魔族に魔法を教えてもらおう!   作:PSコン

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Segen sei mit Lieb (4)

 ――アウラ様と連絡が取れない。

 リュグナーは焦っていった。

 

 現状を知らせる手紙と、一応似顔絵を同封した便りも、宛先が不明では届けようがない。

 一段落した後、新たに発生した問題だった。

 

 アウラほどの魔力を見逃す筈もない。意図的に姿を隠しているか、そもそも街から遠く離れているかの二択だった。

 

(アウラ様にはアウラ様の考えがあるのだろう。仕方があるまい。私は私で出来ることをやるか)

 

 と、思ったは良いものの。

 グラナト伯爵には企みの気配はないし、リープという魔族にも動きはなかった。

 

 どちらかといえば、リーニエとドラート。2人の若い魔族が先走らないよう抑えておくべきだろう。

 

(しかし2人は何をしているのだ?)

 

 この10日間、自分たちが受け入れられやすいよう地盤固めに精を出していたため、2人の行動を一切把握していなかった。

 最低限、人間に危害を加えることのないよう言い聞かせたが、具体的な行動は指示していなかったのだ。

 

 まずは彼らの活躍を聞いておくか。

 リュグナーはそう判断し、まずはリーニエを呼び出した。

 

「リープ様からアップルパイ貰ってた」

 

 香ばしい香りを放つ菓子を手に、リーニエが言った。

 

 聞き方が悪かったのかもしれない。最近は人間とばかり話していたから。

 リュグナーは眉間を押さえ、どういった経緯でそうなったのかを聞いた。

 

「リンゴはさ、調理した方が美味しい事に気づいたんだよね」

「………………続けろ」

 

 リーニエはアップルパイにさくりと齧りついた。そのままモグモグと咀嚼する。

 

「………………」

 

 黙って見つめるリュグナーを気にする素振りさえ見せず、リーニエはゆっくり食事を楽しんでいた。

 そしてようやく飲み込み言った。

 

「で、リープ様に貰ったの」

「待つ必要はなかったな」

 

 要領を得ないどころの話ではない。知りたいことを、しっかり言葉にして伝える必要がありそうだった。

 

「何故リープ様が調理を?」

「料理の勉強だってさ。偉いよね」

「……分からん。何故そのような事を?」

「さあ?」

「だろうな。ではお前はこの10日間何をしていた?」

「? 何も? 指示無かったし」

「……だろうな」

 

 リュグナーは余計な事をしていなかっただけマシだと思うことにした。

 

 彼の内心になど思いも馳せず、リーニエは時計を見て「あ」と呟いた。

 

「これからリープ様に料理教えてもらうんだよね。じゃあまた後でね、リュグナー様」

 

 リュグナーは止めなかった。

 まあ、親睦を深めておくのは悪くない。リュグナーは水差しから水をコップの縁まで注ぎ、そして一気に飲み干した。

 

 

 

 次はドラートである。こちらも同様に呼び出し聞いた。

 

「人間に魔法を教えていました」

 

 だいぶ余計な事をしていた。

 

「………………何故そうなった?」

「何故?」

 

 ドラートは考え込むように首を傾げ、そしてそのまま言った。

 

「暇だったから?」

「分からん。何故だ? 何故そうなる? お前は暇を理由に魔族の秘奥たる魔法を気軽に敵に教えるのか? 頭がおかしいのか???」

 

 ドラートはリュグナーの剣幕にたじろいだが、しかし何故かムッとして言った。

 

「どうせ人間に魔族の魔法は理解できないでしょう。理解できないものに時間を浪費する。これを見るのは最高の娯楽では?」

「浅はか……!」

 

 このバカは、人間が人を殺す魔法ゾルトラークを我が物にしたことを忘れてしまったのか。

 そうでなくとも、魔法の概要を知られるだけでどれだけ不利になるかを、考えたことが無かったのだろうか。

 

 ――余談だが、ドラートの魔法講座は主にご婦人に大人気である。

 尊大な美少年というのが彼女達の心を掴んだらしく、毎度黄色い声援を贈られていた。

 

 それがまたドラートの自尊心を満たしたらしい。

 彼のまわりは自分よりも優れた者ばかりであり、常に下っ端として扱われていたのだ。

 

 故にちやほやされる環境に、ドラートはリュグナーが想像し得ない程に酔っていた!

 

「それで、まさかお前、私やリーニエ……ありえないとは思うが、アウラ様の魔法は話していないだろうな」

「使えない魔法を話す訳ないでしょう。恥をかくだけだ」

 

 ドラートはもはや小馬鹿にしたような表情で言った。

 リュグナーは――もう怒る気力すら湧かなかった。こういう時、人間は浴びるように酒を飲むのだろうなと、不思議な共感を覚えただけだ。

 

「…………もう行って良いぞ」

「そうですか。ではまた後で、リュグナー様。俺も明日の授業の準備をしなければならないので」

 

 パタンと軽快にドアを閉じる音。ドラートは部屋を後にした。

 リュグナーは水差しを持ち上げたが、あいにく中身は空だった。

 

(水を……いやワインだな。ワインが良い)

 

 既に酔っぱらったみたいな足取りのリュグナ―が部屋を出たら、そこでばたりとグラナト伯爵と鉢合わせた。彼はワイン瓶を持っていた。

 

 リーニエドラートの痴態に神経を減らす者といえば、それは勿論伯爵だろう。彼には酒が必要だった。

 

 そんな事情は知る由もないが、リュグナーの視線は自然と酒瓶を向いた。ちょうど欲していたものだからだ。しかしグラナト伯爵は恥じるように瓶を背後に隠してしまった。

 

