魔族に魔法を教えてもらおう!   作:PSコン

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31.一級魔法使い試験(7)

「で、どういう事だ?」

 

 とりあえず最終試験は1時間後という事で落ち着き、一先ずゼイゲンとゼーリエは向かい合って座っていた。

 

「そうだな」

 

 ゼーリエは傾けていたカップを置いた。

 

「魔法以外の攻撃は禁止だ。それと魔力の回復と……増やすのも禁止にしておこうか。とにかくやり過ぎるなよ」

「ルールを聞いたわけじゃないんだが」

 

 ゼイゲンは顔をしかめた。

 ゼーリエはゼイゲンの嫌がる顔を見て満足したのか、半笑いで説明を始めた。

 

「お前の魔族のせいで困っているのは知っているだろう?」

「まあな」

 

 いけしゃあしゃあとゼイゲンは言った。

 彼だけの企みではないが、計画の中核に居るのは確かだったからだ。

 

「合格させれば協会は親魔族派だと思われ、不合格ならば世間からバッシングされる」

「良いじゃん。今となってはマイナーな反魔族派と親睦を深めれば良い」

「協会は今拡大路線なのでな……というかそんな事分かって言っているだろうお前」

 

 ゼーリエの腹案では、少なくとも今はまだ大衆に背を向ける時期ではない。

 だから合格させることは半ば決まっていたのだが――――

 

「どっちつかずな態度は崩したくなかったか?」

「ああ、全く忌々しいことにな」

 

 社会性を持つという事は面倒を受け入れるという事でもある。

 今までは避けていたが、弟子との約束を守るために渋々受け入れざるを得なかったのだ。

 

 ゼイゲンは「ははーん」と得意げに笑った。

 

「それで俺か」

「そうだ。お前の介入があったと知らしめれば、多少は言い訳も付く」

 

 同時に協会の弱さを示す事にもなる。だが目下面倒な帝国はそれとは関係なく仕掛けてきそうなので、十分許容範囲内だ。

 

「俺が乗ってやる理由がないみたいだが?」

「つれない事を言うな」

 

 ゼーリエは笑った。

 

「お前のお姫様と何時お喋りしても良いんだぞ?」

「斬新な脅迫だな……」

 

 ゼイゲンは邪教事件でハブった事をネチネチ言われるのかと思っていたのだが、勘が外れてしまった。

 

 しかし非常に困る内容ではあった。

 だって絶対にゼーリエは喧嘩を売るし、リープは買う。

 お喋り会場を更地にするのはゼイゲンも避けたかった。

 

 普通ならやらないであろう暴力行為だが、ゼーリエならやるという凄味があったのだ。

 

「それは本当に困る。本当に」

「そうか。奴には千里眼を破壊された恨みがあるのだがな」

 

 既に因縁は生じているようだった。

 一触即発の危機は人知れず回避していたらしいが、ゼーリエが報復に出ないのは意外な気がする。

 

 やはり大陸魔法協会という守るものが出来たのが原因だろうか。

 もしかして本当にリープと会わせてもお喋りで済むかもしれないと考えたが――

 

「リスクが高すぎるか。今回のは呑んでやるから、近づかないでくれよな」

「チッ、仕方が無いな」

 

 最初からそのつもりだったろうに、ゼーリエは不満をあらわに舌打ちしていた。

 ゼイゲンは溜息をついた。

 

「で、誰を合格させるかは俺が決めて良いのか?」

「任せる。お前の判断ならまあ問題は無いだろう」

 

 話は終わったとばかりにゼイゲンは立ち上がった。

 彼の立ち姿――正確には魔力量をゼーリエは不自然に思う。

 

「魔力を制限している訳じゃないのだろう? 不死の副作用か、魔力量が増えていないな」

「ああ、そうだな」

 

 元来ゼイゲンという男は魔力が少ないわけではないが、魔力制御の練度に対して余りにもアンマッチだった。

 練度に対して不釣り合いに少ない魔力量。教材として中々面白い事になっているとゼーリエは感じていた。

 

 若い奴は特に、魔力量という目に見えるものに惑わされがちだ。魔法使いの真価はそこには無いというのに。誤った価値観を矯正できる良い機会だった。

 

 試験に選んだのは当然先ほどの理由が大半を占めるが、そこを踏まえてのものでもあった。

 

「……」

 

 試験会場に向かうゼイゲンの背を、ゼーリエは更にじっと見つめていた。

 そして扉に手を掛けた時、今思い出したかのように振る舞い言った。

 

