───東京都府中市、中央トレセン学園生徒会室。
コンコンコン
「入ってくれ」
生徒会長と書かれた席に座るウマ娘、皇帝の異名を持つシンボリルドルフが響いたノックに受け応えた。室内に入ってきたのは白毛に黒の流星が入った切れ長の目のウマ娘、峠部門で最強と言われてる"ホワイトサバンナ"だ、中央の白い彗星の異名の如く、その走りはまさに最速、G1相当レース7勝、前シーズン全勝というレジェンド級の走り屋ウマ娘である。
「サバンナか、どうしたんだい?今は群馬へ走りに行ってるんだろう?」
「あぁ、そのことで少しな、失礼する」
来賓用のソファーにサバンナは腰をかけた、ルドルフも反対側のソファーに座る、向かい合った学園で最強格の2人、サバンナは一息の間を置き話し始めた。
「現在私達は秋名山で走りをしている、地元の連中は…まぁ、お世辞にも速いとは言えない、イエローの言葉を借りるならばカス揃いだ」
「はは、相変わらず君は手厳しいな、それに君の妹も」
「いくら普段のトレーニングの質が違ったり、こちらが中央だからと言っても、想像の5倍は弱かった…ただ1人を除いてだが」
「…なに?」
「帰る前の最後の1本、その途中でイエローが芦毛のウマ娘に会ったらしい、そしてソイツはあっけなくイエローをちぎった…慣性ドリフトでな」
昨日のことを淡々とサバンナは話した、期待のルーキー、それも最近は負け知らずだったイエローが名も知らないウマ娘に負けた、しかも中央でも習得してる者は少ないハイパーテクで、その話をルドルフは真剣な眼差しで聞く。
「ふむ…峠専門では無いといえその技の難しさは重々承知しているつもりだ、それを使えるウマ娘が秋名に…か」
「あぁ、ノンブレーキで進入した後に身体を回転させてアウト側だった荷重を一気にインに振る、するとオーバーステアを起こして次のコーナーにほぼ横向きのまま侵入できる…少しでも身体のバランスや着地をミスれば即事故、脚を折りかねない危険なテクだ、見せるドリフトじゃなく速く走る為のドリフト、そんなことを平然と出来るような奴があそこにはいる…私は、ソイツに会いたい」
「しかし名前も分からないのなら…」
「そこでだルドルフ、今日お前に会いに来た理由を言う、手伝ってくれないか?」
「…ほう、どうする気だ?」
───群馬県渋川市。
「くぅ〜やっぱカッコいいぜホワイトサバンナ!こんな攻めたドリフト他の奴には出来ないよなぁ…」
「ふわぁ…」
「トレノ?おい聞いてんのかよトレノ」
「んあ?…なにが?」
「ったく、相変わらずボケッとしてんなおまえ」
下校中の2人の芦毛のウマ娘、眠そうな顔をしている彼女は"スプリンタートレノ"、そして動画が映るスマホを片手に呆れているのは"ハチゴーレビン"、2人とも地元の高校に通うウマ娘だ。
「そのスマホのウマ娘、有名人なの?」
レビンのスマホはサバンナのレース映像を再生していた、数ヶ月前に箱根峠で行われたレース、前も見えないような霧の中、猛スピードで走るサバンナの姿をドローン越しに捉えた映像だ、サバンナはその後レースを勝ち取り大きな話題となっていた、それをトレノは興味がなさそうに見つめる。
「おまっ…ホワイトサバンナを知らないのか⁉︎レースは全戦全勝、あのアンフィニイエローとは姉妹で、峠最速と言われてる中央のウマ娘だぞ⁉︎」
「へぇ、別にレースとか興味ないし、でもまぁ凄い人なんだな」
「お前それでもウマ娘かよ!少しは走りに興味持てよな!大体なぁ…」
その後もレビンの熱弁をトレノは横で適当に流していた、暫く歩いた後2人はバイト先のスポーツ用品店へと入って行く、店内に入ると数人のウマ娘がひどく項垂れてる、レビン達とは顔見知りのウマ娘達だ。
