濃紺のフードとツインナイトソード   作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世

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”白絹の金属糸で編まれた旅装
流離する王族の装束

それは美しい贈り物である
どこかで野垂れ死ぬときに
王族の恥とならないように”

貴族の旅装


王都外廊~東の風車牧場

ーーー

 

「ここは・・・?」

 

「・・・どうやら、黄金樹の麓。アルター高原らしいな。あの大きな城壁が目印だろう」

 

彼が指さす向こうには、巨大な城壁がそびえたっていた。

あれが伝承に聞く王都なのだろうか。

 

「もう少し、進んでみよう」

 

私はいつになく軽い調子で彼の腕を引いた。

そののち、私たちはこの高原をあちこちと回った。

 

ここに屯する王都の軍勢とローデイル騎士たちは手ごわかったが私と彼の敵ではなかった。

 

暫く我々は幾つかの野営地や門衛を襲っては食料や消費物を得て過ごした。この日は、王都の大城壁の前へと進みツリーガードを倒したところで夜が来たので休息することにした。

 

「どこもかしこも黄金色だな。流石は黄金樹の麓。出てくる敵も皆雅だ。ミミズ頭は勘弁だがな」

 

「そうね。此処の景色は本で読んだ通り、美しいものばかりね。

でも、建物や城壁外の都市があらかた滅んでしまっているのは残念ね」

私は干し肉をつまみながらそう言った。

城壁の外は激しい戦闘があったのだろうか。いたるところに穴が開いていたり、馬塞柵などがそのままになっていたりした。

 

「この調子では、王都の中もどんなもんかわからんな。みんな干からびてるかもしれんぞ」

 

「ちょっと、夢のない事言わないでよ」

 

「はははっ悪い悪い」

 

彼はまた無邪気に笑った。

私はそれを若干鬱陶しく思いつつ、昔のようにそうやってまた意味もなくからかいあえることをうれしく思った。

 

「まったくあんたは、いっつも余計な一口が多いんだから。

そんなんじゃ、私のお婿さんにしてあげないよ」

 

私は子供の時分のような口調でそう言った。

彼は目を丸くして私を見た。

 

私は暫くぼけっとしていたがハッとして顔を赤らめた。

何を口走っているんだ、私は。冗談がすぎるぞ。口を滑らしたにもほどがある。

 

「お前・・」

 

「い、今のはただの冗談で・・・」

 

「いいや、嬉しいぞ。そうやってお前が前を向いてくれたのなら」

彼はそう言う風に優しく言った。

 

私は顔を真っ赤にした。

彼以外との会話では、王族らしい言葉を並べることができるのだが、肝心の彼との会話は完全に気を抜いてしまう。この時の会話だってそう言う慣習のせいでこんな失態を犯した。

小さい時分より知り合い故に遠慮というものを知らない。

 

私はもう、めちゃくちゃな気持ちだった。

こうなったら、やけくそだ。言いたいこと全部言ってやる。

 

「じゃあ、なんであの晩私を拒んだのよ・・・いいって言うなら」

 

「それは、お前が自暴自棄だったからだ。俺は、お前の護衛騎士としてお前を抱くことができない。それをしてしまったらお前はきっともう満足して死に急ぐだろう?」

 

「うっ・・・」

 

私は思いがけず彼に鋭い事を言われて押し黙った。

いままで脳筋のアホ騎士だと思っていたが、まさか私の心中をそうまで察していたとは。

 

彼は続ける。

「なぁ、約束してくれ。もう死に急いだりしないって。生きることをあきらめないって約束してくれよ」

 

私はその要望には答えあぐねた。

 

「だって、こんないかれた世界じゃ諦めるほかないでしょう?

