魔族に魔法を教えてもらおう!   作:PSコン

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36.黄金郷のマハト(1)

 かつて貴族たちの横暴が幅を利かせ、陰謀渦巻いていたヴァイゼ。

 淀み、荒み、そして腐敗したこの街では、貴族たちは己の欲望を追求することに終始し、民衆の苦しみには見向きもしなかった。

 正義を口にする者は嘲笑され、誠実な者ほど追い詰められる。そんな無慈悲で悲壮的な現実が街全体を覆い尽くしていた。

 

 だがその面影は、今はない。

 ここには暗い野望も、貴族たちの横暴も――悪意すらもない。

 

 

 ――――何故ならこの街は、黄金に姿を変えてしまったのだから。

 

 

「豪勢な街だ。目が痛いのが玉にキズではあるが」

 

 そこに1人の男が来訪した。

 赤毛の癖髪に、大柄で筋肉質の戦士風の男。

 

 人類と魔族の共存を推し進めているゼイゲンという名の人間だ。

 

「性懲りもなく、よくも飽きないものだ」

 

 ゼイゲンの独り言に、答える者が居た。

 

「お前が七崩賢、黄金郷のマハトか」

 

 構えようとするマハトにゼイゲンは声を掛け続ける。

 

「まあ待て。話をしに来たんだ、俺は」

 

 ゼイゲンもこの場に観光に来たのではない。来訪の理由を告げる。

 

「お前は知らないかもしれないが、世界の魔族に対する目は変わり始めてな。どうにもお前を隠居させ続けるのは難しくなってきたんだ」

 

 魔族は既に人類の敵足り得ない。

 魔王は堕ち、人類の傷が癒えるには十分な時間が経過した。

 

 余裕を持ち始めた人類は、魔族が持つ長所(つかいみち)に目を向け始めた。

 

「特にお前は――――って」

 

 ゼイゲンの姿が消える。

 マハトが次に彼の姿を捉えたのは、全身に衝撃が走った後だ。

 

 マハトの口から夥しい血が溢れだす。

 

「――――ゴフッ……」

「待てって言ったよな? 攻撃しようとしただろう、お前」

 

 10mはあった距離は思考よりも早く埋められ、何かをしたと思った時にはゼイゲンの靴底がマハトの腹部に深く突き刺さっていた。背中は黄金となった壁に叩きつけられ、おそらくは脊髄に罅が入っているのだろう。刺すような鋭い痛みが響き続けた。

 

 マハトは男の発言から、自分を殺しに来たのだろうと考えていた。

 だから男が戦闘態勢に入るよりも早く、その全身を黄金に変えてしまおうと思ったのだ。

 

(魔法の起こりではなく、俺の意思を読んだのか? こいつもあのエルフと同類の化け物か)

 

 魔王に与していた時には相対しなかった、世界の頂点に座する者たち。

 それが百年もしないうちに2人も目前に現れた。

 

 まるで自身の()()――人類との共存が世界にとって都合が悪いのだと言わんばかりに。

 

「まあ良い」

 

 男は足を退けた。

 武の極みに居る男にとって、マハトなど油断しても問題ない相手なのだろう。

 

「話の続きを――――ってコラ!」

 

 マハトは己の魔法である『万物を黄金に変える魔法ディーアゴルゼ』を発動する。

 

 男の靴底が再度マハトの腹に叩きつけられる。

 今度は手加減をしなかったのだろう。街全体が揺れ――というより、ズレた。

 北方に20m。黄金化の範囲外である大地が男の蹴りにより断層を起こし、黄金の塊が開いた分だけ動いたのだ。

 

 マハトが変性させた黄金は不壊である。故に街は岩盤を破壊するほどの衝撃ですら影響を受けず――それは黄金の一部となったマハトも、例外ではなかった。

 

 マハトは自分自身を黄金に変えたのだ。絶対防御の構えであり、そして――

 

「あ、やべ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 破壊不能の黄金。回避不能の魔法。

 男が武の頂点に居ようとも、戦士であるならば、決してマハトに油断をしてはいけなかったのだ。

 黄金はゼイゲンを侵食し、数秒後には全身を覆いつくすだろう。

 

 黄金に変わりつつある中、ゼイゲンは呑気にも溜息をついた。

 

「まだ話は終わってないからな。俺が復活するまで、死ぬなよマハト」

 

 男はそんな、不可能な捨て台詞を残した。

 

 なにせマハトにも、人間の黄金化を解除できない。

 だから男の復活を待つのは、不可能なのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 フリーレンは魔導書に釣られてレルネンの依頼に乗ってしまった。

 

「よし2人とも帰ろう。フェルン、魔導書は返しておいて」

「もう少し話を聞きましょうフリーレン様。あと魔導書はもう読んじゃいました」

「フェルン? 最近勝手だよね。いや積極的なのは良いんだけどさ」

 

 2人のやり取りに依頼者であるレルネンは笑い、依頼内容について補足した。

 

「それほど大事ではありませんよ。何もマハトを討伐しようという話でもない……むしろ逆です」

「逆?」

 

 一体どういう事だろう。言葉通りの意味ではないのは、レルネンの憂鬱な態度から読み取れたが。

 

「昨今の魔族に対する扱いは知っているでしょう?」

「……まあ、多少はね」

 

