メディカ達は当初の予定通り後半まで息を潜めていた。
途中フリーレン達が水に魔力を流し、シュティレが警戒しない水場を制限したが、これは逆にメディカ達には有利に働いた。
リーニエがすぐに水場への魔力に感づいたため早期に目的を把握。メディカは家系上水の探査が得意であったため、フリーレンらに先んじて水場の確保に成功したのだ。
フリーレン達も全ての水場を封鎖する必要は無かったため、お互いに干渉することなく、制限した水場を利用できた。
メディカ達は制限時間ギリギリでシュティレを捕獲。
一次試験を通過した。
*
所は変わりオイサーストの都市内部。
「チーフも通過したのですね、良かったです」
「フェルンもね」
宿屋の前で待ち合わせをしていたフェルンとリーニエ。
彼女達のお出かけに、フリーレンとメディカも同席していた。
フリーレンは魔族を警戒しているためだ。
フェルンは完全に気を許しているので、彼女が気を張る必要があった。
メディカはやる事もないので、元チームメンバーと交友関係を深めようと思っていただけだったのだが――――
メディカはじっとフリーレンを見つめていた。
「な、何……?」
「貴女……エルフですよね?」
昨今エルフが希少とはいえ、じっとりと見つめられる経験は無かったのだろう。フリーレンは上ずった声で「う、うん」と答えた。
「やはりそうでしたか。迂闊でしたわ」
「そ、そう?」
やれやれと微笑むメディカに、何がなんやら分からないフリーレンは警戒を強めたが、メディカは気がついていないのか、にこやかに笑った。
「お名前を伺っても? あ、私はメディカと言います」
「う、うぅん……」
フリーレンは答えてもいいか悩んだが、自己紹介すらしないのは不自然かと名前を言った。
「フリーレンだけど……」
「フリーレン……?」
メディカの顔が、名前を聞いた途端苦そうな顔に変わった。フリーレンはビクリと震える。
ややトーンの下がった声でメディカが言った。
「貴女、人を殺す魔法の開発に携わっていましたか?」
「開発というか、解析には携わってたけど……」
暫しの沈黙。その間にメディカは百面相を展開していた。目元をひくひくさせたり、眉を上下左右に器用に動かしたり。そんな様子をおっかなビックリ眺めていたフリーレンだったが、突如ニコリとした微笑みで固定したメディカに、いっそう肩を揺らした。
「私、貴女とお友達になりたいですわ!」
「そ、そう……?」
フリーレンは可能な限り距離を置きたかったが、刺激するべきではないと踏み、曖昧な返事をした。
だがそれは過ちである。こういう時は何時でも逃げられるようにしつつ、はっきりと言った方が良い。可能であれば後ろ手に杖を握りしめて。
果たしてメディカはグイと顔を寄せた。
「ええ! つきましてはフリーレンさん。試験が終わったら我が家まで来ていただけませんか?」
フリーレンはこの時初めてザインの言っていた"他人との距離感"というものを知覚しただろう。
てれれれってってってー♪ フリーレンは レベルが あがった!
それはさておきフリーレンは一歩引いた。
フェルンに助けを求めようと視線を向けたが、いつの間にか居なくなっていた。この状況は自力で打破する必要がありそうだと肩を震わせる。
「い、いやぁ。私、行かなきゃいけないとこあるし」
「どこですか?」
「エ、エンデ……」
「旧魔王城ですよね? 何をしに行くのですか?」
「オ、オレオールに、知り合いが……」
「そうですか」
そこでメディカは考え込むように顎に手を当てた。しかし視線はフリーレンに向けられたままで、逃げるのは困難に思われた。
「では船を用意しましょう。海路ならそれほど時間は掛からないでしょうし」
彼女は何としてもフリーレンを手に入れるつもりのようだった。
元々メディカのエルフ探しはフリーレンを見つけるためである。ここで逃がす訳が無かった。
そして彼女の提案は、オレオールを目指すだけならベストではある。
しかし――――
「ごめん。陸路で行きたいんだ」
それだけはキッパリと、フリーレンは断った。
そして自分自身不思議だったが、騒めいてた心がスッと落ち着いたのである。
フリーレンの変化に、メディカは少し顔をしかめた。何やら地雷を踏んだらしいことが知れたからだ。
「そうですか。陸路では、あまり役には立てなさそうです」
「いや、良いよ」
話は終わった――と思いきや、メディカが突如としてフリーレンの手を握った。
心の内を表したようにフリーレンのツインテールが跳ねた。