「……欲をかいた村が魔族によって滅ぼされた。この情報を握りつぶしたのはお前か?」

 

 それはまさに、魔族が人間の社会に入り込んだ弊害だった。

 魔族への警戒心が薄れ、利用できると勘違いした人々が周りを巻き込み死んだのだ。出る筈のない犠牲が出たのである。

 

 魔族は危険だと改めて知らしめねばならない。にもかかわらず、この村の事件は無かった事になった。

 

 ゼイゲンは背を向けたまま答えた。

 

「みんなで決めたことだ。独裁はもうしない。俺だって反省してるんだぜ?」

 

 表情は伺い知れなかったが、口調は軽薄そのものだった。

 嘘をついているかは判断できなかったが、内心はあまり関係ない。

 

 ゼイゲンが去った後、ゼーリエは独りごちた。

 

「…………お前が表舞台に出てきた瞬間、世界が荒れだした」

 

 魔族との共存というセンセーショナルはこれからも肥大化し続け、多くの人を巻き込んでいくだろう。その過程で出る歪みもまた、日々大きくなっていく。

 

「歪みの修正どころか、不和の種に水まで撒いて」

 

 ゼーリエは溜息をついた。

 しかしその表情は楽し気で、とても憂いているようには見えなかった。

 

「――――つくづく、平和な世界では生きられない男だな、ゼイゲンよ」

 

 そしてそれを黙認している自分もまた同じ人種なのだと、ゼーリエは自嘲の笑みを浮かべた。

 

 

 

 *

 

 

 

 試験会場となった広場には9名の参加者が既に待機していた。

 

 その場に一人の男が現れた。隠すまでもなくゼイゲンである。

 

 ススっと1人の少女――魔族リーニエが近づく。

 

「ゼイゲンゼイゲン」

「どうした?」

 

 リーニエは何やら難しそうな顔をし、小首を傾げながら言った。

 

「ゼイゲンって人間?

「何だと思ってたんだよ」

 

 ゼイゲンはがっくりと肩を落としかけたが、ふとリーニエとしていた約束を思い出した。

 一級魔法使い試験は殺し合いもありえるが、リーニエに殺人をさせるのは不味い。だから人間に危害を加える行為そのものを禁止していたのだ。おそらくその事について言っているのだろう。

 

「違うよ。ゼイゲンニンゲンジャナイ

「じゃあ約束破らないで済むね」

 

 リーニエは来た時と同じようにススっと去っていった。

 特例を作るのは後々で問題が出そうなので、自分を人間から外すのがベターだとゼイゲンは考えたのである。

 そしてリーニエは割と気軽に約束を破ろうとしていた。あぶねえ。

 

 ゼイゲンは広場を一通り眺めてから背後の男に向けて言った。

 

「これ勝手に始めて良いのか?」

「いえ開始の合図は私がします」

 

 ファルシュは眼鏡をクイっと押し上げながら言った。あくまで主導権はこちらにあると主張しているようである。

 そして参加者に声を掛け、ゼイゲンの前に並ばせていった。

 

「何だこれ、試合?」

「選手宣誓はやんなくて良いのかな?」

 

 ゼイゲンとユーベル、双方から茶化されるがファルシュは無視して説明を開始した。

 

「有効打を受けた者は退場とし、その時点を以って退場した者は一級魔法使い試験不合格とします。

 ゼイゲン氏が退場した場合、その時点で退場していない者は全員合格。

 また制限時間は30分。時間経過後に退場していない者も同様に全員合格とします」

 

「はい先生」ユーベルが手を上げた。ファルシュは無視するがユーベルは続ける。

 

「その説明だと、ゼイゲンさんが生き残ったら一級魔法使いになると思うんですけど~」

「…………そんな訳ないでしょう。常識で考えなさい」

 

 再びファルシュは眼鏡をクイっとさせた。

 

「では各々戦闘配置につきなさい」

「? 並ばせた意味は?」

 

 聞いてもしゃーないのでぞろぞろと配置につく。

 しかしゼイゲンとリーニエは動かない。

 

「そこで良いのか? どうせ一斉攻撃するだろ。巻き込まれるぞ」

「私出来ることないしここで良いよ」

「いえ駄目です」

 

 タタタッとメディカが走り寄って来た。

 

「邪魔になるから最初は離れなさいって言ったでしょう!」

「言ってなくない?」

「言った!!!」

 

 ずるずるとリーニエを引きずっていくメディカは実に保護者が板についているなと、ゼイゲンはしみじみと眺めていた。

 

