魔族に魔法を教えてもらおう!   作:PSコン

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Segen sei mit Lieb (6)

「随分とまあ、豪勢な部屋に住んでるね」

 

 フリーレンは皮肉混じりに言った。

 

 それに対し、リープは「はあ」と溜息をつき本を閉じた。

 

「以前からずっとアピールしてきてたけど、随分と暇なんだね」

 

 フリーレンは牢屋に入れられてからずっと、敵意を魔力に乗せて放ち続けていたのだ。

 牢屋に誘い込むための行為だったが、リープは結局乗ってこなかった。

 

 フリーレンは鼻を鳴らした。他の魔族とは異なるのは理解できたが、気に食わないのは変わらない。

 

 どうしようもなくイラつくのだ。

 

「……1つ確認したい」

 

 リープは閉じていた本を開き直した。フリーレンは構わず続ける。

 

「お前が探してるのは、千年前にいた、赤毛の男?」

 

 リープはページをめくった。

 

「だったら?」

 

 フリーレンは嘲笑を込めて言った。

 

「人間は千年も生きられない。無駄な事は止めろ」

 

 リープは本を閉じ、初めてフリーレンを見た。怒りの籠った視線が突き刺さる。

 

「お前の貧相なものさしで彼を測るな……!」

 

 怒気の籠った大した殺意だが、フリーレンのイラつきは収まらなかった。

 むしろイラつきは積もっていく。

 

「事実だよ」

 

 だから単刀直入に言った。

 

 リープは牙すら見せ、今にも襲い掛かりそうだった。

 だが1つ舌打ちし、「お前には分からないか」と言い捨て、怒りを抑えたようである。

 

 そして一転して、挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「お前、勇者一行とやらの魔法使いだったんだって?」

 

 フリーレンは彼女の発言の意図が読めず、ただ無言でいた。

 リープも確認したかったわけではないのだろう。そのまま続けた。

 

「分かるわけないか。男が三人もいたのに、誰にも選んでもらえなかったブスにはね」

「――――――――は? は?

 

 こいつは一体何を言っているのだろう……!

 

「アイゼンは妻帯者だし、ハイターは聖職者だ……!」

「じゃあ勇者は? 勇者は何だったの? インポだったのかな?」

「ちが……!」

 

 違うはずだ!

 

「どうせ見たことないでしょ? お前の貧相な身体じゃあ、どのみち興奮しないだろうけどね」

 

 リープは勝ち誇ったかのように自らの身体を撫でた。

 豊かな胸を重点的に。

 

 フリーレンは思わず自分の体を見てしまった。

 ハッとして前を向く。気に食わない笑顔がそこにあった。

 

 フリーレンは耳まで真っ赤になっていくのを実感し、誤魔化すようにまくし立てた。

 

「ヒンメルなら……ヒンメルなら私の身体を好きって言ってくれる!!!

 

 フリーレンは完全に気が動転していた。更にうっすらと思っていたのだ。

 私はいったい何を言っているのだろうかと。

 

 しかしリープは追撃の手を緩めなかった。

 

「確認できるの? ヒンメルはもういないじゃない

「くっ…………!」

 

(落ち着け……大丈夫、私は千年以上生きた魔法使いだ。こんなのどうってことない)

 

 何とか心を落ち着けるが、予想以上の消耗により肩で息をしていた。

 だがその甲斐あって、気がついたことがある。

 

 リープという魔族が、先とは打って変わって、酷く冷徹な目で見つめていることに。

 

「私は、彼が迎えに来てくれること、疑ってないよ」

 

 そしてこれ以上話すことはないと言わんばかりに、本に目を落とし始めたのだ。

 

(――――――ああ、そうか)

 

 フリーレンはリープの言葉を聞き、何故自分がこの魔族を、どうしようもなく気に食わないのか理解できた。

 

 

 ――こいつは愛しているのだ。

 

 種族の壁、人の寿命。

 

 ――――あらゆる道理を踏みにじり、ただただ一途に愛している。

 

 

(だから私はこいつが嫌いなんだ)

 

 フリーレンは部屋を後にした。そしてこの日以降、城に行くこともなかった。

 もう二度と、こいつの顔を見たくなかったからだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 フリーレン達がこの街を去ってから4日後。その日も探し人の新たな情報は無く、リープは変わりなく日々を過ごす。

 魔法の鍛錬をし、リーニエらと料理の勉強をし、適当に蔵書から抜き取った本を読み進め、そして湯浴みをして眠りに着く――筈だった。

 

 日が頂上に登ったあたりで、リープは感じ取った。

 