みんな狂ってくんじゃ生活もできやしない。まして王になるなんて・・・」

 

「別段、俺たちだけで王になる必要はないだろう。

この世界を修復してくれる誰かを待つ。俺たちはさしずめ脇役だ。だったらしぶとく生きていくほかないだろう」

「聞いたか?今、大ルーンを二つ集めた奴がいるって」

 

「いつか、ベルナールさんが言っていた褪せ人・・・・」

 

「俺たちはその膳立てをすればいいだろう。そうすりゃ、使命を果たせる。世界は元通りさ」

 

そんなものか、と私は彼の言う事にやや懐疑的であった。

だが、少なくとその話を聞いて私は大ルーンを集めたという彼に興味が沸いた。それはつまり、半神半人のデミゴットを殺したという意味に他ならないからだ。

 

そんなバカげた人間がいるのか。私はそれを聞いた時に

生きる希望とまでは行かずとも、なんとなくこの世界の行く末をもう少し見ていたいという気持ちくらいは芽生え始めた。

 

 

ーーー

 

やがて、我々は背律者に着け狙われるようになった。

どうやら我々は褪せ人の中でも、手練れの部類に入るようで

襲い掛かる暗殺者もなかなかに手練れが送られるようになってきていた。

 

だが、彼らも相手が二人組とは聞いていなかったのだろう。

侵入してきこそすれ、私たちが臨戦態勢で待ち構えているのを見ると一目散に指切りで逃げる奴らが多発した。

 

このままアルター高原でたむろしていても仕方がない。数日間外廊をさまよった挙句、私たちはいよいよ城壁を超える覚悟を決めた。

 

城壁はいまや、固く閉ざされている。

噂や文章を信じるには、大ルーンを持たぬ者にその扉は開かれることはないらしい。つまりは、我らも大ルーンを手に入れる必要があるのだ。

 

であれば、我らを狙う背律者とその親玉。火山館のライカードを倒すほかあるまい。

 

以前の私なら、なんて馬鹿げた話だ、と彼を笑っていただろう。

だが今はそんなことはしない。

 

時折、この旅の終わりなどを夢想しては

ひとりでに気恥ずかしくなっている。

以前の私は、未来の事なんて考えていなかったのに。

 

私がこんなに前向きになれたのは

着実に前に進んでいるという実感からだった。

私たちは、強い。そして世界は少しづつ変わって行っている。

 

なによりデミゴットを殺しまわっているというあの褪せ人。

終にはラダーンを倒したとも聞く。

 

私は顔も知らぬその褪せ人の吉報を聞くたび、旧時代が終わっていくような気がして気分が晴れた。

 

間もなく私たちは王都外廊から西へ進んでアルター高原のはずれへと向かった。こちらの地域は罪人送りの街道と呼ばれているらしい。風車が美しくも、戦災の跡が各地に痛々しく残っていた。

 

我々はその途中にある風車村ドミヌラに立ち寄った。

どのみち住民は居ないだろう。雨風がしのげるならそれでいい。

 

しかし、驚くべきことに住民たちは未だ健在で、攻撃もしてこなかった。私たちはそこで荷物を下ろして彼らを警戒しつつ話しかけた。

 

「もし。すみません!」

 

私は踊り続ける村の女性たちに話しかけた。

しかし彼女らは不気味な様子でそれを無視した。それどころか、彼女たちは狂ったように舞踏を続けている。

 

私と彼は少し身構えた。

 

「様子が妙だ、一旦出直そう」

彼が私の袖を掴んで言った。

「ちょっと!フードを掴まないでよ!」

 

私はその手を振り払って少し彼を睨んだ。

こういう時に彼は遠慮がない。

 

だが、彼の言う通りこの村の雰囲気は妙だった。

狭間の地で見慣れた十字架に、独自の花飾りとリースがあしらわれていて、村人たちは黄金樹信仰とは違う独特の紋章を着込んでいた。

 

我々は武器を取り出し、身構えた。

だが、好奇心とは妙だ。

それだけ危ないと判っていても私はその村の奥まで進みたくなってしまうのだから。

 

階段を真ん中あたりまで進むと、住居が入り組んでいてさらに不気味だ。だが、頂上にはそれらの物よりもっと奇妙な者が待ち構えていた。

 

頂上の風車の傍に立っていたのは細長い体を持つ不気味なのっぽだった。

 