「よろしいですか?」

 

 眼鏡クイ。

 

「では」

 

 和やかな空気が一転して張り詰める。この場にいるのは、いずれも戦いに生きる者たちである。切り替えは早かった。

 そしてファルシュは息を吸い――

 

「――――始め!」

 

 宣言と同時、リーニエを除いた8人が各々の魔法を放ち一斉攻撃を開始する。

 

 10秒ほど攻撃をした後で、図ったように攻撃を停止する。というより、ここまでは作戦通りなのだろう。

 

 ファルシュは舞い上がった砂塵に目を凝らした。

 

(凄まじい攻撃だ。あれを防ぎきるのは、一級魔法使いでも今は亡きブルグくらい……いやユーベルが居る以上彼でも無理か)

 

 一級魔法使いブルグは試験にてユーベルに殺害されているが、今は関係ない。

 

(……噂の人物は、やはりただ者ではなかった)

 

 砂塵が晴れた時、そこに居たのは無傷の男だった。

 

「連携がなってないな。攻撃同士が相殺して、隙間だらけだったぞ」

「簡単に言ってくれますね……!」

 

 メディカはゼイゲンの実力をある程度は知っていたが、対面すると改めてその異常さに身震いせざるを得なかった。

 暴れまわる多種多様な攻撃を全て見切り、僅かな動作で安全地帯に潜り込む洞察力。そしてそれを支える圧倒的な動体視力視野。

 

(もしゼイゲンが本気なら既に我々は全滅しているでしょうし、試験という体裁は保つようですね)

 

 でもそれまでは想定通り。

 

「なら連携の取れている攻撃に切り替えるのみですわ!」

 

 9人は言うまでもなく烏合の衆である。

 だが細分化すれば、その限りではない。

 

 まずヴィアベル、エーレ、シャルフは一次試験よりチームを組み、同じメンバーで二次試験も乗り越えている。リーダーであるヴィアベルは軍属であることから、チームでの戦闘もお手の物だった。

 

 ユーベルとラント、そしてリーニエとメディカもそれぞれ同様に二次試験を通過していた。

 フェルンとメトーデは同じ一般攻撃魔法ゾルトラークの使い手だったため、他よりも連携がしやすかった。

 

 まずは4つのチームで攻める。

 

 最初の攻撃に乗じて移動していたヴィアベル班、ユーベル班が挟撃を行う。

 

 だがゼイゲンは攻撃に対し攻撃をぶつけて軌道を変え、更に連鎖させるように攻撃同士の干渉を起こしたのである。そして僅かに身じろぐだけで回避した。

 

 驚異的な回避行動だが、ヴィアベルの真の狙いは――

 

見た者を拘ソルガ――――」

「ん?」

 

 突如としてゼイゲンの姿がブレる。移動したのだとヴィアベルは遅れて理解した。

 

(魔法の発動前に避けやがった。良い勘してやがる)

 

 彼が発動しようとしていたのは見た者を拘束する魔法ソルガニール

 優れた拘束魔法ではあるが、相手の全形を視界に収める必要がある。

 

「あ、ついダッシュしてしまった」

 

 ゼイゲンは回避には大きく動く必要があると感じたのだが、あまり走り回るのは()()()()()とも感じた。あくまで魔法使いとして戦おうと思っていたのだが――

 

(思ったより辛いな。やられる前に間引いておくか)

 

 戦力分析は完了した。不適切と思われる参加者を落としておかないと、ゼーリエに色々言われそうだ。

 

「まずはこれだな。――――強化解除の波を流す魔法アイジゲヴェレ

 

 統括的な解呪魔法。魔族が使うような高度な魔法であれば、解析し専用の魔法を組む必要があるが、人間の魔法ならばこれだけで十分である。

 

 防御も回避も不可能な波動を受けたラントは、塵一つ残すことなく消滅した。彼は魔法により分身を生み出し、試験に代理で参加させていたのだ。傍に予備の分身を控えさせていたが、それも波を受け消滅し、残った本体は遥か遠方の地である。脱落は決定的だった。

 ゼーリエなら合格させていただろうが、ラントの振る舞いは試験官の好みに依存するだろう。ゼイゲンのお好みではなかったということだ。これも一つの運である。

 

「次――――煙幕を発生させる魔法ネベルワント

 

 極めて単調な煙幕を発生させる魔法。

 魔法使いは魔力を知覚するため視覚は絶対ではない。完全に隠れるためには魔力を隠密状態に切り替える必要があるが、その間は防御すらできなくなるため机上の空論である。しかし接近するだけ、かつ相手の攻撃を魔法無しで躱す技量があればその限りではない。

