濃紺のフードとツインナイトソード 作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世
美しく、また上質な武器
片手で振るうこともできるが
両手で持ち、回転を駆使した攻撃で真価を発揮する”
ツインナイトソード
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その後、我々はリムグレイブ各地を回った。
その途中に出会った親切な褪せ人、たしか・・・ベルナールとか言う人にいろいろ教えてもらった。
なかなかの男前で気立ての良い人だったが、どうにも武闘派のきらいがあって私は少し苦手だった。
だが、連れの彼は馬が合ったらしい。彼らは戦技の話で大盛り上がりしていた。
私はその話に興味がなかったので、ボロ屋の中に腰かけながらその周りに生えるアルテリアの花を眺めていた。
「そうか、貴公にも導きが見えたのか」
ベルナールが彼に語り掛ける。
「ええ、そうです。私たちは外の世界の貴族だったんですが、祝福に従ってここまで来ました」
「ですが・・・・途中の道順があべこべだったり、どうやって来たかも覚えていないんですよ」
「・・・・それは仕方のない事だ。導きが壊れているのだ。我ら褪せ人もそれを信じる者と信じない者とに分かれるほどに、な」
ベルナールは眉を潜めてそう言った。
彼曰くやはり、この世界はどうしようもなく壊れているのだと。
ベルナールはさらに続ける。
「聞かせてくれ」
「・・・貴公らはこの狂った世界で、歪んだ導きと知ってもまだそれを信じることができるのか・・・?」
その問いは鋭かった。
私の連れの彼はすこしたじろいだ。しかし彼はゆっくり熟慮すると、もっともらしい顔つきで答えた。
「私たちはもとより何もなかったんですよ?だからたとえそれが歪んでいようと、褪せ人としての使命を全うしようと思います。
それに、貴方の物言いであればきっとそれを信じない人たちだって十分にいる。そっちはあんたたちに任せますよ」
ベルナールはその返答に眉を片方上げて、顔をほころばせた。
曰く、そう言う褪せ人は珍しいのだという。
「あぁ、貴公らより前にも似たようなことを言っていた奴がいたな。ほんの数日前だが・・・」
ベルナールは感慨深そうにそう言うと、次はボロ家の方を向いた。
「彼女は貴公の巫女かね?」
「巫女?彼女がそんな風に見えますかね。そこまでお淑やかじゃないですよ。高貴な出なんですけどね・・・」
と彼。
「では、祝福にまみえて貴公を導くのは誰なんだ?」
「まぁ・・・それは彼女ですが」
ベルナールはその話を聞いて、思わず大笑いした。
「ははっ、素敵な話じゃないか。貴種流離譚だな」
「きしゅ・・・?」
「貴公らを見ていると、なんだか懐かしくてな。すまん、老兵のたわごとだ」
彼はその返答がイマイチ腑に落ちなかった。
だがベルナールはそんな様子すら感慨深そうに眺めていた。
「・・・何かおかしいことが?」
「貴公、彼女の手を絶対離すなよ」
「・・・?」
ベルナールは意味ありげな事を最後に告げて会話を終わらせた。
だが、それ以上は戦技を学ばないか?という勧誘以外には何も語らなかった。
暫くそこで休んだ後に私たちは東へ向かって発った。
ベルナールさんはそれまで、武器の点検をしてくれた。
そして去り際には
「つまらぬ会話をしたな。貴公らの前途に幸あらんことを」
と私たちを見送ってくれた。
ーーー
それから私たちは各地で戦い回った。
人間の背丈の3倍もあるトロルや胡散臭いアカデミックに毒された鉱石頭に、
果ては同じ褪せ人ながら我々の命を狙う気狂い共まで。
とにかく私たちは自分らの前に立ち塞がる敵を殺して回った。
こんなもので王になれるのか。
私は疑問を抱いたが、どのみちそんな事はどうでもいい。
私にとって一番重要なのは、この狂った世界の中でどれだけ満足して死ねるか、という事だけだった。
明日など見ていない。どのみち死んでしまうんだ。だから私はひたする享楽的に生きていた。
でも心の負担はだんだんと大きくなっていって、それはやがてごまかしが利かないほどに重くのしかかり始めていた。