「ライム先輩?それにエイティ先輩達も、どうしたんすか?」
「おぉレビン、トレノ…いや、昨日のことでな…」
問いかけに応えたのはレビンとトレノのバイトの先輩、群馬トレセンに通う"ライムサーティーン"だ。地元の走り屋チーム"秋名スピードスターズ"のリーダー、秋名峠をホームグラウンドとし自称秋名最速と宣言している、隣の芦毛のウマ娘はライムの友人でチームメンバーの"ワンエイティ"、ライムやレビン達のバイト先であるこの店によく入り浸っている、その他数人のチームメンバー達も一緒だ。全員が項垂れていた理由をライムは話してくれた。
「昨日からアタシたち群馬トレセンと中央トレセンの交流会が始まってな、中央の峠チームのレッドサンズが秋名峠で走ってたんだが…」
「レッドサンズ⁉︎あのホワイトサバンナの⁉︎」
「ホワイト…さっきレビンが言ってた人か」
「シャレになんないくらい強いぜ、アイツら…」
「相手になんねーよ…やっぱ中央は別次元だ…」
「ホームグラウンドでちぎられちゃ、私たちのプライドもクソも無くなっちゃうよ…」
エイティやチームメンバー達は次々にそんなことを吐いた、中央、それも峠最強メンバーと名高いレッドサンズの腕前を目の前で見せつけられた彼女達はすっかり意気消沈してしまっていた。
「ま、見ての通りこの有様なんだ…けど、アタシとしちゃよそ者にホームグラウンドの秋名を我が物で走られるのは嫌なんだ、どうにかしたいんだが…これだけ力量が離れてちゃな…ま、とりあえず2人とも着替えてこい」
「はい…レッドサンズ、そんなに強いんだ…」
「で、どうするよライム、いくらホームグラウンドで好き放題されてるといっても相手は中央だぜ?私たちに勝ち目あると思うか?」
レビン達が控え室に入って行った後、エイティは話を戻す、今のスピードスターズの実力ではレッドサンズに太刀打ちは無理だ、それをライムは昨日の交流会で嫌でも分からせられた、しかし彼女のプライドがそれを許さなかった。
「だからって、地元の意地ってのがあるだろ、向こうが格上だからって黙って見てる訳にはいかねえ!」
「そういってもなぁ…」
カランカラン
「ッ!…いらっしゃいませー!」
話に夢中になっていたライムは来客に慌てて挨拶を返す、しかし入ってきた客にライムは目を見開いた、それもその筈、店に来たのは今ライム達の話題になっていたレッドサンズ、それのNo.2であるアンフィニイエローであったからだ。
「あ、あなたはレッドサンズの…!」
「…ハッ!どっかで見た連中だと思えばスピードスターズの奴らか、こんなとこで会うなんてな、おかげで探す手間が省けたぜ」
「アタシたちを…」「探していた…?」
「…とりあえず、峠用蹄鉄を3セット貰おうか、話はそれからだ」
「は、はい、ありがとうございます」
「お待たせしました、お会計は…」
「本題の前にひとつ聞いてもいいか?リーダーのアンタなら知ってると思うんだ」
ライムの言葉を遮りイエローが話す、固唾を飲んだライムはゆっくりと口を開いた。
「───なにか?」
「あの峠には幽霊が出る、尋常じゃないくらいに速いウマ娘の幽霊だ、知ってるだろ?」
「…揶揄うのはやめてくれませんかお客さん」
いきなり素っ頓狂なことを言い出したイエロー、蹄鉄を袋詰めしながらライムは若干の苛立ちが入った声で返す。
「ッハハハ…まっ、幽霊ってのは冗談だが、でかいバッグを背負った変なウマ娘だ、そこのアンタみたいな真っ白な芦毛でな、白に黒のラインが入った勝負服を着ていた…本当に知らないのか?」
エイティの方に目をやるイエロー、切れ長の目をむけられたエイティは少し狼狽える、今彼女が言った特徴のウマ娘の名を言えるものはそこには居ない、全員が初めて聞いたからだ。
