ドリフトの擬音にちょうど良さそうなフォントを見つけたので使ってみました。
スタートラインを切りイエロー達はコーナーまでのストレートに入る、スタートダッシュは互角でも伸びが段違いだ、トレノを置いてイエローが一気に前にでる。
「速ぇ!中央は伊達じゃねぇぜ!」
「勝負なんねーよ、田舎娘の加速なんて止まってるみたいだったな!」
「(遠慮なんてしねぇ…ストレートでちぎるのは勿体無いが、早めにケリつけさせて貰うぜッ!)」
中央トレセン仕込みの瞬発力でイエローは後方を走るトレノをどんどん突き放す、長いストレートを抜け最初の左コーナーが迫ってきた。
〈さぁいよいよ最初のコーナーです!峠レース名物ドリフトで2人のウマ娘が曲がっていきます!〉
「ッ!──」
ゴァアアア!!
一気に減速しドリフト体勢に入ったイエロー、甲高いスキール音を鳴らしながらコーナーを曲がっていく、周りの観客からは彼女の姿に歓声があがる、コーナー後半で再び駆け出し立ち上がっていく。
〈これだこれだ!アンフィニイエローのスーパードリフトが炸裂!コーナーを凄まじい速度で曲がっていきました!スプリンタートレノ、彼女に追いつけるか⁉︎〉
「ッー…行くか」
「お、おいアイツ!全然減速しねぇぞ⁉︎」
「バカじゃねえのか⁉︎そんな速度で突っ込んだらすっ飛ぶぞ⁉︎」
コースの周りに居たギャラリーは焦りの声を出す、トレノはコーナーに迫っても脚を緩めずに突っ込んでいった、止まるどころかどんどん速度を上げていき、尋常ではないスピードでコーナーへと進入していく。
ギャァァアア!!
〈おぉっとこちらももの凄いドリフトだァ!スプリンタートレノ、とんでもないスピードでコーナーを曲がっていく!〉
余計な減速をせず、コーナー手前で僅かに速度を緩め身体を曲げる、火花と煙が下からトレノの身体を照らし、ハイスピードドリフトをしてコーナーを抜けていく、ガードレールから数センチと離れてないラインを描きそのまま立ち上がっていった、観ていた連中は呆気に取られる。
「な、なんだアイツ…あんな速度で軽々抜けてったっぞ…⁉︎」
「もの凄ぇドリフト…私感動しちゃった…!」
再びストレート、そして二個目の右ヘアピンを抜け緩い右コーナーからの左ヘアピン、イエローとトレノは次々とドリフトを駆使して難しい秋名のテクニカルコースをクリアしていく、2人の姿に見物していたギャラリー、配信のチャット欄は大盛り上がりだ。
『アンフィニイエロー速ぇ!』
『ドリフトかっけぇ!』
『向こうの芦毛の子凄くない?』
『芦毛すっご』
配信のチャット欄にはトレノに驚くコメントがちらほらと出てきた、そして実況解説者にも彼女のハイパーテクが目にとまったようだ、配信の画面はトレノを追うドローン映像がアップで映る。
〈スプリンタートレノ!次々と凄まじいドリフトで曲がっていきます!これは凄いぞ!地元のウマ娘の意地か⁉︎どんどん差がつまっていきます!〉
興奮の声をあげる実況解説、配信を観ていたライムとスピードスターズのメンバーは開いた口が塞がらない、あのトレノがイエローと同格…いや、それ以上のスーパードリフトで峠を攻めているのだ、中にはこれは夢なのではと思い始めてる者も居る、ライムもトレノを追いかけるドローンカメラから目を離せずにいた。
「マジかよ…!トレノの奴、すげえ速ぇ!」
「ライム!お前トレノがこんな速ぇこと知っててわざと隠してたんだな!もっと早くいえよ!」
「…」
「…ライム?」
「と、鳥肌たったァ…」
「(なっ⁉︎距離がつまってる…⁉︎そんなことあるわけねぇ…‼︎)」
イエローの顔に先程まで見せていた余裕の表情は無い、突き放したトレノがさっきより迫っている、彼女の額から冷や汗が零れ落ちた。
「(落ち着け、気のせいに決まってる…!このオレに敵うやつなんていねぇ!)」
ゴァギャァァ!!
「うぉぉ‼︎やっぱすげぇアンフィニイエロー!」
「やっぱ地方のウマ娘が勝てる訳…んなっ⁉︎」
ズギャアアァー!!