「…………いやこれは」

 

 特にリュグナーに責める気はない。だがグラナト伯爵は咄嗟に言い訳の初動を口にし、しかし不要だと気がつき押し黙った。

 

「…………」

「…………」

 

 暫し2人は無言で廊下に立っていたが、居た堪れなくなったグラナト伯爵が口を開いた。

 

「なんだ、その…………」

 

 そして瓶を掲げた。

 

「飲むか?」

 

 リュグナーは「はい」と、初めて伯爵に裏表なく返事をした。

 

 

 

 *

 

 

 

 ――――むせ返るような血の臭い。

 

 かつて平和だった小さな村。今では死体の山が築かれ、山から流れた血が小さな小川を作っていた。ハエがうるさく舞い、己の子孫を残そうと腐肉へ卵を植え付ける。

 ハエの頭上に影ができた。次の瞬間、ぐちゃりと新たな死体が山に投げ捨てられた。蛆が飛び散り、血の川で溺れて死んだ。

 

 この地獄を生み出したのは2体の魔族。

 

 長髪の大男、血塗られし軍神リヴァーレ。

 華奢な体躯の老輩、進化のエルテスター。

 

 この恐るべき魔族に近づく女たちが居た。無論、彼女達も人間ではない。

 

 七崩賢、断頭台のアウラ。

 無名の大魔族ソリテール。

 

 ソリテールが男たちへ声を掛けた。

 

「こんにちは、お爺様方。ご機嫌いかがかしら」

「おお、ソリテールか。久しいの」

 

 エルテスターはまさしく老人のようなしわがれた声で返答した。

 

「お久しぶりです、エルテスター様。ご隠居されているものとばかり思っていましたわ」

「おうおう、確かに隠居中じゃよ。今日はちょっとした同窓会じゃな」

 

 鷹揚にエルテスターは頷いた。

 ()()を終えたリヴァーレが、口元の血を拭いながらソリテールに向き直った。

 

「それで、老いぼれ共に何の用だソリテール。愉快ないたずらでも思いついたか?」

「それがちょっと困ったことになっていてね――――」

 

 ソリテールはアウラが会ったという魔族について話した。

 彼らを探している最中、その魔族がリープという名前だという事、そして人探しをしていること、その人物の似顔絵も手元に用意していた。

 

「人類との共存を夢見る魔族だなんて、絶対にろくでなしよ。直ぐに対処すべきだわ」

 

 魔王も人類との共存を目指していた。

 その活動の結果、魔族の大半が死に絶えたのである。共存という考えは、魔族にとって致死の毒になりうる。

 

 最初は様子を見るだけのつもりだったが、事情を知った今、リープは確実に殺しておかなければならない害悪だとソリテールは判断した。

 

「2対の角――4本角の魔族か。覚えがあるの」

 

 エルテスターがしみじみと言った。

 ソリテールにとっては未知の魔族だったため、これは思わぬ収穫だった。

 

「むかし人も魔族も寄り付かない、北の山岳地帯にそんな特徴の魔族がいたなあ。覚えとるか、リヴァーレ」

「うーむ」

 

 リヴァーレは顎を撫で、過去へと埋没しているようだった。思い出したのか「ああ」と声を上げ言った。

 

「思い出した。若かった頃そんな話を聞いたな。あれは結局どうしたのだったか」

「不干渉。儂が魔王様に進言したよ。良く覚えている」

 

 気性の荒い魔族で、配下に収めるのは不可能だと判断したのだという。

 アウラが呟いた。

 

「どんな魔法を使うのかしら」

「うむ、戦い方は、ソリテールに近かったの」

「私?」

 

 ソリテールは素っ頓狂な声を上げた。自らが異端だと自覚しているからこそ、予想だにしていなかったのである。

 

「魔力を高圧縮しぶつける技法よ。得意だったろう?」

「ええ、まあ……」

 

 あまり手の内は晒したくなかったが、これは仕方がないかと諦めた。

 案の定アウラが詳細を求めてきたので、特手不得手を説明する。

 

「速度はあるけど、圧縮する関係上、攻撃が小さくなるわ。対多数へはあまり向かないかも」

「へえ……!」

 

 アウラは何とも楽しそうな笑みを浮かべた。彼女は軍勢を率いる魔法使いである。己の有利を悟ったのだろう。

 

(だからこそ、他の手も用意していると思うけどね)

 

 私ならそうする。だけどそれを言っても仕方がないだろう。

 

 今公開されている情報で、出来うる限り備えるしかない。

 

「だからね、お爺様方――」

「皆まで言うな」

 

 ソリテールの言葉をリヴァーレが遮った。

 彼は肉食獣のような、獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

「戦場があるのだろう。なら馳せ参じるまでよ」

 

 乗り気なリヴァーレに対し、エルテスターは溜息をつきながら言った。

 

「乗りかかった船、いや過去の不始末か。ならば老骨に鞭を打つしかあるまい」

 

 決まりだ。

 おそらくこれが、今ソリテールに用意できる最高戦力だった。

 

 あとはそう、仕上げを行うだけだ。

 

「ねえアウラちゃん」

「ちゃんはやめなさいよ……で、何?」

 

 今回の戦い、彼女の魔法こそが要になると予測された。故に――

 

「貴女の魔法、最大何人まで支配できるのかしら?」

 

 出来ることをやるのだ。

 

 ――――魔族らしく、倫理を踏みにじって。

 




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先ほど投稿したので、興味があればご覧ください。

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