フリーレン一行は路銀節約のために、一級魔法使い試験に臨んでいた。
「改めてまとめると酷いですねこれ。怒られません?」
「大丈夫だよフェルン。動機は人それぞれだから」
フリーレンとフェルンは並んで試験説明会の開始を待っていた。
彼女達以外にも多くの魔法使いが佇んでいる。
お互いに顔見知りというわけでもなく、人数に対して非常に静かだった。
この会場にいるのは何れも一人前と称される魔法使いである。
しかし一級魔法使いとは高い山の頂に座す者たちであり、彼らのうち、一級に成れる者はほんの一握りであろう。
壇上に足音が響いた。
第一次試験試験官――一級魔法使いゲナウが颯爽と現れたのだ。
彼は演台に手を突き、参加者たちを見渡した。
「まだ集まっていないな」
そう呟くと、彼は壁際に控えていた男に目を向けた。
男は手を前に突き出し、多分待てと指示を出したのだろう。ゲナウは演台に手をついたまま、黙り込んでしまった。
そうなると気まずいのが参加者である。
試験内容は不明であり、もしかしたらもう選別は始まっているのかもしれないのだ。落ち着かない時間が泥のようにゆっっくりと流れた。
どんよりとした空気は――――弾かれたように開かれた扉によって吹き飛ばされた。
外の新鮮な空気が部屋になだれ込む。
堂々と部屋に足を踏み入れたのは、1人の少女。
入ってきた少女を見た参加者は、例外なく目をむいた。
彼女の頭に生えている、その2本の角を見て。
フェルンもまた呟いた。
「あ、チーフ」
その少女――魔族リーニエはフェルンを見て彼女に声を掛けた。
「久しぶりだね、元気してた?」
「はい、チーフも健在のようで何よりです。チーフも試験に?」
周囲の好奇の目など関係なく2人は会話を続けるようである。
ちなみにフリーレンは「あれ、デジャブ?」などと呟き現実から逃げていた。
「そう。誰かは持ってた方が良いって話になってさ。『リーニエ、お前は暇してるのだから行ってこい』って」
「ひどい! 何で勝手に決めつけるんでしょうね?」
「ゴホン!!!」壇上から大きな咳が響いた。
「…………これより一級魔法使い選抜試験を行う」
フェルンとリーニエは最低限のエアリーディング機能を備えているので、彼の説明に聞き入った。
どうやら三名一組のチーム戦を行うようだ。
そして班分けは予め配られた腕輪に魔力を通すことで分かるのだとか。
「フェルンは4班か。じゃあ別だね」
「残念です。チーフとなら良いチームが組めたでしょうに」
だがまあ、仕方ない。
総勢60名。20チームでは被る方が稀だ。
フェルンはチームメンバーを探し、少し歩いた後で、彼女と同じⅣの刻印を持つ腕輪を付けた2人を見つけた。
そのうちの1人、眼鏡を掛けた青年ラントがやや苦い表情を作った。
「君か……」
対称的に楽し気な、ちょっとフェルンとしては露出過多と思われる女性ユーベルが言った。
「良いじゃん良いじゃん。楽しめそうなパーティだ」
「よろしくお願いします」とフェルンは慇懃に挨拶をした。
そしてリーニエもまたチームメンバーを見つけていた。
その1人、如何にも偉そうな女性が進んで自己紹介をし始めた。
「私は二級魔法使いメディカヘクセ・フォン・トロイエと申します。気軽にメディカとお呼びくださいまし」
次に異様な毛量を持つ少女が言った。
「二級魔法使いゼンゼ14歳。ドーゾヨロシク」
「ん?」
メディカは怪訝な表情を示したが、まあ、気のせいだろうと軽く流した。他に気になることあるし。
そして気になること――リーニエに2人の視線が刺さる。
「五級魔法使いリーニエ。将来の夢はパティシエです。ドーゾヨロシク」
――――さて、それではこの3人について詳細な話をしておこう。おそらく説明が必要だろうから。
まずはメディカから。
彼女はゼイゲン達と共に邪教の討伐には成功したが、そのほとんどの功績はゼイゲンが持っていく形となった。
しかしそれについてはメディカに異存はない。自身があまり役に立っていなかった事は良く理解している。
それでも目的は達成していた筈だったのだ。
もとより動機はエルフとのコネクション。ミリアルデを抱え込めれば何でも良かった。
でもこういう言い方をしているという事は、為せなかったという事で。
気がついたらミリアルデは消えていたのである。ついでにゼイゲンも。――後処理という面倒事を残して。
つまり彼女はミリアルデをとっ捕まえるか、新しいエルフを探す必要があったのだが。その時思い出されたのが大陸魔法協会である。
協会の長はエルフであり、今回開催される一級魔法使い試験に顔を出すのだとか。
逃さない手は無い。というか後が無いので。メディカは南から遥か遠く、北方の地オイサーストまで来たのである。
次はリーニエだ。
順番が前後することを許して欲しい。
彼女たちが人魔共存に取り組んでいるのは前述の通りである。
魔族の参入は全く無いが、それは問題視されていない。正直来られても困るというのが総意だからである。元々自分たちの生存戦略でしかないので。
逆に人間の参入があまりにも多い。急速な広まりに有識者も危惧を抱くほどである。
それでも国内への根回しはおおよそ終えていたが、問題は国外だ。
南方は、何故か晩餐会に紛れ込んでいたトロイエ家の伝手がある。
しかし他の国には無く、正直南方も一貴族だけでは足りていない。
その時候補に挙がったのが、大陸全土に広がる大陸魔法協会である。
その一手として、魔族に協会規定の魔法使いの資格を与えることになった。
影響力を示すのなら一級資格が望ましいだろうが、流石にそれは試験を受けて、正規の手続きを経て取得することが条件だった。
ただリュグナーは死ぬほど忙しいし、ドラートもあれはあれで役に立っている。
なので消去法としてリーニエが取ることになった。リープはダメ。命令できる奴がいないので。
そして最後にゼンゼである。
皆さんご存じの通り、彼女は既に一級魔法使いだ。14歳でもない。
前述の2人は魔法協会にとって非常に面倒な相手である。
何故なら魔法協会もトップが強力なエルフとはいえ、人間社会に属している。あまりにも勝手な振る舞いは許されない。一級試験は人死にが普通にあるとはいえ、要人を殺したら運営が成り立たなくなるのだ。
なのでメディカとリーニエは協会が密かに作成している『殺しちゃまずい奴リスト』に記されている。
通常は影からサポートしたり、くじを操作して安全を図るのだが、リーニエというか魔族は予測不可能である。協会も普段とは異なる対策を講じる必要があった。
そこで考え出されたのが、一級魔法使いの随行である。
ゼンゼの正体が露見するリスクもあるが、それは相手が魔族であるため、不測の事態に備えて監視していたと言えば良い。実際間違ってはいない。
そんな特異な3人組。
能力でいえば全員が一級相当である。試験は余裕でパスすると思われたが――――
リーニエが「あ」と思い出したように言った。
「私、人間には攻撃するなって言われてるんだよね。だから戦闘はパスで」
「私も平和主義者でね。戦闘は遠慮させてもらうよ」
「あ、あら……?」
戦闘不参加が2名。メディカもサポート担当である。一応基礎的な攻撃は出来るが……。
メディカはわなわなと震えた。
「こ、これはマズいのでは……?」
「大丈夫でしょ。ガンバレガンバレ」
「そうだそうだ、ガンバレー」
「あ、貴女たちは――――!」
とりあえず言えることは、メディカが全力で舵取りをする必要があるということであり。
前回の孤島に続き、心労担当であろうということだった。
続く。