魔族に魔法を教えてもらおう!   作:PSコン

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13.伝説の魔法使い

 よく踏み固められた街道を、2人の女性が歩いていた。

 

 オレンジの長髪を三つ編みにし、背中に流した妙齢の女性と、白銀の長髪を二つに結んだ少女の2人組である。

 親子ではないだろう。何せ、白銀の少女――フリーレンはエルフである。見た目通りの年齢ではない。

 

 三つ編みの女性――フランメがスンと鼻を鳴らした。

 

「血の匂いがするな。警戒しな、フリーレン」

 

 そして同時に杖を取り出した。2人は魔法使いであり、師弟だった。先の会話から人間であるフランメが師であることが窺える。

 

 警戒の糸が張り詰める。しかしそれも長くは続かなかった。

 血の匂いの元を発見したからである。

 

 肩から先、右腕を失った男が、よろよろと街道を歩いていた。

 フランメは急いで駆け寄り言った。

 

「おいあんた、大丈夫か!?」

「あ、ああ……」

 

 男は出血多量で、意識が朦朧としているようだった。街道に落ちた血の跡はどこまでも続いており、彼女らの元まで歩いてこれたのは奇跡と言って良いだろう。

 

 フランメは応急処置を済ませ、男に肩を貸した。

 

「死ぬなよ? もう少しで町に着くからな」

 

 男に言い聞かせ、続けてフリーレンに向かって言った。

 

「先に町まで行って、人手集めてこい」

 

 フリーレンは軽くうなずき、走り去った。

 フランメ自身も男を引きずりながら歩き出す。

 

(しかし……)

 

 フランメは男の肩の切断面を思い出し、目を細めた。

 

(なんて鋭い切り口だ。こりゃあ、人間の仕業じゃねえな)

 

 ならば自分たちの領分だと、気を引き締めたのである。

 

 

 

 *

 

 

 

 町の近くに、1つの村があった。

 特別な物は何1つない、ただの農村である。

 

 繁忙期を終え、収穫も上々であったことから、皆の心は軽く、穏やかな気持ちで冬に備えていた。

 

 そこに1体の魔族が突如として現れた。

 その魔族はこう言ったのである。

 

「魔法使いを呼んで来い」

 

 

「――――そして人質に取られた村人を救うため、私が町から派遣されました」

 

 右肩を失った男は、ベッドで横になりながら言った。

 貧血ゆえ血の気が引いていたが、無事一命をとりとめ、こうして話を聞くことが叶ったのである。

 

 フリーレンは嫌悪感を隠さず言った。

 

「魔族なりの武者修行、手合わせってこと? 相変わらず悪趣味だ」

「それだけ腕に自信があるってことだろ。油断するなよフリーレン」

「分かってるって。いい加減耳にタコが出来ちゃうよ」

 

 2人は納得したが、男は遠慮がちに「いえ、」と否定した。

 

「その魔族は、私にこう尋ねたのです」

 

 曰く『不老不死の魔法を知ってる?』と。

 

 それを聞いて、フランメは不意を突かれたかのように笑いだした。

 

「オイオイ! そりゃあ人類の悲願じゃないか。なんだ魔族に親近感が湧いちまうな!」

師匠せんせい

 

 フリーレンは師匠の軽薄な態度に非難の視線を向けた。

 フランメは笑いを抑えこもうとするも、くつくつも小さく漏らしてしまう。

 

 笑いが治まった頃には、場は随分と白けていた。

 

「いや、全く笑い事じゃねえな」

「本当だよ、よくそれで人の事とやかく言えたね」

 

 フリーレンは過去、フランメから散々情緒不足を指摘されたことを思い出していた。

 全くこの人は――

 

「笑い事じゃねえのは、その魔族だ」

「は?」

 

 打って変わって真剣な眼差しを向けるフランメに、フリーレンは思わず背を正す。

 

「そいつは少なくとも、死の恐怖に怯える程度には長生きしてるって事だ。しかもその解決法を、人間に求めるほどに追い詰められてもいる。何をしでかすか分からねえぞ」

 