私はそいつを見た時に、背中を撫でられたような感覚を受けた。ドラゴンなんかとは違う。真っ白な肌をした不可フードの長身。明らかに友好な人物ではなさそうだ。

 

私たちは引き返した。だが、そいつは私たちの行く手に黒炎を投げつけて行動を阻んだ。

 

私と彼は振り返る。

 

「・・・・・手ごわそうだ。できるなら戦いたくはない」

 

「ここは閉鎖空間じゃない。一旦ひるませて逃げよう」

私がそう言うと彼はツインナイトソードを手に取り

にやりと口角を上げた。

 

その瞬間、神肌の使徒が神肌削ぎを頭上高くから振り下ろした。私たちは左右に分かれてその攻撃を回避した。

 

すぐさま私は祈祷・雷の槍で相手の脇腹を攻撃した。

敵は両刃剣を持っていたのでまとわりつく私たちを薙ぎ払うように剣を振るった。

 

しかし、彼に攻撃は当たらない。突き以外の攻撃はどれも大振りで、見切りやすかった。

 

やがて使徒の体力が半分ほどになって、足元がおぼつかなくなり始めた。

 

「好機だ、一気に潰すぞ!」

彼が前に出る。戦技で一気にカタを付けるつもりだろう。

私は距離を取って、一旦回復することにした。

 

それによって一時的に彼と私の連携は途切れた。

物理的にも意識的にも距離が離れたからだが、私は大して心配していなかった。

敵は今のされている。おまけに蹲って、手を十字にしている。

私は視線を下ろし、腰の聖杯瓶を取り出した。

 

そして、その一瞬の隙に神肌の使徒は浮き上がって彼を避けた。突如として使徒は地面近くに黒い炎の爆発を発生させた。

 

それによって彼は吹き飛ばされた。

 

私は聖杯瓶を投げ出し、その援護の為に走る。

使徒はダメージを受けた彼ではなくこちらに向いた。

 

私は瞬時にファルシオンからレイピアに持ち替えて戦技「猟犬のステップ」で相手の攻撃をしのいだ。

 

私は神肌の使徒の前に躍り出て、レイピアを突き付けた。

しかし、私はそれをしただけで攻撃には出れなかった。

 

元より近距離戦は不得手だ。加えて、庇わなければいけない彼がいる。私はそして使徒の前に立ちふさがっただけで何もできなかった。

それを見て、使徒はのしのしと歩み寄ってくる。

私はどうしようもなく焦った。

 

「一瞬の隙を作る・・・その隙に逃げろ」

 

その時、足元から声がした。

彼の声だ。どうやら体制を立て直したらしい。

私はそれに対して目線を変えず、静かに頷いた。

 

神肌の使徒が好機とみて一気に前へ出る。

私はそれをぎりぎりまで引き付けた。そして刃先が私の首に触れる瞬間に再び猟犬のステップで左へと避ける。

もうFPに余裕はない。これが最後のチャンスだ。

 

「今よ!!」

 

私の合図とともに再び彼が立ち上がって奇襲を行う。強攻撃を持久力が枯れるまで見舞うつもりだ。

私ももう祈祷攻撃を止め、捨て身で前に出る。狙いは相手の態勢を崩すことだ。

 

そして、十数発の攻撃を見舞ったところで使徒は膝を着いた。

 

ここで追撃を加えて、倒すところまで持っていってもいいが

私も彼も満身創痍だ。その選択肢はリスキーすぎる。

 

それに、既に持久力を使い果たしヘロヘロの彼にはもう正常な判断力が残っていない。

 

私はその隙に再びステップを踏むと彼を抱えて風車村を去った。

 

ーーー

 

 

その後、我々は安全な場所へと逃れるためそのまま街道を西進した。

途中に干からびた貴人の一団に会った以外はまったくさっきの村が嘘に思えるほど平和なものであった。

 

アルター高原はこうしてみるとなんと美しい土地か、と感激する。

少なくとも、戦いで昂った彼の心を落ち着かせるほどには。

 

私は風車村の喧騒が聞こえなくなるくらいまで行って再び腰を落ち着けた。

彼は疲れを癒すべく聖杯瓶と水を浴びるように飲んだ。

 

