魔族に魔法を教えてもらおう!   作:PSコン

35 / 49
35.ランクアップドラート!

「まったくどいつもこいつも……!」

 

 ドラートは肩を怒らせて、扉を勢いよく閉めた。木製の扉が乾いた音を響かせリーニエの耳を打つ。

 

「うるさいんだけど」

「それは悪かったな!」

 

 怒り収まらぬドラートは、勢いのままにソファに腰を下ろした。

 リーニエの体が揺れる。彼女はだらりと横になったまま、仕方がないとドラートに声を掛けた。

 

「どうしたの」

「どうしたもクソもあるか! リュグナーめ! あれだけの少人数すら収容できない会場しか用意できないとは、不甲斐ない!」

 

 彼はリュグナーを呼び捨てにしていた。

 ちなみに会場とはライブ会場の事であり、今のドラートは歌って踊るアイドルである。どうしてこうなった?

 

「何人?」

 

 リーニエは芋を薄切りにして油で揚げた――そうポテトチップスに指を伸ばした。そのままパキリと軽快に嚙み割る。

 

10,000人だ!」

「そんな会場ないでしょこの街にさ」

 

 ちなみに武道館のキャパがそんなものらしい。

 この時代に箱は作れるかもしれないが、そんな人数が集められるのだろうか?

 

 勿論そんな懸念などドラートの野望の前には無力である。

 彼は怒鳴り散らした。

 

「だったら特設会場を組めば良いのだ! 『無理だ諦めろ』などと! まったく最近のリュグナーは調子に乗り過ぎだ!」

「お前が言うな」

 

 リーニエのツッコミが耳に入っていないのか、彼の勢いは衰えない。

 

「ゼイゲンの奴にボコボコにされた時は胸がスッとしたものだが……!」

「ああ……」

 

 一応模擬戦という名目だった。リーニエは当時の事を思い出す。あの時は本当に――――

 リーニエが回想している間にも、ドラートは止まらない。

 

「また腫れあがるぐらい殴られれば良いのだ!」

「それな」

 

 自分ではやらない(負けるだけなので)彼は何処までも他力本願だった。

 そしてこの件についてだけはリーニエも同感なようである。かわいそ。

 

「はぁ」

 

 満足したのか、ドラートはポテチに手を伸ばした。

 

「おい、私のだぞ」

「別にいいだ――あぶな!」

 

 ひゅっ、と。ドラートの頬に投げナイフが掠る。少し遅れてツ、と血が流れだした。

 

「お、お前! そこまでやるか!」

「私の物に手を出す者は何人たりとも許さない――そうリープ様のように」

「何の話だ……!」

 

 ドラートの疑問はリーニエにとっては逆に疑問だったのか、首を傾げた。

 

「知らない? ゼイゲンに近づく女はリープ様が殺すって話」

「……そういえば、そんな噂を聞いたことがあるな。……じゃあお前ヤバくないか?」

「そうだよ。私は特にマークが厳しい。

 美少女として産まれたばっかりに、こんな苦労をする羽目になるなんてね。頑張れ私、がんばリーニエ……ぷふ」

「へー」

 

 ドラートは興味が失せたのか、鏡を取り出し髪を整え始めた。リーニエは「はぁ」と軽いため息をつく。

 

「ほんと、リープ様かゼイゲン死んでくれないかな」

「それな」

 

 彼らにとって2人は目の上のタンコブだったらしい。でも何もしない。だって勝てないし。

 

 リーニエはだらけたまま、片足を持ち上げソファの背もたれに掛けた。

 

「おい、はしたないぞ」

「うるさいな。こっちは長旅で疲れてるんだよ」

「もう10日も前の話だろうが……!」

 

 オイサーストから船と馬車による長い旅を経て帰ってきたのである。ゼイゲンに連れて帰ってもらえば数時間で済んだ。でも必然的に密着する羽目になるので、それ即ち死である。論外。

 

 そんなリーニエの事情など意に介さず――というか10日も前なら考慮不要という常識的な判断に従いドラートは言った。

 