イエローが通過した直後トレノのライトの光が辺りを照らす、姿を見せたトレノはコーナー間の短い直線をドリフトのまま通過していった、一切ブレーキをしないハイパーテクで悠々とコーナーを走ってゆく。
「み、見たかよ今の…⁉︎」
「あの芦毛、コーナー間のストレート流しっぱなしで行きやがった…」
「なんだよアイツ…‼︎めちゃめちゃ速いぜ…⁉︎」
コーナーをひとつ抜ける度、トレノとイエローの距離は着々と詰まっていく、そしてコース中盤のコーナーで、とうとうトレノはイエローの真後ろにまで迫ってきた。
「(お、追いつかれた…⁉︎何がどうなってやがる…‼︎気が変になりそうだ‼︎)」
ギャァァァアアーー!!
2人並んでのツインドリフト、一見2人とも完璧なドリフトに見えるがラインのシビアさはトレノの方が一枚上手だ、イエローが直線で離した差がこのコーナーでまた一気に縮められてしまった。
「(ストレートじゃオレの方が速いのに、離しても振り切れないってことは、コーナーワークで負けてんのか…⁉︎そんなの死んでも認めたくないぜ…‼︎)」
「(非力なウマ娘にコーナーで負けるなんて、走り屋として最大の屈辱だ…‼︎)」
「クソッタレがァッ‼︎」
ドリフト安定期になり立ち上がったイエローは再び直線でトレノを引き離す、彼女の内心は焦りに支配されていた、ここで距離を空けても次のコーナーでまた詰められる、明らかに技術は相手の方が上だ、いつ抜かれるか気が気でなかった。
『こちらスケートリンク前!今2人が通過していった!イエローが煽られてるぞ⁉︎、秋名の芦毛はめちゃ速だ…』
レッドサンズ陣営、モニターにドローン映像を流しながらサバンナと他メンバーが無線に耳を傾けていた、 ドローン映像を傍観するサバンナに対し周りのメンバー達はイエローが劣勢なことに驚愕している、彼女がここまで追い詰められることは無かったからだ。
「ナニモンだよあの芦毛!イエローさんがあそこまで追い詰められるなんて…!」
「あぁ、全く想定外だ…」
「(…誤算だったな、まさかここまでの腕だとは)」
サバンナの視線の先にはトレノを追いかけるドローンの映像、コーナーギリギリまで速度を緩めず最低限の減速だけで突っ込んでいく、突っ込み重視のカミカゼ走法だ、にも関わらずイエローよりもインに入ったラインでコーナーをクリアしスムーズな立ち上がりで抜けていった、これだけの腕を持つものは中央でも多くない。
「(スピードとパワーは確実にイエローの方が上だ、その2つだけで見れば、奴は並のウマ娘より劣る…だがコーナーになれば話は別…ターンイン、荷重移動、立ち上がり、どれを取っても奴に勝てるウマ娘はウチのチームにもそう居ない…)」
「なんなのさあの子!あれじゃイエロー抜かれちゃうよ!」
「…凄いな、想像以上だ」
ドローン映像を映すモニターを観る2人、余裕でイエローが勝つと思っていたテイオーは予想外の出来事に困惑している、そして隣に居るルドルフはトレノの走りを食い入るように観ていた、その眼差しは真剣そのものだ。
「(加速力ではイエロー君には敵わない、だから失速しないように最低限の減速だけしてコーナーへと入っていく…スプリンタートレノ…何処でどんなトレーニングをしていたのかは分からないが…フフ、面白くなりそうだ)」
「(クソッ!クソッ!なんだってんだ!今日に限って自分がのノロく感じる…蹄鉄のセッティングでもミスってんじゃねえのか…⁉︎)」
呼吸が乱れ後ろばかりを気にするイエロー、いくら直線で離してもその度コーナーで距離を縮められる、先行のイエローにとってトレノからかけられるプレッシャーは半端ではない、目と鼻の先にまで近づいたトレノをまた直線で離すがイエローの表情は余計に焦りが増していた。
「(カーブからの立ち上がりは互角だけど伸びが違うな…直線が少しでも長いと差が開く…)」
「(母さん、あの子を抜かないと勝ったとは認めてくれないだろうしなぁ…仕方ない、"アレ"やるか…!小遣い電車賃かかってるしな…!)」
「(仕掛けるポイントは…この先の5連続ヘアピンカーブだ…!)」
トレノが何かの秘策を思いついていた頃、山頂ではサバンナがトランシーバーを手に取り無線を繋げていた、5連ヘアピンに居るレッドサンズのメンバーの元へ彼女の無線が入る。
「こちら頂上本部、聞こえるか」
「サバンナ先輩!こちら5連ヘアピン前、どうぞ」
「もうすぐ2人がそちらへ向かう、配信映像と実況は聞いているが、そちらからも現場中継をしてくれ、なるべく状況が克明に分かるようにな」
「分かりました、すぐそこまで来てます…スキール音が聞こえる…もうすぐ来ます!」
〈さぁいよいよ秋名峠の難所!5連続のヘアピンコーナーが来ます!〉
現場と配信の実況が重なる、ヘアピン入り口の直線を2人のヘッドライトが照らす、頭はイエロー、そして彼女の後ろにピッタリと張り付くようにトレノが並ぶ、周りのギャラリー達はバトルの主役達の登場に湧き上がる。
「頑張れアンフィニイエロー!」
「芦毛の子速い!かっこいいぞー!」
「来ました!先頭はイエロー先輩、続いて芦毛!殆ど差がありません!ケツに喰いつかれてます!今2人揃って最初のヘアピンに突っ込みます!」
ギャァァァアア!!