 

 いち早く目的に気がついたメトーデが風の魔法で煙幕を吹き飛ばす。しかしその時には既にゼイゲンは確実に当てられる位置に移動していた。

 

小さな雷を放つ魔法ベトイブング

 

 パチン、と小さな雷がエーレとシャルフへ伸びる。

 ヴィアベルの陰に隠れて放たれたために2人は攻撃への対応が遅れ、エーレには直撃し、シャルフには腕に当たり杖を落とした。

 

 苦悶の声を上げるシャルフに対し、エーレは膝から崩れ去るように倒れる。

 

(これで2人目。しかし今のでこちらの狙いは読まれたな)

 

 ゼイゲンは明確に狙い撃ちをしていた。

 弱い者から狙うという戦略ではなく、試験で落とすためである。

 

 既に落とした2名と、シャルフが対象。そして微妙なのがユーベルという女だとゼイゲンは考えていた。

 

 ヴィアベルがシャルフを抱え大きく後退する。

 ゼイゲンは目を細めた。

 

(足手まといを庇うか。固執するなら諸共落とすことになりそうだな)

 

 風が吹きゼイゲンの鼻孔に匂いを運んだ。次いで魔力を探知する。

 

「リーニエか、お前は落とせないんだが」

「じゃあ一方的に死になよ」

 

 リープにバレたら殺される発言をしながらリーニエが斧を振るうが、それらを全てゼイゲンは回避する。合間を縫って放たれたメディカの攻撃を含めてだ。

 

「おっと……」

 

 ゼイゲンが息を漏らす。

 新手の攻撃、一般攻撃魔法ゾルトラークによる2人の追撃が加わったのだ。

 

 連携が取れなかったのは、単純にお互いを知らなかっただけだ。知れば問題はない。

 

 遅れてヴィアベルも攻撃に加わり、攻勢が苛烈になる。

 

 このまま進めばユーベルも加わり、シャルフも復帰してくるだろう。

 そうなればゼイゲンも流石に仕事が出来なくなる。

 

(ていうか魔力もジリ貧だ。本来魔力が切れる筈無いんだけどな)

 

 魔力も体力も、その気になれば直ぐに再生するのだが。ゼーリエに禁止されたのだから仕方ない。

 

「……仕方ないな」

 

 ゼイゲンは足を持ち上げ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――振り落とした足が、街全体を揺らした。

 

 棚から物が落ち、老婆が腰を抜かした。建物は軋みを上げ、古い物に至っては罅まで走っていた。

 地震という地球規模の衝撃。それをゼイゲンは意図的に起こした。

 

 甚大な被害状況だが、本来試験会場にはゼーリエの結界が張られている。しかし地下からの衝撃は防ぎきれず、街全体まで被害が及んでしまったのだ。

 

 では軽減されていない爆心地は。

 そこにはクレーターがあった。

 

 爆心地は深くえぐれている。底は瓦礫と焦土が混ざり合っており、蒸気が漂っていた。高圧力で潰された大地が熱を持っているのだ。

 

 立ち込める熱気がゼイゲンの姿を揺らす。

 

「――――――ノルマ達成」

 

 しかしその甚大な破壊行為も、彼にとっては隙を作るための行為でしかない。シャルフ脱落。

 

「これからだ。ようやくまともに戦えるな」

 

 彼はどうにも趣旨を忘れているようだった。暴れたい盛りなのかもしれない。

 

見た者を拘束する魔法ソルガニール

「お?」

 

 ヴィアベルは苛烈な地形破壊に一度は怯んだが、戦意は失せてはいなかった。

 

 そして発動したのは、視界に収める限り体の動きは勿論、魔法までも封じる強力な拘束魔法である。

 視界から外してはいけないという仕様故にトドメの一撃は工夫する必要があり、それを今回担ったのはリーニエだった。

 

 リーニエの一撃が迫る中、ゼイゲンは目を閉じ拘束魔法に全集中力を傾けていた。

 解析による解除を狙ってのためだ。

 

 

 ――――リーニエの斧は空を斬った。拘束魔法が解かれている。

 

「んな…………!」

 

 ヴィアベルが声を上げるが、無理もない。僅か数瞬の間に解析など出来る筈もない。

 だが事実として解除された以上、出来る理由があったのだ。

 

 ゼイゲンは知っていたのである。彼の拘束魔法――正確にはその源流を。

 