 強大な3()()の魔力が、こちらに敵意を向けていることを。

 

………

……

 

 会議室の空気は鉛のように重かった。

 その中で偵察に向かった兵士が、やはり重々しく口を開いた。

 

「当初の予想通り、断頭台のアウラが帰ってきたようです」

 

 そして報告を続ける。

 

「アウラが率いる首無し騎士が主要な街道を封鎖しております。現状危害を加えてくる様子はなく、何らかの要求もありません」

 

 グラナト伯爵は唸った。

 アウラが封鎖した街道は、隣の街に繋がる重要な交易路だ。

 防護結界の張り直しが間に合ったのは不幸中の幸いだが、長時間封鎖を続けられると、街が干上がってしまう。

 

 これは以前のアウラからは見られなかった攻撃だ。

 何かが起こっているのは明らかだった。

 

 がたりと椅子が引かれた。

 恐らくは変化の要因であろう、リープが立ち上がったのだ。

 

「じゃあ処理してくるよ。いい加減鬱陶しいからね」

 

 チリ紙を拾う程度の気楽さに、グラナト伯爵だけではなく、その場に集まった有識者全員が目を見開いた。

 

 流石にグラナト伯爵は一言添えざるを得なかった。

 

「以前のアウラからは考えられない行動です。ここはもう少し様子見をすべきかと」

「要らないよ。()()()()の奴らに用意なんて必要ない」

 

 おそらく、嘘ではないのだろう。

 グラナト伯爵ではあまりにも強大過ぎて、彼女とアウラの正確な実力差は測れない。

 

 しかし――――と考え、何故そこまで気を配る必要があるのかと思い直した。

 どちらが倒れようとも問題ない。何故これほど気に掛ける?

 

(情を移しすぎたな)

 

 自明だった。数日彼女を観察していれば流石に分かる。

 このリープという魔族は、恋する少女そのものだったからだ。恋人との再会を応援したいし、同情の気持ちもある。

 

 だがグラナト伯爵は為政者である。時には自分の気持ちを殺さなくてはならない。

 

「分かりました。――リュグナー殿もよろしいな?」

 

 このリュグナーという魔族に対しても同様である。

 アウラは息子のかたきだ。しかし心を殺し、配下のリュグナーを最初は和睦の使者として、今では亡命者として受け入れた。心の赴くままに動いていれば、こうして同じ卓を囲むこともなかった。

 

 複雑な思いで見つめるグラナト伯爵に対して、当の言葉を投げかけられたリュグナーは、苦渋の決断を迫られていた。

 

 アウラ様は決戦を決意したようだ。

 首切り役人としては直ぐに馳せ参じ――いや、グラナト伯爵の首を持って帰還すべきである。

 

 だがリュグナーは迷っていた。単純に、勝機が見られなかったからである。

 リュグナーは魔族だ。グラナト伯爵よりも実力差は良く見えている。

 

 ――アウラ様は勝てない。大魔族を2()()援軍に用意したようだが、十分な戦力とは思えない。

 

 だからこその迷いだ。ここでアウラ側であることを表明する事は、即ち死を意味している。

 

(しかしここで戻らねば――――)

 

 リュグナーは自らの力を過信しない。世界を変えるほどの存在に成れるとは思わなかった。アウラの死後、自身が取れる選択はあまりにも少ない。

 

 リープに付いて行くというのは、難しいだろう。

 彼女はあまりにも魔族に興味が無い。世界に対して無関心ですらある。

 他の者を庇護下に置くはずがない。

 

 他の魔族も、めぼしい者は孤高を気取り、気紛れに人類に牙を向け、所詮は理の範囲内でしかない強さのため数の暴力により破られる。既に自らが弱者側だということを理解することもなく。

 

 アウラだけが、理の中にありながら、数的不利を覆す例外だったのだ。だからこそリュグナーは彼女に忠誠を誓っていた。人類への勝機を見たのだ。

 しかしそれももう終わりだろう。戦うべき相手を間違えた。

 

 ならば自分たちはどうすれば良いのか。

 ――結局のところ、人に庇護を求め、この街で暮らすしかないのだ。

 

 故にここで黙していれば命は救われる。しかし同時に、人の顔色を窺い続ける生を黙認することにもなるだろう。

 

 

 ――――人か魔か。ここが分水嶺だった。

 

「――――――そうですね。リープ様なら問題ないかと」

 

 リュグナーは迷った末に、人類への従順を選んだ。魔族としてのプライドは、ここで捨てる。

 

「ご武運を」

 

 リープは背を向けながら、ひらひらと手を振った。

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