「俺は淑女としての嗜みを持てと言っているのだ」

 

 小言を言うドラートに、リーニエはイラついたのか舌打ちをした。

 

「あー、うっさいうっさい。これだから童貞は駄目だな」

「は!?」

 

 ドラートは立ち上がった。

 

「それは関係ない――だいたいお前も処女だろうが!」

「フ」

 

 リーニエは不敵に笑った。

 

「私は良いんだよ。美少女の処女には価値があるからね。童貞には無い」

「そんな男女差別があってたまるか……!」

 

 彼らはだいぶ人間の暮らしに馴染んでいるのか、下世話な会話もお手の物だった。喜ぶべきではないかもしれない。

 

「悔しかったら女の1人でも連れてきなよ」

 

 リーニエは鼻で笑う。

 

「ま、無理だろうけどね」

 

 ここまで言われたら引き下がれない。ドラートは血走った目をしながら叫んだ。

 

「舐めるなよ……? 俺はアイドルだ! 女の1人や2人、すぐに連れてきてやるからな!」

「いってらっしゃーい」

 

 来た時と同じように、扉は勢いよく閉められた。

 リーニエはやっと静かになったと、再びポテトチップスに手を伸ばしたのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 と、飛び出したは良いものの、ドラートは悩んでいた。

 

俺に相応しい女など、果たしてこの世に存在するのだろうか」

 

 彼の高められた自尊心は、将来のパートナーも著しく肥大化させていた。

 そして対等どころか自分以上のスペックを相手に求めてもいる。悪い癖が出ていた。

 

「ん?」

 

 半開きの扉から、聞き覚えのある声が漏れていた。声の主はリュグナーとゼイゲンのようである。珍しい組み合わせではない。あの2人は魔族と人間の共存とやらを目指してよく話し合っているのだ。

 

 今も熱の籠った話し声が朧げに漏れ響いている。熱心な事だ。

 

「……フン、偶には手伝ってやるか」

 

 行き詰まったための逃避行動でしかないが、ドラートはそれに気がつくことなく扉を開けた。

 

「お2人とも――」

「この女性はどうですか? 胸も大きい

「いやこれは詰め物だろー」

 

 魔法で撮影された女性の写真を手に、2人は最低な会話を繰り広げていた。

 

「ドラートじゃん。どうした?」

 

 ゼイゲンはまるでやましい事など何もないと言わんばかりに、平然とドラートへと声を掛けた。

 

 ドラートは魔族であり、人間の常識は現在勉強中だ。

 ここで声を荒げれば恥をかくのは自分かもしれないと、努めて平静に振る舞った。

 

「お2人は何をしているので?」

「おー、グラナト伯爵のお見合い相手探してるんだよ」

「お見合い、ですか?」

 

 それは確か番を探すための行為だった筈だが……

 

「グラナト伯爵は適齢期を過ぎているのでは? 必要ですか?」

「お前、それ失礼な発言だから気を付けろよな」

 

 ゼイゲンは苦い顔をした。

 ドラートも考える。女性に年齢の話をするのはタブーだが、男もだったのか。人間とは面倒な生物だ。

 

「しかし意外でした。グラナト伯爵もそういった話に興味があるのですね」

「無いから問題なんだよな」

 

 ゼイゲンは写真を机に置いた。どうやら本格的に話をするつもりらしい。

 

「お前らが伯爵の息子()っちゃったからさ、跡継ぎが居ないんだわ」

「はあ」

 

 はっきり言って興味がない。

 ドラートは人間の社会についての講義をほぼ聞き流していた。

 

 魔族としての擬態能力をフル活用し、聞いているフリをし続ける。その間も熱心に写真を眺め続けていたリュグナーだったが――

 

「ゼイゲン様」

 

 遂にゼイゲンに声を掛けた。一枚の写真を手にしながら。

 

「この娘はどうでしょうか。私は良いと思うのですが」

「どれどれ――って、幼すぎないか?」

 