 ソルガニールが開発された際にも、その参考になった、オリジナルとも言える魔法は存在する。

 人類の魔法の歴史は全てが繋がっているのだ。

 

 そしてゼイゲンは人類の魔法の歴史よりも前から存在する男であり、魔法の才は無くとも膨大な年月により蓄えられた知識がある。

 

 無才の4000年。

 それが魔法使いとしてのゼイゲンである。

 

 ゼイゲンは飛行魔法を発動し空に逃げた。リーニエもそれを追い飛行魔法を発動するが――

 

「その斧術、空中用じゃないな」

「ッ……!」

 

 あえなく撃ち落とされる。

 他の者が放った魔法も、地に居た時と同じように器用に躱された。

 

 これもまた彼の特徴といえるだろう。

 人類が飛行魔法を魔族から模倣する遥か前に彼は習得し、そして魔族から直接習ったが故に、より洗練されている。

 

「さあ、魔法使いらしく空中戦にしよう。そんな足場じゃ動き辛いだろ?」

 

 確かにゼイゲンが崩した足場では動きが取り辛いだろう。

 だがそれ以上に魔法使いにとって重要なのは、上に陣取った方が、動体を捉えやすいということだ。

 しかし空中での動きは飛行魔法の練度により異なる。得意と自認する者はゼイゲンの上へ行き、そうでない者は変わらず大地に立っていた。

 

(さて一番厄介なのは……)

 

 ゼイゲンは笑みを浮かべた。そんなことは考えるまでも無かったなと。

 

 空中と地上、参加者は見事に分散している。

 包囲攻撃を一度躱す度に、1人落とせる算段だった。

 

(魔力量的に、2人ってとこだな)

 

 ゼイゲンは息を吸う。

 さあ、暴れてやろうじゃないか。

 

 参加者たちが遠距離攻撃を加える。最初と同じようだが、人数こそ減ったものの、連携が上手くなっており躱すには相応に魔力を使う必要があった。故に2人が限界なのだ。

 

「ハハッ――――!!!」

 

 ゼイゲンは笑う。制限付きではあるものの、負けの可能性がある闘争は何時だって楽しかった。

 ――劣勢でこそ奮い立てるというのは、戦乱の世ならば正しく英雄の素質であったに違いないが。少なくとも現代においては、化けの皮が剥がれ始めただけだ。

 

 

 ゼイゲンは猛攻を潜り抜け、ヴィアベルの前に立つ。彼の拘束魔法は、たとえ解析が完了していたとしても厄介であることに変わりはない。

 

 だがゼイゲンは知らない。彼の拘束魔法は、既にコピーされていることを。

 

見た者を拘束する魔法ソルガニール

「――何?」

 

 その魔法を発動したのは、ユーベルである。彼女は共感した者の魔法をコピーできる特異な魔法使いだ。

 

 ゼイゲンが呆けていたのは刹那にも満たない零の時間。即座に魔法を解除し、ヴィアベルへの攻撃に移ろうとし――

 

見た者を拘束する魔法ソルガニール

 

 今度はヴィアベルによる拘束が掛かった。

 ゼイゲンは苛立ちを抑え魔法を解除――――

 

「――あ?」

 

 ――失敗した。拘束魔法の術式が僅かに変わっている。

 

 ヴィアベルの拘束魔法は他者からの介入を除けば、目を離すか、解析による解除を狙うほか無い。

 故にその対策は用意してあり、彼は同じ魔法でありつつも、複数のパターンを使い分けているのだ。

 

 既に解析を終えた相手に対しては一瞬の隙しか作れない。まったく労力に見合わない対策だった。

 だがヴィアベルは知っている。戦場において、その一瞬が永遠にも等しい時間になることを。

 

 

 ――――ゼイゲンのこめかみに、閃光のように走ってきた魔法が当たった。

 

 その魔法の名は一般攻撃魔法ゾルトラーク。フェルンの放った一撃である。

 

 ゼイゲンは決して彼女を意識から外していた訳じゃない。ただ、ただ単純にそのゾルトラークの速さが想定を上回っていたのだ。

 だがそれ以上に――

 

「試合用か? ほとんど威力のない一撃だな」

 

 ――一切の殺意が無く、ゼイゲンが冷静になるには、十分な一撃だったに違いない。

 

 

 まあ、それとは関係なく。

 今のは有効打として数えるつもりだったと、ファルシュは眼鏡をクイっとさせながら試合終了の合図をした。

 

 続く。

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