ブレーキング勝負はトレノが僅かに勝ち2人並んでヘアピンを曲がっていく、苦しそうなイエローとは対照的にいつものようなぼけっとした顔をしながらトレノは前を走るイエローを追い詰めていく。
「うわぁあの芦毛すげぇ!完璧なブレーキングドリフト…イエロー先輩が突っ込みで負けてる…‼︎」
〈2人並んで立ち上がっていく!スプリンタートレノ、ガードレールギリギリを攻めていきます!こんなにキレた走りをするウマ娘が他に居たでしょうか⁉︎私も興奮を抑えきれません!〉
スピードスターズもレッドサンズも、ギャラリーや実況解説まで、誰もがトレノの走りに釘付けだ、地方のウマ娘が中央でも指折りのウマ娘と張り合っている、彼女が繰り出すドリフトに全員が魅入られていた。
「次のヘアピンに入ります!もう全然差がありません!」
2番目のヘアピンを2人が抜け同時に立ち上がっていく、そして遂にトレノが動いた。
「イエロー先輩がアウトに行きました!芦毛は…なっ⁉︎」
〈ス、スプリンタートレノが加速していく⁉︎次は右のヘアピンだぞ⁉︎〉
アウトに振ったイエローを抜き去りトレノはインコースのままなんとヘアピンへ加速していく、これでは明らかにオーバースピードだ、このままでは彼女はガードレールに激突してしまう。
「(ヘアピンなのに減速しねぇ⁉︎何考えてんだバカヤロー‼︎)」
「あ、芦毛がとんでもないオーバースピードでヘアピンに突っ込んできます!あのままじゃぶつかっちゃいますよ⁉︎」
その光景はサバンナの前のモニターにも映っていた、減速するそぶりなども見せずにヘアピンへ突っ込むトレノ、サバンナは目を見開きその映像を凝視する。
「(コイツ、何をする気だ…⁉︎)」
「と⁉︎トレノ止まれぇ‼︎死んじまうぞぉ⁉︎」
スピードスターズ陣営もその光景を目の当たりにしていた、レビンは泣き叫び聞こえるはずのないトレノに訴える、ライムも冷や汗を流しモニターに食い入る。
「トレノ…⁉︎」
「アイツ死ぬ気か…⁉︎」
「アール先輩‼︎あのバカぶつかりますよ⁉︎」
現場のヘアピンで見物していた青鹿毛のウマ娘とその後輩達は声を荒げる、芦毛がヘアピンへとノンブレーキで突っ込んでいく、誰もがぶつかると思ったその時だった。
ギャァァ…ガゴッ!!
