遂に肝心な所でアンダー王の登場です。
次回からちょいオリジナル展開混ぜていきます。
「今ゴールした!イエロー先輩が負けた〜‼︎」
「「「「やったァァァ‼︎」」」」
無線からの悲痛な叫びにスピードスターズは歓喜した、あのトレノがアンフィニイエローに勝った、レビンやライム、エイティとメンバー達は涙ぐんでトレノの勝利を喜び合う。
「勝っちゃいましたよ!あのボケたトレノが!」
「あぁ凄すぎるぜ…アタシ、感動した…血の気が引いた、頭が変になりそうだ…!」
「やったなライム…!お前泣いてんじゃねーよ!」
「なんか知らないけど嬉しくて…勝手に涙が出てきたぜ…」
「アイツには色々教えて貰おうな…!ドリフトのコツとか、ライン取りとか」
「アイツの勝負服にスピードスターズのロゴ勝手に貼っちゃえ!」
「あ、はいはい!それ私がやります!」
バトル前の緊張感が嘘のように和気藹々とするスピードスターズ、対してレッドサンズは総じて肩と尻尾を落としイエローの敗北に悲観する、リーダーのサバンナもこの結果を重く受け止めていた。
「潔く負けを認めよう、今回のバトル、私達の完全敗北だ」
「サバンナ先輩…でもまだ上りが…」
「上りで勝ったところで意味はない」
オレンジの勝負服のメンバーにそう断言したサバンナ、イエローが下りであそこまで打ちのめされてしまった以上、いくら上りで圧勝しようが、実質的にレッドサンズの敗北には変わりなかった。
「どうするサバンナ…明日になればそこら中で噂になるぞ!無敗だった私らレッドサンズが秋名の芦毛にやられたってな…!」
カウントダウンを行ったチームの外報部長を担当しているウマ娘、彼女の焦りの混じった声にサバンナは切れ長の目を向け静かに応えた。
「このリベンジは近いうちに必ずつける…このホワイトサバンナがな…!」
ゴール地点の横に構えられたレッドサンズ陣営のテント、頭からタオルを被りベンチに座るイエロー、唇を強く噛み締め今回のレース結果を受け入れられずにいる、速いと思っていた自分が地方のウマ娘に負けた、それも2度も、彼女のプライドはボロボロに砕けてしまっていた。
「(オレは悪い夢の続きでも見てんのか…?あんな奴にまた負けた…?)」
「(こっちから仕掛けたバトルで負けちゃ、レッドサンズの名に泥塗ったようなもんだ…クソッ…‼︎)」
自分の膝に強く拳を振りかざす、余裕だと思っていたバトルで隙をつかれ、惨敗し己のチームの名声に傷を付けてしまった、イエローの中でそんな愚行をした自分自身がはらわたが煮えくり帰る程許せなかった。
「(にしてもあの時、オレはなんで抜かれたんだ…?変な挙動をしてありえない速度で抜けていきやがった…本当に幽霊なんじゃねえのか…⁉︎)」
「イエロー」
「ッ⁉︎…姉貴か」
いつのまにか彼女の横に立っていたサバンナ、本部のある頂上から降りて来たようだ、咄嗟に立ち上がったイエローは少し間を置き、そして自分の姉に頭を下げた。
「すまねぇ姉貴…オレが不甲斐ないばっかりにこんな結果に…」
「いや、イエローは悪くない、今回は相手が悪すぎた…まさか秋名にあんなモンスターがいたとはな…」
「けど、レッドサンズの名前背負って負けちまったんだ…」
「今は負けたことを悔やむより、なぜ負けたか、次に繋げる気力の方が大事だ…これを観てみろイエロー」
サバンナは懐からスマホを取り出しとある動画を再生した、先程のバトルの5連続ヘアピンでイエローがトレノに抜かれた場面だった、ヘアピンの苦しいラインをありえない速度で曲がっていく、そしてサバンナは彼女の俯瞰視点のドローン映像をアップで映した。
「ようやく分かったんだ、お前が何故奴に抜かれたか」
「…ッ‼︎そうだ!あの芦毛、ありえない挙動で曲がってたんだ…思い出してもゾッとするぜ…一体何をしたんだ…⁉︎」