「(芦毛のウマ娘…誰のことだ?そんな奴秋名には居ないぞ?)」
「今私はソイツを探してるんだ…このアンフィニイエローをいとも簡単に打ち負かしたソイツをな…!」
「ッ⁉︎…」「レッドサンズに…」「勝った…⁉︎」
イエローが負けた、その衝撃的な告白にライム達は驚愕した、自分達よりずっと格上のイエロー、それをあっけなくちぎったという謎のウマ娘、なんとも信じがたい内容に開いた口が塞がらずにいた。
「そこでだ、アンタらに言おうと思っていた本題に入る、次の土曜、レッドサンズとスピードスターズ交流会のイベントとしてエキシビションマッチを行う、場所はもちろん秋名山、それぞれチームの代表が上り下りを走る…」
「勝敗どうこうよりは交流の一環だが、勿論無理にとは言わねえ、やるかやらないかはアンタらの合意で決める…だがもしやるとしたら、下りにその芦毛のウマ娘を連れてこい、どうするよ?」
「ど、どうって…」「言われても…」
表向きはチームの交流会の延長線として体裁を取り繕っているが、イエローから提案されたそれは実質挑戦状、相手の地元でバトルをしてやるという宣戦布告だ、いきなりの提案にエイティやチームメンバー達は口ごもってしまって居る中、地元の意地が出たライムには受けないという選択肢は無かった。
「…分かりました、地元の走り屋として受けない理由は無い…やります」
「お、おいライム、正気かよ…!」
「フッ、楽しみにしてるぜ…当日下りはオレが走る、同じ相手に二度は負けねぇ…!あの芦毛の野郎を絶対連れてこい…いいな」
カランカラン
「ありがとうございましたー!」
ライムの挨拶が店に響く、蹄鉄を買い店を後にしたイエローの後ろ姿が見えなくなったところでエイティ達が大きなため息をついた、中央所属のウマ娘の重圧なオーラは彼女達にとっては半端では無かったようだ。
「はぁ…にしてもどうするんだライム、バトルすることになったけど、アイツが言ってた芦毛の奴なんて私らは知らないぞ?」
「…アタシが当日までになんとか見つけ出して、出走してくれるようにお願いしてみる」
「名前も顔も分かんねえのに見つけられんのか?現実的じゃねえぜ…」
「だからって、秋名の峠のバトルで負ける訳にはいかねえだろ!」
「…先輩?なんかあったんですか?」
「ッ!──トレノか、声荒げてごめんな」
いつの間に控え室から出てきたトレノとレビン、先程の会話は裏方まで聞こえていたようだ。
「なんか話してたみたいっすけど、知り合いでも来てたんですか?」
「あぁいや…実は渦中のレッドサンズのメンバー、アンフィニイエローが来てな」
「えぇ⁉︎あのホワイトサバンナの妹、アンフィニイエローが⁉︎」
驚愕するレビンとは逆にイエローのことを知らないトレノはそのぼけっとした顔を一切変えずにライムの話を聞く。
「今度の土曜、秋名山でうちのチームとレッドサンズがバトルすることになったんだ…それで彼女は謎の芦毛のウマ娘を連れてこいと言った…」
「芦毛の?…」
「あぁ、なんでもそのウマ娘は、あのアンフィニイエローをあっけなくちぎったらしい、秋名の下りでな」
「アンフィニイエローに勝った⁉︎誰なんですソイツ…⁉︎」
「アタシも知りたいんだが名前も分からないんじゃな…レビン達はなんか知らないか?」
「私も聞いたことないですよ…悪いけど信じらんないです」
「だよなぁ…そんな奴が秋名走ってるなんて…」
「走ってるぞ」
「なっ…店長?」
そう答えたのはライム達の話を裏で聞いていたこの店を切り盛りしてる店長、"立花結衣"だ、鹿毛のウマ娘でなんでも20年前は現役で峠を走っていたらしい、どうやらその謎のウマ娘を彼女は知っているようだ。