我々は、リエーニエからその先の古遺跡断崖へと向かった。
デミゴットを殺さなければならない、という話であったが我々は結局レアルカリアへ入ることができなかった。
そのためさらに先に進むしかなく、かといって大昇降機を動かす割符も持っていなかったため
我々は脇道の断崖絶壁を登っていくほかに選択肢はなかった。
前日にベイルム街道へと進み、そこでカッコウの騎士たちが率いる一部隊を蹴散らして
今晩はベイルム教会で暖を取った。
天候はあいにくの雨であったが、教会跡のおかげで何とか体を横にして休むことができた。
聖堂は崩壊してしまっていて屋根が無かったが、崩落してしまった階段の様なスペースが丁度雨風をしのぐのに優れていた。
もう少し行った先には、偏屈な商人が野営をしていたのだが、
私ら二人を見た時に怪訝そうな顔をしたので、今夜はこの教会に泊まる事にした。
「ここには祝福もあってよかった。何とか体を休めることができるな」
彼は濡れた髪を拭いながらそう言った。
私はその言葉に静かに頷いた。いくら死に満ち溢れているとは言え、寒さや傷病で死んでしまっては面白くない。
私は濃紺のフードを下ろして濡れた髪を同じく彼の使っていた布巾で拭った。
彼はそんな私の行動をじっとして見ていた。
「何?」
「あ、いやすまん」
そう言って彼は目線を下ろす。
「言いたいことがあるなら言ってよ」
「いや、ほんとになんでもない」
彼はそう言って背を向けて横になった。なんでもない。
だが私は知っている。彼の視線が私のいったいどこに注がれていたのか。
いったい何に興味があるのかを。
私はふと、邪な思いが頭をよぎった。
寝入る彼の背中を見つめ、私はごくりと唾を呑んだ。
どうせ死ぬんだ。なら、今更尊厳や家名に縛られる必要もないだろう。
そのまま私は貴族の旅装を脱ぎ、薄着で横になっていた彼に同衾した。
「なっ!!正気か?」
彼は体を起こすと、顔を真っ赤にしてそう言った。
私は逃げる彼に体を寄せて語る。
「こんな世界で正気を演じ続けている方が正気じゃないよ!」
「もう私たちは逃げることもできない!・・・・どうせ明日死ぬんなら、いっそ・・!」
私はそう言ってさらに自分の唇を彼の顔に近づけた。
彼は一瞬それを受け入れる様なそぶりを見せて、腰に手を回してきた。
しかし、彼は再び正気に戻り顔を振ると
「・・・それはできない!俺はおまえの護衛騎士だ・・・!」
と言って絡んだ私の腕を振りほどいた。
私は呆気にとられた。何故なら彼の行動は意味が不明だったからだ。
そんなこと、こんなとこに来て意地を張ったところでどうしようもない。
だがそんな気も知ってか知らずにか、彼はそのまま
「お前が、自棄になってそういう事をするなら・・・それを宥めるのも俺の役目だ!」
とだけ言い置いて、鎧と共に歩哨へと立った。
私は恥ずかしさと、怒りでめちゃくちゃな気持ちになった。
ーーー
翌日、私が目を覚ますと彼はもうすでに旅装を整えてツインナイトソードの手入れをしていた。
雨も止んで、すっかり晴れた様子の今日は出立日和だった。
私は昨晩の事を思い出して頭を痛めた。
しかし、いまさら正気に戻ったところで気持ちが変わることはない。
私は相も変わらず、ぼんやりとしたあきらめを帯びながらさっさと濃紺のフードを被った。
「古遺跡断崖は、別段壁をよじ登るようなもんじゃない。リフトやはしごが山道に整備されている。まぁ、化け物はいっぱい居るがな」
彼はそう言って私を先導した。
事実、その山道は大して大変ではなかった。
しかし、道中で人面を持った蝙蝠が跋扈していてどうにもそう言うのが苦手な私は
時々ヒステリックに祈祷を連発した。
「おい、そんなに祈祷を使っては後の戦いに響くぞ」
彼は私に警告する。しかし私は、そんな話など上の空だった。
どうも昨日今日の私は冷静さを欠いている。それは私の胸が何やらざわつくからだ。
つまるところ、それが示しているのは死期だろうか。
私はこの古遺跡断崖が死に場所になるのではないか、とうっすら感じていたのだ。
「どうしちまったんだ!?おまえらしくない・・・・」
「ごめん・・・」
私はそんな会話をしたときでさえ、上の空であった。
自分で自分が心配になるくらいだ。