「(なっ…なんだ今の…⁉︎)」
変な音が響いた後、なんとトレノは姿勢をイン側に傾けながらありえないスピードで曲がっていった、まるでレールでもあるかのように何かに沿りながらヘアピンをクリアしていく、そして減速していたイエローをあっさりと抜きヘアピンを脱出した頃には既に彼女の前を陣取っていた。
〈なっ⁉︎抜いたァー⁉︎スプリンタートレノが前に出た‼︎ヘアピンでアンフィニイエローを抜き去りました‼︎なんということでしょう‼︎一体何をしたのか⁉︎観ていた私も何が何だか分かりません‼︎〉
「イ、イエロー先輩が抜かれました⁉︎呆気なく‼︎インからスパーンと‼︎」
映像、実況、現場からの解説、それら全てを使っても頂上本部に居た者たちは何が起こったのか理解できなかった、ライムやレビン達は口をあんぐりと開け固まり、レッドサンズ陣営も衝撃的な光景を前に動けずにいる、テイオーとルドルフも同様だ。
「ト、トレノが抜いた…?」
「え、えへへ、何が…おき…?」
「イエロー先輩が抜かれた…⁉︎あの芦毛何したんだ⁉︎」
「変な速度で曲がってったぞ⁉︎どうなってんだ⁉︎」
「ぴぇっ⁉︎な、何したのさあの子⁉︎イエローが抜かれちゃったよ⁉︎」
「(ありえない曲がり方をしていた…一体…何を…?)」
「こちら本部、今何が起きたか説明できないか?現場から見て分かることはなかったか?」
呆気に取られていたヘアピン前のメンバーへとサバンナから無線が入った、それに誰ひとりとして答えられる者はいない、何が起きたのか、あのウマ娘が何をしたのか、光景を目の当たりにしていた者も理解できなかったからだ。
「それが…観てた私達にも…あんな速度で曲がれる筈無いのに…それなのにあの芦毛、インベタの苦しいラインをまるでジェットコースターみたいな変な挙動で曲がっていきました…もう何が何だか分かりません…」
「(…ハッ、オレには分かった…あの芦毛が何をしたのか)」
その中でただ1人、不敵に笑みを浮かべるものがいた。ジャケットを着た青鹿毛のウマ娘だ、彼女の視線の先にはコースの端にある排水用の溝、それこそがトレノの秘策だった。
「(あの野郎、イン側に体重をかけて、ドリフトしながら片方の脚を溝に引っ掛けやがった…あれなら確かに滑りながらレールに沿うような走りを出来る…)」
トレノが繰り出した技、それはノンブレーキで進入した後僅かに脚を滑らせ半ばドリフト状態で道路端の排水溝へ片脚を落とす、イン側に荷重移動させ、抵抗を最低限に省く為に落とした脚とは反対側の脚をほぼ浮かせた状態にする、そうすると片脚だけで溝を沿うように走れるというなんとも危険でバカげた技、通称"溝落とし"だった。
「(バカバカしいことだが、あんなことは誰にも真似出来ない…しかもこの秋名でしか出来ないことだ…ハハハッ…世の中にはとんでもねえバカが居るもんだな)」
「クククッ…アハハハハッ!また楽しみがひとつ増えたな!」
「ア、アール先輩?急に笑い出してどうしたんすか…?」
「帰るぞお前ら、このバトル、秋名の芦毛の勝ちだ、イエローはアイツには勝てない、オレには分かる…」
「うぇ⁉︎ちょ、ちょっと待ってくださいよ先輩!」
見物を辞め峠を降りていくウマ娘達、その先頭を歩く青鹿毛のウマ娘の瞳は熱く燃えている、彼女こそ中央トレセン峠部門チーム"ナイトキッズ"、そのリーダーにて学生でありながらウマ娘プロレーシングチームの"GTレーシング"、通称GT-Rに所属する、"アールスカイライン"であった。
「(秋名の下りスペシャリスト…あの芦毛を仕留めるのはこのオレ、ナイトキッズの"アールスカイライン"だッ…‼︎)」
「こちらゴール地点!スキール音が近づいてきます!2人がそろそろやってきます!」
コースのゴール地点から頂上本部へと無線が入る、結果はもう分かっている、だが大半の者がそれを信じられずに居た、そしてそれを再度打ち壊すように
「来た!先頭は…」
「芦毛だぁ!すげぇどうなってんだ⁉︎」
「少し遅れてイエロー先輩も来ました!…けどこんだけ離されちゃもう巻き返すのは無理です…!芦毛がぶっちぎりだ!」
トレノから遅れてイエローがやってくる、周りのギャラリーは呆然としていた。あの中央の、あのレッドサンズの、あのアンフィニイエローが、名前も初めて聞いた地方のウマ娘に負けるのだ。
「(クソッ…‼︎このオレが地方の奴なんぞに負ける…⁉︎そんなことあってたまるか…‼︎中央所属のオレが…地方の田舎娘にッ…⁉︎)」
〈最後の直線を抜けゴールしたのはスプリンタートレノ‼︎あのアンフィニイエローを突き放し秋名峠を制しました‼︎凄い‼︎凄すぎるぞ‼︎〉
ライブ配信のチャット欄はトレノの勝利による興奮した声とイエローが負けたことへの落胆の声が入り乱れ今までにない程に盛り上がっていた、秋名峠での中央、群馬トレセン対抗エキシビションマッチ、勝ったのはスプリンタートレノ、アンフィニイエローがゴールラインを切ったのはトレノのゴールから7秒程経った後のことであった。
溝落としは少し独自解釈を加えました、ドリフトの惰性を使って、反対の脚を浮かせて溝に落とした片脚だけで曲がっていく…みたいな感じです