魔族に魔法を教えてもらおう!   作:PSコン

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4.最高のスパイスを

 2人の男女が相対する。言葉は交わされなかった。

 

 リープと云う魔族の少女は、魔の力たる魔力を、魔法へと整形する。

 対する人間の男は剣を抜いた。両刃の、人が拵えた青銅の剣。

 

 互いの間に満ちるのは殺意のみ。

 故に、言葉は必要ない。

 

「――ッ!」

 

 一瞬の出来事だった。

 男はその剣と心臓を、一撃で貫かれ絶命した。

 

 リープは力なく崩れ落ちた死体を注意深く観察し、確かに死亡を確認した後呟いた。

 

「なんだ、余裕じゃん」

 

 想定よりも遥かにこの旅人は鈍く、柔かった。

 知識としては知っていた。人間は心臓を貫けば死ぬ。

 

「よしよし」

 

 さてそれではお楽しみタイムだ。

 

 腕を引きちぎり、布と皮膚を裂く。血が溢れ、その後には繊維状の筋肉が顔を覗かせた。

 口に運び、齧りつく。中々嚙み切れない肉を、首と腕を反対側に捻り、強引に引き裂いた。

 

 くちゃくちゃと噛み潰し――次の瞬間には吐き出した。

 

「まずい」

 

 美味しくない。気分が悪い。こんな物を飲み込む気にはなれなかった。

 

「死肉だから?」

 

 肉は新鮮であればあるほど美味しい。だからこの肉はまずかったのだろう。

 

 次は生きたまま食べよう。

 

 死体には目もくれず、次の獲物を求め彷徨いだした。

 

 

 

 *

 

 

 

 弓矢使いの男を、背後から押し倒す。

 

「ア、が!」

 

 右腕は砕き、首を地面に押し付けるように抑え込む。

 左腕の服と皮膚を同時に引き裂いた。

 

「あ、ああぁああぁ!!!!」

 

 叫び声以外は、剣の男と変わらない。同じような肉。

 咀嚼する。

 

「チッ」

 

 ベキリ、と。思わず腕に力が籠り、首の骨を折ってしまう。

 

「まずい」

 

 吐き出した肉を踏みつける。

 

 イライラする。何がいけなかったのだろう。

 

「魔法が悪い? そんな訳……」

 

 分からない。分からないが。

 

「……お腹空いた」

 

 久しく聞かなかった、腹の虫の声。

 

 

 

 *

 

 

 

「もう雪の季節か」

 

 今年の初雪を、窓越しにぼんやりと眺める。

 そろそろストーブを点けるべきかと、薪を取りに向かう。

 

 途中で足を止めた。

 

「必要ないか」

 

 自分1人なら、特に必要はない。

 リープが寒がるから必要なのだ。

 

 窓の外をもう一度眺める。既に地面にはうっすらと雪が積もっていた。

 空にはどこまでも分厚い雲が続いている。

 

 

 ……リープは、おそらく帰ってこない。

 

 彼女が見事な手際で、冒険者を倒しているのは見た。

 あれほどの成功体験をしては、ここに籠る理由も見出せなくなるだろう。

 

 一応この家で待ってはいたが、既に3日経過してる。

 

(まあ、魔法のコツは掴んだから、もう俺1人でも構わないが)

 

 目的は果たしている。

 この家がダメになるまでは、魔法の修練をしていよう。

 

 魔力を手の平に集中させる。

 これを予め用意した魔法術式へと流し込む。

 

 今から行うのは、単純な光源を生み出すだけの魔法だ。

 

 チカ、と。一瞬だけ輝き消えた。

 

「う~む」

 

 ごろりと床に倒れこむ。

 

 魔法において重要なのは、正しい魔法へのイメージと、術式だ。

 

 前者はともかく、後者が問題だった。

 何せリープも俺も独学である。どんな魔法も自ら作らなくてはならない。そして魔法を使うよりも、難度が遥かに高いのが術式の作成である。

 

 気を取り直すように立ち上がる。

 