 フリーレンはハッとした。確かに、その魔族の行動はあまりにも異常であると思えたからだ。

 フランメは男に問うた。

 

「それで、あんたは何て答えたんだ?」

「『知らない』と答えました。すると魔族は私に指を向け『じゃあお前より優れた魔法使いを連れてこい』と言い――気がつけば私の腕が切断されていたのです」

 

 そう言って男は無くなった腕を擦るような真似をし、大きく身震いした。

 

「攻撃されたと理解したのは、血が噴出し、魔力の流れを遅れて察知してからでした。指先から、おそらく風の刃を飛ばしたのだと思います」

 

 不可視にして超高速の刃。だが指先での方向指示が必要。

 フランメは先とは全く異なる、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「上出来だな。行くぞフリーレン」

 

 男は大きく狼狽し、2人を制止しようと手を伸ばした。

 フランメは自信たっぷりにこう言い、男の制止を振り切った。

 

「『優れた魔法使い』だろ? 安心しな、ここに居るのは世界一の魔法使いだ」

 

 

 

 *

 

 

 

 乳白色に近い黄色の髪、その側頭部に埋もれた二対のねじくれた角が、人間でないことを証明していた。

 年は、見た目だけならフリーレンと同じくらい、いや少し大きいか。最も、どちらも詐欺じみた存在ではあるが、とフランメはその魔族の外見を締めくくった。

 

 村の中心に立ち、しかし一切の気配を感じられない不気味な魔族。周囲の家屋で怯え隠れている人達の方が、よほど存在感がある。もし不意打ちを仕掛けられたら、一撃は絶対にくらっていただろう隠密性があった。

 だが魔法使いにはそれをしないからこその魔族である。異常な魔族でさえ、例外ではなかった。

 

「不老不死の魔法を知ってる?」

 

 魔族は男が言った言葉と、一言たがわない言葉を吐いた。

 

(人質の数が予想以上に多いのがちと厄介。嫌な予感も拭えないが)

 

 フランメは底冷えしていく心を奮い立たせ、敢えて挑発的に言った。

 

「そんなもん、存在しねえよ!」

 

 攻撃――を中断し急遽防御魔法を唱えた。半透明の壁が目前に展開され、一瞬の間もなく衝撃が走る。

 

「オイオイ! 話が違うじゃねえか!」

 

 ()()()()()()()()()放たれた攻撃に反応できたのは、事前に超高速の攻撃をすると知っていたからだ。しかし――――

 

(予備動作はフェイク……! 狡猾で、しかも何だこの魔力量は!!!)

 

 フランメの脳裏をかすめるのは、師であるゼーリエだ。あの大魔法使いに比肩しうる魔力量を、この魔族は持っていた。

 

「あー、クソ!!!」

 

 悪態が漏れる。見逃してくれなんて命乞いが通用する筈もないが、怯んだすきに敵の猛攻が始まったからだ。

 

 初撃と同様の攻撃が、乱打された。

 

 秒間30発。1撃1撃が上級魔法に匹敵する攻撃群など、とても正面からは受けきれない。防御魔法をそれぞれの攻撃に対し、斜めに受け衝撃を逸らす。丁寧に1つ1つ対処しなければ、瞬く間にミンチになるだろう。

 

(だが! これだけ使われれば、攻撃の種は理解できるわな!)