 旅の途中で会った、一級魔法使いのゲナウが愚痴っていた。

 北部ではそれほどではないが、最近魔族の討伐がやり辛くなってきているのだそうだ。

 

「幽閉しているマハトも同じ問題を抱えています。マハトを閉じ込めている結界は対魔族に特化していますが、今後は人間への認識阻害効果をより高める必要があります。あなた方には結界のアップデートに協力していただきたい」

「それくらいなら良いけど、でも意外だね。ゼーリエがそんな迂遠な策を取るなんて」

 

 ゼーリエの名前を出した途端、レルネンの顔に陰りが見えた。

 

「…………どうやら、ゼーリエ様はマハトの解放を望んでいるようです」

「は? 流石にそんなことは無いでしょ」

 

 レルネンは首を横に振る。

 

「昨今の魔族に対する認識は、大魔族の一大事件により一掃できるでしょう」

 

 魔族を知らないからこそ、現在の人々の認識なのだ。魔族が恐ろしい存在だと否が応でも知らしめれば、再び魔族は討伐しやすくなる。

 ゼーリエはそれを望んでいるとレルネンは考えているのである。

 

「それに」

 

 レルネンは続けて言った。

 

「ゼーリエ様は戦乱の世を望んでいます。マハトならそれを引き起こすことができるのでしょう」

「……確かにそっちはありそうだ」

 

 いや、それでも一応、最終的には人類の味方をするだろうが。基本的には魔法第一主義なのだ。

 

「ですが我々一級魔法使いは、人類に無暗に死者を出すことを望みません」

「ふぅん」

 

 つまりはゼーリエとも敵対する用意があるという事だろうか。

 フリーレンはかつてゼーリエと交わした言葉を思い出した。

 

『お前を殺す者がいるとすれば、それは魔王か、人間の魔法使いだ』

 

(――――どうやら、それはゼーリエも同じらしいよ)

 

「結界のアップデートですが、出来れば早めに終わらせたい」

「何かあったのかよ」

 

 シュタルクの問いにレルネンが答える。

 

「はい、数日前にゼイゲンがヴァイゼに侵入したという報告があります。親魔族派が動き始めているようでして」

「ゼイゲン? 誰だっけそれ」

「フリーレン様」

 

 フェルンは「ふぅ」と溜息をついた。

 

「リープ様の彼ピッピ様ですよ、忘れたのですか?」

フェルン? 私ミリアルデの話は全部忘れろって言ったよね。影響受けないでよ」

 

 しかしあの【ノイズ】

 リープの伴侶か。それが確かなら向こうも本腰を入れているのかもしれない。

 

「というかフリーレン様も最終試験で会って……あ、二次で落ちーレン様でしたね」

フェルン? それ私の持ちネタじゃないよ? 傷ついてるんだよ?」

 

 最近フェルンから軽んじられている気がする。いや前からそうだった気もしてきた。最初からだろうか。いやハイターと居た時はそうでもなかった筈。ちょっとだらしない姿を見せすぎたのかもしれない。ここらでちょっと良いとこ見せて威厳を回復するべきだろう。フリーレンは杖をグッと握った。

 

「それじゃあ、とっとと始めようか」

「やる気たっぷりじゃねえかフリーレン」

「そうですね、珍し。

 ところでシュタルク様はどうするのですか? やる事ないですよね? 筋トレですか?」

「護衛! 護衛するから! もっと優しくして!」

 

 ワイワイと話しつつ、4人は結界の強化に向かっていった。

 

 

 

 *

 

 

 

「あれは敵か? 兄者」

「うむ、結界を破っている様子ではない。補強にでも来た協会の連中だろう」

 

 2人の青年が、高台からフリーレン達の姿を見つめていた。

 

 杉の大杖を携える彼らは魔法使いだろう。

 豪華な衣服に艶やかな肌や髪。気品あふれる振る舞いから高貴な生まれであることも伺えた。

 

 しかしその振る舞いとは裏腹な、獰猛な笑みを浮かべて弟が言った。

 

「では狩りの時間だな? ちょうど暇を持て余していたところだ」

「ふむ……」

 

 兄は望遠鏡を覗き込みながら、険しい口調で言った。

 

「そうはならんらしい。こちらを捕捉された。あの娘は……エルフだな」

「エルフ? いや、捕捉された? 冗談だろう兄者」

 

 何せ自分たちは魔力を消しているし、距離も5kmは離れている。そんなことは天地がひっくり返っても在り得ない事だった。

 

「さてどうかな。望遠鏡の反射光をたまたま捉えられたのかもしれんし、本当にこちらの隠蔽を上回ったのかもしれん」

 

 望遠鏡越しに冷徹な視線を向けるエルフ――フリーレンを見て、兄は初めて笑みを浮かべた。

 

「なにせ相手は元勇者一行のフリーレンだ。不可能を可能にしてくるかもしれん」

「フリーレン? ()()の報告にあった、あのフリーレンか?」

「ああ」

 

 兄は望遠鏡を懐に仕舞った。

 そして崖の先に一歩踏み出す。

 

「行くぞ、メタルマギアよ。我ら()()()()()随一の武闘派の力、見せてやろうではないか」

「おうよ。魔王を堕とした伝説ならば、相手にとって不足なし!」

 

 当然彼らは重力に従い落ちる――ことは無く。飛行魔法により一直線にフリーレン達に向かっていった。

 

 続く。

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