ ーーー
遠くに見える黄金の世界樹。うっそうと生い茂る緑の野原。
私たちはどうにか狭間の地にたどり着いた。
此処に来るまでの道順は二人ともはっきりと覚えていなかった。
ただ、途中に掛かれていたメッセージや落書きには”導きは壊れている”だの”黄金律が歪んでいる”とか書かれていたので
我々はおおよそそれらのせいだろうと解釈して先へと進んだ。
ここリムグレイブは豊かな緑が広がる大地で、デミゴットの一人接ぎ木のゴドリックが治めている地方らしい。
はるか遠くに世界樹を臨むその景観に私たちは圧倒された。
「とにかく、誰かに会わなければな。この世界では褪せ人は嫌われているらしいが、話ぐらいさせてもらえるだろう」
彼は楽観的にそう言った。
私はその考えに懐疑的だったが、少し考えてからそれに賛同した。
万が一荒事になっても彼がいれば大丈夫だろう。
なにせ、彼は没落したとはいえエリート貴族の出であったし腕も立った。
装備もこの旅の為に新調された騎士装備一式とツインナイトブソード。これらはすべて一級品で、狭間の地を旅するのに十分な威力を持っていた。
「ほんと、腕っぷしだけは立つのよね~」
「なんだその言い方は」
私は彼のにらみに対して少しおどけて見せた。
勿論、私も戦えないわけではない。私には接近戦ができない代わりに”祈祷”が使えた。
大回復と雷撃。それに拒絶、加えて火投げが使えた。どれも王宮の書斎と大図書にあった本から独学で取得したものだが
十分に敵を傷つけられる威力を有していた。
私の装備は濃紺のフードに貴族の旅装を纏った高貴な装いだ。白絹の金属糸で編まれた上質の仕上がりは私の体に良くなじんだ。
間もなく我々はエレの教会へとたどり着いた。
教会の前で巨大なツリーガードが闊歩しているのを横目に我々は最初の祝福にたどり着いた。
そこには商人が居た。名をカーレという。
「ほほう、褪せ人か久しぶりだな」
やや低い声でカーレはそう言った。
「貴方は、そこかしこの兵士たちのように襲い掛かっては来ないのですね」
「俺らは黄金樹の祝福とは無縁だからな。ある意味であんたら褪せ人と同じさ」
と抑揚なく彼は言う。
彼ら放浪の民はまだ正気を失っていない人間や褪せ人を相手に商売をして生計を立てているらしい。
商品は武器や防具、さらには消耗品。果ては書物まで。
加えて、この世界についての情報を。
私たちはそのうち、消耗品の幾つかと情報を買った。
そしたら彼は親身になっていろいろ教えてくれた。優しい人だ。
更に我々は奥へと進んで、関門前へと至った。
此処に駐屯していた君主軍部隊は数十人の正規兵と一人の騎士からなっていた。
私と彼は、夜間まで待ってからその陣地を襲撃した。
まずは西側に居る槍の番兵2人を私たちは隠密で忍び寄り、バックスタブで排除した。
そしてそれを不審に思い、駆け付けた数人の兵士たちと猟犬をツインナイトソードの戦技、回転切りで斬り伏せた。
後に残ったのはもう3人ほどの兵士と雑兵。加えてゴドリック騎士だけだ。
私は茂みに身を隠していたが、突如飛び出して雷撃でそれらの生き残りを攻撃した。
騎士は大盾でそれをガードしたが、他の敵兵は吹き飛ばされて斃れた。
「下がれ!こいつは祈祷とは相性が悪い」
護衛騎士の彼は大声で叫ぶ。
私はその進言に従って距離を取る。
しかしゴドリック騎士はそれを見てパルチザンを振るい、一気に突撃してきた。
私は近接戦闘は不慣れだ。まずい。
だが私はそこで立ち止まり、その攻撃を受けるべくシミターを取り出す。
パルチザンの獰猛な突きが迫る。私はその瞬間曲剣の刃先を素早く回し相手の槍の穂先を弾いた。
敵はそれによって大きく体幹を崩した。いわゆる”パリィ”だ。
私自身も上手くいくとは思っていなかった。
その隙をすかさず彼がツインナイトソードで突き刺し、ゴドリック騎士を仕留めた。
私と彼は肩で息をしながら向かい合う。そして次第に興奮が冷めて、可笑しくなった。
「はははっ!すごいな。祈祷だけじゃなかったのか」
「あんたこそ、回転切りなんかどこで覚えたのよ」
私と彼は凄惨なこの世界には似合わないような笑顔で笑いあった。
こんなちっぽけな部隊一つ潰したぐらいで私たちは浮かれていた。
でも、あの塔に幽閉されている時の何倍も楽しかった。
私は今までの陰鬱とした気持ちを晴らすべく、病的に笑った。
どうせ死ぬんだ。せめて、笑って死のう。
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