――――零落の王墓。
勇者ヒンメルがほとんどの迷宮を踏破した現代において、数少ない未踏破の迷宮である。
二次試験の課題は、その迷宮を踏破するというものだった。
「――――以上だ。それでは試験を開始する」
試験内容の説明は、一次と同じくゲナウが行った。
例年であれば試験官が変わる筈であるが――
(イレギュラーの影響か)
二級魔法使いエーデルは、魔族リーニエと、離れた地点にポツンと佇むゼンゼに視線を送った。
(こういう底意地の悪い試験を作るのはゼンゼじゃろ。しかも変装もせず試験に潜り込むとは、隠す気があるのかないのか)
試験は迷宮を攻略するというだけで、それ以外のルールは無い。
つまりは参加者全員が協力するのがベストなのだが、一次の殺し合いが尾を引いている。とても協力などできる空気ではないだろう。
確実にそれを踏まえて試験内容が決められている。ゼンゼとはそういう試験官だ。
試験開始に伴い、まずは二級魔法使いのデンケンが協力型の作戦を立てたが、やはりというべきか。反発にあいバラバラでの迷宮攻略が開始された。
(魔族の件もある。見知った一次のメンバーで潜るべきじゃろうな)
そう考えエーデルはかつてのチームメンバー達と迷宮へと入っていた。
他の試験参加者も似たような考えだろう。散発的に迷宮に入っていった。
その様子を見て、ゼンゼは内心焦りを露わにしていた。
(安全策は講じたが、あまり良くはない状況だ)
参加者全員には緊急脱出用のゴーレムを持たせている。
ゴーレムは瓶詰めにされており、割ることで即座にゴーレムが参加者を連れ脱出を図る。
このゴーレムは回復魔法を使うことができ、ゼンゼの攻撃を防ぐ優れた性能だが、瓶を割らなければ機能しない。
割る暇もなく殺されてしまえば、参加者の命は保証されないということだ。
零落の王墓に潜む魔物は水鏡の悪魔という。
これは迷宮に潜った者をコピーし、自らの手駒として使役する魔物である。
つまりは参加者同士のミラーマッチとなる。
大概の魔法使いは、魔法の発動に時間が掛かる。瞬発的な攻撃行動が苦手だ。
だからゴーレムの瓶を割ることも出来ず死ぬという事態は起こり辛い。
だが今回は誤算があった。
(リーニエと言ったか。あの魔族は明らかに戦士型だ。不意打ちされれば死者が出るな)
それを防ぐには、出来うる限り大人数で行動し、索敵を欠かさないようにするしかない。
ないのだが、今回はちょっと離反の計が効きすぎた。
ゼンゼは平和主義者である。不要な殺しは避けたかった。
「ちょっと話があるんだが――――」
*
メディカは怒っていた。
「百歩譲って身分を偽っていたのは許しますが、何故私を巻き込んだのですか?」
「適当な人間がいなくてね。あと落ちて欲しかったから」
「なんで!?」
プイとゼンゼは顔をそむけた。これ以上話す気はないと言わんばかりに。
そして怒っている人物がもう1人、フェルンが言った。
「でも酷いです。魔族だからって落とそうとするなんて。ね! フリーレン様!」
「私に聞かないでよぅ……」
フリーレンはどちらかというとゼンゼ寄りである。大陸魔法協会がまともな考えを持っていると安心したくらいだ。
でもそれを声を大にして言うのは憚られた。絶対フェルンの機嫌が悪くなるから。
曖昧な態度にフェルンの怒りがフリーレンに向きかけたが、大きなお姉さんことメトーデがフォローを入れた。
「いくら可愛らしい容姿でも、魔族は警戒すべきですから。参加できただけでも配慮されている方でしょう。いくら可愛らしい容姿でも」
「? 寒気が……」
当のリーニエは肌を擦りながら周囲を見渡していた。
この場に残ったのはフリーレン、フェルン、ラヴィーネ、カンネ、デンケン、リヒター、ラオフェン、メトーデ、レンゲ、メディカ、そしてリーニエとゼンゼである。
ヴィアベル班もその場には居合わせていたのだが、「魔族とは協力できない」と言い先に迷宮に入ってしまった。