「奴の片脚をよく見てみろ」
「片脚…?」
暗くてよく映ってはいないが、トレノの片脚は道路端に不自然な動きで沿っていく、サバンナはもう一度リプレイするがイエローは未だ何をされたか分かっていない、それもその筈、普通に考えればありえないことをされたからだ。
「分からないか?…奴は道路端の溝を使ったんだ」
「…ハァ?みぞぉ?」
「そうだ、イン側に体重をかけながら片脚を滑らせて排水用の溝にわざと引っかける、反対の脚は極力浮かせてな、そうすればドリフトの感性で溝をレールに沿うような挙動で抜けることができるというわけだ」
「そっ⁉︎そんなバカなことが…⁉︎」
「あまりにも単純明快でバカげた思い付きだが…いきなりやろうとしてもできる訳が無い、恐らくあの芦毛は普段からこんな練習もしているんだろう…よほどこの秋名を走り込んでいる奴だ」
「…ク…クソッタレがァッ‼︎」
沸々と込み上げた怒りが頂点に達したイエローは近くにあったパイプ椅子を蹴り上げる、自分がそんなバカげた技で負けた、つまり普段からそんな技を使うような奴とのバトル、はなからイエローには勝機は無かったのだ。
「まっ、こんなことが起きるから峠は面白い…久々に私が本気になれるターゲットに出会えたような気がするよ…」
「あ、姉貴…⁉︎」
「あぁ…今週までの秋名山への練習は延長だ…少なくとも、この私があの芦毛を仕留めるまではな…!」
峠最強と謳われたホワイトサバンナ、彼女の内なるレースへの炎が再度爆発的に燃え上がる、それを体現するように彼女の群青の瞳にはメラメラと情熱の炎が灯っていた。
「ただいま」
「おう」
バトルから戻り帰宅したトレノにフミはそう返した、2階へと上がりかけたトレノは思い出したかのように母親の元へと戻り一言。
「…新幹線代と小遣い、忘れないでよ、約束だからな」
そう言い残し再び2階へと上がっていく、ピクンと耳が動いたフミは新聞をめくり灰皿へと吸い殻を落とす、その表情はどこか嬉しそうな顔を見せていた。
「そうか勝ったか…ま、結果なんざやる前から分かってたけどな…ハハ」
プルルルル
フミの携帯が鳴る、結衣からだ、フミがそれに出ると食い気味に興奮した彼女の声が聞こえてきた。
「おいすげえじゃねえかトレノ!あんな腕にまで成長してたとはな!」
「ハッ、私からすればまだまだだね…ひよっこもひよっこだ」
「ネットじゃ今夜のバトルのことで大盛り上がりだ、トレノも有名人だな!」
SNSのウマッターではトレンドが秋名峠やイエロー、そしてトレノの話題で溢れかえっていた、中央の名門チームに勝った地方のウマ娘、最新トレンドの1位には"秋名の芦毛"の文字が載っていた。
「ライム達も私のとこまで来てさっきから大騒ぎだ、やっぱりお前の娘なだけあるぜ」
「別に大したことねえさ、今のガキンチョはレベル低いんだろ?…それにトレノは走るの好きじゃねえからな」
「本当かよそれ?あんだけいい腕持っててか?」
「…アイツにとっちゃ峠を走るのは商売の手伝いなんだ、中学入る前から無理にやらせてたしな、どうしたって走ることに楽しいってイメージが持てねえんだ」
中学生前から豆腐の配達をしていたトレノは走ることは仕事であって、楽しくてやることじゃないという認識であった、何百回と飽きるほどに1人で走ってきた秋名で競い合うことが楽しいとは、トレノは思えなかった。
「走ることへの情熱が冷め切ってるんだよな、ドライっていうか…けど、今日の中央との追っかけっこで、アイツなりに何か感じるものがあったんじゃねえかな…」
「まっ、そうだといいけどな…」
交流戦が行われた次の日、秋名峠には昨日のような盛り上がりはないがそれでも地元の走り屋ウマ娘達が腕を磨きに足を運んでいた、スピードスターズのメンバーもいつものように走りに来ている、そんな中、
ギャァァアア!!