「では是非、用事が終わり次第、我がトロイエ家にお越しくださいね!」
「う、うぅん……」
フリーレンは曖昧な返事をした。
*
フリーレンが人知れずボス戦を終えた後、様子を見にフェルンとリーニエが帰ってきた。
それと同時に、カンネとラヴィーネが遊びに来たのである。
女子6名が集まった。シュタルクは修行のため出掛けている。幸運だったに違いない。
ひとしきり自己紹介を終えた後、宿は狭いので適当なカフェで落ち着くことになった。
全員が席に着いたところで、皆の前でメディカが言った。
「今日は私が待ちますので、皆さんお好きな物をお頼みください」
「お、太っ腹! 流石はお金持ちだねラヴィーネ!」
「あ? なんだその目は。やんのか?」
あまり借りを作るべきではないが――。
ラヴィーネは逡巡したが、まあ南の貴族だし気にしなくて良いかと考え直しメニューを手に取った。
この店はデザート類が豊富だ。お値段それなりに張るのであまり訪れる機会のない店である。こういう機会に目一杯堪能しておこうとラヴィーネは決めた。
「ラヴィーネどうする?」
「まずはチーズケーキだな」
「チーフは何にしますか? あ、あのパフェ美味しそう……」
「私は……このパンケーキリンゴ入ってるんだ。これにしよ」
「フリーレンさんは何にしますか?」
「私はコーヒーで良いかな……」
「遠慮しなくて良いのですよ?」
「いやぁ……」
ガヤガヤと、姦しく。甘味を楽しみつつお喋りが続いていた。そんな中、ふとカンネがリーニエに言った。
「リーニエさんって好きな人いるの?」
まさかの恋バナだった。
ラヴィーネは若干引いたが、気になる話題でもあったので口を挟まなかった。果たして魔族は人間に恋をするのか。
リーニエが口を開いた。
「いやいないけど」
取り付く島もない否定の言葉。カンネは「えー」と残念そうな悲鳴を上げたが、そんなものだろう。
だがカンネは諦めが悪かった。
「でもでも、カッコいいなーとか、イケてるなーとか、そういう感じの人は?」
「いないけど」
リーニエとしては思う所は無いが、そういった表現で表すだろう人間には心当たりがあった。
彼女の主である、リープという大魔族が執着している――
「おっとデッドエンドの予感」
「え、なんて?」
まだ何か言いたげなカンネの髪を引っ張り、ラヴィーネが制止した。
恋バナでは無いにしろ、魔族については気になっていたのかメディカが口を開いた。
「私は魔族の魔法が気になりますね。リーニエさんの術式は大変興味深かったですし」
魔族の魔法は体系からして現在の魔法と異なる。
魔族は脳の構造から異なるようなので、それは当然かもしれないが。それでも取り込めれば革新になる。かつてゾルトラークが魔法界を一新したように。
フリーレンはやや躊躇していたようだが、その話題に入ってきた。
「……現人類の魔法術式はフランメ式が制圧したからね。昔はもう少し魔族に近い術式も使われてたよ」
「フランメ式ですか?」
フェルンが相槌を打つ。
フリーレンは続けた。
「そう。簡素な術式で、運用に魔法知識が少なくて済むんだ。代わりにイメージがより重要になってくるけどね」
敷居が低いからこそフランメ式が人類に普及したと云えよう。
メディカが頷いた。
「聞いたことがありますわ。我がトロイエ家はフランメ以前からの魔法使いなので、術式が大きく異なるのだと」
「そうだね。大元は変わらないと思うけど」
フリーレンもトロイエ家の事は知っている。
彼女達の術式は複雑で、多くの魔法を操る余裕はないだろう。だから使う魔法は1つに絞っているという。
たった1つの魔法を極める。そんな在り方はどちらかというと――
「メディカの魔法はリープ様のに似てるよね」
リーニエの言葉に、フリーレンの思考はシャットダウンした。具体的にはリから始まる言葉で。
フェルンが反応を示した。
「リープ様の魔法ですか? どんな魔法なのですか?」
リーニエは言って良いものか悩んだ。だがスープ作りに使っていたのを思い出し、じゃあ別に良いかと口にした。
「液体を生み出して、操作も出来るのかな。そんな魔法」
「確かに近いですわね。拝見したくなりましたわ」
「良いんじゃない? イチャついてるだけだろうし」
「イチャ!? そこ詳しく!!!」
「おいコラ」
その後もダラダラと話していると、カラスが次の試験を知らせる紙を持ってきた。飲食店に?
兎にも角にも。
二次試験が始まるのである。
続く。