 写真の娘はようやく10歳になるかならないかの少女だった。あどけない顔には、緊張が幾分混じっているように思える。

 リュグナーは頷いた。

 

「しかし成長が期待できます」

おっぱいの話?」

「それ以外にありますか?」

 

 2人は楽し気に笑っていた。

 ドラートはそっと部屋を抜け出し、吐き捨てるように呟いた。

 

「下劣な連中だ」

 

 そしてリープをこの馬鹿げた部屋に向かわせるよう手配したのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 リュグナーとゼイゲンは論外として。理想の伴侶を探すのなら男に聞いてみるのが良いだろうと、ドラートは幾人かに声を掛けた。

 

 

 グラナト伯爵「相手を思いやれる人、だろうな」

 

 伯爵の執事「健やかな方が良いでしょうね。無論、愛があればその限りではありませんが」

 

 料理長「子供好きな女性でしょうなぁ」

 

 錬金術師「女はやめとけ」

 

 プンメル「ケツ! 安産型のケツが良いですぞ!」

 

 

「……いまいち分からんな。言っていることがバラバラだ」

 

 廊下を歩く足取りは重い。

 日は傾き始めており、もう暫くすれば夕食の時間である。その時リーニエに何を言われるか……

 

『……フ』

「――――ッ!」

 

 無言で嘲笑う姿が想像された。あってはならないことだ。断じて、絶対に。

 

「あれ、ドラート君どうしたんすか、風邪っすか」

 

 身震いしたドラートに、何かを勘違いしたメイド――リープの専属であるツォーフェが声を掛けた。

 

「様を付けろ。ドラート様、だ!」

「いやあ、ドラート君はそういうんじゃないし」

 

 ヘラヘラと手を振るツォーフェ。このメイドの心臓は鉄でできているのだろう。リープという危険物のお付きをやっているのがその証拠だ。

 

「くっ……まあいい。それより仕事はどうした。こんな所で油を売っている場合か?」

「いやそれがちゃん様はゼイゲン様とチュッチュし始めちゃったし、出来るメイドツォーフェは席を外してるんすよ」

「…………おい、その理由は朝も聞いたぞ。だいたいさっきまでゼイゲン様と俺は会っていたんだ。吐くならもう少しマシな嘘を吐け」

「いやマジで」

 

 だいたい下劣な会話をしている所に爆弾(リープ)を投下した筈である。このメイドが嘘を吐いているのは明らかだった。

 

 その事実を突きつけてやると、メイドは得心がいったのか、「あ~……」と呟いた。

 

仲直りックスっすか。超楽しそうっすね、いや絶対楽しい」

「? まるで意味が分からんぞ」

 

 ツォーフェは「ふぅ」と溜息をついた。「まったくしょうがないベイベーだぜ」と言わんばかりに。

 

「ん……? 今声に――」

「良いっすかドラート君。

 喧嘩ってのはですね、魂と魂のぶつかり合いなんすよ」

 

 相変わらず意味不明だが、ドラートはここは聞きに徹することにした。

 

「消耗し、言葉を交わす事に離れていく心。本当はこんな事言いたくないのに、口から飛び出してしまう売り言葉に買い言葉。不安と焦燥の中、どうしてか涙が溢れてしまうんです。

 

 でも止められない。止めたいのに、私から言い出す勇気が出ない。どんどん冷たくなっていく体に震えるけど、暖を取ることもできない。そんな時、優しく彼が抱きしめてくれるんです。

 

 彼の鼓動と温もりを感じながら、気がつくんです。『ああ、彼も同じ気持ちだったんだ』って。

 

 離れていった寂しさと不安が一気に安心感に変わって、昂っていた心と体はそのままに、彼を求めだすんですよ」

 

 ツォーフェは「ふぅ」と、また息を吐いた。

 

最高じゃないっすか」

「いやまったく分からんが」

 

 しかし人間は随分と複雑に物事を考えているらしい。

 尤も、それを認めるのはプライドが許さないので口にはしないが。

 

「う~ん」

 