「まあ、時間はいくらでもある。気長にやるか」

 

 椅子に座り、ペンを片手に考える。

 まずは術式構成の見直しだ。

 光源なんだから、長く持続するように。光量は楽に調整できるようにしたいが――

 

 

 冷たい風が、背中を叩いた。

 

 

「……リープ?」

 

 開かれた扉の先には、魔族の少女が居た。

 雪の中歩いてきたのだろう。肩や頭には、うっすらと雪が積もっていた。

 

 表情からは感情を読み取れない。

 しかし頬や鼻先は見事に赤く染まっており、寒さを感じていることだけは理解できた。

 

「風呂焚いとくから、それまでストーブで暖まってろよ。今点けるから」

 

 というか部屋に入れよと、リープの手を引く。彼女は勢いのまま人形のように引き寄せられ――そしてひしと抱きついてきた。

 

「……」

 

 彼女はしっかりと抱きついたまま、微動だにしない。とりあえず扉は閉めておく。

 扉を閉めた衝撃で、部屋全体を照らすランプが、きいきいと音を立てて揺れ始めた。

 

「……」

 

 きい、きい。

 

「……」

 

 きい。

 

「……」

 

 き……。

 

「……」

 

 ランプの揺れが収まり、部屋全体を沈黙が支配した。

 

「……薪を取りに行きたいんだけど」

 

 とりあえず意思表示をしてみる。

 そのお陰か、彼女は「いらない」と、漸く口を開いた。

 

 そして続けてこう言った。

 

「脱いで」

「え、食事? ……良いけどさ」

 

 まあ、そっちのが優先というならそれでも良い。

 

 椅子に服を掛け、振り返りつつ聞く。

 

「それでお嬢さん、今日はどこの部位を――」

 

 ランプに照らされたリープは、絹のように白く滑らかな裸体を、惜しげもなく晒していた。

 溶けた雪が胸の間を、へそのくぼみを通り滑り落ちる。

 

 ポタリと床に落ち、木目に吸い込まれていった。

 

 言葉を失った俺の元へ彼女は近づき、そしてそのまま体を預けた。

 抱きしめた彼女の体はやはりというか、酷く冷え切っていた。

 

「あたたかい」

 

 彼女が呟き、更に体を密着させてくる。頬を俺の胸に擦り付けるように、往復させてさえいるのだ。

 

 これほどの事をされて、彼女はただ暖を取っているだけだ――などという、ふざけた考えはしない。

 流石に魔族という、人間とは思考回路が異なる存在だとしても。そのためだけにこうはしない、筈。

 

「んあ」

 

 混乱する俺をよそに、リープは僅かに体を起こし――あろうことか俺の胸に噛みついた。

 

 不意打ちそのものである痛みに、思わず抱きしめる力が強まる。

 リープは視線だけをこちらに向け一瞥すると、そのまま食事を再開させた。

 

 一瞬だけ向けた瞳には、非難の意思は感じなかったと思う。

 ただ熱を帯びていて、潤い、酷く煽情的だった。

 

(……どっちだ?)

 

 ()()()()意味なのか。ただ他意などなく、いつも通りの食事に勤しんでいるのか。

 最早判断がつかなかった。

 

 なので好きにさせてもらうことにする。

 

 食事を終えた彼女の顎を、指先で掬うように持ち上げる。

 視線が交わる。相変わらずその瞳から真意は読み取れず、どこまでも透き通っていた。

 

 血に濡れた唇に、構わず唇を重ねる。

 鉄の味がした。不快な味を薄めるように唾液が分泌され、彼女のものと混ざりあう。

 

「あ……」

 

 彼女の口から、言葉にもならない囁きが漏れる。

 頬は朱く染まっており、抱いた体には熱が籠っているようだった。

 

 彼女を抱きかかえる。

 そのまま覆いかぶさるようにベッドへと倒れこんだ。

 

 もう一度、口づけを交わす。

 血の味はもうしなかった。

 

 

 そして――――――

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