「そんなに一気に飲んだら却って体に毒かもよ?落ち着きなよ」

 

「あぁ、そうだな。とりあえずまた、俺たちは乗り切ったんだから」

 

彼がそう言うと、私たちは顔を突き合わせてまた笑った。

正直、今回はもうだめかと思っていた。だが、そういう時に死ねない物だ。

 

いいや、それは運命がどうこうという問題ではもはやない。

それは我々が強いからだ。

だから、こんどのも九死に一生なんかではなく必然的に生き残ったのだ。

 

私はそんな風に考えている自分を見て、驚いた。

以前であれば、そんな泥臭い蛮族の様な死生観を許しはしなかっただろう。

世の中は悲しみに満ち、いつか来る死を待ちわびて過ごすだけだったあの日々。

だがそれは、今では私たちは死なないという絶対の自信に置き換わって至るのだから驚きだ。

 

私はさらに進んだ先で、また風車があるのを見つけた。

 

「ここじゃ、雨風を凌げないね。建物のある場所へ行こう」

 

「また神肌がいるんじゃないだろうな?」

 

「それは勘弁だね」

 

私たちは互いに軽口を言い合った。

 

間もなく我々は、その風車の下へと進む。

そこにはかつては厩舎だったであろう建物と大きな風車以外には何もなかった。

然しながら、比較的開かれた地形から察するにさしずめ牧場だったのだろう。奥にもう一つ同じような施設が確認できた。

適当な名前を付けるなら東の風車牧場か。

 

雰囲気は先ほどの村と変わらない。踊り回る異様な女性たちと、燃えながらにして呻く亡者たちが屯する不気味な場所だ。

しかし、彼らはさっきの神肌と比べれば大したことない。彼の回転切りですれば数発で、私の祈祷を使えば遠距離から一方的に倒せる。

 

だが、敵はそれだけではなかった。

 

突如不気味な音が我々の耳をつんざく。

これは背律者が侵入してきた合図だ。

 

私たちは風車牧場とは逆の方向へと振り向く。

そこには全身を鎧で包んだ屈強な騎士が立っていた。どうやら彼が侵入者のようだ。

その鎧は特殊な造りで、さながら小さな獣が寄り集まって形を成しているかのようだった。

そして彼の手には大槌の様なとぐろを巻いた巨大な武器が握られていた。

 

私は身構える。

その足取りと雰囲気から彼がとてつもなく強いことが解ったから。

 

だが、こちらは二人だ。いままでの背律者のことごとくは私たちの連携の前に為すすべもなかった。

きっと彼も腕に覚えがあるのだろうが、遠近共に隙のない我々相手には分が悪かろう。

 

彼はツインナイトソードを伊達に構えて冗談をまた口ずさむ。

「あいつの大槌は威力が高そうだ。大丈夫か?」

 

「ええ、もちろん。あんたの方がビビってんじゃないの?」

 

「はっまさか」

 

私たちはそう言って拳を重ねた。

そして私たちはまた、左右へ分かれて彼の事を包囲するように立ち回る。

 

 

背後には黄金樹が照り輝き、地には実り豊かな花々が顔を出している、

夜半の月も我々の背中をじっと見つめていて、自分の影が奥へと伸びていくのが見えた。

 

私はその時戦闘には不似合いな妄想を頭の片隅で進めていた。

勿論頭の中の殆ど、9割ほどは目の前の敵に向いていた。しかし残りの1割はあまりにも能天気な想像に支配されていた。

 

”明日の朝は、久々にパンが良い。彼に命じて入手させよう。そして、作ったスープに浸して食べよう”

 

なんともつまらない子供じみた考えだ。想像することが朝食についてとは。

だが、私はこの時初めて具体的に”明日”について考えることができた。

 

それはきっと大きな進歩だ。もう、死のうなんて思わない。

私たちはきっと上手くやれる。

 

そういう実感に溢れていた。

 

 

 

 

 

或いはそれは死に際によぎった、非現実的な願いに過ぎなかったのかもしれないが。

 

ーーー

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