 親指と人差し指で顎を支えながら、ツォーフェは何事かを考えているようだった。

 

「ちゃん様がアレだったので気がつきませんでしたが、魔族ってそーいうの薄いっすよね。発情期とかあるんすか?」

「……貴様、それが礼の欠いた発言であることくらいは理解できるぞ」

 

 睨みつけるが、メイドはヘラヘラと笑うばかりだった。

 

「良いじゃないっすか。うちとドラート君の仲っすよ。親しき仲に礼儀なんてないっすよ」

「……むぅ」

 

 確かに、ある程度の仲なら多少は礼の欠いた言動も許されるのだろうが――

 

「いや待て俺とお前は――」

「で、どうなんすか? 年中発情期の人間と違って、魔族にはそういう時期があるんすか? ちょー気になるっす」

 

 否定の言葉は疑問に押し流された。

 グイと寄せられた顔に怯み、思わずドラートは素直に答えてしまった。

 

「知らん! 発情などしたことがないからな!」

「ん?」

 

 何という時間の無駄だろう。ドラートは踵を返し――――腕を掴まれたために足を止めた。

 

「――――ちょっと待った。じゃあ何? 君はそういう経験をしたことがない?」

「ッ! だったらどうし――腕を離せ! 痛い!」

 

 万力のような力で掴まれていた腕を擦り、ドラートは距離を取る。一体なんだというのだ!

 

 ツォーフェはハッとした顔をし、常と同じような調子で言った。

 

「あ、すんません。つい衝撃の事実で我を忘れて」

 

 そして気持ち悪い笑顔を浮かべ始めた。

 

「え、いや、ちょっと待って。マジで? マジ童? 精通も?」

「何を言っているんだお前は」

 

 ツォーフェはその場を去ろうとしたドラートの前に風のように回り込み、ガシっと両手で肩を掴んだ。

 真剣な表情を作ってはいるが、にやけるのを抑えきれないのか、口元は歪んでいた。

 

「ドラート君、人生――いや魔生損してるっすよ、マジで!」

「何なんだお前は」

 

 ドラートは腕を払おうとしたが、残念ながらそれは叶わなかった。

 

「うちの事は良いんです!」

 

 ツォーフェの大声に、ドラートは僅かに震えた。

 

「愛する事、愛される事って、とても素敵な事なんですよ。

 

 世界は広く、うちらはとてもちっぽけで、1人で抗う事は難しい。

 それが当然だと思って、たった独りで居る人に、うちは手を差し伸べたい。

 

 1人では出来ない事も、2人なら――愛があれば乗り越えられると教えてあげたい!」

 

 ツォーフェは肩に置いていた手をドラートの両手に持っていき、優しく包み込んだ。

 

「だからうちがドラート君の初めてを――ドラート君に愛を伝えたいんです」

 

 多少本音が漏れたが、聖母のような表情を浮かべ、耳心地の良い言葉でツォーフェは締めた。

 ドラートは気迫に押され正常な判断ができなくなったのか、愛について考え始めた。

 

 疑問ではあったのだ。

 リープという魔族が、どうしてあれほど強いのだと。

 

 もしそれが自分たち通常の魔族が知らない『愛』という感情に起因するのであれば、ここでツォーフェの提案に乗る事で、他の魔族に対し先んじることができるのではないかと。

 

 ドラートは都合の良い未来を夢見て口角を上げた。

 

「――――ふん、良いだろう。お前の口車に乗ってやる」

おっほ! よし来た、じゃあヤリましょう。誰かに見つかる前に! さあさあさあ!」

 

 ツォーフェに押され、ドラートは空き部屋に足を踏み入れる。

 そこが捕食者の空間であるなど露知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてドラートは悟った。

この世の真理を。

それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――世界よありがとう――――

 

生きとし生けるものに感謝を!

 

 

 

Thanks to you

 

Thanks to everyone

 

Forever !

 

 

 

 

 




全国100万人のドラートファンごめんなさい

品性の欠けた話が続きましたが、次回からマハト編に入るので薄れると思います、はい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。