「⁉︎…お、おいあれ!ホワイトサバンナじゃねえか⁉︎」
「うお!本当だ!まだ秋名に居たのか…⁉︎」
ホワイトサバンナがとてつもないスピードで走り去っていく、道脇の小スペースで休憩していた地元の走り屋達は声を荒げた。
そしてその後ろから、彼女に喰らいつくように追いかける青鹿毛のウマ娘、黒色のレーシングジャケットにダメージジーンズ、後ろ腰に装着された丸目4灯のテールランプ、そして背中に描かれたGT-Rのエンブレム、走り屋達が目を見開いた。
「お、おいあれ…まさか⁉︎」
「GT-Racing…‼︎中央の走り屋チーム"ナイトキッズ"のリーダー、アールスカイラインなのか…⁉︎」
「アールスカイラインつったらまだ現役のトレセン生徒なのにプロレーシングチームのGT-Racing所属とかいう、とんでもないウマ娘だろ⁉︎」
「あぁ…鬼みてえなグリップ走行を使うめちゃくちゃ速い走り屋ウマ娘だ…なんでこんなところに…⁉︎ホワイトサバンナとバトルしてんのか⁉︎」
アールスカイライン、中央トレセン高等部2年、アルファベットのRを模した耳飾りを付けている青鹿毛のウマ娘だ、峠専門チーム"ナイトキッズ"のリーダーを務めている、そして現役のトレセン生にしてクラシッククラスのプロレーシングチーム、【GT-Racing】に所属している。
彼女の得意技である暴力的な程の加速と鬼のように速いグリップ走行はサーキットでも峠でも無類の強さを発揮し、あのホワイトサバンナに唯一喰いつけるウマ娘として注目されている。
そしてそのアールスカイラインが秋名峠でホワイトサバンナとバトルをしている、ドリフトでコーナーを攻めるサバンナに対し後ろから追いかけるアールは減速し凄まじいグリップ走行でアウトインアウトを描きコーナーを抜ける、その技術は誰が見てもプロそのものだ。
「すげぇグリップ…‼︎プロレーサーは伊達じゃねえぜ…‼︎」
「あんなキレたグリップ走行初めて見た…!アールスカイライン…なんか…ゾッとするような存在感だ…なんで秋名で中央同士がやり合ってんだ…⁉︎」
「(アールの奴、腕を上げたな…)」
「(いける…前よりサバンナの野郎についていけるぜ…!)」
白と黒、ドリフトとグリップ、対をなす2人のウマ娘が秋名の上りを攻めていく、彼女達のブレーキランプがほぼ同時に点灯し急なヘアピンをドリフトで、グリップで抜けていく、両者譲らないままコースを進んでいきサバンナ達は頂上までたどり着いた。
「…それで、ナイトキッズのリーダーがこんな所で何をしている」
「ハッ、人のこと言えねーだろ?お互い、目的は同じ筈だ」
駐車場前の休憩所、その前で2人は対談していた、自販機の光がサバンナ達の体を照らす、彼女達が秋名に入り浸る理由はひとつ、あの芦毛のウマ娘だ。
「オレはあの芦毛に会いたくてね、こうしてわざわざ遠くまで足を運んできたのさ」
「プロチームのウマ娘が地方の芦毛に噛みつこうっていうのか…だが、どう足掻いたってお前は勝てないぜ、アール」
「…何だと…⁉︎」
サバンナの一言にアールは青筋を立てる。
「上りはパワーのあるお前が楽勝で勝つだろうが、下りなら話は別だ、お前の実力ではどんな手を使ってもあの芦毛には勝てない」
「ふざけんな‼︎黙って聞いてりゃナめた口聞きやがって…‼︎」
「気を悪くするなよ、私は思った通りのことを言っただけだ」
遂にキレたアールがサバンナに掴みかかる、胸元を掴まれても一切表情を変えずサバンナは話し続けた。
「いくらプロのトレーニングを積んでいようが、あの芦毛はお前を軽々負かすだろうさ、それだけ実力が違うんだ」
「ハッ!いつにも増して随分弱気じゃねえか、あぁ?妹が負けたからってそこまで怖気付くこともねぇだろうがよ…!」
「一度やりあえば分かるさ、あの芦毛に勝てるのはこの"ホワイトサバンナ"ただ1人だ」
「ふざけたこと抜かしやがって…!そこまで言われちゃ意地でも引き下がれねぇな‼︎あの芦毛に勝って今言ったことを取り消させてやる…いい気になってるのも今のうちだ‼︎」
「あの芦毛を仕留めるのはこのオレ、ナイトキッズのアールスカイラインだッ…‼︎」
サバンナに指を差しそう宣言したアールは峠を下っていった、彼女の丸目4灯の残灯がぼんやりと光る秋名の峠道をサバンナはただじっと見つめている。
「(…アイツが走法をグリップに変えてから随分と経った…ドリフトよりグリップの方が速い…お前は何度もそう言っていたな…)」
「(だがあの芦毛と走れば、その考えも少しは変わるだろう…)」
「フッ、これは面白くなりそうだ…」
夜に染まった秋名峠に、彼女の小さな独り言が静かに響いた。
オリウマ解説。
アールスカイライン
R32 スカイライン GT-Rから安直に取りました、GT-Rは作中のようにレーシングチームの名前として使いたかったのでスカイラインとアールで競走馬っぽい名前にしました。