(明らかにレベルが足りていない面々の保護はできたから良いだろう。これ以上は過保護だな)
ゼンゼは一仕事終えたので息をついた。後は迷宮探索にくっついて行って、最低限の自衛をすれば良い。
ただの毛玉に戻ったゼンゼを余所に、フリーレンは言った。
「でも12人は多すぎるね。これだけの人数だと罠への対応が遅れるかも」
デンケンが頷いた。
「確かにな、嬉しい誤算ではあるが」
そしてこう続けた。
「班を2つに分けよう」
しかし、とデンケンは考える。
戦力が均等になるよう分けたいが、その場合、おそらくフリーレンと下から5人が同じ班になるだろう。それは余りにも負担が掛かり過ぎるように思われた。
分け方を思案していたところで、ゼンゼが口をはさんだ。
「私は手を貸す気はないから、フリーレンと一緒に行かせて貰うよ」
「え、何それズル!」
カンネが代表して口にしたが、全員が少なからず思っていたことだ。
しかしこのままでは話が進まない。ラヴィーネが言った。
「まあ、良いじゃねえか。じゃあアタシらもフリーレンと同じ班な」
ラヴィーネはフリーレンの能力を高く評価していたので、どさくさ紛れに同じ班になろうと考えた。
特に反対意見はなく、残り2人を決めれば班分けは完了となる。
メトーデがレンゲと共に立候補した。
「では私とレンゲさんがフリーレン班に。これでだいたい均等になったでしょう」
なし崩しではあったが、それなりに理想的だとデンケンには思われた。
そして話が纏まったところでゼンゼは気がついた。
魔族と別の班になってしまったと。
「………………」
ゼンゼはメディカの肩にポンと手を置いた。
「あとはヨロシク」
「何を!?」
これにて一件落着と、フリーレン班、デンケン班は迷宮に入っていった。
*
迷宮内部には水鏡の悪魔の他にもガーゴイルや吊り天井のような罠があったが、フェルン達には然程問題にはならなかった。
進んでいくとシュピーゲルの作り出したと思われる複製体にも遭遇し始めたが、これも問題なく撃破。
最深部に到着した。
だがそこに待ち受けていたのはフリーレンの複製体。作戦を立てるためにひとつ前の部屋に戻った。
メディカが言った。
「デンケンに勝ったのは見ていましたが、どれくらい強いのですか?」
「そうですね」
フェルンは考えた。
フリーレンの具体的な強さを表すエピソードは――――
「クヴァールという魔族を倒しましたね。……でもあれは寝起きだからノーカンなんでしょうか?」
「いや私に聞かれても……」
だがクヴァールという魔族は知っている。
たしかウン十年前に勇者一行が封印した魔族だ。ゾルトラークの生みの親でもある。
つまり当時の勇者一行4人分の強さという事だろうか。
「少なくとも、無策で挑んでも勝てる相手ではないということだろうな」
唯一フリーレンと交戦経験のあるデンケンが言った。
リヒターが補足する。
「この部屋が安全かも分からん。
偶然にもラヴィーネがシュピーゲルの存在を知っていたため、ある程度は想定通りだった。
想定外だったのはフリーレンの複製体が、シュピーゲルへの部屋を魔法で封鎖していたこと。倒すより道は無いという事だ。
「迂闊でした。フリーレン様は無駄に民間魔法を溜め込んでいますから、こういう事態もありえたのに」
「過ぎてしまったことは仕方がない。むしろ道中出逢わなくて済んだ、と思うべきだな」
その後も色々と作戦を練ったが「結局のところ本人が一番勝率が高いのでは?」という結論に達し、フリーレン達の到着を待つことになった。
1時間ほど経った頃、彼らの許にメトーデとゼンゼが到着した。
「フリーレン様はどこに? 迷子ですか?」
あり得る話だ。フェルンの師匠はどこかぼんやりしているので、迷宮で迷子になっていてもおかしくない。
後でお説教が必要だとフェルンは頬を膨らましたが、メトーデは「いいえ」と答え、こう続けた。
「ラヴィーネ、カンネ、レンゲ、そしてフリーレンは
続く。