 

 風の魔法ではない。これは魔力そのものを圧縮し、刃にして飛ばしているのだ。

 魔法という工程を経ないために、高回転での連打を可能にしている。

 

 しかしこの技には大きな制約がある。

 それは膨大な魔力量が無ければたちまち息切れするし、強靭な魔力制御が無ければ柔い攻撃にしかならないという事である。

 

 即ちこれらをクリアするのはまず人間では不可能。この魔族はまさしく理を超えた怪物だという事だ。

 

 全く信じがたい。何故なら――――

 

「オイ! お前こりゃあ魔法じゃねえだろ! てめえの魔法はどうした!」

 

 魔族は鼻を鳴らして答えた。

 

「必要ないでしょ? お前程度じゃ」

 

 ――――この魔族は、まだ本気ではないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

(――――――良し)

 

 しかし本気ではない事、それはフランメにとって好都合だった。

 元より正面から戦う気など毛頭ない。本気など出させない。切り札を切るのはこちらだけ。勝てばそれで良いのだ。

 

(『必要ない』と言ったな。確かにその通り。このままなら()()()()でこっちが先に参っちまう)

 

 フランメの魔力量は目前の魔族に大きく劣る。ぶつかり合いではまず勝機はない。

 

(2分。それで終わると思ってるだろう? 正しいよ)

 

 

 ――――もしフランメの魔力量が、見た目通りならば。

 

 彼女は自らの魔力量を偽装しているのだ。これこそ対魔族の切り札であり、今まで多くの格上を討ち取ってきた、フランメの戦闘術の要である。

 相手が魔族である以上、この偽装は見破れない。偽装するという考えが無い。魔族とはそういう生き物なのだ。

 

 故に2分後、勝利が確約された時、この魔族には大きな隙が出来る。その隙を()()()()()()突く。

 

 フランメはフリーレンに、村を大きく迂回して背後に周るよう予め指示を出していた。フランメが戦っている間に、背後から強襲させるためだ。

 

 並の魔族ならそれで十分。しかし、この相手ならもう一手必要だろう。

 

 奴は魔力の刃を形成する前段階として、周囲に高密度の魔力を纏っている。

 これが厄介で、残念ながらフリーレンでは、この守りは突破できないだろう。

 

(……どうやっても、一撃は貰うことになるか)

 

 それを剥がすのはこちらの役目だと、フランメは覚悟を決めた。当たり所さえ気を付ければ、死にはしないと隻腕になった男が証明している。

 

(残り30秒)

 

 カウントと共に偽装を解き、更なる動揺を誘う。同時に正確な隙のタイミングをこちらの手中に移し、フリーレンへの合図とする。

 後はそう、女神様の加護でも祈っておこう。これで万全。

 

 

 

 ――残り10秒

 

 

 9

 

 

 8

 

 

 7

 

 

 6

 

 

 5

 

 

 4

 

 

 3

 

「そこまでだ」

 

 攻撃が止まった。魔族はこれ以上ないほどの隙を晒したが、それはフランメも同様だった。

 

 2つの殺意の間に、1人の男が立ち塞がった。

 

 体格の良い、赤毛の青年だ。おそらくは戦士であろう青年は、フリーレンを小脇に抱えていた。

 

「捕まっちゃった……」

「何やってんだよお前ぇ……」

 

 フリーレンの隠行は確かに拙い。しかし並の人間にあんな雑に捕まえられる程ではないし、フランメ自身、男の存在に今の今まで気がつかなかったのである。

 

(何より――――)

 

 未だ動揺から覚めやらない挙動不審な魔族を見れば、様子見という選択肢を取らざるを得なかった。

 

「リープ」

 

 男が安堵したかのような声色で言った。

 それが魔族の名なのだろう。しかしリープと呼ばれた魔族は下唇を噛み、視線を足元に落とした。

 

(おやおやおや)

 

 まるで叱られた子供のようだと、フランメは内心笑みを浮かべた。これが演技だとしたら大したものだ。少なくとも、フランメには本物の感情のように思われた。

 

 男にとっても同じだったのだろう。溜息をついた後、春風のような柔らかさで言った。

 

「帰るぞ」

 

 続いてこちらを向き、「返すわ」とキャッチボールみたいな気軽さでフリーレンを放り投げた。

 

「ぐえ」フリーレンは潰れたカエルみたいな声を上げた。

「おっとっと」フランメは慌てて受け取った。

 

 その一瞬だけ目を離した隙に、男と魔族は消え去っていた。

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