「私が現役で秋名を攻めてた頃は自他共に認める秋名最速が居てな、しかもソイツは今でも現役で走ってるんだ」
「今でも?アタシら、秋名の走り屋は大概知ってますけど、そんな歳くった奴は見たことないですよ?」
ライムとエイティ達は顔を合わせる、やはり誰もそんなウマ娘を知らない、結衣が現役の頃だとすればそのウマ娘は30代半ば、どんなに若く見積もっても20代後半だ、それだけ歳上の走り屋をライム達は見たこともなかった、結衣は得意げに説明を続けた。
「お前らとは走る時間帯が違うんだよ、なんたってソイツは今豆腐屋やってるからな」
「…はぁ?」「秋名最速が豆腐屋ぁ?」
「そうだ、朝の4時とかに秋名湖にある小さな旅館へ豆腐を届けに行くんだ、配達用のバッグ背負ってな、商売だから雨が降ろうが毎日走るんだ、空荷になった下りのスピードは尋常じゃなく速いぞ、一見の価値ありだ」
「ソイツなら秋名の道のシミひとつまで知り尽くしてる、あの中央のウマ娘にも勝てる筈だ、賭けてもいいぞ、秋名最速は、豆腐屋のウマ娘だ」
「豆腐屋の…ウマ娘…」
ライム達は本当とは思えないが熱弁する結衣の話に圧倒されていた、誰もがそれに驚いている中、ひとりだけはいつものその眠そうな顔を変えずに話を聞いていた。
「(へぇ、昔の母さんとおんなじようなことしてる奴がいんだなぁ…)」
「「お疲れ様でしたー」」
「おう、またな」
辺りが暗くなった頃、店は閉店の時間となりトレノとレビンがあがる、ライムは片付けをした後結衣が居る事務所へと鍵を返しに行った。
「それじゃ店長、アタシもこれで失礼します」
「今日も走り行くのか?」
「えぇ、地元の峠で中央の連中に好き放題されて、黙ってらんないっすよ、こっちにも意地ってもんがあります」
「張り合うのはいいけど無茶しすぎるなよ、ミスったらシャレにならないからな峠は…」
「分かってますよ、それじゃお疲れ様です」
「おう」
退出するライムに電子タバコを持った手でヒラヒラと挨拶をする、結衣はしばらくした後ふと何処かへと電話をかけた、コール音が暫く鳴りそれに出たのは誰かに似たやる気のなさそうな声だった。
「あい、藤原豆腐店…結衣か、何の用だよ」
「別に、ただお前が元気にやってるって聞いてな、フミ」
「あぁ?なんのことだ」
「秋名で中央のウマ娘カモったんだって?いい歳してよくやるよ…」
「…んあ?いや違うな、そりゃ私じゃない」
「違わねーよ、秋名で明け方にバッグ背負って走る奴なんてお前だけだ」
「…違うね、確かにウチの店は配達で走ってるが、今豆腐配達してんのは───私じゃねぇ」
吸っていたタバコが口元から離れる、電話の声を聞いた結衣は目を見開いた。
「───なん…だと⁉︎」
オリウマ名前解説。
スプリンタートレノ
これはもうそのまんまです、パンダトレノとかにしようとも思いましたがそのまんまの方が個人的にしっくり来たのでハチロクの名前通りにしました。
ハチゴーレビン
イツキといえばハチゴー、カローラレビンでもいいかなと思ったんですがハチロクのレビン乗ってる人が居たので被らないようにハチゴーを入れました。
ホワイトサバンナ
サバンナRX-7と涼介のFCのカラーから、FCはサバンナってイメージあるのでアンフィニは入れませんでした。
ライムサーティーン
池谷先輩のS13のカラー、ライムグリーンツートーンと、13でライムサーティーンです、シルビアは劇中乗ってる人結構居るので被らないようにこの名前に。
ワンエイティ
これもトレノ同様そのまんまです。
立花結衣
店長の名前を少しいじったものです、ゆういち→ゆい、安直ですね。
藤原フミ
文太→ 文からフミ、こちらも安直です、ウマ娘としての名前はちゃんとあります。