まもなく我々はこの断崖の最上部にたどり着いた。
それまでの木造りの足場ではなく、古い建築様式の広い空洞空間に出た。
「ここは・・?」
私があたりを見回していると、奥の暗がりで大きな音がした。
目を凝らして見る。
最初私はそれが、岩の塊か何かと思っていた。しかしそれはだんだんとこちらに近づいて光の下に前進を晒した。
「ドラゴン・・!?」
彼は思わずこぼした。
私たちの前に現れたのは、私たちが今まで倒してきたドラゴンやトロルとは比べ物にならないほど大きな四つん這いの生き物であった。
たしか噂では、こいつは溶岩土竜と呼ばれていた。
どうやらこの土竜には知能があるらしく、溶岩を吐くとともに湾曲した大刀を振り回した。
私は即座に下がって、彼が前に出る。
動きは鈍い。しかし、こんな閉鎖空間では十分に回避ができない。
私は祈祷を放とうと溶岩土竜の後ろに回り込んだ。
しかし次の瞬間、激しいモーションと共に土竜が剣を振り回し、私はそれによって吹き飛ばされた。
出血。頭から血が噴き出して、額を赤の液体がひたう。
打ち付けた時は激しく痛んだが、暫くして痛覚が麻痺しはじめて目の前がぐわんぐわんと歪み始めた。
あぁ、これが死か。
私は手にべっとりと付いた血液を見て不意に笑った。
何とも哀れだ。
王族に生まれて、これでもかと学問を学んで、いつかは王国を支える封臣や祈祷師になるんだと勝手に小さいころから思い込んでいた。
でもそんなのは妄想に過ぎなかった。私に待っていたのは小さな小部屋と、この薄汚れた洞穴の棺桶。
しかも彼についてはそんな風に小さなころから見下していたが、結局先に狂ったのは私の方だった。
薄れゆく視界の中で、叔父も、家臣も、父も笑っている。
なんと救いのない人生だろうか。
これが、黄金律の描いたストーリーならやっぱり律は壊れて・・・・
「馬鹿野郎!!」
私が朦朧とする意識の中で走馬灯を回顧している時に、
彼は空気も読まず大声で私の昏睡を突き破った。
私は目を細めて、頭を押さえながら再び意識を取り戻した。
「お前、諦めようとしてただろう!バカ野郎!!そんなこと俺は許さんぞ!律が壊れていようがいまいが、俺が全部ブッタす!!
だから死ぬな!諦めんな!!」
彼は涙ぐみながらそう言った。昨日の冷静さはどこへ行ったんだ。
まったく幾つになっても子供っぽい。
「・・・ごめんなさい。少し気を失っていたわ」
「頼む。俺は無敵じゃない。お前が居なきゃ、俺は何にも勝てない。お前が必要なんだ」
「それは、あんたが護衛騎士だから?」
「馬鹿いえ、お前が誰よりも信頼できるからに決まってるからだろ」
はっ、相変わらずこの男は。臆面もなくずけずけと物を言う。
私は気恥ずかしさで顔を赤くしつつ、再び気を取り戻すと
祈祷で二人の体力を回復させた。
「私にはもう力が残っていない。聖杯瓶もない。だから、長くは持たないよ」
「俺が懐に飛び込む。頭を狙え、奴はそれが弱点のようだ。
それで一度ダウンさせたら、出口まで走るぞ」
私は静かに頷くと、再び溶岩土竜の気を引くため相手の正面へと躍り出た。
土竜はこちらを向いて駆け寄ってきた。あたりはこいつが吐いた溶岩で煮えたぎっている。
「こいよ、化け物」
私は挑発して雷撃を見舞った。しかし、大してダメージになっていないようでケロッとしていた。私は少し拍子抜けした。
だがそのおかげで、奴の意識はこちらに向いた。
彼はその瞬間、土竜の懐に飛び込んで強攻撃から戦技を繰り出した。そしてそれらはすべて頭に当たって、奴は大きくダウンした。
「今だ!」
私は素早くそいつの頭部に駆け寄って、短剣を取り出した。
そしてその目玉にめがけて致命攻撃を行った。
攻撃を受けて、溶岩土竜は狼狽えながら後ずさりする。
私たちは覚悟の据わった眼でそいつを眺めた。
だが、土竜はそれによって戦意を失ったようだ。
積極的には攻撃を仕掛けてこず、後ろへ立ち上がったまま気を伺っているようだった。
「走ろう・・!」
私はこの機を逃すまいと彼の手を引いて、
出口へ向かって走った。
あとは無我夢中。どうやって抜けたか判らないがいつのまにか我々は黄金色の大地、アルター高原へとたどり着いていた。
ーーー